あの東京スカイツリーと同時期に、もうひとつのタワーが東京に出現?「東京インプログレス」は、美術家の川俣正さんが隅田川河岸の人々を巻き込みながら展望塔をつくり上げ、「インプログレス=進行形」の東京を再考する試みです。手づくりタワーから眺める東京の姿とは?川俣さんを直撃してみました。
(インタビュー・テキスト 内田伸一 撮影:大槻正敏)
もうひとつの「新タワー」から眺める、東京の等身大の未来
―「東京インプログレス」とはどんなプロジェクトなのでしょう?
川俣:隅田川沿い、都立汐入公園というところに木造の展望塔を建てることを、地元・荒川区の皆さんと一緒に目指す試みです。その過程で子供向け、大人向けのワークショップなどをそれぞれ行いながら、東京という都市を改めて考えたい。その一連のプロセスも、何らかの形で公開されていきます。
川俣正(美術家)
―みんなで手づくりのタワーを建てる、というアイデアはどこから?
川俣:まず考えたのは「いまこの時期この隅田川近辺で、この先も人々の記憶に残っていくものは何だろう?」ということ。すると、やはり建設中の東京スカイツリーが思い浮かびました。これから新名所になりそうですが、「建設中」なのはまさに今だけ。そんな今だからこそ可能なことを、地域の人々と一緒にできないかと考えました。
Photo: Masahiro Hasunuma
©Tadashi KAWAMATA
―そこで「ならばオレらも塔をつくってやろう」と?
川俣:そうですね(笑)。スカイツリーに東京の未来を重ねるなら、こちらは手づくりの木造の塔から東京を眺めてみよう、と。かつ、僕らの塔は最初から決まった完成形を目指すより、頭と体を動かしながら次の展開が決まっていく形がいいと思いました。そしてこの「汐入タワー」は、誰もが気軽に集い、同時に、変わり続ける東京を眺めて再考できる場所になればと考えています。
アートも都市も「インプログレス=進行中」がおもしろい
―ここで、アーティストとしての川俣さんの自己紹介もお願いできますか?
川俣:そうですね…。まず、僕の現場はだいたいが屋外です(笑)。アトリエで絵や彫刻をつくるのじゃなく、建築に近い大きな造形物を自分たちでつくってしまうものが多い。そして、「つくる」過程も展覧会のようなものだという姿勢でいます。つまり、プロセス全体が作品なんです。
―そうした独特のスタイルになった理由は何かありますか?
川俣:まず性格上、ひとりでつくるよりコミュニケーションをとりながら進めるのが自分に向いているんです。さらに、作品を体で理解したいし、理解してほしいからですかね。僕自身もこれまで、美術館で感動するより、作家さんを手伝う体験などのほうが強く思い出に残りましたから。
―自分の活動すべてに共通する何かを挙げるとすれば?
川俣:「ブリコラージュ」*でしょうか。その場にあるものを使って、新しいものをつくる。それは物質的なものだけじゃなく、社会・文化的なものも含みます。実は、まったく新しいものなんていうのは信じてないところもあって(笑)。常に再構築がテーマかもしれません。
小学生から大人までの「協働」が生む愛すべきアート
―そういえば「東京インプログレス」も、いくつかの試みがつながりながら展開されるようですね。
川俣:今回、特に大切なのは地域との協働です。突然現れて、親しみも持てずむしろ迷惑な「彫刻公害」ではなく、地元に参加してもらい、この塔に愛着を持ってもらえたらと思うんです。
―具体的にはどんなふうに進んでいるのですか?
川俣:まず、近隣の小学生100人に小さな塔をつくってもらいました。また、やはり子供たちに、これから建てる塔を想像して自由に絵本をつくるワークショップも開きました。これらはプロジェクトを地域に知ってもらう役目も果たしてくれましたね。
手のひらの塔
Photo: Masahiro Hasunuma
―「アートコンストラクター講習会」という試みもされていますが、これは美術制作技術者を育てる講義なんですか?
川俣:アーティストの制作現場を支える、いわば建築家であり大工であり、そしてアーティストでもあるような存在が、今後ますます求められると感じています。今回がまさにそうで、ならばその講習会から始めようと参加者を募り、建築士やアーティスト、舞台美術家を講師に招いて講座を開きました。
―そしていよいよ、これから実際に木材を使った「汐入タワー」の建設に…。
川俣:そうなんです。講習参加者にとっては実践編とも言えるし、子供たちによるたくさんの小さな塔は、タワー実物の内部に展示します。先日の地元の方との集まりの際は、地元のお母さんたちが甘酒を配ってくれて、荒川区長もいらしてくれました。こうした形で、地域と一緒につくっていく塔にしたいですね。
―この試みを含む「東京文化発信プロジェクト」についての印象は?
川俣:美術、舞台、音楽など、個々の企画を良い意味でピンポイント的に実施していますね。例えばヨーロッパの小さな街でなら、そういう地域限定の試みもありますが、東京都がそれをやる点が評価できるし、「東京インプログレス」も地に足のしっかり着いた物語が生み出せたら、という思いはあります。僕としては、そのうちこれを自分の他国での活動ともつなげていけたらと考えています。
―何事も「変わりながらも続いていく」中にさまざまな物語が生まれるのですね。
川俣:アーティストの活動にも同じことが言えます。いまフランス国立高等芸術学院校で教えていますが、中には子供のころ僕の制作現場に遭遇した生徒もいて、「いま思えばあれは先生だったんですね」となったり(笑)。そうやって関わり合い、変化しつつ続いていく物事のありようが「東京インプログレス」からも生まれるといいな、と願っています。
※ブリコラージュ:その場で手に入るものを寄せ集めて、さまざまな工夫をすることによって、新しいものをつくりだすこと。理論や設計図に基づいてものをつくりだす「エンジニアリング」と対置される。
その他、東京にはたくさんの文化プログラムがあります!
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