触れたら消えてしまいそうなのに、確かな存在感。青木良太の器には妖しい美しさがある。「陶芸で日本代表になる」という思いのもと、アトリエの壁に日の丸を貼り、年2万5000種もの釉薬を試す。ターバンを巻き、ギャルソンを着て作品を作り続ける31歳の自称「陶芸オタク」は、どのような思いで陶芸と向かい合ってきたのか。その心境を聞いた。
「自分は何をしようかな」と考えたとき、好きなことを職業にしたいと思ったんですね。
―いま岐阜県土岐市で活動をされているんですよね。土岐市といえば、茶人の古田織部が「織部焼」を始めた地としても名高いですけど、アトリエはどんな感じなんですか?
青木:山の奥にあって、秘密基地みたいなんですよ。で、いつも仕事しながら日本語ラップをかけているんです。「ボン! ボン! ボン!!」って爆音で。
ときどき地元の小学生とかがそこを通るんですけど、この前コンビニに行こうと道を曲がった瞬間、顔を合わせたら、相手がしりもちついて。「出たーーーーっ!」って勢いで(笑)。たぶん僕の噂をしてたんでしょうね。
―「ボン! ボン! ボン!!」の主が正体を見せた、と(笑)。しかも、ちょっと変わったアタマにしていらっしゃいますからね。ターバンを巻き始めたのはいつ頃から?
青木:6年ぐらい前ですかね。髪の毛をセットする時間がもったいないから。
―もともとは陶芸とはまったく関係のない大学に進まれたんですよね?
青木:僕、愛知県の大学に行ったんですけど、そこを受けるまでに、16くらい落ちてるんですよ(笑)。もう推薦しかなくなってしまって、二次募集で拾ってくれたのがその学校。中小企業の経営者を養うところで、僕は経営情報学部経営情報学科に行きました。
20歳ぐらいまでは遊んでいたんですけど、「そろそろヤバいな、卒業してからのことを考えよう」と勉強もするようになって、仲間と始めた経営戦略ゼミがすごく面白かったんです。それで「自分は何をしようかな」と考えたとき、好きなことを職業にしたいと思ったんですね。
「うわっ!!! これしかない!!!!」」という衝撃があったんですよ。
―それから何をされたんですか?
青木:洋服を独学で作り始めたんですよ。中古のミシンをブラザー(ミシンメーカー)で買ってきて、自分の好きな服をほどいて、「あ、こういうふうにできているんだ」とパーツを調べたり、『装苑』を見たりしながら。で、1年くらいそれに没頭していたら、名古屋や豊橋のお店が委託で置いてくれるようになったんですけど、注文がくるようになると、サイズ合わせだ何だで時間がかかる。センスがいい人はいっぱいいるから、ファッションは彼らに任せようと思って、次はアクセサリーのほうにいったんです。
それもまたヒット商品になって注文がきたんですが、金属が手になじまない。その後も好きなことをいろいろと……。音楽もやってみたものの、1日で「才能ないなあ」と思ったりして。気づいたら卒業まであと半年。どうしようかな、と迷っていたんですけど、ちょうど僕らのとき、カリスマ美容師ブームだったんですよ。あれ、モテそうだなと思って。
―モチベーションは「モテ」だったんですね?
青木:そこ重要ですよ!(笑) ちょうど豊橋の駅前に、おじさんが一人でやっているおしゃれな美容室があったんですよ。頭を坊主にして毎日ギャルソンしか着ない、みたいな。そこでバイトし始めて、けど、まだ時間がある。当時は雑貨屋に行くのが好きで、何となく店先を見ていたら、陶芸家の作品があった。そのとき「陶芸って渋いんじゃない? 感性を磨くために陶芸をやっちゃおうかな」と思ってやってみたら、衝撃があったんですよ。「うわっ!!! これしかない!!!!」という。
―それが陶芸との初めての出会いですね。
青木:はい。最初はすごく気持ちよく土を触っていました。だけど「陶芸家なんて無理だろうな」と。でも、どうしても諦められなくて、卒業が3カ月後くらいに迫っていたとき、陶芸家の経歴を調べたんですよ。そうしたらみんな、東京芸大卒、大阪芸大卒、武蔵野美術大学卒……。
「もう大学にも行けないしな」と思っていた矢先、市がやっている陶芸の学校を見つけました。「あ、ここなら親からの援助がなくても自分でバイトしながら行けるな」と思って、そこから必死にデッサンとか勉強したら、奇跡的に3つ受かって、その中から多治見市陶磁器意匠研究所を選びました。
―そこに決めた理由は?
青木:多治見からは人間国宝がいっぱい出てるんですよ。「俺、人間国宝になりたいから、多治見にしよう」と、そんな感じですよ(笑)。
―陶芸家を志されたときに目標にした人っています?
青木:いなかったですね。とりあえず自分の好きなものを作って食べていくのが目標でした。それさえできれば、本当に幸せですから。
―では、過去の作家が作った器に嫉妬を感じることもなく?
青木:それはなかったけど、あの人たちがいたからこそ、僕が陶芸家というジャンルをやれているんだという思いはむちゃくちゃあります。ここ何年間かで食えるようになって、最初の小さな夢がかなった。だから次は、陶芸に恩返しをしたいんです。陶芸家が食えるのは、日本だけなんですよ、実は。
僕らは「今という時代に合った焼き物を作る」という気持ちでやっていかなきゃいけない。
―え? そうなんですか?
青木:日本では「ご飯はこれに盛ろう」「肉じゃがにはこれ」って器を選ぶでしょう? 僕、海外に行って気づいたんですけど、ほかの国では選ばないんですよ。みんな同じお皿でいいじゃん、って。ヨーロッパ、アメリカ、全部そう。
―それぞれの料理に合わせて器を選ぶのは日本だけなんですね。
青木:なぜそうなったかというと、400年前の桃山時代に、織田信長、豊臣秀吉たちが「茶の湯」という文化を発展させたから。言ってみれば、ちょっと昔のヒルズ族みたいな人たちが「俺、こんなすげえ茶碗を持ってるんだ」と自慢したり、武功に対して茶入を与えたりという世界。それで陶芸が浸透したんです。
でも、その後の陶芸家たちは、桃山時代に作られた志野や織部なんかを再現しているだけなんですよ。その繰り返しだったから、陶芸はどんどん廃れていったんです。理由はそれだけではないと思うのですが。だから僕らは、桃山時代の精神を受け継いで、「今という時代に合った焼き物を作る」という気持ちでやっていかなきゃいけない。そうしていくのが僕の役目かな、と勘違いしながらやっているところです。
―今、陶芸界の若手ってどうなんですか?
青木:すごいですよ、20年ぶりくらいに盛り上がっていると言われています。けど、作家同士はお互いのことを知らないんですよ。備前や益子で活躍している人の作品は見るけど、本人のことは知らない。どうやって生活しているかも分からない。別に知らなくてもやっていけるんですけどね。だけど僕はそれがすごくさびしくて、全国の若手陶芸家を集めて、毎年飲み会をやってるんです。そのときは仲良くなるために、1人1点、自分の作品を持ってくる。そうしたら「俺、こんなの作ってるんだぞ」って話ができるじゃないですか。
去年はお盆にやったんですけど、それでも150人くらい来てくれて。もう、みんな陶芸家ですよ! 今年(2009年)も8月の29日、30日にやります。その会、名前がダサいんですけどね。「イケイケヤング陶芸家集会☆」、略して「イケヤン☆」(笑)。
―趣旨はただ「楽しく飲んで騒いで終わろう」なんですか?
青木:まあ、そうやって30代前後のうちに仲良くなっておいて、いずれみんなでコラボして、バーンと展覧会をやれたらな、と。そうしたら400年前と同じように、陶芸界が活性化するかもしれない。たとえば僕の同世代の作家の作品を持って、渋谷とか原宿の若者に「これどう?」って見せたら、やっぱり「ヤベえ、かっこいいじゃん!」という反応が返ってくるんですね。
ふつうギャラリーでは、おばさんたちが作品を見て「すてきですね」と言いますけど、そういう若者がフラッと入って来ると、「これヤバくね?」(笑)。雰囲気変わるんですよ。あ、分かる人には分かるんだ、って。とりあえずみんなに陶芸を知ってもらうには、表に出るしかないな、って。
―青木さん、本気ですよね。アトリエに日の丸を貼って「日本代表」を目指しているだけありますよ!
青木:本気ですよ。陶芸と心中するつもりでやってますもん、僕。
―今後のご活躍を楽しみにしています。本日はどうもありがとうございました。
- イベント情報
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- 『青木良太個展』
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2009年4月15日(水)~4月27日(月)
会場:燈々庵(あきる野市)
時間:11:00~20:00(最終日~15:00)
休廊日:火曜日
料金:無料
備考:会期中18日(土)、19日(日)は作家在廊2009年5月1日(金)~5月10日(日)
会場:アートサロン光玄(愛知県名古屋市)
時間:11:00~18:30
休廊日:月・火曜日
料金:無料2009年5月1日(金)~5月10日(日)
会場:ギャラリー曜耀(茨城県笠間市)
時間:10:00~18:00(最終日は~17:00)
休廊日:火曜日
料金:無料2009年5月28日(木)~6月20日(土)
会場:TKG Daikanyama(代官山)
時間:11:00~19:00
休廊日:日・月曜日、祝日
料金:無料
備考:作家初のオブジェ展。初日にオープニングパーティーありその他、6月にはロサンゼルス、7月にはニューヨークで個展を開催予定。
- プロフィール
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- 青木良太
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1978年富山県生まれ。2002年、多治見市陶磁器意匠研究所卒業後、陶芸作家となる。2004年、スイス・ジュネーヴのEcole de arts decoratiftsに研修生として留学。Sidney Myer Found International Ceramics Award、テーブルウェアコンテストグランプリ、台湾国際桃源ビエンナーレ特別賞ほか、国内外で数々の賞を受賞。「週刊モーニング」(講談社)で連載中のマンガ『へうげもの』(山田芳裕)から生まれた若手陶芸家ユニット「へうげ十作」のリーダーとしても活動中。
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