あくまで一般論として言わせてもらうと、HIP HOPとはリリックの内容が何より重視される音楽である。もちろん、そこに絡むビートやメロディ、ラップのスキルも重要なことは言うまでもないが、まず耳に飛び込んでくるのはやはりリリックである。そうしたHIP HOPシーンの中でも、その独特なフロウとジャンルレスな音楽性で異彩を放つ鎮座DOPENESSが、バンマスのIZPONをはじめ、元犬式 a.k.a.DOGGYSTYLEのメンバーを中心に結成された「鎮座DOPENESS & DOPING BAND」名義でアルバム『だいぶ気持ちいいね』を発表する。メッセージ性よりも、ひたすら「気持ちよさ」を追求する鎮座DOPENESSの表現が、より突き抜けた形で鳴らされた、実に開放感のある作品である。もちろん、そういった性格のアルバムが、このシリアスさを増す社会の中において、逆に強いメッセージ性を放つことは、彼自身もよく理解しているだろう。そして、それでもなお『だいぶ気持ちいいね』と笑って見せることというのは、ひたすらにかっこいいことだと思うのだ。
自分はHIP HOPだけやってもしっくりこないだろうなとは思ってて、まさに「気持ちいい」ってとこだけでやってるんですよね。(鎮座DOPENESS)
―鎮さんの作品は以前からHIP HOPの枠に捉われない自由度の高さが魅力だったと思うんですけど、今回の作品は完全にHIP HOP云々ではない、文字通りひたすら「気持ちいい」作品ですよね。
鎮座DOPENESS:とにかく「何でもいい」ってところが根底に流れてて、今回バンドでやることになったのも自然な成り行きなんです。自分はHIP HOPだけやってもしっくりこないだろうなとは思ってて、まさに「気持ちいい」ってとこだけでやってるんですよね。だから、それがHIP HOPに聴こえなかったとしても、自分の中ではそんなに差はないんです。
―「HIP HOPとしてどうこう」ではなくて…
鎮座DOPENESS:じゃなくて、特にバンドのときは、よりみんなが気持ちよくなるところを目指すみたいな感じがあります。
鎮座DOPENESS
―IZPONさんはパーカッショニストとして様々なグループに参加されていますが、HIP HOPとの接点というのはどの程度あったのですか?
IZPON:もちろんHIP HOPは好きで聴くんですけど、僕自身はみんながB-BOYに憧れてる頃にパンクロックに憧れてて、反抗的なものはそっちにぶつけてたんです(笑)。だから、このバンドの話が最初に来たときは、正直「俺でいいのかな?」っていうのはあったんですよ。「俺、全然HIP HOPマナーないよ?」みたいな(笑)。
―(笑)。
IZPON:でも、やってみたら全然大丈夫で、ぶっちゃけこのアルバムはオルタナのアルバムっすよね(笑)。このバンドのメンバーは元々前身がレゲエバンドで、それも結構ロックなレゲエの集団だったんで、どちらかと言えばパンクとかが軸にあるんですけど、ジャンルはホント初めから考えてなくて。鎮くんもいろんな人とセッションしてるけど、いつ見ても彼は常に彼なんです。無理やりジャンルの型にはめてるんじゃなくて、彼は彼で自然な成り立ちの仕方をしてるんですよね。
―バックグラウンドにあるものは違うけど、良い意味でのマナーのなさ、制約のなさっていう部分で合致していたのかもしれないですね。
IZPON:うん、そうじゃないとこのアルバムはできなかったと思う。多分今回参加したメンバー全員が、今までやったことのないことをやったアルバムなんじゃないかな。
鎮座DOPENESS:「こだわりを削ぎ落とすとこれになる」みたいな(笑)。
2/4ページ:これが入り口だなって感じはありますね。これを聴いて、「次はこういう風に作ったら面白いかも」とか、そういうのが出てきました。(IZPON)
これが入り口だなって感じはありますね。これを聴いて、「次はこういう風に作ったら面白いかも」とか、そういうのが出てきました。(IZPON)
―まずは『100%RAP』(鎮座DOPENESSの1stアルバム)の曲をバンドバージョンにリメイクするところからのスタートだったと思うんですけど、スムーズに進みました? それとも、多少は試行錯誤がありましたか?
IZPON:大分あったっすね(笑)。
―(笑)。それは特にどんな部分ですか?
IZPON:よくある話かもしれないけど、最初は「鎮くんとサポートバンド」っていう形でやろうとしていたところがあって、それは全然上手く行きませんでした。やっぱり個性的なやつが多いから、そういうことが得意な集団ではなくて。それで、もうちょっと普通に「(みんなの)バンドじゃん」っていう、そうやって崩していったらどんどん面白い感じになってきたんです。
IZPON
―ディレクションするよりも、自主性にある程度委ねたと。
IZPON:もちろん大まかなことは言うんですけど、あんまり細かく言い過ぎると、全員が「鎮くんどう思うかな?」って、最初はどうしてもそうなるんですよね。それを段々気にしなくなって、「やつは大丈夫じゃね?」みたいな(笑)。最初は頼まれ仕事的な感覚だったやつもいたと思うし、みんな最初は差があったと思うんだけど、どんどんバンドになったなって。
鎮座DOPENESS:僕はもう安心し切って、「大丈夫っすね」って(笑)。
―鎮さんはバンドと一緒に作るのは初めてですよね?
鎮座DOPENESS:そうですね。バンドの音の細かさとかは把握できてないから、とにかく「(ラップを)こう乗せてみてえな」っていうのだけ漠然とあって。で、実際にやってみたらかっこ良かったし、「全然大丈夫でしょ」っていう。絶対に想像とは違うものが出来上がるんですけど、そうじゃないと楽しくない。そこが共通してたのかな。
IZPON:想像通りやってもつまんないからね。
鎮座DOPENESS:僕自身『100%RAP』を出して、ライブではオリジナルのトラックから全く変えてやったりしてたんで、変わることに対しては抵抗がなくて。むしろこれまでもずっとそうやってやってきてるんですよね…GRATEFUL DEADみたいな(笑)。今のDOPING BANDはこれだけど、次やるときは全く違ってもいい。お客さんのことを考えてないかもしれないけど、もっと自由でもいいぐらい。
―アルバムにしたことで、やっと1つの形が決まったぐらいな感じですか?
鎮座DOPENESS:ホントそうですね。終わり方とか、これ聴いてやっとわかってきた(笑)。
IZPON:確かに、これが入り口だなって感じはありますね。これを聴いて、「次はこういう風に作ったら面白いかも」とか、そういうのが出てきました。
鎮座DOPENESS:これでやっと一回俯瞰できたって感じですね。
3/4ページ:一時期HIP HOPが嫌だった時があったんですけど、イルリメさんも参加してるECDの『SEASON OFF』ってアルバムにホント救われたんです。(鎮座DOPENESS)
一時期HIP HOPが嫌だった時があったんですけど、イルリメさんも参加してるECDの『SEASON OFF』ってアルバムにホント救われたんです。(鎮座DOPENESS)
―今作はバンドらしいライブ感を閉じ込めつつも、ラジオショウ形式にすることで、ある種コンセプチュアルなアルバムにもなっているという、面白い作りになってますよね。
鎮座DOPENESS:元々は三木道三の『MIKI-FM』みたいにしようと思ったんですけど、そこはバンドならではというか、思惑とは違う作品になったのが面白かったですね。
IZPON:曲を詰めていく中でメンバーのポテンシャルもわかってきて、「こいつらこういうのもいいな、だったらこうしたら面白いかも」とか、その場その場の直感で進めていったので、僕的には「こうなったんだ」みたいな(笑)。
―『100%RAP』の収録曲の並びを変えることで、ストーリー性が生まれているのは見事だなって思いました。
IZPON:これだけ濃い人がいると自然とマジックが起こるんだなって思いましたね。締め切りが迫ってきて青ざめてたりすると、自然とストーリーができていくんですよ(笑)。ホント最後の最後まで粘りましたからね…昔から試験とかでも一夜漬けしかしたことないんで(笑)。「試験開始5分前に見た参考書に載ってた問題が出た」みたいなことが、かなりの頻度で起こるタイプなんですよ(笑)。
―非常に羨ましいタイプですね(笑)。ちなみに、鎮さんはどんなタイプですか?
鎮座DOPENESS:俺は最後まで参考書を見ないタイプ(笑)。
IZPON:俺は最後までじたばたするタイプなんで、そうするとただのカオスだって思ってたものが、自然とストーリーになってて、それはゾクッとしますよね。直感的に「この人だな」って思った人を集めて、最後まであきらめないと、何とかなるっていう(笑)。
―個人的には、イルリメさんがゲスト参加してる“鍋”とか好きです。
鎮座DOPENESS:この曲は元を作ったSABO(KOCHITOLA HAGURETIC EMCEE’S)と鍋を食いながら書こうって話になったんですけど、2人でやっても面白くないから、2人とも大ファンのイルリメさんを俺が勝手に呼んで。電話していきなり来てくれるとは思ってなかったんですけど(笑)。4トラックのMTRで、家で正座して録ったんですけど、「イルリメさん、アタマだけ8行書いてください」って言ったら、3分ぐらいで「できたで」って(笑)。
―イルリメさんは音楽性の幅も広いし、リリックにおける感情表現の豊かさっていう意味でも鎮さんとの相性はばっちりだと思ったんですよね。
鎮座DOPENESS:一時期HIP HOPが嫌だった時があったんですけど、イルリメさんも参加してるECDの『SEASON OFF』ってアルバムにホント救われたんです。ECDがまだやってるっていうのも良かったし、しかもとにかくフレッシュだったんですよ。それからファンになってライブを見に行ったりもしてたんですけど…まさか家に来てくれるとは思ってなかったです(笑)。
―「HIP HOPが嫌になってた」っていうのは何故だったんですか?
鎮座DOPENESS:ちょうどTHA BLUE HERBが出てきた頃で、ストイックな方向性が仕上がったみたいな時期だったんで、そんな時に僕みたいなやつがついていけるわけないじゃないですか(笑)。もちろんTHA BLUE HERBは好きですし、リスペクトもしてますけど、お客さんもみんなああいうストイックなムードだったんですよね。そういう中で、イルリメさんとECDのアルバムはホントにフレッシュだったんです。
4/4ページ:結局音楽とかアートとか表現とか、どれだけクオリティがあったり、どれだけすごかろうが、自分と波長の合うものにしか反応できないんですよ。(IZPON)
結局音楽とかアートとか表現とか、どれだけクオリティがあったり、どれだけすごかろうが、自分と波長の合うものにしか反応できないんですよ。(IZPON)
―コーラスで参加されてるChanmikaさんもすごく効いてますよね。
IZPON:最初はDJ UPPERCUTもChanmikaもいない状態で始まってるんですけど、「やっぱり女性コーラスいると…ギャラ高そうに見えるよね」とか(笑)、そういう話から誰か入れようと。基本的に僕らそういうところから事を決めるんで。
―ゆるいですね〜(笑)。
IZPON:そのせいで最初は混乱が起きるんだけど(笑)、それが収まると思わぬ形になって仕上がる、みたいな。
鎮座DOPENESS:Chanmikaはソロでもコーラスでもすごくいいんですけど、とにかく人間的に面白そうだなっていうのが一番重要で。
IZPON:結局音楽とかアートとか表現とか、どれだけクオリティがあったり、どれだけすごかろうが、自分と波長の合うものにしか反応できないんですよ。例えば、THE BEATLESがすごいのはわかるけど、普段聴くことがないっていうのは、やっぱり波長がちょっと違うんです。だから、まずは自分たちと波長が合うものを揃えるっていう。
鎮座DOPENESS:もののチョイスってホントそういう方がいいですよ。
IZPON:逆に言えば、「何でこんなやつが人気あるんだ?」っていうのも、「波長が合う同士が集まってるんだな」って思えるし。
―DOPING BANDは、まさに波長の合ったメンバーの集まりだと。
IZPON:そういうメンバーが集まってて、さらに波長を感じた人が聴く、あとはこっちがクオリティをもっと上げれば、その波長が広がるかなって。
―「ドープなチンドン屋バンド」っていうキャッチコピーもついてますけど、まさにそうやって波長の合う人たちが徐々に集まってくるようなイメージがありますね。
鎮座DOPENESS:とにかくいろんなとこにやれる自信があって、町内会の祭りに出たいっていうのが一番のポイントなんです。そういう町の祭りとかって芸人が仕切ってることが多いから、そこに参入したいんですよ。
IZPON:波長勝負だから、HIP HOPとか知らなくても、波長が合えば反応してもらえると思うし。
鎮座DOPENESS:とりあえず楽しいからやってるし、楽しませたいと思ってるし、こっちが楽しければ大丈夫だろうっていうところもあって。IZPONはパーカッション叩いてるときホントに楽しそうなのが伝わってくるから、それ見てると「間違いねえな」って思うんですよね。
「気持ちいい」ってことに忠実に、自分を満足させることに集中した方がいいと思う。(鎮座DOPENESS)
―今って社会状況からしてもシリアスな音楽が増えてると思うんですね。そういう中で、『だいぶ気持ちいいね』っていうタイトルで、ただ楽しくやるっていうのは、ある種のカウンターにもなってるように思うんですよね。
鎮座DOPENESS:ああ、嬉しいっす。2回とかですけど被災地に行って、現地の人と会ってみたら、東京で何もやらないで「うーん」ってなってる人よりも、楽しんでる人の方がよっぽどマシだと思いましたね。いろいろ考えなきゃいけないけど、息抜きだって必要だし、ずっと気を張ってなんかいられないから、当然のことだと思うんですけど。
―音楽にはそうやって楽しませる力がありますもんね。
鎮座DOPENESS:そうですね。同時にメッセージも伝えられると思うんですけど、それはみんながやってるから…任す(笑)。いつか出すかもしれないですけどね、十年後に『3.11』とか。モノのでかさはそれぐらいのレベル、風化しないぐらいでかいわけで。だから、今ってそれを直で言わない表現の方が増えてますよね。ずっと残るような感じの言い方をする、その方が共感できますね。「あの日の辛さ」を歌うのも、それはひとつの記録として重要だと思うけど、俺がやってもしっくりこないだろうなって。今のタイミングでやることは限られてるけど、もっと意識的に生活をするっていうことが、また次の作品につながっていくんだろうなって。
―鎮さんは常に直接的なメッセージ性からは1歩距離を置いてる印象があります。
鎮座DOPENESS:ラップってメッセージが重要だって言われるけど、俺は全然信じてないんですよ。メッセージだけを欲しがってるようなやつって、「全然楽しんでなくない?」って思うんです。筋を通したことを言ってもらいたいだけのような気もするし、それはさっき言ったTHA BLUE HERB以降で感じたことなんですけど、だからこそ、俺が出てこれるんだとも思うんです。まあ、HIP HOPの現場も変わってきてるとは思うんですけど。
―はい、それはそうだと思います。
鎮座DOPENESS:俺自身、次は『だいぶ気持ちいいね』みたいなやつじゃなくて、『ファックオフ!』みたいになってるかもしれないし(笑)。自分はスタイルとして何でも好きだから、それぐらい自由な方がいいんです。もしかしたら、THA BLUBE HERBが『だいぶ気持ちいいね』みたいなのを作ってくるかもしれないし、それはそういうゲームとして捉えればいいのかなって。信念にこだわり過ぎるのは、風通しが悪いですよ。「気持ちいい」ってことに忠実に、自分を満足させることに集中した方がいいと思う。
- リリース情報
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- 鎮座DOPENESS & DOPING BAND
『だいぶ気持ちいいね!』 -
2012年3月14日発売
価格:2,500円(税込)
TOCT-28038 / EMI Music Japan1. INTRO
2. カンパイ
3. 朝起きて君は
4. のうてんき野郎
5. JUST A 友達
6. OS
7. もぐもぐ feat. Leyona & BUN BUN THE MC
8. 鍋 feat. イルリメ & SABO from KOCHITOLA HAGURETIC EMCEE
9. はっする LIVE!!!!
10. ヒップ ホップ IS
11. モード -DOPING BAND VERSION-
12. わかってないのに
13. OUTRO
- 鎮座DOPENESS & DOPING BAND
- プロフィール
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- 鎮座DOPENESS & DOPING BAND
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HIP HOP、ブルース、レゲエなど様々な音楽がミックスされたカメレオンのような音楽性と、フロウや韻における際立った独創性、ブルージーかつフリーキーな唄心をあわせ持つ異才MC /ヴォーカリストの鎮座DOPENESSと、バンマスでありパーカションマスターのIZPON(KINGDOM★AFROCKS/NAOITO/ex 犬式 a.k.a.DOGGGYSTYLE)が中心になり、ギターに三根星太郎 (ex.犬式 a.k.a.DOGGGYSTYLE /THE Tchiky's)、柿沼和成 (ex.犬式 a.k.a.DOGGGYSTYLE /TRIAL PRODUCTION )、ベースは石黒祥司 (ex.犬式 a.k.a.DOGGGYSTYLE / THE Tchiky's)、コーラスには紅一点、女性ヴォーカリストのChanmikaが担当。バックDJ はDJUPPERCUTといった強烈な面子が集結した新感覚バンド。
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