ももいろクローバーZの『行くぜっ!怪盗少女』、大森靖子の『絶対少女』、そして吉澤嘉代子の『変身少女』へ……。幼い頃に本気で魔女になりたいと修行をしていた少女が、インディーズで発表した『魔女図鑑』を経て、いよいよメジャーデビューを飾る。しかも、『変身少女』は吉澤いわく「ラブリーポップス」の詰まった可愛らしい作品。彼女は文字通り、魔女からキラキラとした美少女アイドルへと変身したのか……?
というと、話はそんなに単純ではない。吉澤の楽曲は、曲の中に物語を設定し、その主人公になり切ることで、聴き手に楽しんでもらおうとすることが大前提。だからこそ、曲と作者を同一視されてしまうことには葛藤があるし、コミュニケーションに対する苦手意識も消えたわけではないようだ。つまり、吉澤嘉代子は今も修行の真っ最中なのだ。
本作は、そんな現在の吉澤を象徴するリードトラック“美少女”で始まる。同年代の女の子が共感できるラブリーポップスであると同時に、「それでもやっぱり歌が好き」という自らの想いも詰め込み、<恋がしたい これまでの過去を許せるような>という歌詞からは、「魔女時代」からの連続性も感じさせる。また、<鏡よ鏡>という歌詞は、「聴いた人が曲に自分を投影してほしい」という、彼女の姿勢の表れでもあるはず。これからも変身を続けるであろう吉澤嘉代子のベーシックがここに刻まれているのだ。
「怒られてもいいから、とにかく自分の意見を言ったほうがいいよ」って、チャットモンチーのアッコさんからアドバイスをいただいて、最近やっと言えるようになりました。
―最初の取材からちょうど1年ぐらい経ちましたが、インタビューには慣れましたか?
吉澤:少し慣れました。前にインタビューしていただいたときは、ずっと下を向いていたと思うんですけど……。
―そうだったかもしれません(笑)。でも、ちゃんと向き合って喋れるようになりました?
吉澤:またそうなるかもしれないです(笑)。
―(笑)。メジャーデビューをしてなにが変わるかって、まず関わる人たちの人数が多くなるから、コミュニケーションはますます重要になってきますよね。
吉澤:そうですね、ホントに。インディーズのときはディレクターさんとマネージャーさんと私の三人だけでやっている感じだったので、今は結構戸惑うこともあります。今回『変身少女』を作るにあたっても、最初は自分の意見が言えなくて、モヤモヤがたまってしまっていたんですね。でも、チャットモンチーのアッコさん(福岡晃子、“美少女”に参加)に「怒られてもいいから、間違ってもいいから、とにかく自分の意見を言ったほうがいいよ」って言ってもらえたのが大きくて。私の発言のせいでいろんなものが止まってしまうのがすごく怖かったんですけど、ホントに最近やっと言えるようになりました。
―吉澤さん、柔らかそうな雰囲気ですけど、芯には強いものを持ってる人ですもんね。
吉澤:芯っていうか……わがままなんです、すごく。
―でも、結果的に今作は「自分がこうしたい」って思う作品になったっていうことですよね。
吉澤:そうですね。
「目の前にいるお客さんが笑ってくれればそれでいいや」って、ホントに強く思ったんです。
―すごく気になったのが、今回「ラブリーポップス」をテーマにしているじゃないですか? でも、前の取材でも言っていたように、吉澤さんにとって、ラブリーポップス、ラブソングっていうのは、苦手なタイプの曲だったと思うんです。メジャーデビューのタイミングで、なぜあえてそれをテーマにした作品を作ろうと思ったのか、そこが一番聞きたくて。実際、今作を作るにあたっては、どういう意図があったんですか?
吉澤:今作は私の中では覚悟の1枚なんです。おっしゃったように、『魔女図鑑』のときも、“未成年の主張”とか“らりるれりん”とか、ラブリーポップスは苦手なタイプの曲でした。だから、いつの間にか“未成年の主張”とかがリスナーにすごく受け入れてもらえて代表曲みたいになったことに、最初はすごく戸惑いもあったんです。でも一方で、同世代の女の子とかに「“未成年の主張”が一番好きです」とか言ってもらえると、やっぱり嬉しくて、「みんなが喜んでくれるものを作りたい」って思うようになって。
―なるほど。ライブで直接お客さんと触れ合う機会も増えたでしょうしね。
吉澤:そうですね。今までライブは「間違えたらどうしよう」とか「怒られたらどうしよう」っていうことばかり気になって、お客さんを見る余裕がなかったんです。でも、去年のファーストワンマンショウでは、結果的に自分のやりたいことを全部詰め込むことができたし、それを喜んでもらえてすごく幸せだったんです。そこから少しずつお客さんを見る余裕が生まれたのかも。その後は一人旅ライブが始まって、打って変わって行き当たりばったりの、ホントに一人でCDを持って全国を回ったんですけど……。
―あれって、そもそも何でそういうことをやろうと思ったんですか?
吉澤:それは……「やってこい」って言われたから(笑)。
―なるほど、「鍛えてこい」と(笑)。
吉澤:毎日お客さんが違う中、そのお客さんにどれだけ笑ってもらえるか、打ち解けられるか、っていうのを目標にやっていて。これまでライブで踊ったりすると、「吉澤嘉代子はアイドルみたいになってしまった」とか言われて落ち込んだこともあったんですけど、でも「目の前にいるお客さんが笑ってくれればそれでいいや」って、ホントに強く思ったんです。“未成年の主張”とか“らりるれりん”にはライブでもすごく助けられたし、今の自分の一番の武器はラブリーポップスなのかなと思って、今回メジャーからの初めての作品で、そこに一点集中したものを出そうと覚悟を決めたんです。
かっこつけてることが一番かっこ悪いなって思ったんです。
―そもそも、ラブリーポップスとかラブソングへの苦手意識っていうのは、どういうところから来ていたんでしょう?
吉澤:そうですね……曲の内容が自分のことだと思われたくないっていう(笑)。
―歌の内容と歌っている本人って同一視されがちですもんね。吉澤さんは1曲ごとに世界観や主人公を作っていて、ライブでもその主人公になりきれるからこそ、可愛らしい振付とかもやってるわけですよね?
吉澤:最初はあんまり深く考えてなかったんですけど、去年スタジオで、まわりのみんなに「1回やってみなよ」って言われて、“チョベリグ”をハンドマイクで歌ったときに、自然と振付もやっていて(笑)。もともと子供の頃から自分で作った変な踊りをみんなに披露するのが好きだったのが活きたのかなって(笑)。
―つまり、「吉澤嘉代子はアイドルみたいになってしまった」って言われるのは嫌だけど、自分の中にはそういうアイドル的というか、ラブリーな側面ももともとあって、そこを受け入れるのにちょっと時間がかかったけど、今回の作品では受け入れる覚悟をしたと。
吉澤:曲の主人公になりきっていれば、自然とやってしまうことなんですけど、でもそれを世の中に出すか出さないかってところで、「どうなんだろう? 私はこのまま行ってしまっていいのかな?」と迷って。でも、かっこつけてることが一番かっこ悪いなって思ったんです。とにかく(メジャーからの)1枚目は自分の名刺代わりになるアルバムにしたかったので、振付のある曲も入れてみました。
―逆に言えば、これまではちょっとかっこつけていた部分もあった?
吉澤:一人旅ライブのときは、オケを手元のMTRで再生して歌ってたんですけど、歌詞を間違えたりしたとき、今までだったらごまかしたり、飛ばして歌っていたのを、1回止めてそれを笑いにしてしまったり(笑)。そういうのはこれまでの自分だとできなかったことですね。
―ツアーを通じて、かっこつけずにさらけ出せるようになってきたと。
吉澤:そうですね。ライブは自分が相手にダイレクトに伝わってしまうんだなっていうのもすごく思いました。
―ライブを通じてお客さんとのコミュニケーションを実感したからこそ、「みんなが喜んでくれるものを作りたい」っていう覚悟もできたんでしょうね。
吉澤:はい、そうだと思います。
―ちなみに、ラブリーポップスを作ろうと思った他の要因として、時代性との関連ってあったと思いますか? 吉澤さんは「名曲を作りたい」っていうのを目標としていたと思うんですけど、名曲の条件の1つとして、「時代が反映されている」っていうことが挙げられると思うんです。つまり、今は女の子が元気な時代だからこそ、ラブリーなポップスを作って、『変身少女』っていうタイトルにしたのかな? とも思って。
吉澤:……まったくなかったです(笑)。
―(笑)。今女の子が元気な時代だっていう実感はありますか?
吉澤:うーん……元気ですね、確かに。
―でも、そこを意識して作品を作ったわけではないと。
吉澤:今作は、4年半前に今のディレクターさんと出会ってから書きためた曲から選んでいるので、曲によって作った時期とか作り方も全然違うんです。私のやりたいことの1つである、1曲の中に物語があって主人公もいてっていう中で、今回は乙女的なもの、乙女な世界感の曲を選んだかもしれないというのはあります。
―じゃあ、時代性っていうのは、結果的についてきているものなのかもしれないですね。あらためて聞いておくと、吉澤さんにとっての「名曲の条件」っていうのは、どんなものですか?
吉澤:そうですね……時代に左右されない、普遍的なものっていうのがテーマになっているので、むしろ「時代を超えていく」っていうのが、条件の1つかなって思いますね。
すごく悪いこだわりがあって、できれば1つもしくじりたくない。自分が想像できない方向には進みたくないっていうのがあったんです。
―もう1つ、ラブリーポップスを作ったことの要因として、やっぱり吉澤さん本人とのリンクもあるのかなって思ったんです。さっきも言っていたように、曲の中で物語や主人公を作っているとはいえ、きっとその背景には吉澤さん本人の経験もあるんじゃないかと思ってて。つまり、デビューしたことなのか、ライブでのコミュニケーションなのか、吉澤さんにとってドキドキワクワクするようなことが多かったから、ラブリーポップスになったのかなとも思ったんですが……どうでしょう?
吉澤:そうですね……。デビューに関しては、本名でやってることもあるのかもしれないですけど、やっぱりどうしても……名前を賭けた博打というか(笑)。今はどうしてもそういうふうに思っちゃって、手放しでは全然喜べないんです。まったく浮かれていないし、すごく重い心境というか……。
―ドキドキワクワクどころではなく、むしろ怖い?
吉澤:メジャーデビューが1つの夢だったから、その夢を叶え手放すことになって、また新しい夢を手に入れるんですけど、それにはゴールがないので……。
―「新しい夢」っていうのは?
吉澤:「これをしたい、あれをしたい」っていう細かいことはいろいろあるんですけど、1番の夢は、やっぱり「名曲を残す」っていうことで、でもそれってとっても大きいことですよね。
―「この曲は名曲です」って、誰がどう決めるのかもわからないですよね。
吉澤:そうですよね、死んでから決まるのかもしれないし。私すごく悪いこだわりがあって、できれば1つもしくじりたくない。今作の選曲に関しても、自分が想像できない方向には進みたくないっていうのがあったんですけど、やっぱりそんなことは無理だってわかりました(笑)。
「変わってしまった」って言われることに関しては、気にしないって決めたんです。
―さっきの「悪いこだわり」って、もう少し詳しく言うとどんなことですか?
吉澤:「この曲をリード曲にしたい」とかっていうのが、自分の中ですごく固まっちゃって、自分の作品だからみんなそうかもしれないですけど、せっかく作った曲なので、それが一番活きるようにしたいっていうのがあるんです。私は売り出す側のプロフェッショナルではないので、意見が食い違うこともあるんですけど、そのときに「自分はわかっていないから」って尻込みしちゃうと後悔するので、それが通らなかったとしても、とにかく言っていこうと思ってます。
―大事なことですよね。今回“美少女”がリードトラックになったことは、間違いなく正解だと思います。あとは、明確な夢を設定するっていうのもいいかもしれないですよね。「名曲を残す」という夢とは別に、「メジャーデビュー」みたいな、結果としてはっきり表れるものを。
吉澤:あります。サンボマスターと野音でツーマンしたい(笑)。
―それがあったか(笑)。
吉澤:今回の作品が世に出てどうなるか? っていうシミュレーションも自分の中ではしてるんですけど、でもホントにそうなるかは全然想像ができなくて、悪い想像はいくらでも思いついちゃうんですよ。
―「吉澤嘉代子はアイドルになっちゃった」みたいなこと?
吉澤:っていうか、作品が世の中にかすりもしないとか(笑)。アイドルと比較されるのが嫌なのは、アイドルの方に失礼だと思ってるからで。アイドルの方のライブを目の当たりにするとホントにすごい迫力で、全然畑が違うなって思うので。
―だから「アイドル」っていう言葉には敏感になってしまう部分があったと。
吉澤:「変わってしまった」って言われることには、気にしないって決めたんです。昔ストリートライブをやってた頃を知ってる人に、デビューする2年ぐらい前のライブで、「汚い恰好でストリートライブをしている姿が魅力的だったのに、今はきれいな衣装を着て吉澤嘉代子は変わってしまった」って言われて。「まだデビューもしてないのにこういうこと言われるんだ」って思って、そこからはもう全然気にしてないです(笑)。
「恋」っていうワードを入れると、ラブソング仕立てになるので、ラブソングのふりをした人間の歌を作りたいと思ったんです。
―今作はラブリーポップスがテーマになっていますが、“美少女”に関するセルフライナーノーツで、「夢中になれるものに出逢いたい。歌をつくる前のわたし。」とあるように、曲にはいろんな意味が込められていますよね。この曲の<恋がしたい>という言葉はどういう意味で使っているのか、あらためて話していただけますか?
吉澤:「恋」っていうワードを入れるとラブソング仕立てになるので、ラブソングのふりをした人間の歌を作りたいと思ったんです。「恋がしたい」っていうのは恋愛だけじゃなくて、お仕事でも趣味でもなにか夢中になれるもの、「これまでの自分はこれと出会うために生きてきたんだ」って思えるぐらい、夢中になれるものを見つけたいっていう意味を込めました。そういうふうに裏の意味を持って歌うことが結構あって……自己満足なんですけどね(笑)。
―いやいや(笑)、聴き手にとっていろんな捉え方ができるっていうのは重要なことですよね。
吉澤:はい、私は“美少女”を歌うといつも泣きそうになるんです。
―以前の取材で「曲を作るときはいつも泣きながら作ってる」っていう話があったと思うんですけど、最近はどうですか?
吉澤:最近は全然泣かなくなりました。
―それって、どういう変化だと思いますか?
吉澤:なんですかね……これまではやっぱり、自分のコンプレックスとかを、直接ではなくとも吐き出すような感じで曲を作っていたと思うんですけど、そういう曲を今はあんまり作れていないのかもしれないですね。でも、去年“23才”っていう、「これは自分自身の曲です」っていうのを初めて作って、それはボロボロに泣きながら書いていたんで、やっぱり自分自身のことを織り交ぜようとすると、泣いちゃうのかもしれないですね。
―コンセプト仕立てで作品を作りつつも、そうやって時には自分のモヤモヤを曲にぶつけて、バランスを取りながら活動して行ければいいですよね。最後に、6月のリリースパーティーについて聞かせてください。去年のワンマンショウはかなり作り込んだという話でしたが、今回もいろいろ考えているんですか?
吉澤:去年は「ワンマンショウ」と名付けたので、ショウとして観せたいと思って、できることをやったんですけど、今回はリリースパーティーなので、去年できなかったみんなとの一体感っていうか、お客さんが楽しめるものをやりたいと思っています。「吉澤嘉代子っていつもなにかやるよね」と言ってもらいたいので、いろいろ考えてはいるんですけど、まずはみんなで盛り上がれる、楽しいライブになったらなって思っています。
- イベント情報
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- 吉澤嘉代子『変身少女』発売記念CD購入者イベント
ミニライブ&サイン会 -
2014年5月24日(土)13:00~(受付開始・集合12:30)
会場:大阪府 あべの Hoop 1F オ-プンエアプラザ(イベントスペース)2014年5月24日(土)夕方予定
会場:大阪府 京橋ダイエーイベントスペース2014年5月25日(日)昼予定
会場:兵庫県 タワーレコード神戸店2014年5月25日(日)17:00~(受付開始・集合16:30)
会場:京都府 タワーレコード京都店2014年5月31日(土)13:00~(受付開始・集合12:30)
会場:福岡県 タワーレコード福岡店
※ミニ・ライブは観覧フリー、イベント参加券は福岡市内「よか音」協賛14店舗でご購入者に先着で配布2014年5月31日(土)17:30~(受付開始・集合17:00)
会場:広島県 HMV広島本通店2014年6月1日(日)12:00~
会場:東京都 タワーレコード新宿店 7Fイベントスペースディスクユニオン全店対象購入者イベント
2014年6月1日(日)19:00~(受付・集合18:45)
会場:東京都 dues新宿
※クローズドスペースにつき、ミニライブ&サイン会ともにイベント参加券をお持ちのお客様のみ参加可能
- 吉澤嘉代子『変身少女』発売記念CD購入者イベント
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- 『吉澤嘉代子デビューAL「変身少女」リリースパーティー ~嘉代子、メタモルフォーゼ!~』
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2014年6月15日(日)OPEN 17:15 / START 18:00
会場:東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
出演:吉澤嘉代子
料金:前売3,000円 当日3,500円(共にドリンク別)
- プロフィール
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- 吉澤嘉代子(よしざわ かよこ)
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1990年埼玉県川口市生まれ。鋳物工場街育ち。父の影響で井上陽水を聴いて育ち、16歳から作詞作曲を始める。2010年11月、ヤマハ主催のコンテスト『The 4th Music Revolution JAPAN FINAL』に出場し、グランプリとオーディエンス賞をダブル受賞。2013年インディーズから1st mini Album『魔女図鑑』リリース。2014年5月14日、『変身少女』でメジャーデビュー。
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