world's end girlfriendに問うインディーレーベルの存在意義

7月14日に設立5周年を迎えたworld's end girlfriend(以下、WEG)主宰のVirgin Babylon Recordsから、コンピレーション『ONE MINUTE OLDER』が発表される。「1分の音楽」をテーマに、「45秒以上、90秒以内」という条件で制作された楽曲が50曲収録され、レーベルのアーティストはもちろん、WEGと交流の深いアーティストが多数参加し、さらには一般公募による楽曲も収録されているという、実にVirgin Babylon Recordsらしい、個性的なコンピレーションだ。

インタビューの中でも話していることだが、誰もがネットを使って簡単に自分の作品を発表できるようになった今、インディーズレーベルの存在意義は昔と比べて大きく変化している。実際、この5年で複数のアーティストを抱えるレーベルの数は減少し、今回のコンピに収録されているアーティストにしても、自主レーベルから作品を発表するようになったアーティストが少なくない。そんな中にあって、なぜWEGはレーベル運営を続け、今も積極的にリリースを行い、新人発掘に取り組んでいるのだろうか? その真意を訊いた。

興味のある音楽はいっぱいあるんだけど、その情報がどんどん来ちゃうから、全部は聴いていられないっていうのが正直なところ。良くも悪くも1分くらい聴いて判断しちゃったりする。

―「1分の音楽」をテーマにした今回のコンピレーションは、どのような経緯で作られたのでしょうか?

WEG:レーベル5周年のコンピを作ろうと思って、作るにあたって、何かしらコンセプトがあった方が面白いかなと思ったんです。最近の音楽の聴き方って、単発的になってきたというか、次々聴いていくような感じになってきたでしょ? 自分もそうで、例えばアルバムのフル試聴とかをやってても、最初の2~3曲はちゃんと聴いたとしても、あとは他のことをやりながら聴いちゃうこととかよくあるし、良くも悪くも1分くらい聴いて判断しちゃったりする。だったら、最初からその枠で1曲が完結するような音楽を作ってみようと思って。

―非常にVirgin Babylonらしい、批評的かつユーモアのある発想ですよね。

WEG:まあ、レーベルのアーティストだけだと短く物足りない作品になっちゃうから、5周年だし、周りにいる音楽家の友達や面白い音を作ってる若手などにバーッと声かけたら、みんな「やるやる」って言ってくれて。

―5年前でももちろんネットで音楽は聴けたけど、Twitterで情報が流れてきたり、YouTubeでも関連動画が自動的に紹介されるようになっていくにつれて、自分から音楽を探しに行くのではなく、受動的な聴き方になっていきましたよね。その結果、今のパッと聴いてすぐに判断するリスニング傾向が生まれたように思います。

WEG:そうだね。興味のある音楽はいっぱいあるんだけど、その情報がどんどん来ちゃうから、全部は聴いていられないっていうのが正直なところだし、やっぱりネットしながら聴いたりしてると、聴いてるうちにまた違う情報が入ってきて、そっちに興味ひかれて開いてみたりとかね。でも、そうなっちゃうのも仕方ないし、最初からそういう状態の人にとっては、その聴き方が普通なわけで。

―だったら逆手にとって、それを作品にしてしまおうと。

WEG:そうそう。単に短い曲がたくさん並んで、どんどん音も世界も切り替わって行く感じも面白そうだなっていうのもあった。1分の曲とは言えアーティストによってアプローチは全然違うし、ちょっと足枷的なものがあると、普段とは違う側面が出て面白いものができたりもするから、それを聴いてみたいっていうのもありました。

―確かに、ひとつのアイデアで押してる曲もあれば、「この尺の中でこんなにも展開するんだ」っていう曲もあって、そこが面白かったです。あと、一般公募のアーティストも良かったですね。

WEG:5周年だから50組っていうのは最初から思ってたんだけど、46組まで決まったところで、あと4組は一般公募にしてみようかなと思いついて。満足できる曲が4曲も集まるかの心配もあったんだけど、募集してみたら結構な数の応募があって、予想より全然いい曲がたくさんありました。なので、アルバムの構成とか、他の収録曲との兼ね合いとかもありつつ流れに合う4組を選んだんですけど、他の曲もこのまま埋もれるのももったいないので、『ANOTHER ONE MINUTE OLDER』として、Bandcampでフリーダウンロードできるようにしました。

―「思ったよりいい曲がいっぱいあった」っていうのも、この5年における作り手の環境の変化が影響してそうですよね。

WEG:ソフトシンセとかは、自分の若い頃と比べたら断然良くなってるからね。ただ、クオリティーは高くていいんだけど、まだ「自分の色」が見つけ切れてないなっていうのも多くて、もっと間違いをおかした方がいいのにって思うことはよくあります。機材の使い方も音の作り方もコード進行もネットで調べればすぐに出て来ちゃうから、良くも悪くも間違いをおかしたり自分勝手な想像で音楽を作ることは減ってるのかなって。

world's end girlfriend
world's end girlfriend

―全体のクオリティーは上がりつつも、平均化しているとも言えて、難しいところですよね。あとはさっき話にも出たBandcampとか、ネットを使って自分で発信できる環境がより整ったのもこの5年の変化だと思います。

WEG:でも今回、公募に思ったより数が来たのもそうだけど、みんな作品として何らかの形で発表したいんだなっていうのは思いました。ネットで自由に発表できるとは言いつつ、CDになるとみんな嬉しそうで、そこは意外と変わってないんだなって。

このコンピ自体に俺が好きな1990年代の感じがあると思う。CORNELIUSの『FANTASMA』の頃みたいな、情報量が多くて、ゴチャゴチャしてて、でもポップさはある感じっていうかね。

―では、もう少し具体的にコンピの内容に踏み込みたいと思います。50もの曲を、どのように作品として並べて行ったのでしょうか?

WEG:曲が届くたびにちょっとずつ並べて調整しつつ、曲が集まった状態で、全体の流れを作り、そこにに足りないピースを自分で2曲作って(world's end girlfriendとworld's end boyfriend名義それぞれの曲が収められている)、さらに公募の4曲を必要な個所に当てはめていって、全体で「これで完璧」って状態にした感じかな。バラバラなパーツを1つの映画になるように編集していったというかね。

―「45秒以上、90秒以内」という条件で曲を作るという作業は大変でしたか?

WEG:みんなのを聴いてもいくつかのパターンがあるんだけど、WEGの方は情報量を多く、1分の中に展開を詰め込むジェットコースター的な感じにして、逆にworld's end boyfriendの方は、ひとつのコード進行で淡々と進んで、最後にバーストするっていうパターン。どれを捨ててどれを入れるのかを選択するっていう作業はあったけど、特に難しい作業ではなかったかな。

world's end girlfriend

―参加者の世代も多岐にわたっていると思いますが、何かそういった面で感じたことはありましたか?

WEG:自分の時間の感覚で言うと、1990年代後半とかって懐かしい感じなんですよ、「あの頃はおもしろかったなあ」みたいな。でもよく考えると、今の20代前半の人にはその頃の記憶ってほぼないわけで、そういう振り返ったときの感覚を他の人に当てはめないようにしないとって最近思って。「おっさんになるとはこういうことか」って(笑)。昔雑誌とかで名盤として70年代80年代のものばかりが紹介されてると、「もっと最近のやつ紹介してくれよ」って思ってたけど、歳を取ると自分の核になってる時代の音を紹介したくなって、「あ、こういうことか」って思ったり(笑)。

―でも、時代感として90年代リバイバルは確かにあって、90年代後半から00年ぐらいのものが再評価されているように思います。

WEG:今回入ってる人で言うと、でんの子Pとかは若いと思うんだけど、情報量、展開の多さとかは90年代っぽいし、このコンピ自体に俺が好きな90年代の感じはあると思う。CORNELIUSの『FANTASMA』(1997年)の頃みたいな、情報量が多くて、ゴチャゴチャしてて、でもポップさもあるっていうかね。

―アルバムのジャケットについては作品とどう関連しているのでしょうか?

V.A.『ONE MINUTE OLDER - Virgin Babylon Records 5th Anniversary』ジャケット
V.A.『ONE MINUTE OLDER - Virgin Babylon Records 5th Anniversary』ジャケット

WEG:これは写真家の高木こずえさんの『GROUND』という作品から使用させてもらいました、いろんなものがうごめいてる写真を使いたくて。この写真は引きで見ると枯れた花のように見えるんだけど、細かくみると実際はいろんなものがコラージュされてて、それが作品のイメージにぴったりでした。いろんな人、音、感情が入り乱れうごめいてるんだけど、引いたところから見ると、自然とひとつの作品として見えるっていうね。

「作り手が好き勝手に作っていいものができれば一番いい」っていうのが根本。

―誰もが自分で作品を発表しやすくなった結果、インディーズレーベルの存在意義はだいぶ変わったように思います。WEGさんはレーベルの継続性についてどのようにお考えですか?

WEG:Virgin Babylonを始めたときに、最低10年はやろうっていうのを先に決めてました。昔2~3年やってすぐ終わっちゃうレーベルがよくあったから、それじゃ意味ないなって。で、実際始めてみたら、アーティストが集まってきて、定期的に作品を出せるようになって、もちろん「続けよう」と思ってやってるんだけど、「続けるための何か」っていうのは特になくて。各アーティストが自由に動ける「場」を作れば、あとは自然発生的にみんなが音楽を産むようになってくれるから、あとは俺が企画とか面白いことを考えたりしてるだけっていうかね。そういう場を作ることはできたから、「レーベルを継続するためにこれをしなきゃ」っていうのはもうないかな。

―その状態にまで持ってこれたことがすごいなって思います。

WEG:CDか配信かストリーミングかとか、もうそういうことに対するこだわりはないんですよ。みんな好きなやり方で聴くだろうし、「CD買う人は買うし、買わない人は買わない」ぐらいの感じで、もうあんまり気にしてない。それよりも、各アーティストが好きにやれる状態を作るっていうのが一番で、「作り手が好き勝手に作っていいものができれば一番いい」っていうのが根本。結局は、お金にならなくても作るやつは曲作るから、作らずにはいられないというか。もちろん売り上げが出ることは嬉しい事だけど、利益のことよりも前に、作り手が作りたいものを作れる状態になれればいいなっていう。

―それはレーベル設立当初からの理念だったのでしょうか?

WEG:そうだね。もともとレーベル始める時「自分が理想とする形のレーベルやりたい」っていうのはあって、それは自由に音楽を作れるのは前提で、楽曲の原盤も作り手がちゃんと持てる、利益の分配も作り手の方が多い、ってのはあります。まあ、それをやるためには企業をバックに入れずに自腹でやればやれないことはないんだけど。

world's end girlfriend

world's end girlfriend

―今後の展開に関してはどうお考えですか?

WEG:未来の展開や戦略はあんまり考えない。やるべきことは、「今」思いついたアイデアを、瞬発力高い状態でやるってことで、だから面白いことを思いついたときに、すぐ動ける体制を作って行きたいっていうかね。今を面白がれれば、自分の中からやりたいことが自然と出てくるから、それをサクサクやって行けば、WEGとしても、レーベルとしても、もっと面白くなって行けるかなって。

今回のコンピ聴いても、日本の音楽ってやっぱり面白いなって思う。海外にもこんな作品ないし。

―レーベルを運営することによって、WEGとしての活動に還元されているのはどんなことですか?

WEG:レーベルをやって良かったなって思うのは、自分の音楽に対する愛情や想いがいろんな音楽に分散されて、バランスが良くなったなってこと。今はレーベル所属のアーティストのために動くことは多いけど、もしWEGだけをずっとやってて、全部の想いが自分の音楽に向けてだけだったら、あんまり健全じゃないなっていうか、自分が望む音楽との関係性とは違うなと。

world's end girlfriend

―WEGも一時期はいくつかの名義を使い分けていて、今回のコンピにも「girlfriend」名義と「boyfriend」名義が収録されていますが、そういった使い分け以上に、レーベルをやることによる活動の分散の意味は非常に大きかったと。

WEG:名義はいくら使い分けても結局は自分の音楽だから、それよりも他のアーティストの音楽に対して、「これ本当に最高だな、もっと多くの人に聴いてほしいな」って思って動いてると、音楽との関係性がバランスがいいっていうかね。

―当然他のアーティストがWEGの制作の刺激にもなったりするだろうし、いい循環が起きていると言えそうですね。それこそ、昔はWEGというと「孤高のカリスマ」みたいなイメージもありましたけど、今はBOOLと一緒にやったり、もっと開かれた感じがします。


WEG:俺自体は元々そんなに変わってないと思うんだけど、音楽を通して多くの人と繋がることができて、いろんな面をより自然に出せるように、表現できるようになったかもね。

―当初の目標である10年目にあたるのは2020年で、ちょうど東京オリンピックの年ですよね。何かそこに向けて考えていることはありますか?

WEG:いや、「10年後にここに辿り着きたい」みたいなものはなくて、その10年っていう全ての時間そのものがやりたい事っていうか、何でも時間をかけてやるのが好きで、その時間が俺にとっては意味があるっていうかね。人との関係性も、バンドのメンバーなども時間をかけてじっくり関係を作って行くのが好きで、時間をかけたものの方が、やっぱり面白いし深いとこにいけるから。

―今回のコンピにしても、1曲の時間は短いですけど、5年をかけてじっくりと積み上げてきたものの成果ですもんね。ちなみに、東京オリンピックのタイミングで、「日本の音楽を世界へ」という話もよく聞かれますが、そのあたりはどうお考えですか?

WEG:2020年か……でも、5年もかからないで、より浸透していくんじゃないかな? これからもっと何でもどこからでも聴けるようになって行くと思うから、国とか関係なく、日本の音楽は勝手に聴かれるようになるんじゃないですか? 今回のコンピはあえて日本のアーティストに絞ったけど、国内国外って感覚ももうなくなってきたかな。

―肩の力が抜けてきた?

WEG:うん、今の方がより自然になってる。まあ、けど今回のコンピ聴いても、日本の音楽ってやっぱり面白いなって思う。海外にもこんな作品ないし。

world's end girlfriend

―「1分の音楽がテーマ」って、ある意味無茶振りでもあるけど、それにみんなが応えたっていうのは、それだけVirgin Babylonがアーティストとの良好な関係を築いてきたことの表れでもありますよね。

WEG:そうだね。参加アーティストはみんなしっかり自分の音鳴らしてくれて嬉しかった。レーベルとしては基本自由な気分だから、まったく売れない作品も出してみたいって状態だし(笑)。

―逆に、誰かが大ブレイクとかしても面白そうですけど(笑)。

WEG:それいいな(笑)。予想しないような何かが起きると楽しいよね。だって、俺がAKB(AKB48のドキュメンタリー映画『DOCUMENTARY of AKB48 The time has come 少女たちは、今、その背中に何を想う?』の音楽)をやったりもしたわけだし(笑)。

―あ、今回のコンピ、それにひっかけて48組にして、「VBR48」にするっていう手もあったかもしれないですね(笑)。

WEG:あー、それもあったなあ(笑)。

リリース情報
V.A.
『ONE MINUTE OLDER - Virgin Babylon Records 5th Anniversary』(CD)

2015年7月14日(火)発売
価格:2,157円(税込)
Virgin Babylon Records

1. Go-qualia / Unus
2. Mulllr / ceil
3. world's end girlfriend / FOOL'S MATE
4. でんの子P / 60秒で○チャ○チャしたい
5. FilFla / made-mada
6. COM.A / YahiroHole
7. canooooopy / 惑星再編のための電子草案 [e-draft for regrouping planets]
8. Joseph Nothing / scumtopia
9. suppa micro pamchopp / break time let's faces before
10. DE DE MOUSE / virgin steps
11. Ms. Bigelow / HELLO
12. Rhytone / Game Culture
13. Fragment / Killlllllll Piano0o0
14. Serph / airwave
15. Sane Masayuki / sweeping
16. Sagara / Birth
17. あらかじめ決められた恋人たちへ / blast
18. BOOL / will of the king
19. Arai Tasuku / For the griefs of "Elsa who was embedded in ice", my dear
20. matryoshka / Etude For Twelve Fingers
21. ハチスノイト(from 夢中夢) / chuchr ideins ouy
22. mus.hiba / Pasania
23. メトロノリ / 山泊
24. Aoki Yutaka (from downy) / Im Wald
25. pin.oknw / Organfish
26. Miii / Rayuela
27. Ryoma Maeda / Cats are scrapping a Vocaloid
28. about tess / DIABOLICA
29. bronbaba / blue no season
30. Vampillia / docomo
31. OVUM / Hell Yeah
32. Marmalade butcher / Noxious
33. Supersize me / Ophelia
34. Piana / charm
35. Masahiro Kawano / noisy one minute clock
36. mergrim / Silent Conflict
37. Ayl.E / ouisqui
38. N-qia / tamashee
39. Kazuki Koga / Dome Sloper
40. hanali / One Thousand Gorges
41. Smany / 雨
42. Anoice / in 7
43. Jimanica / Mark 2003
44. 食品まつりa.k.a foodman / レゲエ
45. backwatertobackwater / steps end of winter
46. Yaporigami / Ovary Nibbling
47. Y.D (from 夢中夢) / セシウム133の放射周期のn倍と最古の六十進法を共に基準とする座標系においてワインと燃えるパピルスの特異点が有限の中に無限を奇妙に内包する1分または60秒の音楽
48. KASHIWA Daisuke / Acer
49. world's end boyfriend / SCHOLA
50. クロサキヒロミ / 午後

プロフィール
world's end girlfriend (わーるず えんど がーるふれんど)

1975年11月1日 かつて多くの隠れキリシタン達が潜伏した長崎県の「五島列島」に生まれ10歳の時に聴いたベートーヴェンに衝撃を受け音楽/作曲をはじめる。2000年デビュー。アジア、EU、USツアーなどを行い『ATP』『Sonar』など各国フェスにも出演。映画「空気人形」の音楽を担当し2009年カンヌ映画祭や世界中で公開された。2010年『Virgin Babylon Records』を設立し「SEVEN IDIOTS」をワールドワイドリリース。圧倒的世界観を提示しつづけている。



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