SCREEN modeが話す、極端に近親交配が進むアニソン業界の危機

今、アニソンの世界で起こっている地殻変動――それは、もはやアニソンという範疇を超えて、この国のポップミュージックの在り方に変化をもたらそうとする動きだと言えるだろう。たとえば、アルバム毎に明確なコンセプトを描きながら、1990年代的な理想主義を復活させようとするfhána。あるいは、「オルタナティブ」という言葉に、音の革新性と真の意味でのエモーションを取り戻そうとするMYTH & ROID。今、彼らの一挙手一投足が本当に刺激的だ。

そして、田村ゆかり、三森すずこを始めとする数々のアーティストの楽曲制作やプロデュースを手掛けてきた雅友(太田雅友)と、子役としてキャリアをスタートさせ、声優としても活動する勇-YOU-(林勇)によるユニット「SCREEN mode」もまた、彼らに並ぶ刺激的なアニソンアクトのひとつだ。その証拠に、『食戟のソーマ 弐ノ皿』の主題歌である新曲“ROUGH DIAMONDS”を聴いてほしい。ここには、音楽があらゆる人々の暮らしの中に刺激と興奮を与えていた幸福な時代のポップスへの憧憬を感じることができる。まるで失われた何かを取り戻すように発光する、この音の奥には何があるのか――雅友と勇-YOU-に話を聞いた。

2000年代以降にJ-POPが失速していったのと同じ道を、今のアニソンは辿っているような気がするんです。(雅友)

―最近、fhánaやMYTH & ROIDなどの動きを見ていると、「アニソン」という文化の中にも新しい動きが起こっている印象を受けるんです。SCREEN modeは、「アニソン」に対してどんな距離感を持っていますか?

雅友(Gt):最近の「アニソン」という言葉に関しては、思うことがひとつあって。たとえば、「洋楽っぽい」という言い方が世の中にはありますよね。でも、それってすごく曖昧じゃないですか。洋楽にはメタルもあればブルースもあるし、ジャズもあるし、クラシックだってある。最近、「アニソンっぽい」っていう言い方をされることがあるんだけど、それも一緒だと思うんですよ。

―すごく漠然とした概念ということですよね。

雅友:そう。“ROUGH DIAMONDS”に関しても、プロデューサーに「熱っぽいアニソンがいいんじゃない?」って言われたんですけど(笑)、曖昧なんですよね。ただ、それに対して、僕が作曲家として、すごく変わった曲を書いたとしますよね。そうすると、「これは今のユーザーが求めていないものだ」と言われてしまうんです。

最近のアニソンって、多くはどういう作られ方をしているかというと、参考曲がアニソンなんですよ。アニソンの元ネタが、半年~1年前に流行ったアニソンなんです。つまり今、アニソン業界は近親交配が極端に進んでいる。ガラパゴス化が進行しているというか……同じところばかり抽出し合っているので、中性化して、均一化しているんです。

SCREEN mode、左から:勇-YOU-、雅友
SCREEN mode、左から:勇-YOU-、雅友

―この10年間ぐらいで、放送されるアニメの本数も多くなったし、アニソンもひとつの大きなマーケットを形成するようになりましたよね。単純に「アニメで使われている曲だ」という以上の独立の仕方をするようになった。でも、それが進んだからからこその閉塞感が生まれているんですね。

雅友:2000年代以降にJ-POPが失速していったのと同じ道を、今のアニソンは辿っているような気がするんです。いいんですけどね、マーケティングの成れの果てのような音楽がいっぱいあっても。でも、全部一緒だったら世の中面白くないし、みんなと同じことは、わざわざ僕らがやることではないから。

僕は、勇とあくまで「声優」としてではなく「シンガー」として出会っているし、そんな僕らが二人でやっている「音楽ユニット」がSCREEN modeなんです。中和された今のアニソンの世界に飛び込むことは、僕らである必然性がなくなるっていうことだから。僕らは、あくまでも独立国家でいたいんですよね。

―概念としての「アニソン」を量産する機械のような存在ではなくて、あくまでも音楽家としての関わり方を、アニソンに対してしていきたい、と。

雅友:そう。今までの“極限Dreamer”や“Naked Dive”もそうなんですけど、今回の“ROUGH DIAMONDS”は特に、最近流行っているアニソンの要素を使わずに、誰が聴いても「アニソンだね」って思われるようなものを作れたら勝ちだなって思いました。既存のテクスチャーを使わないことで、独自性を担保する……そういう先鋭化された意識のもとで曲を書ければいいなと思っていて。そういう意味では、「アニメソングの再定義」とも言えると思うんですけど。

―“ROUGH DIAMONDS”は、アニメ主題歌にふさわしい疾走感のある曲ですけど、このアグレッシブな音像の中にリリカルなピアノが聴こえてくる感覚が新鮮ですよね。それに、初回限定盤に収録される“雨のち晴れ”も、ジャズやソウルの影響を感じさせる、深みのあるポップスで。どちらにも、50~70年代くらいに栄えた豊潤な音楽性が昇華されているなと思いました。

雅友:マーケティングに頼らず、流行を参考にしない作り方をしようと思うと、結局、自分と向き合うことになるんです。ソースをどこに求めるかというと、それは「自分」だから。そうなると、自ずと自分の中のルーツが出てくるんだと思います。チープな言い方だけど、それが「自分らしさ」に繋がっていくと思うし。

無意味な歌詞も、影山ヒロノブさんが歌うとものすごく説得力がある。意味がないものに意味を持たせるのは、100%シンガーの力。(雅友)

―勇さんは、SCREEN modeのシンガーとして、今のアニソンに対してどのような距離感を持っていますか?

勇(Vo):「アニソンの再定義」ということでいうと、まだ雅友さんと同じくらいは突き詰められてはいないと思うんです。でも、ひとつ大事なアニソンの在り方として意識していることはあって。

たとえば“ROUGH DIAMONDS”は、すごく振り切っていて、強烈な熱量を感じられる楽曲だと思うんですよ。こういう熱量のあるアニソンのすごく大きな存在として、うちのレーベルの大先輩である影山ヒロノブさんの“CHA-LA HEAD-CHA-LA”(『ドラゴンボールZ』主題歌)があると思うんです。あの曲は、ものすごい熱量ですよね。あの熱量にどう立ち向かっていくのか……それはすごく考えた部分です。

―雅友さんのおっしゃる「アニソンの再定義」が、「今」のアニソンの在り方に対する差異化なら、勇さんが見つめているのは、アニソンの「歴史」なんですね。

:影山さんの歌声って、誰が聴いても声だけで「この歌は影山さんだ」ってわかるんですよね。僕もSCREEN modeのフロントマンとして、そのぐらいの個性を出せるように歌い方を磨いていきたいと思うんです。

特に、今回の“ROUGH DIAMONDS”は今まで以上に、それを強く感じながら歌えて。きっと、雅友さんが「アニソンの再定義をしたい」と思って曲を書いたことに対して、本能的に感じられる部分があったからだろうと思うんですけど。

―雅友さんは、アニソンの歴史性についてはどう見ていますか?

雅友:やっぱり、近親交配する前のアニソンは純粋で力強いですよね。確実に、失われてしまったものはあるんだろうなって思います。影山ヒロノブさんが歌う“WE GOTTA POWER”(『ドラゴンボールZ』の二代目主題歌)の<NO-TEN P-KAN 空は晴れて / IPPAI OPPAI ボク元気>という歌詞とか……全然意味ないじゃないですか。よくあれで関係者たちからのOKが出ましたよね(笑)。

―確かに(笑)。

雅友:もちろん、作詞をされた森雪之丞さんは意図的に書いていることだと思うんですけどね(笑)。でも、当時はあれをOKにできるくらい、クリエイティブに対してみんなが純粋だったということだと思うんですよ。

それに、あの無意味な歌詞も、影山さんが歌うとものすごく説得力があるんです。シンガーにとっての一番の強さですよね。要は、歌詞に意味があって、それを表現するだけなら、歌わなくても読むだけで成立するから。でも、意味がないものに意味を持たせるのは、100%シンガーの力。そういう意味で影山さんはすごいし、勇もそこに近づきつつあると思います。もちろん今後、もっと深めていくと思うし。

:うん、深めていきたいですね。

SCREEN mode

―今、雅友さんがおっしゃった「クリエイティブに対する純粋さ」って、今はアニソンだけでなく、多くの現場で失われつつあるのかなっていう気もしますね。先ほど、2000年代のJ-POPの話も出ましたけど、近親交配が進んでいるのは、他のジャンルにも言えるのかもしれないですよね。

雅友:そうかもしれないですね。僕、中学生の頃はBARBEE BOYSが大好きだったんですよ。他にも、TM NETWORKとか、岡村靖幸さんとか、当時のエピックレコードにいた人たちはみんな好きで。あの頃の人たちって、みんなバラバラで、他に代わりがいない人たちばかりなんですよね。よく、ひとつのレーベルにあれだけ統一性のない人たちが揃ったなって思う。それに、やっぱり今聴くとメチャクチャなんですよね(笑)。

―それこそ、「よくこれが通ったな」と思うような(笑)。

雅友:BARBEE BOYSのKONTAさんなんて、ほとんど絶叫していますからね(笑)。それに岡村靖幸さんも、音程がすごくズレている。でも、それが味になっているし、いくら外してもグルーヴしているから、ちゃんとかっこよく成り立っているんです。80年代の終わり~90年代の初めくらいって、岡村さんはまだ20歳くらいだったと思うんですよ。その若さで、よく、あんなに尖ったことができたなぁと思いますよね。

SCREEN modeが売っているのって、音楽ではなくて「体験」だと思っているんです。(雅友)

―先ほどの“WE GOTTA POWER”の歌詞の話もそうなんですけど、たとえ外していたり、無意味なものであっても、強烈な個性があるものって、ちゃんと「みんなのもの」になりますよね。エグ味があるがゆえに、みんな覚えられるし、会話のネタにもなるし。

雅友:そうですね。そういう意味でも、SCREEN modeが売っているのって、音楽ではなくて「体験」だと思っているんです。“ROUGH DIAMONDS”のMVでは、勇がボクサー役をしているんだけど、あのMVを見て、何回やられても立ち上がる不屈の精神を多くの人に感じてもらったり……哲学とか、感情とか、いろんなものを「共有」できる存在になっていきたいんですよね。

そもそも、アニメソングであること自体が「アニメを見る」っていう体験をよりいいものにするためにあるわけじゃないですか。せっかく、アニメの頭にSCREEN modeの曲が流れるわけだから、それなら「『食戟のソーマ』のオープニング、ワクワクしたよね」って、みんなで話せるような体験を作り出していきたい。体験を共有することって、今すごく大切なことだと思うんですよ。

―体験を共有することは、インターネットの発達によって次第に失われていきつつある価値観ですよね。

雅友:そうですよね。だからこそ、SCREEN modeの活動の中では、ライブもすごく大切にしていて。今はネットで何でも買えるけど、「ライブ」という体験はダウンロードできないですよね。

SCREEN modeのライブに来ることによって、終った後も興奮や感動が消えないで、「SCREEN modeのライブ、よかったね」って言い合いながら、そのときの興奮とか、心があたたかくなった感じを思い出してほしいと思う。そして、次の日に会社や学校に行くときに音源を聴いたら、その感動がまた蘇ってくるようなライブができたらいいですよね。

どういう装置であっても、ちゃんと伝わる音質になっていること。それが、今の時代の本当の「ハイレゾ」だと思うんです。(雅友)

―これだけジャンルも細分化されて、お互いの交流が失われている時代に、誰も阻害することなく、「体験」と「共有」を大事にしようとする雅友さんの考え方は、もはや「アニソンの再定義」を超えて「ポップスの再定義」にも繋がっていくのかもしれないですね。

雅友:音楽を聴いている人には、いろんな立場の人がいますからね。学生だったり会社員だったり。音源の音質に関してもそうなんですよ。僕は、一部のマニアックな人たちだけじゃなくて、スマホやノートパソコンのスピーカーで聴いている人たちにも伝わる音を作りたいと思っているんです。

最近、「ハイレゾ」という言葉をよく聞くようになったと思いますけど、僕個人としては、音楽制作者としてハイレゾはもう何年も前から実験的にやってきたし、新しいことでもなんでもなくて。言ってしまえば、今の時代にそんなことは当たり前で、ハイレゾじゃない状態で録っていることの方がビビるなっていう感じなんです。それに、音質のよさって一種のシャーマニズムなんですよ。

―そ、そうなんですか?

雅友:たとえば、いい機材のあるデカいスタジオがありますよね。デカいのはいいんだけど、デカいぶん、ケーブルの実長がすごく長くなるんですよね。一方、狭いスタジオ……まぁ、うちのスタジオなんだけど(笑)、狭いスタジオは、マイクと機材が直結しているし、すぐにPro Tools(音楽制作ソフト)と繋げられる。なので、周波数特性とかを考えれば、狭いスタジオの方が圧倒的に有利なんです。でも、デカいスタジオで録ったほうが、音がよさそうというイメージがあるじゃないですか。

―「そもそも、どういう音で録られているのか?」を考えたら、確かに「いい音」という概念は揺らぎますよね。そこは本当に、それぞれのアーティストの環境によって違うし、人それぞれの価値判断になる。

雅友:そう。たとえばロックバンドだったら、ONE OK ROCKやUVERworldはさすがよくできているなって思うけど、予算のないバンドだと、1日に何曲も録って、完パケさせて、というスケジュールになりますよね。でも、アニソンで、そんなことはまずないんです。1曲を丁寧に作り込むから。だから、どうしたって根本的な部分でクオリティーの差は出てくるんですよね。

それでも「ハイレゾ=いい音」としてしまうのは、「アニソンらしさ」という言葉と同じ「まやかし」なんです。まやかしが世の中に溢れている中で、じゃあ僕らが求める「高音質」は何かと言えば、どういう装置であっても、ちゃんと伝わる音質になっていること。それが、今の時代の本当の「ハイレゾ」だと思うんです。

:さすがだなぁ(笑)。

「政治的な理由でわかれてしまって、親戚がいるのに会いに行けない国」みたいな状況に、今の音楽シーンはなってしまっている気がして。(雅友)

―「音」に対しても「聴き手」に対しても、すごく明確な指針がありますね。

:でも、それはライブも一緒で。どこを見ているかわからずに、なんとなく歌ってしまうときって、結局、自分の殻の中で歌っているときなんです。ライブって、ステージに立つのはいつも僕ら二人でも、来てくれる人は毎回違うし、同じステージは二度と作れないですから。だからこそ、どんな大きな場所で歌うときでも、ファンの人たちの目をしっかりと見て、その場の空気を感じ取り、想いを執着させていくことが大事だと思うんですよね。「届ける」ということにちゃんとフォーカスができてこそ、楽曲も広がりを持つし、体験を共有していくことが可能なんだと思います。

―最後に、SCREEN modeの今後の展望を教えてください。

雅友:やっぱり、「J-POP」とか「アニソン」とか、今はジャンルがわかれてしまっていますよね。でも実は、クリエイター同士は被っていたり、仲がよかったりするんですよ。わけているのって、制作サイドやメディアだと思うんです。特に、レコード会社の人間がわけていると僕は感じていて。アニソン側のメーカーの人たちは、「どうせ私たちは……」って思っている部分が多々あるし、J-POP系のメーカーの人たちは、「うちらはあいつらと違うから」って思っている人たちも、事実としている。でも、聴いている人たちには関係ないですよね。特に今の若い子たちは、分け隔てなく聴いていると思うから。

だとしたら、わかれてしまっていること自体が、作り手側のエゴなんですよ。「政治的な理由でわかれてしまって、親戚がいるのに会いに行けない国」みたいな状況に、今の音楽シーンはなってしまっている気がして。それはよくないし、垣根を超える存在になりたいですね。あくまでも、今の熱量やアニソンに対する想いはそのままに、EXILEのような人たちと並んで、堂々とパフォーマンスできる存在になりたいです。

リリース情報
SCREEN mode
『ROUGH DIAMONDS』DVD付盤(CD+DVD)

2016年7月27日(水)発売
価格:1,944円(税込)
LACM-14524

[CD]
1. ROUGH DIAMONDS
2. 雨のち晴れ
3. IMPACT
4. ROUGH DIAMONDS(off vocal)
[DVD]
ROUGH DIAMONDS -Music Video-(Full size)

SCREEN mode
『ROUGH DIAMONDS』アニメジャケット盤(CD)

2016年7月27日(水)発売
価格:1,296円(税込)
LACM-14525

1. ROUGH DIAMONDS
2. IMPACT

イベント情報
『SCREEN mode LIVE TOUR 2016 Autumn』

2016年11月19日(土)
会場:大阪府 umeda AKASO

2016年12月3日(土)
会場:東京都 渋谷 TSUTAYA O-EAST

プロフィール
SCREEN mode
SCREEN mode (すくりーん もーど)

勇-YOU-(声優「林勇」)と、雅友(サウンドプロデューサー「太田雅友」)によるユニット「SCREEN mode」。2013年結成。ユニット名の「SCREEN mode」には、勇-YOU-のボーカルと雅友の楽曲が混ざり合うことによって生まれた音の「SCREEN」を、様々な「mode」に変化させながらリスナーの心に焼き付けていきたいという想いが込められている。勇-YOU-の圧倒的な歌唱力、そして雅友の確かなプロデュースワークから生み出されるサウンドは、時に感情的に、時に色彩的に、聴き手の心情とリンクして真っ白なスクリーンに情景を描く。



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