これまで数々のアニメ主題歌で、力強く、激しく、苦しみ、もがき、世に抗いながら突き進んでいく男の闘争心を、疾走感丸出しの骨太なロックサウンドに乗せて届けてきたSCREEN mode。そんな彼らの最新ミニアルバム『SOUL』は、これまでのSCREEN modeのイメージを200%ぶち壊す、本当にやりたい音楽、アニメ作品にとらわれないクリエイティブをぶつけた、ソウル(=魂)ミュージックだ。彼らにとっては、初めてのラブソング集でもある。彼らのメインフィールドである「アニソン」の進化を求めて作られたという『SOUL』に、込められた願いとはなにか?
去年末の年間アニソンランキングを見ていると、キャラクターソングが上位を占めていて、アーティストは苦戦しているんですよ。(雅友)
―単刀直入に申し上げると、最新のミニアルバム『SOUL』を聴いて最初に思ったのが……「どうしちゃったの、SCREEN modeさん!?」でした。
勇:なるほど(笑)。
雅友:そうでしょうね。今までの楽曲とは、だいぶ方向性が変わってますからね。
―過去2度のインタビューでも、SCREEN modeが放つ音楽は、現在形のアニソンに対する「アニソンの再定義」であり、そもそもアニソンはジャンルレスなものであるというお話をしていただきました(SCREEN modeが話す、極端に近親交配が進むアニソン業界の危機)。その上で、私たちに発信されてきたSCREEN modeの楽曲は、疾走感あふれるロックと王道ポップスの融合というイメージがあるのですが、『SOUL』は全体のサウンドが、いきなりブラックミュージック、しかもかなりクラシカルなルーツミュージック寄りに回帰していますね。
雅友:はい、ガチなブラックミュージックですね。それには深い理由があるんです。
―というと?
雅友:去年の末に発表された年間アニソンランキングで、キャラクターソングが上位を占めていて、アーティストは苦戦しているという報道がありまして。いったい、それはどういうことなのかなと……。
僕がアニメソングの仕事を始めたのが2002年くらい。そこから約15年経つわけですけど、アニソンって3世代、4世代目に入ろうとしていて、作り方も楽曲も昔とは様変わりしているんですよね。たとえば、以前もインタビューで話しましたが、今のアニメの主題歌なり、キャラクターソングなりというのは、曲調やサウンドが、1年くらい前に流行ったアニソンをお題にして作られる。
―リスナーが慣れ親しみ、求めるものを作りましょうと。
雅友:そうなると、どんどん同じ要素が抽出されていき、結晶化する。つまり、同じような曲ばかりが増えていく。このままではアニメソングの進化が終わり、ガラパゴス化が進行するんじゃないかという危惧がずっとあるわけです。
勇:そういう話をずっとしてるよね。
雅友:そうそう。15年前、僕がアニメソングに関わりだした頃を振り返ると、同じようにお題を出されるにしても、洋楽だったり、松田聖子さん、中森明菜さんのような80年代のアイドルソングだったんです。少なくとも、自分たちと同じフィールドの音楽を参考にはしてなかったんですよ。
―だからこそ、ジャンルレスでユニークなアイデアがアニソンに盛り込まれ、バラエティーに富んだ曲が生まれていたと。
雅友:だとすれば、アニメソング全体が進化していくためには、一度そこに戻らないとダメなんじゃないかと、ずっと思っていたんです。しかも、アニメソングから抽出されたアニメソングというのは、結局「アニメありき」でしか存在できないじゃないですか。それって失礼だと思うんですよ、アニメに対して。
あくまでアニメ作品とアーティストは対等で、その対等なふたつがマリアージュしたときに作品性が広がることが、アニメとアニメソングのあるべき姿だと思うんですよ。ところが、現状はそうなっていない。そういう前提がまずあって、一度立ち返るなら、僕らのルーツミュージックまで遡ろうと。同時に一度、アニソンのセオリーから離れる必要があると。
―なるほど。それこそが、本格的な「アニソンの再構築」に繋がりますね。再構築どころか、新構築になり得る。
雅友:アニメソングを作る以上、作品側のイメージもあるじゃないですか。
―異能バトルアニメの『文豪ストレイドッグス』だから、ハードな“Reason Living”が似合う、みたいな。
雅友:そうそう。作品を無視して、急にブラックミュージックを持ち込んでも迷惑。作品との親和性を無視してまでやるべきことではないので、今までルーツミュージックをアニメタイアップに持ち込む機会がなかったんです。……という話を、僕がレコード会社のスタッフにプレゼンしたわけです。
勇:蕩々と。
雅友:まぁ、そうね(笑)。で、返ってきた答えが、「そういうことなら、アニメタイアップなしで、ミニアルバムという形でやってみたら?」という神対応(笑)。
勇:ありがたいことに。
雅友:絶対、嫌がられると思ったんですけどね。だって、ルーツミュージックをやろうと思うと、どうしても生楽器をメインにせざるを得ない。つまり……平たく言うと、お金がかかるんですよ。ミュージシャン代とかスタジオ代とかが、莫大にかかってくる。なかなかそんな望みは叶えられないものなんですが……なんせ神対応だった(笑)。
勇:神対応、強調しますね(笑)。
雅友:「アニソンアーティストなのに、ブラックミュージックで、タイアップなしでミニアルバムを出す」という斬新な企画が通って、『SOUL』を作れることになったという、業界的にも珍しい経緯があったんです。でもこれって、僕らにとってはかなりの「戦い」だったりするんですよね。
勇:うん、意味深い「戦い」ではありますね。
僕らにとっての壮大な「アニソン再構築計画」なんです。これがやっと1ページ目だと思っている。(雅友)
―「戦い」というのは?
雅友:『SOUL』は、アニソン業界にはびこる大きな潮流に抗っていくという意味で、僕らにとっての壮大な「アニソン再構築計画」なんです。一度ここでブラックミュージックをやっておけば、次アニメの主題歌をやるときに、こういう音楽性の楽曲を持ち込んでも、受け入れてもらえる可能性が広がる。だから、これがやっと1ページ目だと思っていて。2013年のデビューから、もう何枚CD出してんだ? という話なんですけど(笑)。
―今までの3年間は、ここに行き着くための下地作りだったと。
雅友:まさにそうなんですよ。今までシングルを8枚、ミニアルバム1枚、フルアルバム1枚を出してきましたけど、今顧みると、最初の頃はアーティストの有り様を今ほど考えてはいなかったんです。
でも、3年間のいろんな曲を並べてみると、個々のサウンドは厳密には違っても、なにかしらの共通項があることがようやく見えてきた。それがSCREEN modeとしての核なんだなと。バンドとしての核ができ上がるまで、けっこう時間がかかるものだと実感しました。それも『SOUL』を今、このタイミングで出す意味としては、大きかったですね。
―なぜ、核ができ上がるまで3年も必要だったんでしょう?
雅友:SCREEN modeは、バンドを組もうとしてボーカリストを探し、勇と出会ってCDデビューしたという、一からのスタートだったからでしょうね。
―それが、友達や仲間で組んだようなバンドだったら、メンバーと意見を戦わせながら、練習を積み重ねることで、CDデビューする頃にはちゃんと核が構築されているんでしょうね。でもアニソン業界には、SCREEN mode的な成り立ちのユニットって多いじゃないですか。作品に紐付いてユニットを組んだとか。
雅友:そうなんですよ。だからこれは、けっこうアニソン業界あるあるだと思います。
―非常に論理的に考え、アニメ、アニソン業界の未来のためにコンセプチュアルに音楽活動を続けていこうとしているのは、SCREEN modeならではだと思います。そもそもの意識が高い。
雅友:そうですか? 僕からすると、最近の若いアーティストさんのほうが、ものすごくよく考えて音楽やってると思いますけどね。CINRA.NETに記事が上がっていた、ぼくのりりっくのぼうよみさんとか、SKY-HIさんとか、すごく勉強になる。CINRA.NETの記事(SKY-HIが語る、スターとしての覚悟「聴き手の人生に責任を持つ」)を読んで、SKY-HIさんのこと好きになりましたもん(笑)。
自由の行き着く先には、ディストピアしか待ってないじゃないかと思ったりするわけです。(雅友)
―自分たちのための歌を歌うアルバムを作ろうとしたときに、ブラックミュージックを選んだというのが、今までのSCREEN modeの音楽性を思うととても意外でした……という最初の話題に戻るんですよね。
雅友:僕はミュージックイーターだし、いちばん好きなのはジャズだけど、音楽はなんでも好きなので、どのジャンルもルーツミュージックになり得る。そんななかで、SCREEN modeが今までやってきたロックとは別の音楽でルーツを考えようとしたとき、勇がよく雑誌の取材とかで「ブラックミュージックが原点だ」と話していたのが、そもそもですね。僕ももちろん好きだし。
―具体的に、どんなアーティストが好きなんですか?
雅友:僕は、かなりシブくなっちゃいますよ。The Four Freshmen(1948年結成、アメリカの4人組ボーカルグループ)とか。50年代のコーラスグループが好きなんです。
勇:僕はBoyz II Menとかをよく聴きますね。
雅友:Boyz II Menの元ネタがTake 6で、その元ネタがThe Four Freshmenだね。楽器が入ってる曲もあるんですけど、The Four Freshmenがいちばん魅力的なのはアカペラの曲なんですよね。男性コーラスということで、音域にそもそも制限があるんですけど、そこで四人の声がくっついたり離れたりしながら、ジャズの緊張感を生み出している。そのミニマムミュージック感が、小宇宙なんですよ。
勇:小宇宙! 名言だなぁ(笑)。
雅友:最近僕、50年代、60年代の小学生が授業で見ていたような科学映画が好きなんですけど……。
勇:科学映画!?
雅友:NPO法人がデジタルアーカイブして、ネットで公開してるんですけど、そのBGMがおどろおどろしい現代音楽なんですよ。その音楽理論を破壊して自由になった果ての不協和音、無調な現代音楽が、べらぼうに怖いんです(笑)。動画についたコメントも、「音楽怖い」で終わっている。
ただ当時は、それが最新の科学とマッチした音楽の最先端だったと思うんです。それが2017年において、無調な現代音楽は、芸術性云々よりも、ただの不気味なBGMとしての印象しかない。つまり、自由の行き着く先には、ディストピアしか待ってないじゃないかと思ったりするわけです。
―だから、音楽としては制限のある調性音楽のほうに、明るい未来を感じると。理論派の雅友さんらしい分析ですね。
雅友:そう。だからアニメソングでも、いろんなジャンルを混ぜて、転調に転調を重ね、AメロBメロCメロがどんどん変化していく楽曲は、単体で聴くといいんですけど、現代音楽が一般の耳にはただの怖い音楽とひとくくりにされちゃうように、たくさん並ぶと全部同じに聴こえちゃう。
多彩な色のTシャツが、遠目だと迷彩模様に見えちゃうけど、単色にポイントカラーがはっきり入ったTシャツははっきり分かりますよね。僕にとって、音楽もそれが重要。やはり制限はあるべきだというのが、僕の音楽に対する考え方なんです。
ブラックミュージックに回帰することが、SCREEN modeの音楽の裾野を広げ、アニソンに新しい風を吹かせられるだろうと、僕も思った。(勇)
―では、ブラックミュージックが自分の原点だという勇さんは、Boyz II Men以外にどういうアーティストを聴いてきたんですか?
勇:王道だとスティーヴィー・ワンダーやマイケル・ジャクソン。あとはブライアン・マックナイトやエリック・ベネイ、UKのR&Bをミックステープで聴きまくってました。そこから、音楽専門学校で音楽を本格的に始めたときにR&B、ソウル、ファンクに染まっていたのが、僕のルーツミュージックといえますね。
だから今回、ブラックミュージックに回帰することが、SCREEN modeの音楽の裾野を広げ、アニソンに新しい風を吹かせられるだろうと、僕も思ったんですよ。おそらく、他のアニソンシンガーの方なら、こういう音楽はやらないだろうけど、僕の魂の根っこにはブラックミュージックがある。だから雅友さんの考えとは、すごく共鳴できたんです。自分のやりたかったソウルミュージックは、これだなと。
SCREEN mode『SOUL』ジャケット(Amazonで見る)
―タイトルも『SOUL』ですしね。
勇:そうそう。制作過程も、今まででいちばん楽しかったかも。もちろん、『文豪ストレイドッグス』の“Reason Living”で僕らを好きになってくれた人にも響くような、今までのSCREEN modeっぽい曲もありますしね。“Liar”ではちゃんとロックテイストを押さえつつ、新しいチャレンジができたのは、すごく嬉しいです。
雅友:好きなことをやる、それが正義です。
―雅友さんは、音楽には制限があるほうがいいとおっしゃいましたけど、アニソンというものも、音楽としてボーダーレスなことがかなりできるカテゴリーではありますが、作品とのマリアージュを果たすことは大きな制限のひとつ。音楽的自由度は高くても、思う存分好きなことができるかというと、そういうわけでもないですからね。
雅友:その通りなんですよ。たとえば『SOUL』で松井五郎さんに歌詞を書いてもらった“Never say never end”のような、ガチなR&Bをやるチャンスは、アニメ絡みではないんですよね。
勇:そうそう、こういうの初めて歌いましたよ。
―R&Bというか、1970~80年代の AORというか。「これは誰の曲?」と思いましたし、SCREEN modeの曲だと知っていると、誠に失礼ながらちょっと笑いも浮かんでしまって……。
勇:ありがたいですね(笑)。
雅友:僕らを知っている人には、それが正しい聴き方だと思います(笑)。
「好きな女性」=音楽ファン、「振り向いてもらえない男」=僕ら、ということを裏テーマにして伝えたいと思ったんです。そうすれば、曲に宿るじゃないですか。(雅友)
―もうひとつ驚愕したのが、『SOUL』がラブソング集だったことです。もがき苦しみ、何度でも立ち上がって前進する歌が多かったSCREEN modeとラブソング……この意外性はなんだ? と(笑)。
雅友:そうですね。今までアニメの曲では、恋愛を歌ってこなかったですから。でもそれも、深い理由がありまして。音楽のコンセプトは決まったものの、歌詞でなにを歌うかははっきりと想定してなかったんですね。
でも、自分たちのやりたい音楽をやるとなると、そこには等身大の自分たちがいなければいけない。僕らが音楽活動をしていく上で今必要なのは、「もっと多くの人にSCREEN modeの音楽に振り向いて欲しい!」ということなんですね。その想いを恋愛になぞらえて、「好きな女性」=音楽ファン、「振り向いてもらえない男」=僕ら、ということを裏テーマにして伝えたいと思ったんです。そうすれば、曲に宿るじゃないですか。
勇:僕らのマジ感がね。
雅友:そう。だからラブソングは意外に思われるでしょうけど、コンセプトは作り物ではないんです。さらにいえば、僕らはそもそも「モテ」や「リア充」とは無縁な二人。『SOUL』の楽曲として目指したのは、「非モテ界の西野カナ」なんですよ(笑)。個人的に西野カナさんは大好きなのですが、彼女の曲は“トリセツ”とか、とてもハッピーな曲が多いじゃないですか。僕らは、その真裏だなと。
勇:だから、リードナンバーの“WHY NOT!”の歌詞にもあるんですよね、<ちょっとくらいは振り向いてくれ!><ナゼナンダイ!>って。もっと俺のよさに気づいてくれよ、という切実なメッセージが込められちゃっている。
雅友:なので、音楽的にはR&B、ソウル、ディスコ、ジャズと、ものすごくガチなことを本気の音で作り込んでいるんですけど、全体的には半笑いで聴いてもらうのがいいですね(笑)。
勇:そのガチな楽曲たちを、今までと違う歌唱法で歌いこなすのは、けっこう苦労しましたけどね。特にロック的な歌い方を封印した“True Sweet Heart”や“Never say never end”は、歌うのも難しかったし、今までにないくらい声も作り込んで、演じながら歌っている感覚がありました。
逆に、ディスコソウルな“WHY NOT!”は振り切った遊び心で歌ってもいるし、ちょっとコミカルなミュージックビデオもキメキメのダンスシーンがあって。『SOUL』は、自分が今まで開けたことのない引き出しを開いてくれましたね。
―“True Sweet Heart”直前の“Interlude(Why do I love you so much?)”には、声優・林勇さんの真骨頂である、スウィートな台詞も入ってますしね。声の表現力の多彩さに、驚かされます。
勇:あの台詞もね、まぁ一見、彼女に電話を掛けていて、翌日のデートの約束をしてる甘いシーンに聞こえますけども……。
―違うんですか!?
勇:分かんないですよ、なんせ僕の声しか入ってないんだから。
雅友:男の妄想の独り言かも知れないですからね(笑)。
勇:一応、曲順通りに聴くと、男が奔放な女性に翻弄されて、恋愛が叶ったような雰囲気がありながら、最後の“Last train”では、結局ひとりに戻って彼女を懐かしんでいるストーリー仕立て。でもそれもねぇ、彼女と上手くいってるように見せかけて、独り相撲かも知れないですし……いろいろ想像して楽しんでいただけたらと。
―ちなみに勇さんは、ここで描かれているような、簡単にはなびかない奔放な女性はお好きですか?
勇:それがですね……俺、性格悪い女の人、好きなんですよ。むしろ振り回されたいくらいで(笑)。
雅友:じゃあ、歌詞も等身大じゃない。そんな勇の魂の叫びも、ぜひ聴いてあげてください(笑)。
- リリース情報
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- SCREEN mode
『SOUL』(CD) -
2017年2月22日(水)発売
価格:2,700円(税込)
LACA-156331. SOUL
2. WHY NOT!
3. Liar
4. Interlude(Why do I love you so much?)
5. True Sweet Heart
6. Never say never end
7. Last Train
- SCREEN mode
- イベント情報
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- 『SCREEN mode LIVE TOUR 2017 Spring “SOUL”』
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2017年4月15日(土)
会場:愛知県 SPADE BOX2017年4月16日(日)
会場:大阪府 OSAKA MUSE2017年4月30日(日)
会場:東京都 渋谷CLUB QUATTRO
- プロフィール
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- SCREEN mode (すくりーん もーど)
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声優「林勇」と、サウンドプロデューサー「太田雅友」によるバンド。2013年結成。バンド名の「SCREEN mode」には、勇のボーカルと雅友の楽曲が混ざり合うことによって生まれた音の「SCREEN」を、様々な「mode」に変化させながらリスナーの心に焼き付けていきたいという想いが込められている。勇の圧倒的な歌唱力、そして雅友の確かなプロデュースワークから生み出されるサウンドは、時に感情的に、時に色彩的に、聴き手の心情とリンクして真っ白なスクリーンに情景を描く。
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