変化し続ける首都・東京の中でも、時代とともにドラスティックなムーブメントを生み出している街、渋谷。渋谷パルコが1973年に生まれたことを皮切りに、ファッションやカルチャーといった様々な若者文化の発信基地として栄えてきたが、同館は2016年に建て替えによる休館を発表。今、渋谷の空気が少しずつ変わってきている。
話がやや前後するが、渋谷区は2015年に全国で初めて成立した「同性パートナーシップ条例」に基づく「パートナーシップ証明書」を発行。2016年には20年ぶりに基本構想を改訂し、「ちがいを ちからに 変える街。渋谷区」という新しいテーマを掲げた。つまりここ最近の渋谷は、「ダイバーシティ渋谷区」に向けて、新たな動きを進めているのだ。「若者の街」から「あらゆる人が、自分らしく生きられる街」へ。そんなふうに変化を目指している。
そんな渋谷において、4月28日という「しぶやの日」と月末金曜日の「プレミアムフライデー」が重なる日に、『シブヤ大掃除パーティ』が実施される。その日、街の清掃に参加すると、渋谷近隣のお店の特典を楽しめたり、石野卓球の無料DJイベントに参加できたりするパーティーだ。
「働き方改革」や「消費活性化」を掲げ、2月24日に始まったばかりのプレミアムフライデーを前に、「そもそも、プレミアムフライデーって何?」「どんな意味があるの?」という疑問も渦巻く中、原宿のショップ「W♡C」のカリスマ店員で「オネエ」を公言するぺえと、風とロッククリエイティブディレクター、「渋谷のラジオ」理事長の箭内道彦に、今の渋谷の街のあり方と、そこでどう自分たちは生きるかについて、若者・大人の両視点から意見を語ってもらった。
ファッションアイコンと言われる人たちはジェンダーレスな人が多いんです。(ぺえ)
原宿のショップ「W♡C」の店員で、テレビ『マツコ会議』でのブレイクをきっかけにお茶の間タレントとしても活躍している、ぺえ。小学生の頃にAKB48に憧れ、オーディションに応募した経験を持つ彼は生物学的には男性だが、自分で「オネエ」と公言する同性愛者だ。
―ぺえさんにとって、渋谷という街はどういう場所ですか?
ぺえ:私にとっては、とくに原宿が憧れの街でしたね。出身は山形なんですけど、上京前は体育大に通っていて、ファッションやメイク、おしゃれに無縁な世界にいました。その反動で「自分を表現したい」憧れが強くあって、上京して原宿のアパレルショップに勤めることにしたんです。
―学生時代からお洒落が大好きだった、というわけではないんですね。
ぺえ:学生の頃はバレーボールばかりやってましたね。だから上京前は、私みたいにダサイ子は足を踏み入れちゃいけない場所だと思っていたんですけど、いざ働いてみると、どんな人でも受け入れてくれる街だなと。
―渋谷区と一口に言っても、いろんなエリアがありますしね。渋谷という区自体がバラエティーにとんでいる。
ぺえ:そう思います。とくに私は同性愛者なので、そういった面でも偏見のない街だとすごく感じます。私が働いている原宿は、集まる人たちもジェンダーレスなファッションを武器にしているし、ファッションアイコンと言われる人たちもそういう方が多い。時代全体としてもそうなんでしょうけど、同性愛やマイノリティーであることを、ファッションの一部として受け入れている気がします。
居場所がない人が、渋谷や原宿に来ると、どこか安心するのかもしれません。(ぺえ)
―同性愛者だということで地元では偏見を持たれたりもしていたのですか?
ぺえ:私は周りに恵まれてきたので、じつは山形でも偏見の目で見られたことは、あまりないんです。カミングアウトする前は後ろめたさもあったし、隠したかったし、いじめも多少受けました。でも、母親が「それがあなただから、もっと自由に生きなさい」と言ってくれて、中学時代にカミングアウトしたら、みんなが受け入れてくれたんです。
でも普通はやっぱり、10代、20代前半は、友達はもちろん、親にもどう思われるか気にするからなかなか言えないと思います。私は『Zipper』という雑誌で悩み相談コーナーを担当しているんですけど、若い子からの相談の400通中300通が、同性愛にまつわる悩みだったことがあって。
まだまだ同性愛がどこでも理解される世の中ではないかもしれない。
— ぺえ (@peex007) 2017年1月10日
カミングアウト出来ずに悩んでいる人もいると思います。
無理にとは言いませんが勇気をだしてさらけ出してみると凄く気持ちが楽になります。もっと毎日が楽しくなるかもしれません。
私はカミングアウトしたこと後悔していません!
―自分がマイノリティーなんじゃないか? と自分ひとりで悩んでいる。
ぺえ:私が相手だから、打ち明けてくれるのかなとも思いますし、原宿のお店にも、そういう子たちが会いに来てくれたりもしますしね。居場所がない人が、渋谷や原宿に来ると、どこか安心するのかもしれません。
どんどんそういう人は増えている気がします。今の子は、男の子だからこうしなさい、女の子だからこうじゃなきゃダメというふうには、育てられていないですから。ジェンダーに対する偏見が少ないという点では、渋谷は日本全体で見てもとても模範になる街だと思いますよ。
お互いに認め合えば終わりってわけじゃない。(箭内)
クリエイティブディレクター・箭内道彦が博報堂を辞め、独立したのは2003年、39歳のときだった。そんな箭内がオフィスを構えるのに選んだのは渋谷区原宿。その理由はなんだったのか?
箭内:独立して事務所を構えようとしたとき、どこの馬の骨とも分からないヤツには貸せないからと、あちこちで入居審査に落ちたんです。でも、原宿の大家さんはOKだったんですよね。なので僕にとって渋谷区は、「チャレンジしてみろ」と言われた街なんですよ。
―何者か分からない状態で受け入れてくれたと。
箭内:そうです。あと僕は原宿のことを「世界一贅沢な廊下」と呼んでいたのですが(笑)、原宿の商店街を歩きながら、すれ違う若い人たちをどうやったらビックリさせられるか? どうやったら喜ばせることができるか? と、メッセージを送る相手の顔を生で見ながら、広告を考えることができた街でもあって。
―渋谷というと、時代を作る流行が生まれる先端の街というイメージも強いですが。
箭内:僕も福島から上京してきた身なので、最初の数年間はいわゆるコンクリートジャングル的なイメージでした。でもそれは誤解だった。去年の4月に「渋谷のラジオ」を始めてから、渋谷で生活する人たちの中に、本当に面白い人、温かい人、熱い人がたくさんいて、そういう人々が街を作っていることをこれまで以上にますます実感しています。だからこそ街が活き活きしているのでしょう。
とくに東日本大震災以降、地域の繋がりや人との結びつきが最も大事だと気づかされてからは、渋谷も人と人が支え合う街であることが、はっきり見え始めてきました。僕は渋谷を「世界最先端の田舎」と呼んでいて、先進的でありながら、同時に血の通うローカルなコミュニティーと見ている。そして良くも悪くも人間本来が持つ「欲」がちゃんとある街なんです。強くありたいとか、お金が欲しいとか、その「欲」を怖いと思う人もいるけど、ダイバーシティという名の下に、いろんな人がいることを認め合っている街だなと思います。
―渋谷区は、都内でもいち早く、基本構想としてダイバーシティ化を掲げていますね。
箭内:そう、だからこそ「試されている街」だとも感じますね。
―試されている?
箭内:「誰が言うことも認め合う」ことだけがダイバーシティだと言ってしまうと、犯罪者も認めるのか? 明らかに醜い心を持つ人も受け入れていいのか? となってしまう。ダイバーシティには段階があって、1期が多様な人々を認め合うことだとしたら、認め合いながらちゃんと支え合う、助け合う、愛し合うことが、ダイバーシティ第2期。その第2期をちゃんと実行できるか? が、これから渋谷に求められることだと思う。
「どうしたいか?」を持たないままの「どうなるか?」ではいけないと思います。(箭内)
箭内:「いろんな人がいることがOK」ということは、間違った少数意見を尊重しなければならないこととイコールなわけではない。その意味で、渋谷というのは、2020年の東京オリンピックに向けて、ますますダイバーシティ化が進む日本で、「これから我々がどう生きていくか」を生身で学ばされている中心地じゃないかと思うんですよ。
―たしかに、渋谷駅周辺の大規模な再開発なども、「これからこの街がどうなっていくか?」を、他の街に先駆けて体現しているように思えますね。
箭内:「どうなるか?」というのは見守る態度でもありますが、「どうしたいか?」を持たないままの「どうなるか?」ではいけないと思います。みんなが知恵を出し合うことが大事。声の大きい人が「こうしろ!」と言ってみんながそっちを向くんじゃなくてね。
今の時代は、声が大きいと反発を生んでしまうんですよ。反発しようと思ってなかった人までが、反発を始めてしまう。穏やかに、やさしい声で話すことが重要で。さっき、渋谷によって我々が試されてる、学ばされていると言いましたが、それと同じように、声を荒げずに人にメッセージを届けるための方法を、みんなが今、訓練している最中なのかな? とも思いますね。
人を思いやる余裕がなくなりやすい時代だからこそ、それを回復する時間が必要なんです。(箭内)
箭内が語った「声を荒げずに、人にメッセージを届けるための方法」は、プレミアムフライデーの普及や、4月28日に行なう『シブヤ大掃除パーティ』のあり方にも通じる話だ。
トップダウンで一方通行の方法で発信される、「早く仕事を終えて、働き方を改革しよう」というメッセージが、すべての人にそのままぴたりとあてはまるはずはない。施策に対して、YESもNOもどちらの声も聞かれる現状を踏まえて、箭内はこんな提案をする。
箭内:『シブヤ大掃除パーティ』もそうですけど、プレミアムフライデーは一見、「遊びに行こう」とだけ言っているように思えますよね。でもたとえば「普段の仕事ではない形で社会の役に立ってみよう」という「ライフワークに携わる時間をもらえた」と考えることもできる。
別の言い方でたとえるなら「大人の部活動」かなと。プレミアムフライデーは、「好きに遊んでいいよ」だけではなくて、経済活動も含めて、「いかにこの時間を充実させることができるのか?」とそれぞれが問われているような気がするんです。
―箭内さんが考えるプレミアムフライデーを充実させる仕掛けには、ほかにたとえばどんなものがありますか?
箭内:そうですね、まず思い付くのは、昼間からやっちゃいけないことを堂々とやることの提案ですかね。お酒を飲むとか、外で昼寝をするとか、お風呂に入るとか(笑)。
あとは……プレミアムフライデーなら、「遊びのダブルヘッダー」ができますよね。ライブを観た後に、ラーメン屋や飲み屋ではなく、ちゃんとしたレストランに行けたり、映画を観た後にライブに行けたり。プレミアムフライデーが浸透すると、エンターテイメントのハイブリッド化が起きてくるんじゃないかなと思います。ジャン=リュック・ゴダールとフランソワ・トリュフォーの2本立てを一気に観ちゃうとかね(笑)。
―それは……たしかに、半日かかりますね(笑)。
箭内:どちらにしても、プレミアムフライデーというのは、あくまでも「豊かな時間を作ろう」のきっかけ作りとしてはいい試み。ただ、それがファシズムになってはいけない。分かりやすさとして「月末の金曜日」という言葉が使われていますが、みなさんがみなさんのプレミアムな半休の日を作ればいいと思うんです、月曜日でも水曜日でも。
そこに気をつけないと、アンチプレミアムフライデーの声に繋がってしまう。ルールにする必要もないし、ブームにする必要もない。神経質になったり、人を思いやる余裕がなくなりやすい時代だからこそ、プレミアムフライデーは、それを回復する時間に充てるべきだと思います。
「人」がいて、だから「街」が面白い。(箭内)
ショップ店員であり「もてなす側」でプレミアムフライデーに関わるぺえも、「金曜日は忙しくて休むことはできないけど、好きな人が月曜休みなので、あわせて月曜日に休もうかな……」と独自の方法を口にしていた。
そう考えると、「ゆとりを作りましょう」というメッセージをただ受け止めるだけではなく、「もし今の生活よりも、少しだけゆとりができるとしたら?」とまずは想像することから、自分の行動は変わっていくのかもしれない。それは、箭内が語った「自分が試される」という話につながっていく。
ぺえ:プレミアムフライデーで何をしよう? と想像したとき、ふだんできないことをやるにはぴったりだなって思ったんです。まだ見たことのない世界を体験するのにいいなって。
そういう意味では、『シブヤ大掃除パーティ』はいいイベントだと思います。なぜなら、ただ「楽しかった」「面白かった」で終わりじゃなくて、「やって世のためになる」「やったことが何かに結びつく」ことって、仕事以外ではなかなか体験できないことだから。
最後に箭内に、次々と新しい取り組みを取り入れて変化を続ける渋谷の街について、期待することを訊いた。
箭内:さまざまな取り組みを通して、渋谷に住む人、働く人、学ぶ人、遊ぶ人、それぞれの人の顔が見える、真のダイバーシティとなり、そこに新しい繋がりやクリエイティブが生まれたらいいと思いますね。今渋谷で進んでいる街の再開発は、「人の再開発」でもあるんです。
渋谷に限らず、今はまだ、東京の人が東京の魅力をまだちゃんと分かってないんじゃないかと感じているし、それは僕自身もまだまだそうなんです。だから渋谷にこんな面白い遊び場があるね、だけじゃなくて、渋谷には「人」がいて、だから街が面白いんだとみんなが再発見、再開発されていってほしいですね。
- イベント情報
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- 『シブヤ大掃除パーティ』
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「月末金曜は少し早めに仕事をおえて、豊かな時間を過ごそう」というコンセプトで始まった「プレミアムフライデー」と「シブヤの日」が重なる4月28日(金)に、『シブヤ大掃除パーティ』と題して、渋谷を舞台にイベントが実施されます。仕事の後に渋谷駅周辺の清掃に参加いただいた方に、周辺店舗や施設で利用できるクーポンを贈呈。掃除で汗を流した後に、きれいになった渋谷の街で打ち上げ・パーティをお楽しみいただけるイベントです。
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- 『シブヤ大掃除 アフターパーティ!』
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2017年4月28日(金)
会場:東京都 SHIBUYA PLUG
出演:
石野卓球
Licaxxx
出口博之(モノブライト)
料金:無料(1ドリンク付)
※『シブヤ大掃除パーティ』参加者配布のクーポンが必要
- プロフィール
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- 箭内道彦 (やない みちひこ)
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1964年福島県生まれ。クリエイティブディレクター / 東京藝術大学美術学部准教授。博報堂を経て、2003年「風とロック」を設立。「渋谷のラジオ」理事長を務める。
- ぺえ
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1992年山形県生まれ。原宿の竹下通りにある「W♡C」のショップスタッフ。タレントとしても活動し、バラエティーやドラマ出演なども行なう。
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