ブルーズをルーツに、1960~70年代のロックやポップスのエッセンスをちりばめた楽曲により、熱心な音楽ファンのハートを掴んでいるシンガーソングライター、Reiさん。ペトロールズの長岡亮介さんを共同プロデューサーに迎えた1stミニアルバム『BLU』と、セルフプロデュースによる2ndミニアルバム『UNO』には、卓越したギタープレイとトリッキーかつポップな歌声&メロディーが詰め込まれており、その華奢な身体とあどけない表情からは想像もつかないほどのポテンシャルを感じさせます。しかも、23歳の女の子による等身大の視点が加わることで、全く新しいサウンドに仕上げているのが何よりの特徴と言えるでしょう。
子どものころ、英語と日本語のどちらも上手く話せず、コミュニケーションで悩んでいたという彼女は、その後どうやって道を拓き進んできたのでしょうか。『BLU』を制作した下北沢のスタジオを訪ね、その半生を振り返ってもらいました。
「言語と心に距離がある」という状態に悩みながら育ったRei
4歳でアメリカにわたり、物心がついたときにはギターを抱えていたというReiさん。女性のギタリストをテレビで見て、ギターが楽しそうなオモチャとして目に映ったのか、「あれが欲しい!」と親にねだったのが全ての始まりでした。その女性が誰だったのか、今は覚えていないそうですが、それからギターの虜となった彼女は、学校ではジャズやブルーズを演奏するバンドに所属し、放課後になるとクラシックギターの教室へ通うようになりました。
Rei:アメリカ在住のころに通っていた公立の小学校は、音楽に力を入れていて、校内でバンドを組んで、音自体をその場で選びながら奏でていく「インプロビゼーション」を学びました。「譜面に書かれた音符をどう表現するか?」を学ぶ、クラシックギターの世界とはまた違った楽しさがありましたね。「12小節でキーはこれ、リズムはシャッフルで」といった少ないルールを最初に決めてしまえば、5秒前に会った人とでも「会話」ができるというのがとにかく魅力的だったんです。私は子どものころ、日本語がマトモに話せないままアメリカに行って、小学生になると今度は英語がマトモに話せないまま日本に戻ってきてしまったので、日本語でも英語でも、中途半端にしかコミュニケーションできないのがコンプレックスだったんです。言語と心に距離があるというか。でも、音楽の中では、人と近いところで通じ合っている感触があったんですよね。
帰国してしばらくは、クラシックギター奏者を目指していたReiさん。しかし、中学年になり、当時通っていたインターナショナルスクールの同級生たちとバンドを組んだことで、彼女はロックに目覚めました。The BeatlesやLed Zeppelin、The Whoなどをカバーし、そこからさらに遡っていくうちに、アメリカで馴染んでいたブルーズと「再会」したのです。
Rei:The Beatlesが大好きで、ジョージ・ハリスンと仲が良かったエリック・クラプトンを知り、彼の所属していたCreamを聴いているうちに、そのルーツであるブルーズにのめり込んでいきました。当時は関西に住んでいたんですけど、ブルーズ専門のハコでライブをする機会があって。ロバート・ジョンソン(1920年代から30年代にかけて活躍したアメリカの伝説的なブルーズマン)やブラインド・ブレイク(1920年代のアメリカで活躍したブルーズギタリスト)、スキップ・ジェイムス(Creamが楽曲をカバーしたことで知られるブルーズミュージシャン)などを演奏していました。ロックバンドとはまた全然違う世界でしたし、人生の先輩方からブルーズを教えてもらったり、実践練習という感じでセッションにもたくさん参加させてもらったりして。上手い人のフレーズを盗んだりしながら勉強していきました。
ブルーズは「真っ白なTシャツ」のようなもの
The Beatlesをはじめとする、1960~70年代の音楽に影響を受けた音楽は世の中にたくさんあります。そんな中、Reiさんの楽曲が一線を画しているのは、その根底にブルーズを感じさせるからではないでしょうか。Reiさんは、「ブルーズやロックンロールは『フォーマット』のようなもの」と話してくれました。「古臭い音楽スタイル」としてではなく、「最もシンプルなフォーマット」としてブルーズを「活用」しているからこそ、彼女の音楽はどこまでも自由なのかもしれません。
Rei:ブルーズというのは「真っ白なTシャツ」みたいなものだと私は思うんです。その人の肌の色や顔の表情、ネイルだとか小物だとか、一人ひとりの個性が表れるし、同時に力量も試される音楽。シンプルだからこそ、どのくらい表現力やスキルがあるか、如実にわかるんです。これから歳を重ね、新しいものを吸収した自分にも、いつでもフィットしてくれるような自由度の高い音楽だと思ったので、これは突き詰めがいがあるなと思いました。
そんなブルーズと共に生きてきたReiさんですが、「ブルーズをやっている自分」に懐疑的になったこともあったそう。
Rei:「ブルーズは『虐げられた黒人の歌』だとわかってやってるの?」とか、「人があまりやっていないブルーズで、奇をてらっているんじゃない?」とか言われたことがあって、考え込んでいた時期がありました。でも、そこで自分自身と向き合い、改めて問いかけてみたとき、やっぱり自分はブルーズが心から好きでやっているんだと強く思えたので、ピュアな気持ちに戻っていけました。ブルーズって、すごく落ちこむようなことがあっても、それを音楽にして手放せば、明日からまた前向きになれるんだってことも伝えられる音楽だと思うんですよね。だから、「ブルーズは虐げられた黒人の音楽」というイメージを、私が払拭できたらっていう気持ちもあるんです。ジャズでもブルーズでも、ロックでもそうですけど、「こういう人が聴く音楽」っていう固定観念が作られていて、それって「もったいないな」って思うんです。みんな、もっと耳をオープンにして、自由に音楽を聴いたら、より楽しめるんじゃないかなって。もちろん、作る私たちも、もっと自由にならなきゃと思っています。
「気持ち良さと気持ち悪さは紙一重」という信念
2015年2月、7曲入りの1stミニアルバム『BLU』でデビューを果たしたReiさん。共同プロデューサーはペトロールズの長岡亮介さんで、ブルーズを下敷きにしつつ、1960年代のロックや70年代のシンガーソングライターのエッセンスを凝縮した楽曲は、シンプルでありながらも豊かな広がりを感じさせ、聴き込むごとに味わいが増していきます。しかも、単なる懐古主義ではなく、ルーツミュージックを今の視点で照射した「現在進行形のサウンド」に仕上げているところが、まさに彼女の真骨頂といえるでしょう。
Rei:ストーリー性のあるアルバムが昔から好きなんです。The Whoの『Quadrophenia』(1973年)や、Yesの『Fragile』(1971年)、The Beatlesの『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』(1967年)とかですね。ロックオペラ的な、頭から最後まで聴くのが好きなので、自分が初めてアルバムを作るときにも、全体の流れや滑らかにストーリーを進めるための曲順にこだわりました。長岡さんのことは、「歌声に気持ち良くフィットするギターを考える人だな」と思っていて。しかも、ギターの魅力も余すことなく伝えるアレンジなんですよ。私自身も、歌とギターを同じくらい大事にしているので、きっと長岡さんならいろいろ教えてくださるんじゃないかと思ってお願いしました。
日本語と英語を「ちゃんぽん」にした歌詞も、Reiさんの楽曲の魅力のひとつ。まずは英語で歌詞を書き、そこからどの部分を日本語にするか決め、その言葉の「響き」を大切にしながら仕上げていくのが彼女のスタイル。長岡さんの日本語の使い方にも大きな影響を受けたそうです。例えば、「~している」という歌詞があったとして、メロディーの1音に対して「い」や「る」など、1文字を割り当てることが邦楽の場合は多いのですが、そこを「いる」と1音節にすることで、他にはあまりない譜割となり、独特のリズム感を生み出しています。しかも英語の歌詞は、日本人が耳にしてもすぐ意味が入ってくるような単語を使っているため、「ちゃんぽん」の歌詞がそのままダイレクトに脳へと入っていく快感を味わえるわけです。
Rei:歌詞の内容は、日常的に使っているけど誰も着目していない言葉とか、意外な組み合わせをいつも探しています。例えば“BLACK BANANA”という曲は、「ブラック」も「バナナ」もみんな知ってる言葉だけど、組み合わせることで、「え、なんだろう?」と思わせるフックにしていたり。大切にしているのは「違和感」です。聴いていて「なんとなーくムズ痒いぞ」とか、ちょっとずつズレているような感じがして「これでいいのだろうか?」みたいに感じることって、気持ち良さと気持ち悪さが紙一重だと思うんですよ。「気持ちいい違和感」って言うのでしょうか。例えば、音色ひとつとっても、かなり耳に痛い音でも一瞬だったらものすごく耳を引いたりとか。あとは「テンション&リリース」というか、グラグラしていたものが、いきなり落ち着くところにきたときの気持ち良さってありますよね。それを音楽で演出するには、どうしたらいいのかを考えています。
「ポップ=ハーシーズのチョコ」というReiのポップ観
2015年11月には2ndミニアルバム『UNO』をセルフプロデュースでリリース。前作よりもポップで親しみやすいメロディーを持つ楽曲が並んでいますが、よく聴くと様々な仕掛けが施されています。例えば、リード曲“JUMP”はベースラインをトロンボーンが担っていたり、“POTATO”にはジャガイモを包丁で切るときの音をパーカッション代わりにサンプリングしていたり、本来の使い方ではない「遊び心」が溢れています。「ギターをギターとして弾かないことを意識した」という彼女の発言は、かつてジョン・レノンが「ギターをピアノのように弾き、ピアノをギターのように弾きたい」と述べていたことを思い出しました。
Rei:既成概念を取り払ったら、ギターももっと面白い使い方があるかもしれない。ギターを愛しているからこそ、「私の考えを彼(ギター)に押し付けず、弾かれたがっているように弾いてあげるにはどうしよう?」って思うんです。そういう気持ちと併せて、The Beatlesもそうだったように、ポップな面と実験的な面が両方入っている楽曲をこれからも作っていきたい。「ポップ」という言葉を、私自身は「浸透性」というふうに捉えています。例えばアタリメのように、何度も噛まないと味が出てこない、理解するのに時間がかかるものではなく、ハーシーズのチョコみたいに、口に入った瞬間に「甘い!」って思えるような(笑)。味がダイレクトに伝わってくるという意味での「浸透性」の高さが、ポップの基準なんじゃないかって。
弱冠23歳のRei、次の挑戦は「エモーションの極端なところ」
現在は次作のリリースに向け、鋭意制作中だというReiさん。今後の展望はどのように考えているのでしょうか。
Rei:『UNO』は幾何学的というか、本人はポーカーフェイスなんだけど、ちょっとエキセントリックなことをやっているみたいな、自分の中でのキャラクター像がありました。次の作品は「人間的」というテーマで、よりドラマチックにエモーションの極端なところを表現したいです。日常の会話では建前や自分を良く見せたいという見栄があったりするかもしれないけど、一人きりのときにしか出てこない、自分の極端な感情を、音楽にぶつけてみたらどうなるのかな? と思いながら制作しています。どういう仕上がりになるか、ちょっと今の段階ではわからないけど、人間的なアルバムが作れたら嬉しいですね。
長岡亮介と共に、初CDを作り上げた部屋
ここは、Reiさんが『BLU』のレコーディングで使用したスタジオ。共同プロデューサーの長岡亮介さんと、様々な楽器を持ち替えながら、二人きりで演奏したことが思い出に残っているそうです。 この日は、Reiさんの使用機材の中から一部を厳選して、このスタジオに持ち込んでもらいました。
お気に入りの機材1:KORG WAVEDRUM mini
世界中のパーカッションやドラムサウンド、ユニークなシンセサウンドやオリジナル音色などを網羅したシンセサイザー、WAVEDRUMのコンパクトバージョンが本機。基本的なサウンドコンセプトは継承しつつ、スピーカー内蔵、電池駆動にも対応し、よりポータブル性に富んだ仕様となっています。本機に貼られているステッカーのイラストは、『BLU』のジャケットイラストであり、Reiさんが自身で描いたもの。
Rei:3年くらい前に、KORGのサイトを見ていたら本機の試奏動画がアップされてて。それを見て欲しくなって購入しました。宅録っぽい音作りが好きなので、レコーディングでもリズム楽器として使用しています。例えば、“JUMP”の基本的なリズムパターンはこれで作りましたね。内蔵クリップを使えば机をドラム代わりにできたり、ルーパー機能が付いていたり、ガジェットとしても楽しめるところが気に入っています。
お気に入りの機材2:Gibson「LG-2」
ビンテージのGibsonアコースティックギターの中でも小型で、女性でも抱えやすいサイズ感が魅力。Reiさんは4、5年前に購入したのですが、当時は同じ年代の「LG-2」が都内に7本存在し、その全てを弾き比べて選んだ逸品です。
Rei:1956年のモデルですが、枯れすぎずウェットすぎず、ちょうどいい音を選びました。今のところ、メインのアコギはこれですね。ピックアップは試行錯誤を繰り返し、現在はFenderのテレキャスターにも搭載されているマグネティックと、FISHMANのピエゾを取り付けています。指弾きのときと、ストロークのときは出力が全然違うし、出したい音色も違う。ライブで上手く弾き分けるために、2種類のピックアップを付けているんです。
お気に入りの機材3:Free The Tone「Custom Made Pre Amplifier“BLUBOX”」
Free The Tone「Custom Made Pre Amplifier“BLUBOX”」
主にギタリストやベーシストが使用する機材の設計や製作、国内外アーティストのシステムデザインを行なっているメーカー「Free The Tone」。その社名は、ジミー・ペイジ(Led Zeppelin)、デヴィッド・ギルモア(ex.Pink Floyd)、ポール・マッカートニー(The Beatles)、スティングなど世界的に有名なミュージシャンのためのカスタムプロダクツを製作しているピート・コーニッシュとリンダ・コーニッシュによって名付けられました。こちらのメーカーでカスタムメイドしてもらったプリアンプを、Reiさんは愛用しています。
Rei:Gibson「LG-2」に搭載した2つのピックアップは、ここでブレンド具合を調整できるようにしてあります。例えば、“We”(『UNO』収録)のような、ラグタイムっぽいフレーズを弾くときにはピエゾの量を多く出したり、TUBE SCREAMERとか歪み系のペダルをかけてカッティングするときは、マグネティックを上げてパンチのある音にしたり。細かいニュアンスをコントロールできるので重宝していますね。
お気に入りの機材4:KORG「STAGEMAN 80」
例えばソロで弾き語りのライブをやるときに、リズムが欲しい。リズムマシンではなく、もっと生っぽいリズムの上で演奏したい。そんな、ソロアーティストのニーズに応えるべく開発されたのがリズムマシン入りの多機能ポータブルPAアンプ「STAGEMAN 80」です。自分のオリジナル曲の構成に合わせてリズムを組み立てたり、演奏中にリアルタイムでコントロールしたり、まさに至れり尽くせりのアンプです。
Rei:今回初めて使わせていただきましたが、これはとても便利ですね。私は一人でライブをやることが多くて、「こういうときにリズムがあったらどんなに便利だろう」って思っていました。先日出演した『SXSW』(アメリカ・テキサス州にて開催されたイベント)では野外のスペースで弾かせてもらったり、海外に行くとストリートライブもやったりするのですが、そんなときにこれがあったらいいですよね。機材が重たいと持ち運びが大変なので、チューナーがビルトインなのも嬉しいです。
それにしても、本当に名言だらけのインタビューでした。子どものころに言葉でのコミュニケーションに対してコンプレックスを持っていたからこそ、自分の言葉を人一倍大切にしているのかもしれません。「私の見ているオレンジは、あなたの見ているオレンジと、同じ色ではないかも知れないのは大前提」と話してくれたReiさん。それでも、否、だからこそ彼女は、目の前にいる誰かとより深く通じ合うために、シンプルなフォーマットである「ブルーズ」を用いて音楽を奏で続けているのでしょう。
- リリース情報
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- Rei
『UNO』(CD) -
2015年11月4日(水)発売
価格:1,500円(税込)
Reiny / AWDR/LR2 / DDCB-124011. OCD
2. JUMP
3. Love Sick
4. Black Cat
5. Soleil
6. POTATO
7. We
※7インチジャケット仕様
- Rei
『BLU』(CD) -
2015年2月4日(水)発売
価格:1,404円(税込)
ENCD-271. BLACK BANANA
2. Cinnamon Girl
3. my mama
4. eutopia
5. POMELO
6. Long Way to Go
7. bumble B
- Rei
- プロフィール
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- Rei (れい)
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1993年、兵庫県伊丹市生。卓越したギタープレイとボーカルをもつ、シンガーソングライター / ギタリスト。2015年2月、1stミニアルバム『BLU』をリリース。『FUJI ROCK FESTIVAL '15』『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2015』などビッグフェスに多数出演。2015年11月、セルフプロデュースにて2ndミニアルバム『UNO』をリリース。2016年3月、インドネシア・ジャカルタで開催された『Java Jazz Festival 2016』、アメリカ・テキサスで開催された『SXSW Music Festival 2016』に出演。
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