2010年代前半の邦楽バンドシーンのトレンド「4つ打ち」は、終幕に向かっている
近年の日本のバンドシーンにおけるトレンドをいくつか挙げるとするなら、その1つが「4つ打ち」であることは間違いないだろう。2000年代前半には、くるりの“ワンダーフォーゲル”(2000年)や、ASIAN KUNG-FU GENERATIONの“君という花”(2003年)など、いくつかエポックメイキングな曲があったが、「4つ打ち」というワードがより注目を集めるようになったのは、やはり00年代後半から。海外におけるポストパンクリバイバル~エレクトロの流れを受けて、ライブハウスとクラブの垣根を超えた「踊れる」バンドが増加し、その中から、サカナクションやthe telephonesなどがメジャーへと駆け上がっていった。
その後は「フェスを盛り上げるため」という側面がより濃くなって、徐々にテンポが上昇。BPM170台の“ないものねだり”でブレイクを果たしたKANA-BOONを筆頭に、KEYTALK、ゲスの極み乙女。、キュウソネコカミなどが、「フェスを盛り上げる4つ打ちバンド」として注目を浴びるようになっていった。また、彼らの多くは1990年代のJ-POP黄金期をリアルタイムでは経験していない世代であり、その分ポップであることにアレルギーがなく、J-POPであることを厭わない。つまり、「BPMの速い4つ打ち」と「ポップな歌もの」というのが、近年のブレイクの要件となっていたわけだ。
しかし、この流れは今年で一段落だと言っていいと思う。KANA-BOONは8月30日にメンバーの地元に近い泉大津フェニックスを舞台に凱旋公演を行い、16,320人を動員して、1つのフェーズを終えたばかり。一方、ゲスの極み乙女。は早々に、この「4つ打ちレース」とも言えるような状況から抜け、よりポップス的な資質を押し出し、ドラマ主題歌にも起用された“猟奇的なキスを私にして”で、さらなるブレイクを果たしている。
言うまでもなく、「4つ打ち」というリズム自体に何ら罪はないわけだが、問題は「ライブで盛り上がるから」という理由で、安易に4つ打ちを使うバンドが増えてしまったということと、それに伴うバンド側、オーディエンス側、双方の画一化である。これに対しては、すでにバンド側からの自浄作用も起こっていて、the telephonesは今年発表の最新作で意図的にBPMを落とし、その上でしっかり踊れる完成度の高い楽曲を作り上げているし、OKAMOTO’Sはシングルであえて4つ打ちの曲を切った上で、アルバムでは多彩なリズムパターンを披露していたりする。こういった動きもあって、おそらくはオーディエンス側も、工夫のない4つ打ちには「またか……」と思い始めていることだろう。
ファンク、ソウル、R&B……「ブラックミュージック」の復権
では、「4つ打ち」の次にバンドシーンのトレンドとなるのは何か? もっといろんなリズムで踊りたいし、でもやっぱりポップなのがいい。その要件を満たすのは、ファンク、ソウル、R&B、ディスコといった、ブラックミュージックの要素を含むポップスであり、Earth, Wind & FireやJACKSON 5と、Daft Punk の“Get Lucky”やファレル・ウィリアムスの“Happy”をYouTubeで並列に楽しむ世代がその鍵を握っているのではないかと思う。インディーシーンでは「シティポップ」という言葉がすでにここ数年のトレンドとなっているが、「ミスターシティポップ」ことかせきさいだぁがCINRAのインタビューで語った言葉を引用すれば、「シティポップは黒人音楽から影響を受けた人の作ったポップス」である。山下達郎が若い世代から再評価を受けているのも、つまりは日本人としてブラックミュージックを消化した第一人者だからであり、この流れがよりポップな形でオーバーグラウンド化していくと考えられる。
ここには近年のアイドルブームも関係していて、例えば、ハロプロ関連の楽曲はブラックミュージック的な要素を持った曲が多く、代表的な例を挙げれば、モーニング娘。の“LOVEマシーン”がわかりやすい。あの曲の編曲を手掛けたのはダンス☆マンで、彼はそもそもEarth, Wind & Fireなどの楽曲にオリジナルの日本語詞をつけてカバーしていた人。アイドルとバンドの接近というのもよく言われているが、そこには「アイドルのロック化」という側面がある一方、「バンドのブラックミュージック化」という側面もあるわけだ。
このシティポップとアイドルポップの中間地点で、なおかつそれを現代的なクラブミュージックとして鳴らしているのがtofubeatsであり、tofubeatsと相思相愛で、今東京のインディーシーンで一番の注目を浴びているバンドの1つがShiggy Jr.だ。彼女たちはまさにブラックミュージックを背景としたポップスを鳴らしているバンドであり、CINRAで彼女たちへのインタビューを行った際も、山下達郎やマイケル・ジャクソン、Daft Punkへの愛情を語ってくれた。また、この流れを先取っていたと言えるのが、60~70年代のファンクやソウルとハロプロを同列に愛する住所不定無職であり、昨年発表されたアルバム『GOLD FUTURE BASIC,』は、もっと評価されるべき作品だと思っている。
また、バンドではないものの、先日清竜人がスタートさせたアイドルプロジェクト「清 竜人25」のデビューシングル『Will♡You♡Marry♡Me?』で、アレンジャーにダンス☆マンが起用されたのは、かなり象徴的だと言っていいと思う。つまり、疑似家族的なコンセプトもある「清 竜人25」というのは、「48グループ」のパロディーであると同時に、「JACKSON 5」のパロディーなのではないかと思うのだ。まあ、これは僕の勝手な妄想だが、こういった様々な動きから、ブラックミュージックの要素を含むポップスが、これからますます増えることは間違いないと思う。
関西から押し寄せる、ブラックミュージック+ポップスの新たな波
さて、この流れを受けてご紹介したいのが、10月8日にセカンドアルバム『RHYTHM OF THE NIGHT WAVES.』を発表する京都発のSATORIというバンドだ。元solarisのハノトモ(Vo,Key)とYKO(Vo,Per,Dr)を中心に結成され、13年にデビューアルバム『Yeah!Yeah!Yeah!』を発表すると、その後に行った全国ツアーのファイナル、地元のLive House nanoでのワンマンライブは見事ソールドアウト。新作の完成に合わせて、サポートメンバーが正式加入し、現在は5人組となった彼らが鳴らすのも、まさにブラックミュージックを背景としたポップスなのだ。
リードトラックの“NO NO NO”は軽快なコーラスで始まるファンキーなソウルポップで、小気味よく打ち鳴らされるタンバリンやギターのカッティングも心地いい。また、“君はキュート”はディスコティックなダンスナンバーで、電子音がいいアクセントになっている。やや幼さの残るキュートなアイドル風の歌声を聴かせるYKOと、セクシーだがちょっと変態チックでもあるハノトモによるツインボーカルは非常に個性的で、ときおりゆるいラップ調なのも今の気分。また、サックスが効果的な“わたし 雨、台風。”はメロウかつアーバンな雰囲気で、ラストの“君にだけ聴かせるハートビート”にはニューウェイブ感もあったりと、収録曲は6曲ながら、その中で実に多彩な表情を見せてくれる。
KANA-BOONやキュウソネコカミなど、関西は4つ打ちのバンドも多く輩出しているが、その一方で、奇妙礼太郎やワンダフルボーイズなどを輩出したイベント『Lovesofa』など、ブラックミュージックの下地も強く、若いバンドだと空きっ腹に酒やフレデリックなども、やはりファンキーな楽曲を聴かせてくれる。SATORIもまた、こういった土壌からよりポップな存在として浮上しつつあると言っていいと思う……そういえば、もう何年も前からファンクやソウルをベースとしながら、同時に変態性の強いプログレ要素も持ち合わせ、それでもあくまでポップであることにこだわった3ピースが京都にいたではないか!
そう、そのバンドの名はモーモールルギャバン。実はSATORIのメンバーであるハノトモとYKOが以前活動していたバンド・solarisには、モーモールルギャバンのゲイリー・ビッチェがわずか半年ながら在籍していた時期があった。現在モーモールルギャバンはライブ活動を休止し、制作に打ち込んでいるようだが、つまりは4つ打ち全盛のシーンで孤軍奮闘を続けた結果、彼らはしばしの休息を必要としたということなのかもしれない。しかし、流れは徐々に変わりつつある。今僕らが聴きたいのは、よりファンキーで、よりグル―ヴィーな音楽だ。SATORIの『RHYTHM OF THE NIGHT WAVES.』は、まさにそんな時代の波の変化を捉えた作品だと言えるかもしれない。さあ、リズムに合わせて、この一夜を踊り明かそう。Let’s Groove Tonight!
- リリース情報
-
- SATORI
『RHYTHM OF THE NIGHT WAVES.』(CD) -
2014年10月8日(水)発売
価格:1,620円(税抜)
LRECD-0021.NO NO NO
2.君はキュート
3.漂流教室
4.わたし 雨、台風。
5.青春
6.君にだけ聴かせるハートビート
- SATORI
- プロフィール
-
- SATORI (さとり)
-
ハノトモ(Vo,Key)、YKO(Vo,Per,Dr)、ちゃん6(Ba)による、ダブルボーカルバンドとして京都にて結成。2013年にアルバム『Yeah!Yeah!Yeah!』にて全国デビュー。ソウルでグルーヴィー、時にメロウで極上にハッピーなサウンドで関西のフェスにもちょくちょくお邪魔中。2014年には、それまでサポートメンバーであった、まーしー(Gu)、内藤ちゃん(Dr,Per)が正式加入。
- フィードバック 1
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-