観たことがないのに口ずさんでしまう、ディズニーソングの不思議
昨年、ディズニー映画『アナと雪の女王』の挿入歌である“レット・イット・ゴー ~ありのままで~”が大ヒットしたことは記憶に新しいが、個人的に驚いたのは、映画を観たことのない人までもが口ずさむ様子を見たことだった。基本的にテーマ曲や劇中歌は、映像やストーリーと結びつくことで強さを増すものだと思うが、たしかに自分自身を振り返ってみても、ディズニーソングには、作品を観たことがないのに自然と耳に染み付いているメロディーが山ほどある。
もちろん流行っていれば耳に入るし、テレビで流れていることも多いので、自然と刷り込まれていることは否定できない。しかし、作品を一度も観たことがない者でさえ口ずさめる曲が多数あるということは、曲自体にも何らかの力があることの証なのだろう。
ミュージシャンから見た、ディズニーソングのすごさとは?
「ディズニーソング」と一括りに言っても、膨大な数があるうえに、曲調もバラバラ。作曲者が統一されているわけでもない。そのため「なぜディズニーソングは耳に残るのか?」と共通項を探っても、明確な答えを見つけるのは難しいかもしれない。しかし、プロのミュージシャンの中にも、自分のルーツとして「ディズニー音楽」を挙げる人はたくさんいて、作編曲において様々なインスピレーションを与えていることも事実だ。今月発売されるディズニーソングのカバー集『PIANO MAN PLAYS DISNEY』に参加したSchroder-Headzと中塚武はこんなことを述べている。
“輝く未来”(『塔の上のラプンツェル』)をカバーさせてもらったのですが、二人の男女の主人公が前半と後半を歌い分ける構造になっていて、それぞれの声域にあわせるために前半と後半で転調しているのに、徐々に絡み合っていき、最後にはハモって1つになるという作りが、デュエットソングとして大変良くできていると思います。(Schroder-Headz)
通常の歌モノポップスでは『Aメロ~Bメロ~サビ』などの定型の楽曲構成が多いのですが、ディズニー音楽はあくまでも物語やシーンに合わせた構成なので、『Aメロ~Bメロ~Cメロ~…Fメロ』なんていうこともあります。楽曲制作をする上でも、発想の殻を破る良いきっかけになります。(中塚武)
ディズニーソングは、一般的なポップスのルールに縛られない発想、強い印象を生み出すための展開の描き方と、耳に馴染みやすいメロディーメイクが、緻密に構成され作られていることが伺える発言だ。
音の構成だけが要因ではない、もはや伝統となっている「ディズニーらしさ」
また、音楽的な要因以外にもまだ何か秘密があるのではないか? と思わせるのがディズニーソングの奥深さ。『PIANO MAN PLAYS DISNEY』への参加だけでなく、ディズニー公式ピアノジャズカバーアルバム『Disney piano jazz “HAPPINESS” Deluxe Edition』をリリースしている中塚武はこんなことも話している。
世界中の音楽家が、ディズニーの音楽に対して全身全霊をかけているのがありありとわかります。ディズニー楽曲には『世界的な名曲にしてやろう』という作曲家の気概がみなぎっている曲が多いと感じます。
いきなり精神論的な話になってしまうが、重要な部分でもある。「ディズニー」という偉大な存在にふさわしい楽曲を作ろう、という作曲家たちの強い気持ちが、名曲を生み出させる要因になっているのでは、という発言。さらに付け足すならば、脈々と続いてきた「ディズニーらしさ」を作曲家たちが自然と意識している部分もあるのだと思う。現に“レット・イット・ゴー”を作詞・作曲したロペス夫妻の妻、クリステン・アンダーソン=ロペスは、「ディズニーの音楽ってどんな人が作っても、そこには“ディズニーの伝統”のようなものが息づいている」とインタビューで発言している。(『【特集:アナと雪の女王】音楽スタッフが語る…ディズニーの名曲に息づく“伝統と魔法”』2014年2月「CinemaCafe.net」掲載)
おそらく、ディズニーらしい音楽に明確なルールがあるわけではないと思うが、クリステン・アンダーソン=ロペスの言う「伝統」とは、こうしたそれぞれのディズニー観が積もり積もった結果なのだろう。
多くの人が口ずさめるメロディーと各アーティストの個性の融合
そんなディズニーソングは作曲する人だけでなく、カバーするミュージシャンにも「気概」や「伝統」という魔法をかけることになるのだろう。前述のカバー集『PIANO MAN PLAYS DISNEY』に参加したミュージシャンにも、いろんな工夫や苦労、モチベーションがあったようで、それぞれ以下のコメントを残している。
“彼こそが海賊”(『パイレーツ・オブ・カリビアン』)をカバーしました。ダブステップの16ビートのリズムパターンに対して、ピアノだけは原曲どおり、3連符のフィーリングのままメインテーマを演奏しています。ポリフォニックな組み合わせが斬新さを際立たせていて、メンバー3人とも気に入ってます。(岸本亮 / fox capture plan)
“星に願いを”(『ピノキオ』)を選曲させてもらいました。ディズニーのファンタジックな世界観とキラキラした感じを大切にしてカバーしたいなと。みんなが知っている綺麗なメロディーラインはあまり崩さず、でもjizueらしくアレンジしたいという方向で進めていきました。(片木希依 / jizue)
その他にも、toconomaが“美女と野獣”(『美女と野獣』)をヒップホップ要素も混ぜた踊れるアレンジでカバーしていたり、「ディズニーソングは、ひたすらにドリーミーで、甘さの極地」と話すSerphが“夢はひそかに”(『シンデレラ』)のカバーにチャレンジしているなど、『PIANO MAN PLAYS DISNEY』は、タイトル通りメロディーが強調されるピアノという楽器を主体としたカバー集になっているからこそ、あらためて楽曲そのものが持つ力を感じられる作品になっている。いつまでも耳に残るディズニーソングの不思議な魅力と伝統は、このアルバムにも確実に受け継がれているようだ。
- リリース情報
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- V.A.
『PIANO MAN PLAYS DISNEY』(CD) -
2015年3月11日(水)発売
価格:2,300円(税込)
AQW1-511101. 星に願いを(ピノキオ) / jizue
2. 美女と野獣(美女と野獣)/ toconoma
3. チム・チム・チェリー~スーパーカリフラジリスティックエクスピアリドーシャス~踊ろう、調子よく~お砂糖ひとさじで~笑うのが大好き(メリー・ポピンズ) / →Pia-no-jaC←
4. メインストリート・エレクトリカル・パレード(ディズニーランド) / 中塚武
5. 彼こそが海賊(パイレーツ・オブ・カリビアン) / fox capture plan
6. 輝く未来(塔の上のラプンツェル) / Schroeder-Headz
7. 夢はひそかに(シンデレラ) / Serph
8. ビビディ・バビディ・ブー(シンデレラ) / 中塚武
9. アンダー・ザ・シー(リトル・マーメイド) / TLKY.
10. くまのプーさん(くまのプーさん) / 中塚武
11. ふしぎの国のアリス(ふしぎの国のアリス) / Kan Sano × Junpei Kamiya
12. ホール・ニュー・ワールド(新しい世界)(アラジン)~パート・オブ・ユア・ワールド(リトル・マーメイド) / →Pia-no-jaC←
13. レット・イット・ゴー ~ありのままで~(アナと雪の女王) / fox capture plan
- V.A.
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