今なぜ『オリーブ』が復活? 厳しくも愛のある『GINZA』編集長・中島敏子が雑誌に託す使命

少女たちに新しい世界の扉を開いた唯一無二の雑誌『オリーブ』

「はじめに『オリーブ』ありき」。神さまがそんなふうにおっしゃったかは知らないけれど、1980年代に思春期を送った少女たちにとって、雑誌『オリーブ』の登場は世界の創造に等しかったのかもしれない。アメリカ発のポップカルチャーを伝える男性向け情報誌『ポパイ』のガールフレンド版として創刊した同誌は、やがて、フランス・パリに暮らす少女たち(リセエンヌ)の日常を伝える「物語」を得て、絶大な人気を得る。砂糖菓子のように甘くてロマンティック。だからといって、ボーイフレンドの背中を追いかけるのではなく、自分を刺激してくれるものを求める。私の物語を私の選択で生きる。そんな生き方を肯定し、少女たちに新しい世界の扉を開いたのが『オリーブ』だった。

同誌を愛する少女たちは「オリーブ少女」と呼ばれ(また、自らそう名乗って)、1982年の創刊から2003年の休刊まで、世代交代を繰り返しながら各時代を体現してきた。『オリーブ』からの影響を公言する人は今もたくさんいる。ファッション、デザイン、音楽、文学の第一線で活躍する多くのクリエーターたちも、かつては「オリーブ少女」だったのである。

『GINZA』別冊付録の『オリーブ』は、ティーンのためのものではない「おとなのオリーブ」

そんな多くの支持を得てきた『オリーブ』が、2015年3月12日発売の雑誌『GINZA NO.214』の別冊付録として復活した。

左から:『GINZA NO.214』表紙、別冊付録「おとなのオリーブ」表紙
左から:『GINZA NO.214』表紙、別冊付録「おとなのオリーブ」表紙

なぜ、今『オリーブ』を復活するのか? 『オリーブ』復活プロジェクトを仕掛けたマガジンハウス社の『GINZA』編集長・中島敏子はこのように話す。

「2014年6月号の『GINZA』(特集:ファッション雑誌を読みましょう)に、約10ページの小さな『オリーブ』をつけたんです。賛否合わせて大きな反響が寄せられて、『オリーブの風が吹いている』と感じました。ファッションのモード的にも、今年の春夏はピュアで人間味溢れる女性像を打ち出していますし、『GINZA』本誌でも解放や自由が語られた1970年代を特集するので、タイミングがすごくいい。『オリーブ』はティーンエイジの純粋さやイノセンスを示した雑誌でしたから。でも、復活するのはティーンのための『オリーブ』ではないんです」

そう。今回の『オリーブ』は「おとなのオリーブ」なのだ。もしも2015年に同誌があったとしたら、いったいどんなオリーブ少女像を描けるか? その問いをかたちにするため、かつて誌面作りに関わった人々が集まった。

ヘアメイクアーティスト宮森隆行による当時の『オリーブ』の写真だけで構成されたヘアメイクページ
ヘアメイクページは、惜しくも2013年に他界されたヘアメイクアーティストの宮森隆行による当時の『オリーブ』の写真だけで構成

スタイリストの近田まりこ、大森伃佑子、岡尾美代子、飯田珠緒、(そして助っ人として轟木節子)。料理ページを担当した堀井和子。連載ページを担当していた山崎まどか、しまおまほ。アイコンでもあったモデルの市川実日子。そして、123(ひふみ)ページ目には小沢健二の「ドゥーワチャライク」。加えて、エドツワキや平野紗季子などニューカマーも参加。まさに、今だからこそ実現できた、ドリームチームの『オリーブ』だ。

元『relax』編集長・岡本仁とフードブロガー平野紗希子のコラボレーションページはホンマタカシが撮影
元『relax』編集長・岡本仁とフードブロガー平野紗希子のコラボレーションページはホンマタカシが撮影。中島編集長いわく、平野は「もし現代に『オリーブ』があったらメインキャラクターでは」とのこと

過去と現在を織り交ぜたページの詳細はぜひ手にとって確認してほしいけれど、ここでは巻頭企画「Forever」を紹介しておこう。白いドレスとマニッシュなブーツをまとった2人の少女が砂浜を駆けていくカットから始まるページは、先ほど挙げた4名のスタイリストの初めての共作だ。「『オリーブ』って、女の子が複数でいるイメージがあるんです。1+1=2じゃなくて、5にも10にも広がるような」と中島は言う。

近田まりこ、大森伃佑子、岡尾美代子、飯田珠緒の共作である、巻頭企画「Forever」
近田まりこ、大森伃佑子、岡尾美代子、飯田珠緒の共作である、巻頭企画「Forever」。昔の『オリーブ』をコラージュして作ったページも

この後には、各スタイリストが今の『オリーブ』をイメージして手掛けたというビジュアルページが続く。どのページを開いても、「わあ!」と歓声を挙げたくなるような、懐かしくも新しい、2015年の『オリーブ』が次々と現れる。

いちばん長く『オリーブ』に関わった大森伃佑子は「女の一生」を軸にしてページを作った
いちばん長く『オリーブ』に関わった大森伃佑子は「女の一生」を軸にしてページを作った。写植時代を思わせる文字間で組まれたテキストに注目したい

「モテ」だけではない主体性と自由な生き方を教えてくれた雑誌だった

2014年6月に『オリーブ』が復活したとき、ジェーン・スーのラジオでの発言が話題になった。自身も昔はオリーブ少女だったと前置きして、彼女はこう述べた。

つまりね、『男の子にモテるより楽しいことがあるよ』っていうのを教えてくれたの。オリーブ。だけど『男の子にモテるより楽しいことを追求していくと、モテなくなるよ』っていうことは教えてくれなかったの
(miyearnZZ Labo「ジェーン・スーが語る 雑誌『オリーブ』の呪い」より抜粋)

ジェーン・スーは、「モテ」だけではない主体性を教えてくれた『オリーブ』が、社会的存在としての女性に成熟するための階段を用意しなかったことを「ハシゴを外す」と表現した。しかし、これは一方的な批判の言葉ではない。『オリーブ』が与えてくれた主体性や自由な生き方があったからこそ、今の自分があることに彼女は誇りを持っている。『オリーブ』への愛情(ゆえの厳しさ)から発せられた言葉なのだ。

しかし同時に、休刊から10年以上経ってなお消えることのない『オリーブ』の重力を証明する言葉でもあるだろう。自分もオリーブ少女だったと告白する時。友人や知人に「オリーブ少女だったの」と指摘される時。そんな時に心の奥をチクリと刺すあの感覚に内包されているのは、単なる懐かしさだけではない。

「闘魂伝承」「容赦しない」。編集長・中島敏子が雑誌『GINZA』に託した使命とは?

はたして、今回の復活は、かつてオリーブ少女だった女たちへの懐古的なご褒美にすぎないのだろうか。「これからの雑誌の役割は?」という質問に対して、中島はこう答える。

「自分たちが雑誌を作っていけるのは、いい意味でテキトーでバカなことが大好きな大人たちが妥協をしない精神を持って色々と教えてくれたから。私も、若い人たちへの『闘魂伝承』が必要だと思っています。最近は、離乳食みたいに読者の口にアーンとスプーンを持っていくところまでやらないとなかなか支持されない。でも、あえて硬いお煎餅を食べさせて、顎を鍛えることも私たち大人の役割。それが『GINZA』の使命なんです。あと、最近の裏テーマは『容赦しない』なんですが(笑)、今回『オリーブ』特別号に参加してくださった先達は、私なんかよりも遥かに容赦がありません。ちょっとでもよいものができるなら、どれだけエネルギーを費やしてでも実行する。それが、ものを作る人の基本の精神なんだと今回は身に沁みました」

「闘魂伝承」「容赦しない」。中島が語る言葉を、時代錯誤なマッチョイズムとして退けることは容易い。だが、そもそも『オリーブ』は、ただかわいさだけをアピールする雑誌ではなかったはずなのだ。「ドキッとするような先鋭的な特集を組む、アーティスティックな雑誌だったと思っています。元『オリーブ』編集長の淀川美代子さんも『オリーブはパンクな雑誌よ』とおっしゃっています。10代のナイーブで揺れ動く女の子たちに、大人の目線で『人生は豊かだから、もっと楽しみなさい!』と伝える雑誌だったんです」

ジェーン・スーが指摘したように、『オリーブ』がしたことは確かに「ハシゴ外し」だったかもしれない。でも、そこには厳しさと優しさが同居していた。どんな時代でも、自分の心に従ってまっすぐに生きることは難しい。それは男も女も変わらない。世間の空気や気分に抗って自分を貫き通すことも、社会と歩調を合わせて生きることも、どちらも大切な人生の選択だ。だが、「勝ち組」や「負け組」、「モテ」や「こじらせ」という、自分以外の誰かが作ったカテゴライズで人生を理解したふりをしない、そして自分の外にある価値観を否定しないことこそ『オリーブ』の掲げた思想だったはずだ。そんな、おおらかで、知的な社会がやって来ることを今こそ願いたい。

きっと、今回の『オリーブ』は、そんな未来を願って若者たちへと贈られた「おとな(から)のオリーブ」なのだ。

書籍情報
『GINZA NO.214』

2015年3月12日(木)発売
価格:850円(税込)
発行:マガジンハウス

イベント情報
Oliveカフェ

2015年3月14日(土)~3月29日(日)
会場:東京都 原宿VACANT
時間:12:00~20:00
休廊日:3月16日(月)、3月23日(月)
料金:無料

トークイベント

2015年3月28日(土)16:00~
会場:神奈川県 湘南T-SITE 1号館2階 湘南ラウンジ
出演:
中島敏子(おとなのオリーブ編集長(GINZA編集長))
近田まりこ(スタイリスト)
定員:50名

プロフィール
中島敏子 (なかじまとしこ)

マガジンハウス社のカルチャー/ライフスタイル誌『BRUTUS』の編集者、『relax』の副編集長を経て、2011年4月よりリニューアルした『GINZA』の編集長を務める。



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