相対性理論の音楽的指向が反映された、テクノの大御所ジェフ・ミルズとのツーマンライブ
相対性理論の自主企画イベント『回折』の第3弾は、テクノの大御所ジェフ・ミルズとのツーマン。意外な組み合わせだと思われる向きもあるかもしれないが、相対性理論は、これまでも様々なジャンルのアーティストと接点を持ってきた。My Bloody Valentine、サーストン・ムーア、フアナ・モリーナとライブで共演しているほか、アルバム『正しい相対性理論』では、マシュー・ハーバート、アート・リンゼイ、クリスチャン・フェネスをリミキサーに迎えている。
左からやくしまるえつこイラスト特大チケット第1弾、第2弾、第3弾
そもそも、やくしまるえつこはノイズやフリージャズ、現代音楽など、前衛的とされる音楽を新旧・洋邦問わず大量に摂取してきた人だ。今回ジェフ・ミルズを主宰イベントに誘ったのも、やくしまるや他メンバーの音楽的指向/嗜好が直截に反映されていると見ていいと思う。開演前に流れていたSEがフリーインプロヴィゼーションの大家、デレク・ベイリーだったのも、そう考えると納得がいく。
さて、最初に登場したのはジェフ・ミルズ。これまでの彼のキャリアを考慮すると、わかりやすい新味があるわけではないが、余裕と貫禄が見え隠れするいぶし銀のプレイだった。硬質でミニマルなテクノを1時間20分にわたって聴かせたのだが、奥行きと立体感を感じさせるサウンドの鳴りが素晴らしく、音響の快楽にどっぷりと浸ることができた。初めて聴く人には一定のBPMで黙々とビートを刻み続ける姿が禁欲的に映ったかもしれないが、集中力が途切れる直前でノイズを挿んだり、ビートのアクセントを変えたりと、反復の中に微妙な変化を忍ばせていたのもさすがだ。
メンバーの演奏力の高さを示すかのように楽器が前面に出た、雄弁かつ饒舌な演奏
ジェフがステージを去ってもビートは鳴り続け、そのビートに被せるように相対性理論の演奏がスタート。1曲目は、ライブの3日前に公開されたばかりの“たまたまニュータウン(2DK session)”。“たまたまニュータウン”は相対性理論の4thアルバム『TOWN AGE』の掉尾を飾る名曲だが、この2DK sessionバージョンは1発録りで新録されてアレンジも異なり、曲の長さも原曲のほぼ倍で7分13秒になっている。厚みのあるツインドラム、地を這うようなベース、そしてシューゲイザー/チルウェイブ的なフィードバックノイズを撒き散らすギター。それら楽器隊によるセッションパートに、やくしまるも音と光を放つオリジナル楽器のdimtakt(ディムタクト)で幻惑的なサウンドを加える。そして、この2DK sessionバージョンこそが、今の相対性理論のモードを端的に物語っていると言える。
結成メンバーであるやくしまるえつこ(Vo,dimtakt)、永井聖一(Gt)に加え、吉田匡(Ba)、山口元輝(Dr,Per)、itoken(Key,Dr,Per)を迎えて以降の相対性理論のライブは、個々の演奏力の高さを示すかのように、楽器が前面に出て主張する部分が増えてきている。山口元輝が要所で使用するドラムロールはアンサンブルを立体的に見せているし、ときにDurutti Columnのヴィニ・ライリーを彷彿とさせる永井聖一のギターは、よりノイジーな響きを帯びている。itokenが鍵盤を弾くことでアレンジに幅が出てきたのも瞠目すべきだろう。2013年に出たやくしまるのソロアルバム『RADIO ONSEN EUTOPIA』も、1発録りのスタジオセッションを収めたものだったが、今の相対性理論には、ライブアルバムを出してもおかしくないほどの勢いがある。
セットリストもスペシャルだった。やくしまるが花澤香菜に提供した“こきゅうとす”や、やくしまるえつこメトロオーケストラ名義で発表された“少年よ我に帰れ”、やくしまるえつこソロ曲の“ロンリープラネット”がライブで披露されたのも、ファンにとっては嬉しいサプライズだっただろう。“LOVEずっきゅん”や“元素紀行”のような相対性理論初期の曲が披露されたのも耳を惹いた。
だが、そうした初期の曲を聴いてもまず感じ入ったのは、やはり音楽ボキャブラリーの豊富なプレイヤーたちによる、雄弁かつ饒舌な演奏だ。やくしまるのボーカルは相変わらず超然としていたが、彼女は歌っていないときでもdimtaktを奏でたり、バーチャルリアリティーヘッドセット「Oculus Rift」を使った独自システム「YKSMR Oculus」でステージコントロールするなど、演奏に積極的に参加していた。
やくしまるえつこ
やくしまるの指揮だけを合図に即興で紡がれたジェフ・ミルズとの凄まじいセッション
こうした彼らの音楽的指向を象徴的に表わしていたのが、最後に行われたジェフ・ミルズとのセッションだろう(ジェフが生バンドとセッションするのは、約23年ぶりのこと!)。ライブ会場限定で販売されたCD『スペクトル』収録の新曲“ウルトラソーダ“と、ジェフ・ミルズがその音素材を用いて制作した“Say Tomorrow Mix”がベースになっていたのだが、とにかく凄まじい演奏だった。ジェフのビートに相対性理論のメンバーが即興で絡むのだが、スペーシーでコズミックなその演奏は、あえてたとえるなら、Underground Resistanceとマニュエル・ゲッチングと後期フィッシュマンズが出会って、サン・ラーを召還してしまったような、とでも言うべきもの。事前の決めごとはなく、やくしまるの指揮だけを合図に即興で紡がれたセッションは、一見接点のなさそうな両者の共通項をはっきりとあぶり出していた。
そもそも、相対性理論でドラムを叩くitokenと山口元輝は、共に個人でもビートミュージックを制作しており、やくしまるがトータルプロデュースした花澤香菜の“こきゅうとす”には、この両者のリミックスが収録されている(山口はMolt Beats名義での参加)。当然、エレクトロニックミュージックへの理解や造詣は二人とも深いわけで、そう考えると、ますますこのセッションの必然性が実感されてくるのだった。
- イベント情報
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- 相対性理論 presents
『回折III』 -
2015年3月22日(日)OPEN 17:00 / START 18:00
会場:東京都 水道橋 東京ドームシティホール
出演:
相対性理論
ジェフ・ミルズ
料金:前売5,500円 当日6,000円
- 相対性理論 presents
- プロフィール
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- 相対性理論 (そうたいせいりろん)
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ポップ・シークレット・プロジェクト。東京都心にて活動中。
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- ジェフ・ミルズ
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1963年デトロイト市生まれ。エレクトロニック・ミュージック、テクノ・シーンのパイオニアとして知られるDJ/プロデューサー。Axis Records主宰。 2007年、フランス政府より日本の文化勲章にあたるChavalier des Arts et des Lettresを授与される。近年では各国オーケストラと共演、日本科学未来館館長/宇宙飛行士 毛利衛氏とコラボレイトした音楽作品『Where Light Ends』を発表、また日本科学未来館の館内音楽も手がける。ジャクリーヌ・コー監督、ジェフ・ミルズ主演のアート・ドキュメンタリー・フィルム『MAN FROM TOMORROW』は、パリ、ルーブル美術館でのプレミアを皮切りにニューヨーク、ロンドンの美術館などで上映される。2015年、東京にてアート作品展示会『WEAPONS』を開催するなどその活動は音楽だけにとどまらない。
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