BOOM BOOM SATELLITES、活動終了を発表
6月22日、BOOM BOOM SATELLITES(以下、BBS)が10枚目のアルバム『LAY YOUR HANDS ON ME』をリリースする。そして今作が、26年間活動してきた彼らにとって、最後の作品となる。「活動終了」――それは決して、川島道行(Vo,Gt)と中野雅之(Prog,Ba)が望んで選んだものではなく、選ばざるを得ない道であった。
BBSの活動終了が発表されたのは、先月の31日。ヨーロッパデビューを果たした1997年に川島が脳腫瘍を発症して以来、彼は4度の再発と闘ってきた。昨年2月には、4度目の脳腫瘍を治験段階の放射線治療で克服し、傑作『SHINE LIKE A BILLION SUNS』を完成させたが、夏に5度目の脳腫瘍を患っていたという。そして、記憶障害や運動障害といった後遺症を理由に、昨年12月27日のレコーディング以来、川島がスタジオに足を運ぶことはなくなった。
最後の作品として発表される『LAY YOUR HANDS ON ME』は、4曲入りで、約22分の作品となっており、形式上は「EP」として発売される。ただ、この作品は、「アルバム」と言って十分なほどのストーリーが描かれており、彼らが到達した地点からでしか歌えないメッセージが存分に詰め込まれている。また、昨年夏の時点で、やれることが限られた現実と向き合った川島は「フルアルバムを作りたい」と話していたそうで、作品の充実度からも、中野は「『遂に10枚目のアルバムが完成した』と、僕は言い切ってしまおうと思います」と、5月31日のブログに記した。だから、この記事の1文目でも、この作品を「アルバム」と紹介させてもらった。
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22分間、明るい光が天から降り注ぐ
この状況を知ると、「暗い」とか「重たい」といった印象を与えてしまうかもしれないが、『LAY YOUR HANDS ON ME』を聴いて心が震えた理由のひとつは、そこに一切の「悲しみ」がなかったからである。現在公開中のティザー映像に表れているような二人の笑顔が浮かび上がってくるし、なにより、この中に映っている陽射しのような光が、作品全体に溢れ出ている。22分間のどこを切り取っても、とにかく美しくて、清々しい。
今作は、雑踏の音からスタートする。雑踏から楽曲へとフェードインしく流れとともに、BBSの二人が、リスナーを日常の世界から曲の世界へと導いてくれる。その世界は、川島と中野、そしてリスナーの三人しかいない「安全地帯」だ。
昨年2月、BBSの二人にインタビューをさせてもらった際に印象的だったのは、川島の「頼れるアーティストとして居続けたい」「聴いた人にとって、何かあったときには立ち戻れる場所となるような『人生のマスターピース』を作りたいし、それを更新し続けたい」という強い意志だった。表題曲では、<Wait I'm here always, brighter than sunshine>(いつだってここで待っている、僕は、太陽よりまぶしく輝きながら)と歌われ、2曲目“STARS AND CLOUDS”の1行目では、<Whatever road you walk along / I'll go with you>(君がどんな道を歩もうと 僕も一緒に進もう)と歌われる。このアルバムを聴いて、そして川島の娘が出演する“LAY YOUR HANDS ON ME”のMVを見て改めて確信したのは、「生命と音楽。どちらも未来へと繋がっていくものであり、自分が生きた証として永遠に残るものである」ということ。たとえBBSの活動がここで止まってしまったとしても、彼らが残した「人生のマスターピース」となり得る楽曲たちは、いつだってリスナーが暗闇に陥ったときに光を注いでくれるような、「頼れるもの」として存在し続ける。
流れに身を任せて、すべてを手放すことで、前に進む
“LAY YOUR HANDS ON ME”のMVを見たときに感じ取った、川島と中野にしか伝えられないもうひとつのメッセージは、「人間にはコントロールできないものがある」ということだった。生命の始まりや終わり、運命と呼ばれるもの、そして草木や太陽や海といった自然の動き。いくら科学やテクノロジーが発展したって、どうにもならないことが、この世には山ほどある。それを知り尽くした上で、川島は次のように歌う。
Let it go
Move on
Let's go way out
Spaced out
Spaced outそれを手放して
前に進むんだ
道から大きく外れよう
心を空っぽにして
道から大きく外れよう
MVを見て感じたそのメッセージが確信に変わったのは、レコード会社からもらった関係者用の歌詞資料を見たときだった。その資料には、ミスプリントがあった。詳しく書くことは伏せるが、歌詞を書く段階のメモのようなものが印刷されていて、“STARS AND CLOUDS”のページに「Icarus(イカロス)」という言葉が記されていた。イカロスとは、人間の傲慢さやテクノロジーを批判する物語として語られるギリシア神話の登場人物である。BBSは、テクノロジー批判を訴えようとしているわけではないかもしれないが、「人間は、自然の原理には勝てない」ということを前向きに受け入れた上で、科学やテクノロジーには生み出せない「神秘性」を人間は持っているということも伝えながら、どうにもならない戦いやもがきに疲弊した人々を解放してくれているように聴こえるのだ。
テレビ番組と意見広告ポスターからも伝えられた、2つのメッセージ
3曲目“FLARE”では、言葉にならない川島の声を音色に変えて、繋ぎ合わせたり、何層にも重ね合わせたりすることで、美しいコーラスワークを紡いでいる。そこにストリングスやシンバルの音が混ざり合い、まるで教会で歌われるゴスペルのような「祈り」が聴こえてくる。二人は何を祈っているのか?――それは、6月10日に放送された『NEWS ZERO』で、川島が絞り出すような声で発した言葉がすべてのように思う。
「健康第一で」
「周りの人を幸せに」
アルバムを締めくくる“NARCOSIS”は、まるでBBSという26年間のストーリーの最後を彩るエンドロールのようだ。川島の声が鳴り響く中、BBSらしい鋭さとたくましさのあるビートが入り、美しいシンセの旋律が走馬灯のように流れる。ラストには、また雑踏音を入れることで、BBSの二人が背中を押しながらリスナーを日常生活へと送り出してくれるようなサウンドスケープを描いている。この約6分間の楽曲に込められているのは、いつだって音楽を通して聴き手の人生に少しでも革命を起こそうとしてきたBBSからの、リスナーと、音楽そのものに対する、「感謝」なのかもしれない。
タワーレコードのポスター意見広告「NO MUSIC,NO LIFE.」
BOOM BOOM SATELLITESにとっては、「人生がなければ、音楽はない」だった
「NO MUSIC, NO LIFE」とは、直訳すると「音楽がなければ生きられない」という意味だが、BBSが26年間生み出してきたロックミュージックとこのフレーズが重なり合うと、異なる意味合いが浮かび上がってくる。昨年2月のインタビューで、中野が「今までも僕たちは音楽と人生をセットにして生きてきて、人生を切り売りしながらそのときに見いだしたいものを作ろうと思って取り組んできました」と語ってくれた通り、BBSの音楽とは「人生がなければ、音楽は生み出せない」と言えてしまうような、切実なライフミュージックだった。彼らは、稀有な人生を歩みながら、その時々の経験や感情を、妥協なきクリエイティブ精神をもとに、緻密なサウンドプロダクションと言葉に変えてきた。そうすることで、誰も見たことのない情景を描いてくれていた。そして、その情景には、いつだって希望と救いの光が溢れていた。
その光は、BBSの楽曲を再生するたびに溢れ出る。どんなときだって、薄暗い目の前を明るく照らしてくれる。この先も、ずっと、ずっと。
「BOOM BOOM SATELLITES、残酷な運命から希望を描いた傑作」(CINRA.NET掲載)より 撮影:豊島望
- リリース情報
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- BOOM BOOM SATELLITES
『LAY YOUR HANDS ON ME』初回限定盤(CD+Blu-ray) -
2016年6月22日(水)発売
価格:3,950円(税込)
SRCL-9106/7[CD]
1. LAY YOUR HANDS ON ME
2. STARS AND CLOUDS
3. FLARE
4. NARCOSIS
[Blu-ray]
・ハイレゾ音源データ
・MP3音源データ
・“LAY YOUR HANDS ON ME”“STARS AND CLOUDS”PV
※平間至によるBOOM BOOM SATELLITES撮り下ろし写真集、ポスター型ディスコグラフィー付属
- BOOM BOOM SATELLITES
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- BOOM BOOM SATELLITES
『LAY YOUR HANDS ON ME』通常盤(CD) -
2016年6月22日(水)発売
価格:1,500円(税込)
SRCL-91081. LAY YOUR HANDS ON ME
2. STARS AND CLOUDS
3. FLARE
4. NARCOSIS
- BOOM BOOM SATELLITES
- プロフィール
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- BOOM BOOM SATELLITES (ぶん ぶん さてらいつ)
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1997年ヨーロッパでデビューした中野雅之、川島道行からなるロックユニット。エレクトロニックとロックの要素を取り入れながら、新しい未知の音楽を創造し続ける日本屈指のクリエイターユニット。ヨーロッパでリリースされた12インチシングルをきっかけに、UK音楽誌『Melody Maker』は、「The Chemical Brothers、The Prodigy以来の衝撃!」と報じたことをはじめ、多くのメディアに大絶賛される。2004年には映画『APPLESEED』の音楽を担当、その後もリュック・ベッソン監督の映画『YAMAKASI』やクリストファー・ノーラン監督『ダークナイト』で楽曲が起用されるなど、デビューから現在に至るまで映像クリエイターやアーティストに絶大な人気を誇り、楽曲提供やリミックスのオファーが絶えない。2015年2月4日、9枚目のアルバム『SHINE LIKE A BILLION SUNS』を発表し、その作品性が高く評価された。
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