ストリーミングで音楽を聴くことが主流になり、SNSでは個人が自由に表現し発信できるいま、ミュージシャンとして成功するルートは以前より多様になっている。そんななか「音楽を仕事として生きていく」ために、本当に必要なものは何か?
このインタビューでは、東京都港区台場で生まれ育った5人の幼馴染みによって結成されたヒップホップクルー・Normcore BoyzのメンバーGucci Princeに、ラッパーとして生きていくためのマインドチェンジ、さらに彼を支える仲間の存在について聞いた。
また、彼の2nd EP『HEROES』はLINEが運営するするデジタル音源流通サービス「SOUNDALLY」からリリースされる。グローバルを視野に入れた、ストリーミング時代におけるアーティスト活動のあり方についても語ってもらった。
「音楽を仕事にして生きていく」ことを志すまで
─いきなりストレートな質問になりますが、Gucciさんにとって音楽で食べていくことはリアルな現実になっていますか?
Gucci Prince(以下、Gucci):正直、余裕で生活できているわけでもないですが、リアルではありますね。余裕ではないけど、メンタルやマインド的には余裕みたいな(笑)。
─音楽、ラップで食っていきたいと思うのは早かったですか?
Gucci:どうですかね? 中学3年のときに先輩(Young Dalu)から誘われてフリースタイルでラップを始めたんですけど、しばらくはサイファーしかしてなかったんです。
ヒップホップっていろんなスタイルがありますけど、俺はべつにサグなこと(悪いこと)をやっていたわけでもないですし、お台場のいろんな景色を見ながら普通にラップしてるという感覚がまずあって。ティーンエイジャーらしく、ただ楽しいことをやっていたという感じでした。そこからだんだん周りの仲間たちに「ラッパーなら音源出せば?」って言われて。
Gucci:当時は音源制作の知識が全然なかったんですけど、たまたま実家のマンションの3階上にエンジニアの方が住んでいたので、その方の力を借りて試行錯誤しながら制作を始めました。俺よりクルーの仲間のほうが順調に曲をつくっていたから「なんでみんなこんなに早くつくれるんだ?」って焦ってましたね。めちゃくちゃ考え込んじゃうので、書き上げるまでに時間がかかるんです。
─制作初期のビート集めはどのように?
Gucci:YouTubeに上がってるタイプビート(インストのビート音源)ですね。俺らが制作を始めたころはタイプビートが主流でした。そこが俺らの世代の特徴の一つなのかなと思います。
─イメージしたビートをネットで探してすぐアクセスできる。
Gucci:そうっすね。だからいまから音楽やるなら、ラッパーは始めやすいと思います。
生まれ育ちながらも抱く、地元・お台場との絶妙な距離感
─Normcore Boyzはお台場発のクルーというフッド自体のフレッシュさも注目される一つの要因になっていました。お台場で生まれ育ったからこそ培われたヒップホップ感、ラップ感みたいなものに自覚はありますか?
Gucci:どうなんだろう? 自分ではよくわかってないかもしれないです。
中学まではずっとお台場のなかで生活していて、高校生になって初めてお台場の外の世界を見たんですね。お台場が特殊というか、お台場以外の場所がすごく新鮮に感じました。
Zepp TokyoとZepp DiverCity が地元にあるけど、ライブを観に行くことはなかったし、Zeppに初めて行ったのはZepp DiverCityで開催されたBAD HOPさんのツアーにショーケースライブで出演させていただいたときでした(2019年6月)。
─イベントに遊びに行くのは渋谷とかのほうが多かった?
Gucci:ほとんど渋谷でしたね。お台場のイベントは本当に行かないな。『ULTRA JAPAN』ですら行ったことないですもん(笑)。
─その距離感も面白いですよね。地元で大きなイベントやってるな、みたいな。
Gucci:そう、ちょっと気になるけど行かないっていう。
「将来的に、ずっと日本でヒップホップをやっていきたいわけではないんです」
─中高生のころ、仲間内ではどういう曲を聴いてたんですか?
Gucci:当時、俺らのなかで特にフレッシュなのがKOHHさんでした。ラッパーとして最先端だけど表現のオリジナリティがあるのがすごくて。KOHHさんをきっかけに周りがUSのヒップホップを聴き始めて、俺も追うようになりました。
あとKANDYTOWNもめっちゃ好きでした。Normcore Boyzとして中3から高1くらいのときにつくった曲は、KANDYTOWNから受けたインスピレーションが大きかったです。でもいまは、ヒップホップに囚われたくないと思っていて。
―というと?
Gucci:将来的に、ずっと日本でヒップホップをやっていきたいわけではないんです。最終的な目標は『グラミー賞』を獲ることなので。だからこそまずはヒップホップを飛び越えて、メインストリームまで届くような音楽をやりたいんです。
─ラッパーではあり続けたいけど、音楽的にはヒップホップの枠組みを超越したい?
Gucci:そうですね。たとえばPUNPEEさんのようなあり方に憧れるし、リスペクトしてます。
─新作のEPもビートの振れ幅が前作よりもさらに広くなってますよね。
Gucci:かなり広いと思います。いまあらためて思うのが、自分はファンクをはじめブラックミュージックが好きなんだなって。お台場の仲間たちのあいだで、Kool & the GangとかIsley Brothersなどのソウルミュージックが流行っていたときがあって。
─2世代くらい上の人たちはレコードをディグっていたんだろうけど、Gucciさんたちの世代はきっとYouTubeやストリーミングで掘るという感じですよね?
Gucci:間違いないっす。レコードも欲しいんですけどね。気づいたときにはストリーミングがあったので。小学生のときにギリCDを買ったことがあるくらいなんです。
ソロになってより強く感じる「音楽が自分の生きがい」
─10代で注目を浴びたクルーとしての活動を経て、今作がソロ2作目。ここまでかなりのスピード感だったんじゃないですか?
Gucci:自分ではよくわからないけど、そう言われることがありますね。でも、自分では少しずつ成長してるくらいにしか思えなくて。100あったらやっと0.8か0.9くらいつかめたような感覚です。
─いまのGucciさんにとって、曲をつくることは生きがいだといえますか?
Gucci:生きがいですし、自分自身を最も表現できる方法ですね。曲をつくることが生き様やライフスタイルも含めて一番手っ取り早く自分を伝えられる。
─その思いはソロラッパーになってより明確になったんじゃないですか?
Gucci:間違いないです。去年の8月に最初のEP『Mr.Grazy』をリリースしたときは「クルーに所属しながらソロを出した」という感じだったので。
Gucci:いま思えば、クルーがぶつかったりしたのも必然だったのかなと思うところもあって。同じ両親の元から生まれたわけじゃないですから。個人がそれぞれしっかりしてないとクルーは大変なことになってしまう。だからこそ、グループとしてずっと活動されている方々は本当にすごいと思います。
─今作は前作よりもグッとエンターテイメント感が強くなっているし、”Prologue“のスキットで<コロナを救ったのは音楽であった><Gucci Princeのもとに集まった戦士たち>というコンセプトが述べられてます。
Gucci:コロナで変化したことはいろいろあるんですけど、焦ってるわけではないというか。コロナのこの環境下で、どう「上手くやろうかな」ということしか頭にないですね。
─ポジティブな発想を持とうと努めている?
Gucci:そうですね。ネガティブなことは考えないです。
─あとは今作には全曲に客演を迎えているところも大きなポイントですよね。Gucciさんと同世代の若手からDABOさんのようなベテランまで。世代間のギャップも楽しむという内容になっている。
Gucci:そうっすね。幅広い世代の客演は意識しました。
─沖縄の新世代クルー、SugLawd Familiarを迎えた“CHATAN feat. SugLawd Familiar”もいいですね。彼らは高校を卒業したばかりなんですよね。
Gucci:最初は沖縄ローカルのテレビ番組でSugLawd Familiarが紹介されてる動画を見て面白いなと思ったんです。スタイルはオールドスクールな感じだし、レゲエっぽい“Longiness (feat. OHZKEY & Vanity.K)”を聴いて一緒にやってみたいと思いました。
Gucci:SNSをフォローしたら、向こうもNormcore Boyzの曲をめちゃくちゃ聴いてくれていたみたいで。そこで意気投合して、沖縄に用事があるときに会いに行きました。実際に会ってもすごく面白い子たちでしたね。沖縄の自然や景色を見てフィールしたことをラップして曲にしていて。その感じがお台場の俺らと似てるところもあるなと思いました。
─”Beacon Part Ⅱ feat. 鎮座Dopeness, Kick a Show“の鎮さんもさすがです。
Gucci:鎮さんはNormcore Boyzの初期から仲良くさせてもらっているんですけど、本当にヤバいっすね。声だけじゃなく、立ち居振る舞いもすべてにおいてグルーヴィーだなって思います。生き様そのものがグルーヴィーというか。すごく憧れます。
俺はジャンルや世代に固執してないからこそこのEPでもいろんなラッパーやプロデュサーと一緒に曲をつくれたし、せっかく音楽をやってるからもっといろんなタイプの曲をやりたいと思ってます。
「最終的にはバンドをやりたいんですよ」
─先ほどの話と通じるポイントですね。
Gucci:そうですね。最終的にはイギリスに住みたいと思ってるんですけど、それなら若いいまのうちにメインストリームにカチコミたいなって。そのためにはラッパーと呼ばれなくてもいいと思ってるんですよ。「アーティスト」がいいなって。
カッコいいラッパーの先輩はいっぱいいるし、ラップは続けるとは思うんですけど、極論を言えばラッパーである必要はないと思う。いま、ポップに食い込んで成功している方々はいろんな表現に挑戦してるじゃないですか。PUNPEEさんも根本にヒップホップがありながら、ラップと歌の境い目がないような曲をつくったりしているし。俺、最終的にはバンドをやりたいんですよ。
─へえ!
Gucci:個人的には、音楽の到達点ってバンドだと思っていて。バンドを組んだらいろんなプレイヤーが集まるし、生音を鳴らせるじゃないですか。だから自分のなかでの音楽の到達点はバンドになりました。
最近だと『フジロック』のライブ配信でTempalayやmillennium paradeを見たんですけど、バンドでこんなにいろんな表現ができるのはすごいと思ったんです。俺もジャンルに囚われない本当のオルタナティブな音楽をやりたいと思いました。そのときはGucci Princeという名前じゃないかもしれない。いまはいいけど、ちょっとかわいすぎるなと思うので(笑)。
─今後いろんな音楽性にアプローチするにしても、Gucciさんはがなるようにスピットする力強いダミ声が武器であり続けると思います。
Gucci:武器にしていきたいですね。Normecore Boyzの昔の曲ではオートチューン使っていたんですけど、ずっと違和感があったんです。それで、あるときにオートチューンを外して歌ったんですよ。「もう叫んじゃえ!」ってラップしたら、がなれるって気づいたんです。そのとき初めて、自分にはこういう可能性があるんだって思えました。
これから音楽を始めたい人へ。「ときには仲間を頼ることも大事」
─今作はLINEが運営する、世界各国の音楽配信サービスに楽曲を配信できるデジタル音源のディストリビューションサービス「SOUNDALLY」からリリースされます。アーティストとして、こういったディストリビューションサービスと契約するメリットをどのように感じていますか?
Gucci:「こんなにアーティストのことを助けてくれるんだ」って思いました。配信費用や手数料がかからないだけでなく、制作面もサポートしてもらえるし、今後やりたいことも導き出せそうだと思っています。「LINEすご」って思いました(笑)。
─SOUNDALLYは金銭面だけじゃなく、メンタル的にもサポートしてくれるんですよね。
Gucci:それもいまの時代にすごく合ってるなって。アーティストってそれぞれ感性が独特な人たちばかりだからメンタルヘルスもケアしてもらえるのは重要だなと思います。
─これから音楽を志す人にGucciさんからの声をかけてあげるとすればどんなことがありますか?
Gucci:これから音楽を始める子がどんな音楽をやりたいかですよね。それが定まってるんだったら、どんどん曲をつくって録音して試行錯誤してほしいなと思います。
かつ周りに仲間がいたらいいんじゃないですかね。ときには仲間を頼ることも大事なので。ただ、最後は個人の勝負なのでその意識は忘れないほうがいいと思います。
音楽のなかでもラップは始めやすいと思います。機材も揃えやすいし。いざやるとハードなこともいっぱいあるけど、SNSとかで一気にバズる可能性も秘めている。スピード感を持ってバンドでも曲をつくれるようになるのがいまの目標ですね。
- リリース情報
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Gucci Prince
『HEROES』
2021年10月8日(金)配信
1. Prologue
2. FXXKED UP feat. week dudus, Tade Dust & Bonbero
3. 地獄 feat. 釈迦坊主, Spada
4. CHATAN feat. SugLawd Familiar
5. GAP feat. DABO
6. Bacon Part II feat. 鎮座Dopeness, Kick a Show
7. Fake Mandem Remix feat. week dudus
8. NADESHIKO feat. KOWICHI, Merry Delo / Prod. ZOT on the WAVE & dubby bunny
- サービス情報
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『SOUNDALLY』
SOUNDALLYは持続可能なアーティスト活動を支援するためのLINEが2021年秋冬より新たに運営するデジタル音源流通サービス。インディペンデントアーティストや個人で活動するアーティストが配信費用0円かつ曲数無制限で楽曲をデジタルリリースすることができます。
- プロフィール
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- Gucci Prince (グッチプリンス)
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東京都港区台場で生まれ育った5人の幼馴染みによって結成されたヒップホップクルーNormcore Boyzのメンバーとしてデビュー。2021年にクルーを脱退し、現在はソロとして活動中。
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