2001年のアメリカ同時多発テロ、2011年の東日本大震災、2020年の新型コロナウイルスの流行など、幼少期から激動の時代を生き抜いてきたZ世代。
2001年生まれの三人組によるメロディックパンクバンドOWlのメンバーは、まさにその世代の当事者だ。10代最後の1年をコロナ禍に奪われ、音楽活動もややスローダウンしていたかれらが、その鬱々とした気分を蹴っ飛ばすような痛快な1stアルバム『KICKASS』をリリースした。
ポップで瑞々しいメロディーと、疾走感あふれるリズムセクション。ボーカル&ベースのリコによる、聴き手の心を射抜くようなパワフルかつストレートな歌声が届けるのは「ヒーローの登場なんて待っていられない / 自分自身で変えていくんだ」(“Morning”)というポジティブかつ力強いメッセージ。失われた日々を振り返る時間さえ惜しむような、未来への希望に満ちた言葉が随所に散りばめられている。
OWlは、なぜここまで前向きな歌を歌うことができるのか。そのヒントは、自分のなかにある多面性を認め、そのときどきの「素直な」モードを打ち出していく柔軟さに宿っているのかもしれない。メンバー三人にじっくりと話を聞いた。
コロナ禍の「モッシュ炎上」に何を思う?
―三人は2001年生まれですよね。その年にアメリカ同時多発テロが、10歳のときには東日本大震災があり、10代最後の1年である昨年には新型コロナウイルス感染症が世界中に広がるなど、まさに激動の歴史を歩んできた世代だと思うのですが、そのことがみなさんの生き方や考え方に何かしら影響を与えていると思いますか?
リコ:どうだろう……テロや震災については意識的に考えたことはないけど、言われてみれば無意識には何かしら影響はあるのかもしれない。でもコロナの影響は、私自身の生き方にもOWlの音楽性にも確実にあると思います。
KABUKUN:卒業式とか、ぜんぶ潰れてしまったしね。
たいよー:10代最後の1年をコロナで台無しにされてしまいました。自分は高校を卒業したらデザインの専門学校へ進学するつもりだったのに、コロナのせいで学校にも行けなければ、外へ遊びに行くことすらできないというかなりしんどい期間が何か月も続きましたね。
加えてOWlがやっている「メロディックパンク」というジャンルは、受けるダメージがとくに大きいと思います。ぼくらはモッシュやダイブなどの文化にも憧れていたのに、コロナのせいでまったくできなくなってしまったのは、本当につらいです。
リコ:少し前に、とあるバンドのライブで、コロナ禍にもかかわらずモッシュやダイブが起こっていて、その様子をお客さんがSNSにアップしていたんです。それを知ったとき、本当に正直な気持ちを言うと「羨ましい」と感じてしまったんですよね。
もちろん時世的にけっして褒められることではないし、結果的にその投稿は炎上してしまいました。ただ私には、批判する人の気持ちもわかるんだけれど、ライブを楽しんでしまった人の気持ちもわかるなと、不謹慎ながら思ってしまったんです。
KABUKUN:もちろん、充分な感染対策を取らずにライブを実施したことが正解だとは言えないと思います。だけど「それは間違っている」と断言できない自分もいて。
こんな未曾有の出来事のなかでは、何が正解なのかわからない。一つ言えるのは、お店の経営やお客さんのフラストレーションも限界まで来ている状況下で起きたことをSNSで晒して、吊し上げている空気がすごく嫌だなと。そういう複雑な気持ちは、今回のアルバム『KICKASS』のなかでも歌詞にしていますね。
―「賢者にも正義の味方にもならずに / 普通の人なんだから」「比べなくても、あなたはあなたのまま / 心のままに踊ればいい」と歌う“Survive”は、コロナ禍で起きている対立や分断についての楽曲ですよね。
KABUKUN:はい。まさにそれが、その炎上騒動を見て思ったことを書いた歌詞ですね。
いまって「こんなこと言ったら否定されるんじゃないか?」とみんな萎縮してしまっていて、自分の意見がなかなか言いにくい世の中じゃないですか。いろんな意見があると思うけど、まず否定から入るのではなくて「そういう考えもあるよね」と認め合ったりできる世の中になるといいですよね。まあ、まずぼくら三人でそれができるようにならなきゃダメだけど。
リコ:しょっちゅう言い合いしているもんね(笑)。
同世代では珍しかった「テンポの速い英詞バンド」誕生まで
―みなさんはもともと、どんなきっかけで音楽に目覚めたのですか?
たいよー:物心ついたころからずっと、親が車のなかで流しているGreen DayやZebraheadなど海外のパンクバンドを聴いていました。そのうち自分でもYouTubeなどでラウド系のバンドを掘っていくなかで、自然とバンドがやりたくなって、高校生のときにギターを始めました。
そのころはとくに1970年代のロンドンパンクやニューヨークパンクにハマっていて、彼らが持つ初期衝動や反骨精神、ファッションなどに惹かれていました。いまメロディックパンクが好きなのもその延長だと思います。
リコ:私は小学生のころから音楽が好きで。バンドにハマったのは、中一のときにWANIMAを聴いたのがきっかけです。いままで自分が聴いてきた音楽と全然違っていたというか、思っていることをストレートに表現した歌詞の世界に惹かれて。そこからいろいろなバンドを聴くようになっていきましたね。
KABUKUN:うちは親が趣味でバンドをやっていて、母親がドラムの練習をしているのを見て「ぼくにも叩かせて!」と真似したのが最初のドラム体験でした。
本格的に練習し始めたのは、小学校の中学年くらいから。バンドを組んで、[Alexandros]やRADWIMPSのコピーなどをしていたのですが、高校で軽音楽部に入って、リコたちとOWlの原型になる4人組バンドを結成しました。
―その後オリジナルメンバーの方々が脱退され、たいよーさんがOWlに加入したのは昨年12月。そのころにはすでに『TEENS ROCK IN HITACHINAKA 2019』でグランプリを獲得するなど、注目を集めていましたよね。
KABUKUN:高校三年生のときに『TEENS ROCK』でグランプリを獲って、そのあとすぐ『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』にも出させてもらいました。でも別に「俺らはすげえバンドだ」とか、全然思っていなくて。
リコ:むしろ同じ軽音部の人たちが出ているような大会だと、私たちは全然評価されていなかったんですよ。
KABUKUN:予選落ちとか普通にあったしね。
たいよー:でも、外から見ていたぼくからしたら羨ましかったよ。自分はテンポの速い英詞のバンドがずっと好きだったけど、それを同い年でやっているのはOWl以外に見たことがなかったし。
マイケル・ジャクソンやスティーヴィー・ワンダーも参照し、模索したオリジナリティー
―そしてこのたび、1stアルバム『KICKASS』がリリースされました。 オーバーダビングもほとんどなく、ライブでの再現性を重視した「三人だけのアンサンブル」にとてもこだわっていますよね。
リコ:そこは結成時からずっと変わっていないところですね。加えて今回は、「いままでの自分たち」とは違った面を見せられるよう、こだわりました。
活動初期は私がメロコアから受けた影響をそのまま出していた曲が多かったのですが、今作ではその良さを残しつつもKABUKUNやたいよーくんが持ち寄った要素を入れたことで、いままでにないサウンドが生まれたのではないかと思います。
KABUKUN:自分はパンク以外の音楽からの影響を大切にしましたね。何も考えずにやるとどうしても似た曲になってしまうと思うので、昔から好きでよく聴いていたマイケル・ジャクソンやスティーヴィー・ワンダーの楽曲からヒントをもらったり、Maroon 5を聴いて半音で下がっていくコード進行を取り入れたりしていました。
―なるほど。そうやって一曲のなかに異なる要素を融合させることによって、OWlにしかないオリジナリティーが生まれているのかもしれないですね。
リコ:そう思います。英語詞なので、より心に残るメロディーが必要だなという気持ちもあります。
同世代の海外アーティストとも共鳴する、社会への問題意識の持ち方
―今作には「いつも負けてばかりで実感がない」と歌う“Remember”のような楽曲もあって、疾走感あふれるメロディーと歌詞のコントラストが作品に深みと広がりを与えていると思いました。
KABUKUN:ありがとうございます。ぼくは明るい人だと思われることが多いのですが、じつは結構マイナス思考なんですよね。「やろう」と思ってたことが上手くいかないこともたくさんあって。
OWl“Remember“をSpotifyで聴く(Apple Musicはこちら)
―一方、同じKABUKUNが作曲した“Free”では「自分らしく」と歌われていて、後ろ向きな自分も、前向きな自分も、どちらも偽らざる気持ちだと捉えているような感覚が伝わってきます。
リコ:私もつねに「素直でいよう」と心がけています。それはバンドメンバーに対しても、普段一緒にいる友人に対してもそう。カッコつけなくてもいいところはカッコつけず、自分らしさが出せるようになりたいです。
―例えば皆さんと同い年のビリー・アイリッシュなどを見ていても、社会から求められる一つの像に囚われず、自分のなかにある多面性を認め、そのときどきの「素直な」モードを打ち出していく柔軟さを感じます。皆さんは同世代のアーティストたちと、音楽性は違えど社会に対する問題意識で、何かしら共感するところはありますか?
たいよー:社会に対し、OWlとして積極的にアクションを起こしたことはないですが、個々人として社会問題についての関心は当たり前に持っているのかなとは思いますね。ネットに強い世代ならではなのかもしれません。
KABUKUN:例えばBLM(ブラック・ライブズ・マター運動)についての解説がテレビのニュースでやっていたときに「こういった問題を考えることは常識だけどな」と思ったことはあります。差別や社会環境についての問題意識が、小さいころから自然と身についているというか。
KABUKUN:あと、自分たちよりも上の世代と比べると、ぼくらの世代は優しくて穏やかな人が多い気がしますね(笑)。例えばライブで対バンしたときとか、一緒に打ち上げをやると「バンドはこうあるべき」みたいなルールが、上の世代は結構あるんだなと感じることがあります。
ぼくらにはそういう感覚は正直全然ないし、「後輩に舐められたくない」みたいな感覚もよく理解できなくて。もちろん音楽では舐められたくないですけど。「先輩としての威厳を保とう」みたいな意識は、上の世代と比べると少ない気がしますね。
リコ:上下関係とかもあまり気にしてないよね。先輩には礼儀正しく接するようにしていますけど、下の世代にもそれを求めているわけではまったくないし、もうちょっとゆるくやりたいという気持ちはあります。OWlはゆるゆるのバンドなので(笑)。
―まだまだ予断の許さぬ状況が続きますが、今後についてはどのような抱負を抱いていますか?
たいよー:近々、ぼくらが高校のころから聴いていた憧れのバンドのオープニングアクトを務める予定もあるので、来年はそういうバンドたちと、「オープニング」ではなく「共演」してもらえるように日々精進します。
KABUKUN:これからもいろいろな場所でライブをやって、その先々で知り合ったバンドを集めて数年後には自分たちでサーキットイベントを開催できるくらいの存在になりたいですね。
リコ:そうだね、いつか自分たち主催で野外フェスも開きたい!
OWl『KICKASS』をSpotifyで聴く(Apple Musicはこちら)
- リリース情報
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OWl
『KICKASS』(CD)
2021年10月13日(水)
発売価格:2,530円(税込)
REBI-0001
1. Free
2. Remember
3. Morning
4. ONE
5. Shooting
6. Age
7. Breeze
8. Survive
9. Dazzling
- プロフィール
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- OWl (あうる)
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綺麗なコーラスワークと哀愁全開のメロディーを兼ね備えた東京の2001年⽣まれ男⼥混合3ピースメロディックパンクバンド。メンバーはBa.Vo / リコ、Dr.Cho / KABUKUNと昨年12⽉に加⼊したGt.Cho / タイヨー。2020年Eggs年間アーティストランキングでは1位、年間楽曲ランキングTOP10にも3曲がランクイン。オンラインCDショップで販売したデモ⾳源2種もバカ売れし、追加分もすぐ完売するなど注⽬のバンド。2021年8⽉に発売したEPも各地好調により10⽉13⽇(⽔)にはOWlが⽴ち上げたレーベル「REVOLBIRD Records」より初の全国流通盤の9曲⼊りアルバム『KICKASS』の発売が決定している。それに伴ない初の東名阪ツアーの開催も決定。
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