メイン画像:オリヴィア・ロドリゴ
「これは一過性じゃない、ライフスタイルなんだ」
「世界は、もう一度ロックンロールを迎えようとしている」。これは、All Time Lowのボーカリスト、アレックス・ガスカースによる1年前の予見だった。
ポップパンクが全盛を極めた2000年代のアメリカで結成された同バンドは、EDMやラップが勢いを増してジャンル人気が低下した2010年代以降も、ポップパンクシーンへの忠誠を貫いてきた。そんななか、2020年の楽曲“Monsters”がキャリア最大級のヒットを記録したことで、アレックスはポップパンク・リバイバルの機を見たのである。そしてそれは、彼自身の楽曲をもって、即座に叶えられた。
「Mom, It was never a phase, it's a lifestyle!(ママ、これは一過性じゃない、ライフスタイルなんだ!)」。若者たちがそうシャウトしてAll Time Lowの2007年の楽曲“Dear Maria, Count Me In”を歌う動画が2020年末よりTikTokで流行したのだ。
All Time Lowの2007年の楽曲“Dear Maria, Count Me In”がバイラル化するきっかけとなったTikTokの投稿
この「ライフスタイル」宣言は、何よりも相応しい表現だったかもしれない。2021年に本格化したポップパンク・リバイバルは、音楽チャートからファッション領域にまで至っている。
まず、ポップアーティストであるオリヴィア・ロドリゴの“good 4 u”が、Spotifyより今年の「ソング・オブ・サマー」認定を授かり、2021年最大級のヒット曲になった。この曲は、2000年中盤から活動するポップパンクバンド・Paramoreの空気感を帯びたポップパンクチューンだ。
そんなオリヴィアを筆頭として、R&Bアーティストとして知られてきたWILLOWからTikTokスターのLILHUDDYまで、いま現在、Z世代スターの多くがポップパンクの美学に傾倒している。
全米1位、今年を代表するヒット曲になっているオリヴィア・ロドリゴ“good 4 u”。Paramoreの楽曲との類似性が指摘されたのち、作曲クレジットにメンバー2人の名前が追加された
WILLOWは今年7月にポップパンクアルバム『lately I feel EVERYTHING』をリリース。blink-182のトラヴィス・バーカーも参加したアヴリル・ラヴィーンとのコラボ曲“G R O W”も収録
ティーンのあいだで流行する「Y2Kムーブメント」との共鳴
一見、唐突に思えるかもしれない2020年代のポップパンクへの熱狂は、現在のユースカルチャーの潮流を考えると自然な帰結とも言える。
近年、アメリカのティーンたちのあいだでは、音楽だけでなく2000年前後の大衆文化そのものが人気を博している。2000年代前半が全盛期とされるポップパンクは、ファッションやアートワークも含めるかたちで、この「Y2Kムーブメント」に上手くハマったわけだ(※「Y2K」は「2000年」を指す略称)。
「Y2K」カルチャーの空気感としては、大御所ポップパンクバンドblink-182のドラマー、トラヴィス・バーカーが参加したデミ・ロヴァートの2020年作“I Love Me (emo version)”リリックビデオがわかりやすい。ここでは、ポップロックな演奏とともに、エモやMySpaceなどの2000年代文化が盛り込まれている。
デミ・ロヴァートによる2020年の楽曲“I Love Me (emo version) ft. Travis Barker”リリックビデオ
また、ポピュラー音楽シーンでポップパンク・リバイバルの大きな契機となったのは、ラッパーとして活動していたMachine Gun Kelly、通称MGKがトラヴィス・バーカーと2020年に制作したポップパンクアルバム『Tickets to My Downfall』の商業的成功だ。
1990年生まれのMGKは、自身が青春時代に愛した音楽の魅力をノスタルジックに発信した立場となるが、バーカーによると、同作を「新しい音楽ジャンルの誕生」と捉えたキッズも多かったという。ある種、ポップパンク・リバイバルとは、懐かしさと新しさの感覚がないまぜとなったムーブメントと言える。
Machine Gun Kelly『Tickets to My Downfall』(Apple Musicはこちら)
2020年代の若者たちは、ポップパンクの何に惹きつけられているのか?
Z世代を惹きつけるポップパンクの魅力としては、悲壮や憤怒、「思春期の失恋=世界の終わり」といった価値観によるダイナミックな感情表現が挙がりやすい。これについては、現在、世代論も交えたさまざまな見識が提示されている。
たとえば、ポップパンクバンドFive Northのフロントマンも務める俳優タイラー・ポージーは、「ポップパンクの愛嬌あるバカバカしさと、深さ、エモーショナルさ、強烈さのバランス」がメンタルヘルス問題に敏感でありながらユーモアも重んじる価値観と好相性である旨を語っている(※1)。
TikTokにて2007年の楽曲“Girlfriend”がリバイバルヒットを迎えたベテラン、アヴリル・ラヴィーンも、隣接分野のエモについてではあるが、俯瞰的な考えを共有している。
「トレンドは移り変わるものだけど、歴史は繰り返す。ほとんどの人が反抗心を持ってると思うけれど、同時にいまは自身の感情やメンタルヘルスについてより正直でオープンになっていっている。だから、いま聴かれているエモミュージックの生々しさに多くの人が共感するのだと思う」(※2)
2002年のデビューアルバムで世界的に大ブレイクしたアヴリル・ラヴィーンはWILLOWのアルバムにも参加
白人男性中心のジャンルから、女性や非白人スターが話題を牽引するジャンルに
現在のポップパンク・リバイバルの要因については、「青春が大きく制限されたパンデミック危機によって激情を叫ぶポップパンク需要が促進された」といったセオリーなど、さまざまな世代論が交差する状況だが、何よりいまの時勢を突きつけるのは、シーンの担い手であるアーティストたちの顔ぶれそのものだろう。
2000年代、ポップパンクといえば「白人男性ばかりのジャンル」というイメージが形成されていた。それがいまでは、女性や有色人種のスターが話題の中心になっている。リバイバルを代表するアンセム“good 4 u”を送り出したオリヴィア・ロドリゴからして2003年生まれのフィリピン系女性だ。
また、R&Bアーティストとして活動してきた2000年生まれのWILLOWは「黒人女性なのにロック好き」だとして学校でいじめられた経緯も持つ。そのため、かつては自身の音楽に関する嗜好をひた隠しにしてきたというが、リバイバル・ムーブメントが活気づいた2021年、前述のポップパンクアルバム『lately I feel EVERYTHING』リリースに踏み切った。
オリヴィア・ロドリゴの1stアルバム『SOUR』(Apple Musicはこちら)
WILLOWの1stアルバム『lately I feel EVERYTHING』(Apple Musicはこちら)
このように、「白人男性ばかりのジャンル」とされたポップパンクは、WILLOWやオリヴィア、そしてラッパーであったMGKなど、ジャンルの外部者とされたスターが参画することで華々しきリバイバルを遂げたようにも見える。しかしながら、多様性の促進を目指した閉鎖性の解消は、近年、パンクコミュニティーの内部でも意識されていたようだ。
たとえば、ポジティブな表現で脚光を浴びる2015年結成の有色人種の女性3人組バンドMeet Me @ The Altarは、当記事冒頭に登場したAll Time Lowのアレックス・ガスカースから称賛と支援を受けてきた。彼女たちとツアーも行なう予定のアレックスはこう語る。
「ポップパンクは、安全な場所でなくてはいけないんだ。ともに集まって、高速な爆音に無我夢中になるために。だから、数年かけてシーンに自浄作用を機能させて、その変化を見せる必要があった」(※1)
彼自身は、いま現在のリバイバル旋風について「型通りのポップパンク」が多いと考えているようだが、同時に、それら新進アクトの育成にも励んでいる。
「とにかく機会を与えて、たくさん曲を書かせて、ツアーに行かせる。そうすれば、彼らのなかから、偉大なアーティストが誕生するはずだ」
リバイバルの立役者、blink-182のトラヴィス・パーカーの存在
コミュニティーの変革を地道に支えたのがアレックスなら、シーンの外側、豪華絢爛なチャートヒット領域でポップパンク再興の土壌を整えた立役者は、前出blink-182のトラヴィス・バーカーだろう。最後に、いまや最も人気な音楽プロデューサーの一人となった彼の仕事にも触れておきたい。
元々、ポップパンク・リバイバルの萌芽は、2010年代半ばに起きたSoundCloudラッパーの台頭にあった。メロディアスなオルタナティブサウンドを愛好するXXXTentacionやTrippie Redd、Lil Peepら若手ラッパーたちとコラボレーションし、ラップとパンクの接近を加速させた人物こそトラヴィスなのだ。「パンクの定義」にこだわらず共作相手が望むポップロックなバイブづくりを柔軟に手助けしていった彼は、EDMやポップを含む幅広い領域で求められるプロデューサーとなった。
Lil Peep & XXXTENTACION“Falling Down (Travis Barker Remix)”MV
「浅く広く」なプロデューススタイルとも言えるが、それも、彼の原点たるパンクへの強い愛と自信があったからこそだろう。なにせ、若手アーティストから「いまのリバイバルがいかに大規模か」熱論されようと、こう一蹴してしまうのがトラヴィス・バーカーなのだから。「ものごとをややこしくするなよ、パンクはいつだってクールだったろ」(※1)。
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