環境活動家グレタ・トゥーンベリの素顔。試写参加者は何を感じた?

地球温暖化を食い止めるために、15歳で自ら声をあげたスウェーデンの環境活動家、グレタ・トゥーンベリ。長い髪の三つ編み、チェックのシャツ、「気候のための学校ストライキ」と書かれたプラカードを抱えて国会議事堂の前でストライキをする姿は、メディアを通じて全世界に広まった。グレタが活動を始めたのは2018年8月20日、それからいままで「未来のための金曜日(Fridays For Future)」の活動は続いている。

そんな彼女の生き方と、ストライキの始まりから2019年の国連スピーチまでの活動を追ったソーシャルドキュメンタリー映画『グレタ ひとりぼっちの挑戦』が公開されている。彼女は映画内で何度も訴える、「一人でもできることはなんでもある」と。

CINRAでは、環境問題に興味はあるけれど、どのように一歩を踏み出せばいいのかわからないという人に向けて、本作のオンライン試写会と環境活動家・清水イアンさんを交えたオンライン座談会を実施した。自分一人から始められる気候変動へのアクションは何か、あらためて考えたい。

映画が伝える、「一人の市民」としてのグレタのありのままの姿

この100年のあいだ、地球の温度はひたすら上がり続けている。冬は以前より寒くなくなり、夏は異常なほど暑くなっている。北極熊が生息する地域の海氷や氷河が溶けてしまうテレビの映像が、他人事に感じられなくなってきた。

このまま地球の温暖化が進むと、世界各地でさらなる災害や生態系の破壊が起こる。すでに生活や住む場所を奪われている人もおり、いままでのような暮らしを続けていけなくなる人はさらに増えていく。その事実を意識するようになったのは、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリの活動がきっかけだという人も多いだろう。

グレタは、スウェーデンのストックホルムに暮らす、18歳。15歳で「気候のための学校ストライキ」を始め、16歳で「国連気候行動サミット」のスピーチを務めたことで瞬く間に世界の有名人になった。

彼女が気候変動に興味を持ったきっかけは、学校の授業でプラスチックによって海が汚染されていくドキュメンタリー映画を見たこと。ショッキングな映像が頭にこびりついて離れず、彼女は菜食主義者になり、飛行機での旅行を断り、家族も含めて生活が一変した。気候問題について論文やニュースなど、できる限りの科学的根拠と事実を調べ始めたという。

そうして、たどり着いた一つの答えがあった。それは、地球温暖化の原因は人間活動によるもの、ということ。人間が日々生み出している温室効果ガスの排出量を少しでも減らすことが、地球温暖化を食い止めるために必要だとグレタは気がついた。

そして、この問題について自分の国の政府が無関心であることに危機感を覚えたグレタは、抗議をするためにストックホルムにある国会議事堂の前で、たった一人で学校ストライキを始めた。

『グレタ ひとりぼっちの挑戦』予告編

映画『グレタ ひとりぼっちの挑戦』は彼女が有名になる前、国会議事堂前に一人で座り込む姿からとらえている。「学校には、行ったほうがいいわ」とアドバイスをする大人、見ないフリをする政治家など、始めの頃は孤独に映ったストライキも、次第にグレタと同世代の若者やベビーカーを押した母親世代など参加者が増えていく光景が映っている。

グレタは、勇敢で強く、活動的な印象があった。しかし、トゥーンベリ家の協力のもと撮影されたという本作は、彼女の日常をありのままに映し、決してグレタが特別な存在でないことを示す。

グレタも私たちと同じ、一人の市民なのだ。ただ、本気で気候変動問題に取り組んでいる。彼女がどうやったら自分の行動に関心を寄せてもらえるのか必死に勉強し、勇気を振り絞ってスピーチをしていることを、映画を通して知る。唯一本音を喋れるという家族とリラックスして過ごす姿はあまりにもピュアで可愛らしく、「どうしてこんなことになったのだろう」とストレスを抱える姿には、報われてほしいと願うばかりだった。

試写会参加者から寄せられた感想でも、「強い発言や怒りをあらわにしている姿ばかりクローズアップされる彼女が、どういう考えを持ち、どんな苦労をしているのか知ることができました」「純粋に子どもたちや地球の将来を考えて行動していると知りました」などがあった。本作はグレタが「特別なヒーロー」なのではなく、私たち一人ひとりにもできることがあるはずだと気付かせてくれる作品なのだ。

「希望も必要ですが、それ以上に、行動が必要なのです」

「希望も必要ですが、それ以上に、行動が必要なのです」。国会議事堂前でストライキを始めて数か月後、グレタは登壇した講演会で、こう締め括った。彼女は論文の科学的根拠や科学者たちの発言をベースに、もっと、世界中の多くの人たちが環境問題に目を向けて、地球規模で向き合わなければならないと、強く言葉を発した。

映画のなかでグレタはフランスのエマニュエル・マクロン大統領やローマカトリック教会のフランシスコ教皇など世界の重要人物たちと対面し、気後れすることなく自分の意見をぶつける。ときには大人たちの中途半端な返事に怒ったり、心ない誹謗中傷を浴びたりして、彼女自身がすり減っていく様は見ているだけで苦しいものがある。

地球と動物と家族を愛する一市民が、いつの間にか気候問題のリーダーとなり、2019年には世界123か国、2,000以上の都市がストライキに関わっている。その、大きなムーブメントを本作はグレタの背中とともに追う。

2019年7月、グレタは飛行機を使わずに、小型船で太平洋を横断し、アメリカ・ニューヨークで行なわれる「国連気候行動サミット」に参加した。彼女はこう訴える。「若者は裏切りに気づき始めています。将来世代の目は皆さんに向けられています。それでも裏切るなら私たちは決して許しません。世界は目覚め始めました。望まなくても変化は起きているんです」

座談会で飛び交った率直な意見。「私たちにできることはなにか」

東京を拠点に、国内外さまざまな場所で活動する環境アクティビストの清水イアンさんも、グレタと同じ2019年の「国連気候行動サミット」に参加していたという。(参考:だから私は声をあげる。気候変動問題に取り組む世界の8人【後編】

「ぼくは大学生の頃に、『緑の世界史』という本を読んで、いかに地球環境が凄まじいスピードで破壊されてきたのかを知りました。子どもの頃から海や森が大好きだったので、決して他人事には思えなかった。読み終えたときには、いますぐやらなきゃいけないと思って、2015年から本格的に活動を始めました。

グレタが活動を始めた2018年頃、ぼくは気候危機に取り組む国際環境NGO『350.org』にいたのですが、当時から、グレタは非常に勇敢だったし、気候問題に対して画期的なアプローチをしてくれたことは素晴らしいと感じていました。彼女の行動や言葉の背景に、こんなにも圧倒的な危機感があったことを、映画を通じてあらためて知りました。自分の生活も、家族も、あらゆることを犠牲にして環境問題に向き合っている。ヨットでアメリカに渡るシーンの壮絶さは、想像以上のものでした」

清水さんと映画を軸に環境問題について語らいたいと座談会に集まったのは、住む場所も、環境活動に対する知識や姿勢もさまざまな面々。

多くの参加者が、「グレタの行動力に感化された。とにかく何か行動しなきゃ」「私たちが動かなければ未来は変わらないんだと気がついた」と、気候変動に対して自分たちができることに関心を寄せたいっぽうで、「自分のできることは些細なことしかないのではないか」「何をすればいいのかわからないし、自分の行動がインパクトを起こせるのかわからない」と率直な意見も飛び交った。

気候変動と資本主義の関係や、環境問題に触れる機会の少なさについて

学生の頃から環境問題に対するアクションに取り組んできた清水さんは、「環境問題に対して何かしよう、と思ってもあまりにも問題が大きすぎて何から始めればいいのかわからないですよね」と同意したうえで、こう話した。

「グレタは、一人でもできることはたくさんある、と言っています。彼女がこれだけ覚悟を持っているのは、歳をとったときに、できる限りのことは全部やったと確信するためだと話していました。生活を振り返れば、個人にできることもあります。たとえば菜食主義者になったり、マイボトルを持ち歩いたり。

ぼくは環境についてこうやって話をして、考えをめぐらせることもアクションの一つだと思っています。実際に、グレタによって多くの人の目が環境問題に向き、あらゆる文化圏で話されるようになったのは素晴らしいことですよね。皆さんにもグレタのように、自由に自分の意見を話してもらえたら良いなと思います」

その問いかけに、話題はいろいろな方向へ飛び交った。例えば、気候問題と資本主義の関係性について。「国の動きは遅いけれども、企業も協力して取り組まなければならない」「国がコントロールしようとすると権威主義の社会になってしまうので、資本主義社会における経済重視の考えを変えていく必要があるのではないか」といった意見が交わされた。

また、問題を考える機会について。清水さんは、「人々が環境問題に触れる機会をもっと増やしたい」と話す。

「グレタの言葉は空想ではなく、科学者の論文や報告書をたくさん読み解いて自分の意見を発信しています。そうした科学的根拠に基づいて問題意識を持てるのは、そうしたことに触れる機会が、メディアや学校などいろんな場所であったから。日本では問題意識を持てる機会が圧倒的に少ないです」

「日々の選択から行動の輪が広がる」。これからどんなアクションを行なっていく?

自分にできることは些細なことかもしれない。それでも、思いつく限りのできることをしたい気持ちは、グレタの強い意志の上に成り立った行動を前にして高まるばかりだ。

清水さんは、座談会参加者に「自分自身で、これからどんな気候変動アクションができると思いますか?」と問いかけた。ここに、参加者たちのアイデアを抜粋する。

・エアコンの温度設定を変える。防寒をしたり薄着にしたり、服装で調整する。

・普段使っている電気は、燃料を燃やして大気中に二酸化炭素を排出している。エネルギーの無駄づかいをせず、節電を心がける。

・移動手段をなるべく公共交通機関にするか、歩いて移動する。なるべくガソリン車は使わない。

・物を買うときに慎重になる。簡易包装をお願いする。

・本を読んだりトークショーに参加したりと、環境のことや、気候変動問題について学ぶ機会を持つ。(座談会のなかで話題に挙がった本は、『Weの市民革命』(佐久間裕美子)、『センス・オブ・ワンダー』(レイチェル・カーソン)、『オーバーストーリー』(リチャード・パワーズ)など)

・環境問題に政策として取り組んでもらうために、気候変動について真剣に考えている政党、議員を支持する。

・環境問題について家族や友人と話してみる。

これに対し清水さんからは、気候変動によりインパクトを与えられる個人の行動として、「家の電気を、再生可能エネルギーを調達している電力会社にパワーシフトする」「食肉を摂取する量を減らす」「木を植えたり、森を守る活動に寄付する」といったアクションが紹介された。

清水さんは、こうしたアイデアについて自分から積極的に実践していくことが大事だと話す。

「どんな行動でも、主体的に行なわなければいけないと思っています。なぜなら、あらゆる行動が環境問題に関わっている可能性が高いからです。

たとえば、どのファッションブランドから服を買うのか。企業の姿勢は、ものづくりや包装にも表れます。使い捨てプラスチックがヨーロッパで規制され、世界的にその流れが広がったのも、もともとは一般市民のボトムアップの取り組みから始まっています。また、どのメディアを購読し情報をシェアするのか、といったことも意識的に行なう必要があると思います。

アクションをするうえで、物事を大きく変化させようと意識することも大事ですが、自分の生き方をどう選ぶのか、ということがそれと同等に大事だと思います。いま行動を起こすことをためらっている人にも、自分が納得いく日々の選択から行動の輪が広がっていき、変革は起こせると信じてもらいたいです」

グレタはいまでも、「未来のための金曜日(Fridays For Future)」の活動を続けている。「一人でも、できることはたくさんある」。日々の暮らしのなかで何かしらできることを模索し、考え、行動することが社会の仕組みの変化につながっていくことを信じて、グレタのように勇敢に行動したい。

作品情報
『グレタ ひとりぼっちの挑戦』

2021年10月22日(金)から新宿ピカデリーほか全国公開
監督:ネイサン・グロスマン
出演:
グレタ・トゥーンベリ
スヴァンテ・トゥーンベリ
アントニオ・グテーレス
エマニュエル・マクロン
アーノルド・シュワルツェネッガー
ドナルド・トランプ
上映時間:101分
配給:アンプラグド
プロフィール
清水イアン (しみず いあん)

1992年1月24日、大阪生まれ東京育ち。世界の森の保護&再生を社会に実装する国際環境NPO weMORI代表。世界の創造力と10代を接続する教育サービスInspire Highナビゲーター。「環境について話そう」をテーマに活動をする環境コミュニティSpiral Club発起人。大学生の頃から環境と教育を2軸に活動。これまでの活動:国際環境NPO 350.org日本支部立ち上げ、創造力を育む超国際的サマーキャンプGAKKO日本代表、J-wave Morning Radio代演など。現場でしか学べないリアルを求め、これまでツバル、アラスカ、メキシコ、ベリーズなどで気候変動に関するフィールドワークを行なってきた。



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