2023年をもってBiSHが解散を発表
12月24日、BiSHが2023年をもって解散することを発表した。
この日、BiSHは午前8時から緊急生配信ライブ『THiS is FOR BiSH』を開催。その終了後に日本テレビ系『スッキリ』との生中継がつながり、セントチヒロ・チッチが「私たちBiSHは2023年で解散します」と発表。「2023年まではBiSHらしく、愛を届けてパーティーをしようという気持ちで駆け抜けていこうと思っています」と告げた。
番組では代表曲“プロミスザスター”を披露し、解散までに果たす4つの約束として「12か月連続リリース」「いままでライブを開催したことのない地域でのホールツアー開催」「主催フェス『BiSH FES.』開催」「ベストアルバム『FOR LiVE -BiSH BEST-』の収益を寄付した全国33都道府県67店舗のライブハウスツアー開催」を告知した。
これまで数々のサプライズやゲリラ的な告知を行ってきたBiSHだが、解散発表で印象に残ったのは、とても丁寧で誠実な、そしてグループの辿ってきた物語を強く意識させるスタンスだった。
12月24日に緊急開催された生配信ライブ
この日のライブを行ったのは東京・中野heavysick ZERO。2015年5月にBiSHが初めてのワンマンライブ『THiS IS FOR BiS』を行った場所だ。
当時のセットリストと同じく代表曲“BiSH-星が瞬く夜に-”を3連続で披露してライブをスタート。その後に披露された曲も2015年の1stアルバム『Brand-new idol SHiT』に収録され当時のライブのセットリストにあった楽曲群だ。フロアには撮影スタッフのほか、その時のチケットを持っていた数人の清掃員(BiSHファンの呼称)が招かれていた。
80人キャパのライブハウスである中野heavysick ZEROのステージはとても狭い。『紅白歌合戦』出場を間近に控えたグループがテレビ番組の生中継でパフォーマンスを披露し重大発表を行う場所の絵面としては、とても地味である。が、人気を得て大衆的な存在になったいま、BiSHのスタート地点をあらためて強く打ち出す意味合いがあったのだろう。
ちなみにこの日の『スッキリ』にはコメンテーターとしてマキシマムザホルモンのナヲも出演していた。対バンツアー『BiSH’S 5G are MAKiNG LOVE TOUR』でも共演していた両者がテレビの同じ画面に映っているのも、なんだか感慨深いものがあった。
グループの足跡を目の当たりにしてきたなかで感じた、BiSHに宿る刹那
筆者が初めてBiSHのライブを観たのはメジャーデビューを直前に控えた約5年前。ステージにはブレイクを前にした破竹の勢いが感じられたし、フロアには闇雲な熱量があった。
その後もたくさんのメモリアルなステージを目にしてきた。たとえば“オーケストラ”を12人のストリングスと共に披露した2016年10月の日比谷野外音楽堂公演。たとえばアイナ・ジ・エンドが「圧倒的な存在になりたい」、セントチヒロ・チッチが「最高のその先へ行くことを約束します」と告げた2017年7月の幕張メッセイベントホール公演。
何度も感じた「渦巻いている熱気に会場のキャパシティーが追い着いていない感覚」については、何度か当メディアにも記事を書いてきた(2018年12月公開「BiSHの熱気に、世間や会場キャパがようやく追いついてきた」)。
サウンドプロデューサーの松隈ケンタが生みだすBiSHの音楽性の大きな特徴は、アグレッシブで切迫感に満ちた曲調にある。そして、アイナ・ジ・エンドが振り付けを手掛けるダンスがパフォーマンスの大きなポイントになっている。
ステージを重ねるごとにそこには肉体表現としての強度が宿るようになっていった。ライブにおいては清掃員たちがその振り付けを共に踊って会場が一つになる光景も当たり前になっていった。
そういう変化を通してメジャーデビュー当初からあった「楽器を持たないパンクバンド」というキャッチコピーに意味が宿ってきた、ということも書いてきた(2019年5月公開「渋谷駅の巨大広告から始まった、BiSHの挑戦。全貌はまだ見えない」)。
こうしてグループの足跡を目の当たりにしてきたなかでもうひとつ感じていたのは、BiSHというグループの魅力が、いい意味でとても刹那的なものである、ということだった。いつまでもあるものではなく、ひょっとしたら次の日にはパッと消えてしまうかもしれない一瞬の輝きにも通じるものを感じていた。
当メディアで筆者が行ったメンバーへのインタビューの数々でも、先のことを考えるよりも目の前のことにまず全力で向き合う姿勢をたびたび感じてきた。
周囲に馴染めなかったり生きづらさを抱えてきたりした過去と、成功を収めた後も変わっていない精神性についても語っていた(2019年9月公開「BiSHが振り返る5年。環境が変わっても、私たちは変わってない」)。
そして、2021年に行った取材では、それぞれソロや個人の活動領域が広がったことによる変化についても語ってもらっていた。バラバラの個性を持った6人が集まったグループとして、いわばMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)におけるアベンジャーズのようなものへとBiSHの位置付けが変わってきたということも言っていた(2021年8月公開「BiSHが真っ白になってぶち壊す 6人の新しい光を手にするために」)。
「有終の美」という言葉がある。ずっと続いていくものではなく、いつか終わりが訪れるからこそ、輝くものがある。BiSHを見ていてそういうことを感じていたからこそ、解散発表を聞いたときの率直な感想は「来るべきときが来た」というものだった。
BiSHの公式YouTubeには、メンバー一人ひとりが解散発表に至った経緯を語る動画が公開されている。
動画では、前々から持っていた「一番格好いいときに散る」という考えをもとに、プロデューサー渡辺淳之介が解散を提案。2019年11月に話し合いを行い、最終的にはメンバーが決めたということが明かされている。
誰もが知るように、その後2020年春から新型コロナウイルスの感染拡大で社会は一変した。2020年夏に行った当サイトのインタビューでは、自粛期間に6人がどんなことを考えていたか、ライブの場所がメンバーにとってどう支えになってきたかについても語っていた(2020年7月公開「BiSHから届いた胸が詰まるような手紙。全員で語る空白の数か月間」)。
そういうことを考えると、まだ先行きは読めないとはいえ、ライブツアーが動員に制限のないかたちで開催できる見込みが立ったということが解散発表の背景として大きいということも推察される。
ホールツアー、ライブハウスツアーも発表されたが、個人的に楽しみなのは『BiSH FES.』。昨年に行った対バンツアーの内容を踏まえても、百戦錬磨のバンドたちが一堂に会し、BiSHとの相思相愛の共演が実現する場になりそうだ。
BiSHにとっての「有終の美」となるライブが、以前と同じような、コールアンドレスポンスも、モッシュも、清掃員同士の汗まみれで肩を組んでの大合唱も全部あるような場所になることを願っている。
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