「インクルーシブな賞を目指す」
2021年11月、イギリスを代表する音楽賞『ブリット・アワード』が、2022年から賞の男女別カテゴリーを廃止することを発表した。
これまで「男性ソロアーティスト」「女性ソロアーティスト」と性別で分けられていた賞を統合し、2022年の発表分からは「アーティスト・オブ・ザ・イヤー」「インターナショナル・アーティスト・オブ・ザ・イヤー」の部門を新設する。
『ブリット・アワード』をめぐっては、ノンバイナリーのアーティスト、サム・スミスが、今年3月、昨年度の授賞式の前に同賞で男女別の賞カテゴリーがあることについて「アワードショーというものが、自分たちが生きる社会を反映したものになる日を楽しみにしている」とSNSに投稿。これに対し同賞の組織委員側は、ジェンダーに基づくカテゴリー分けについて精査をしており、慎重な議論をしながら変更の検討をしていると応答していた。
同賞ではあわせて2022年発表分から、イギリスの音楽シーンの多様さを示す4つのジャンル別賞──「オルタナティブ / ロックアクト」「ヒップホップ / グライム / ラップアクト」「ダンスアクト」「ポップ / R&Bアクト」を新設する。
今年度の『ブリット・アワード』のチェアマンで、ポリドール・レコードの共同代表であるトム・マーチは「『ブリット』が進化し続け、できる限りインクルーシブな賞であろうと目指すことが重要。ジェンダーに関係なく、創作する音楽ややってきた仕事によってそのアーティストの功績を称えるのに、とてもふさわしいときだと感じている」とコメントしている。
映画界でも「男優賞」「女優賞」を廃止する動き
旧来の男女別のカテゴリー分けは、エンターテイメント業界のアワードショーにおいてこれまでも議論の対象になってきた。『ブリット・アワード』の変更は新しいものではなく、『グラミー賞』は2012年に、『MTV VMA』は2017年に男女別のカテゴリーをなくしている。
映画界でも、2020年に『ベルリン国際映画祭』が「男優賞」「女優賞」という男女別の俳優賞をとりやめ、「最優秀主演賞」と「最優秀助演賞」のみとすると発表。アメリカのインディペンデント映画賞『ゴッサム・アワーズ』も同様に今年から俳優賞の男女別カテゴリーを廃止した。
男女別の賞をなくすと、女性が不利になる?
ジェンダーニュートラルな方針を打ち出すアワードが増えるいっぽうで、男女別区分の廃止に懸念を示す声もある。もともと男性優位の業界においては、男女別の賞をなくしたら男性が賞を独占し、女性が表彰される機会が減るのではないか? という懸念だ。
たとえばカナダの音楽賞『ジュノー・アワード』は2003年から男女別のカテゴリーをなくしているが、2017年には同年3部門にノミネートされた双子の姉妹ポップデュオTegan and Saraが、同賞の女性ノミニーの少なさを訴え、賞における多様性の欠如を指摘する声明を発表するという出来事もあった。社会の実態に則したアワードであるためには、カテゴリー分けの見直しだけでなく、多様な人々に公平に機会が与えられるような産業構造への改革や、選ぶ側の多様性の確保など、業界全体の取り組みが必要だろう。
『アカデミー賞』をはじめ、主流のアワードでは現在も男女別のカテゴリーが設けられており、日本の多くの映画賞も同様だ。アワードではないが年末の風物詩、『紅白歌合戦』は今年から「紅組司会」「白組司会」の区別をやめ、すべて「司会」と統一。赤と白がグラデーションになったロゴを採用し、テーマを「Colorful〜カラフル〜」としているが、出演アーティストは男女別で紅組・白組に分かれている。
カテゴリー分けを変更した2022年の『ブリット・アワード』授賞式は、2月8日にロンドンのO2アリーナで開催。ノミネーションは12月18日に発表予定だ。
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