「マイブーム」「ゆるキャラ」などの生みの親として、社会現象を巻き起こしてきたみうらじゅん。一方で、40年以上もエロい写真を地道に収集してつくり続けている「エロスクラップ」や、「般若心経」の全278文字をあらゆる街の看板から見つけて写真に収めた『アウトドア般若心経』など、効率性や生産性にとらわれない個人的な活動も続けてきた。
地道に好きなことをやり続けるライフワークの原点には、子どもの頃に見た特撮人形劇『サンダーバード』も影響しているという。同作は、1965年にイギリスで誕生し、翌年には日本でも放映が開始され、多くの子どもたちを虜にした特撮テレビ番組。人形劇とはとても思えないスケールとかっこ良さに、みうら自身もオマージュ作品をつくってしまうほどハマっていたそうだ。
そんな同作の日本放送55周年を記念し、2022年1月7日(金)に日本語劇場版『サンダーバード55/GOGO』が公開される。今回、ファンとして最新作の試写を観覧したみうらに、『サンダーバード』の魅力をあらためて訊いた。そこで語られた、時代や流行に流されず、自分の好きなことを見つけてやり続けるための秘訣とは?
「エロスクラップ」の原点に『サンダーバード』あり?
―みうらさんといえば、エロい写真をスクラップブックに毎日貼り続ける「エロスクラップ」をライフワークにされていますが、いま何冊くらいになりましたか?
みうら:おとといの段階で702冊までいったので、もう1,000冊も遠くはありません。死ぬまでになんとか達成したいので、急がないとだめですけどね。
―達成したらすごい偉業ですね。モチベーションはどこからきているのでしょか?
みうら:やっぱり人に見せる前提、略して「見せ前(みせぜん)」でやっていることですかね。このご時世だとさすがにお見せすることはできませんが、気持ちだけは「キープ・オン・見せ前」ですから。
以前は遊びに来た友人たちに「エロスクラップ」を見せて、「すごい!」って言われるのを楽しみにしていましたね。思えば小学生の頃から、編集長気取りで友達という「読者」を意識しながら、怪獣や『サンダーバード』などの写真を切り貼りして、スクラップ帳をつくっていましたので。
―スクラップの原点に、怪獣や『サンダーバード』があったんですね。みうらさんは55年前から『サンダーバード』をリアルタイムで見ていたファンということですが、作品にまつわる思い出はありますか?
みうら:小学生のときにクラスメイトのお別れ会で、当時流行っていたザ・フォーク・クルセダーズの『帰ってきたヨッパライ』のレコードをかけて、『サンダーバード』のような人形劇をやったことがあって。人形づくりはその道のうまい同級生にお願いしてね。それが、俺にとって「ない仕事」の原点な気がします。
ザ・フォーク・クルセダーズ『帰って来たヨッパライ』を聴く(Apple Musicはこちら)
―その2作品の組み合わせは、意外性がありますね。
みうら:『帰ってきたヨッパライ』の人形劇なんて、別に誰も期待していないわけで。でも、やってみたら、ことのほかウケた。同級生だけでなく父兄にもウケました。
それに味を締めて、一つの道に精通して自ら制作物を生み出すよりも、異能戦士を集めて統合する、いわば「編集」のほうが向いているかもと感じたんです。
いまでも、自分でゼロからものをつくった記憶はないですからね。要するに、「構成力で面白いものをつくる」というスタイルの原体験には、『サンダーバード』が絡んでいたんじゃないかと思います。
間に合うかハラハラするけど、かっこいい。たっぷり時間をかける出動シーン
―あらためて『サンダーバード』の魅力ってなんでしょうか?
みうら:『サンダーバード』の素晴らしさは、やっぱり国際救助隊が出動する際のスーパーメカのかっこ良さですね。たとえば「サンダーバード2号」は、事故災害現場で使うすべての救急メカを詰め込める大型の輸送機なんですが、ジェットモグラ(※地中救出に適した高性能ドリルマシーンのメカ)とか迫力があるメカを格納するところまで、毎回必ず時間を取って見せてくれる。
緊急事態で「あと1分しかないぞ!」とか言ってるのに、出動にたっぷり時間をかけるんですよ。「おいおい、本当に時間大丈夫か?」って見る側はハラハラするけど、そこが良いんですよね。
『ウルトラセブン』(1967〜1968年)の出動シーンも『サンダーバード』の影響を受けているでしょう。かっこいい場面をいかに取り入れるかが、特撮の魅力ですから。
みうら:あとは、秘密組織ならではのルールやシステムが随所にあって、それもいちいちかっこいいんですよ。たとえば、総司令のジェフ・トレーシーがいる基地には、救助隊員たちの肖像画が飾られていて、緊急連絡があった隊員の肖像画の目がピカって光るんです。すると、肖像画がテレビ電話に切り替わる。
あれだって、単に電話でやりとりすれば良いはずなんだけど、システムを見せたいがためにわざわざそのシーンがあるわけで。CGアニメじゃなくて人形劇だからこその細かい仕掛けに感動しちゃいますね。おそらく、いまの若い人が見ても、その「わざわざ感」に感動するんじゃないかな。
―人形劇ならではの面白さがありますよね。最新のCGを駆使したデジタルアニメに慣れている若い世代からすると、良い意味で「アナログっぽさ」がにじみ出た作品に映るかもしれないですね。
みうら:かもしれませんね。ただ、ぼくは『サンダーバード』を「アナログ」だと思ったことは一度もありません。
いまって、昔のものだったらなんでも「アナログ」と呼んで古臭さを強調するような風潮もあるけど、独自の手法を使った『サンダーバード』みたいな傑作は、少なくとも世間でいう「アナログ」で片づけられる作品ではないと思っています。
FAXも十分すごいのに。「新しいから最高」という先入観に疑問
―なるほど。もの自体の性質や良し悪しにかかわらず、古ければ「アナログ」という言葉で一括にされてしまうことに違和感があるわけですね。
みうら:そもそも「デジタル」と「アナログ」って、単に数字や時間の単位の表し方とかを意味する言葉だから、本来は新しい・古いという概念じゃないはずですしね。
デジタルがどんどん進化して先進的なイメージもあるから、その対義語のアナログを「古いもの」の代名詞として使う人が増えたのかもしれません。あと以前は、時代遅れのことを「アナクロ」って言い方をしていたので、似ている単語だから混同して使われるようになったのかも。
俺自身、昔からよく言われていました。「みうらさんのやってることはアナクロですね」って。いやいや、考え方はいつも最新だと自分では思っていますけどね(笑)。
―近年だと、古くてブームが去ったものは「オワコン」と言われたりもして、否定的にとらえられることもありますよね。
みうら:新しい言葉ができるたびに、「古いものは死んだ」みたいに扱われることはよくありますよね。たとえば、パソコンやスマホが主流になってFAX機が廃れたみたいなこと。個人的には、まだまだFAX機の仕組みとかも謎だらけなのに、次から次に新しくなってどうすんだって思いますけどね(笑)。
それに、最新のもののほうが性能とかは良いかもしれませんが、自分に合うかどうかは別問題。だからこそ、「古いからダサい」「新しいから最高」っていう先入観で良し悪しを判断するのではなく、もの自体の魅力を自身でたしかめるべきだと思いますね。
―たしかに。それでいうと、『サンダーバード』だっていま見ても「古臭さ」は感じないですもんね。むしろ、いまの若い人が見たら新しいとさえ感じるかもしれません。
みうら:そのとおりで、『サンダーバード』も決して時代遅れじゃなく、当時ならではの最新鋭技術や独自のこだわりがそのまま残っているだけなんですよ。だって、人形劇のジャンルで、これよりかっこいいものをいまだに知りませんから。
『サンダーバード』のことを「ただの昔の人形劇じゃん」って言う人がいたら、それは知らないからだと思いますね。だから、すでに知っている人は単に「55周年、おめでとう」と言うだけでなく、『サンダーバード』がいかにすごいのかを、いまの若い人たちに語り継いでもらいたいなと思います。
周りから、あきれられるくらいのことのほうが面白いはず
―大人になった現在のみうらさんが『サンダーバード』を見返してみて、具体的にどの辺がすごいと感じますか?
みうら:そもそも、湯水のごとく金を使って人形劇をやろうなんて発想がすごいですよね。当時の日本円で1本あたり約2,000万円をかけて制作していたらしいですから。
実写でやったほうが絶対に安いし、もっといろいろできたはずなのに。当時、どうやってこの人形劇番組の企画が通ったのか気になりますよね。OKを出した上層部もかなり寛容だなと感じますし。
―効率性が重視される現代では、なおさらとおりづらい企画かもしれませんね。
みうら:とくにいまは、数字が見込めない企画はとおらないですからね。でもやっぱり、周りから「え、なにやってるの?」って、あきれられるようなことをしなければ面白くならないと思いますけどね。
『サンダーバード』をつくった人たちも流行りとかヒットさせようとかまったく考えずに、自分たちが好きだから仲間を集めてつくって、それがたまたまうまくいっただけだと思うんです。
少しでも不安を感じたら、「不安タスティック!」と叫べば良い
―失礼ながら、みうらさんも「エロスクラップ」や「マイ遺品」(※還暦を過ぎても断舎離は一切やらず、人に見せて喜んでもらうためだけに倉庫まで借りて集め続けている遺品)など、周りからあきれられるような活動を継続して、結果的にそれが世間から注目されています。どうすれば、そんなふうに好きなことを見つけて、やり続けられるのでしょうか?
みうら:まずは、「身の丈に合ったテーマ」を選ぶことですよね。とてつもないこととか、いま流行っていることの二番煎じをやろうとすると、結局長くは続けられません。
そういう見栄や流行りをすべて除外して、自分が純粋に楽しくやれる範囲で好きなものを考えていけば、おのずと身の丈に合うテーマは見えてくると思いますよ。
そして、継続するには「外の情報」をあまり入れない努力も必要です。なにかを始める前にインターネットで調べると、先にやっている人の情報が出てきちゃうでしょ。ほかの人にやられていることがわかった時点でやる気をなくしちゃうかもしれないし、それはもったいない気がします。
なにも知らないまま、とにかく始めてしまえば、いずれ結果は必ずついてくるはず。俺は幸いにもパソコンをいじれないから、あまり情報が入ってこないし、できるだけ人の話は聞かないようにしています(笑)。
2021年12月18日(土)から2022年3月6日(日)まで、大山崎山荘美術館で開催される『みうらじゅん マイ遺品展』
―本来はそうやって自分に必要な情報だけを探せば良いのに、いまは不安になって余計な情報まで摂取しすぎているのかもしれませんね。
みうら:そう思います。それこそ、古いものを時代遅れだと決めつけて、つねに最新のものや情報を追い求めてしまいがちなのも、「時代に取り残される」という不安の裏返しなんじゃないでしょうか。不安がることなんてまったくなくて、自分の好きなことをただやる。人生は意外に短いですよ。
少しでも不安を感じたら「不安タスティック!」と叫んでみるんです。「不安を楽しんでいこう」という意味で考えた呪文なんですが、オヤジギャグをかまして生きてこそ健全だと思います。だって、「不安タスティック」と言えるだけの余裕があるうちは、たいして不安ではないという証拠ですからね。
あえての「ぎこちなさ」が魅力。日本語劇場版『サンダーバード55/GOGO』の見どころ
―最新を追い求めがちな時代という意味では、映像業界のCG技術の進化もものすごいですよね。そんななかで、2022年1月7日(金)に公開する日本語劇場版『サンダーバード55/GOGO』は、あえてCGを一切使わずに、当時の撮影手法を再現してつくられた完全新作になっています。ご覧になっていかがでしたか?
みうら:再現のこだわりがなによりもすごいです。いまや新しいCG技術を使ってつくるほうがラクで、当時のものをそっくりつくるほうが大変なはずですからね。熱狂的に『サンダーバード』を見ていた当時の感覚がまさに蘇ってきて、すごく面白かったです。
最新作の日本語劇場版『サンダーバード55/GOGO』予告動画。本作はイギリス本国で制作された3本の「サンダーバード50周年記念エピソード」を、映画監督の樋口真嗣が1本の劇場版作品として構成した
―とくに印象的な場面などはありましたか?
みうら:なんと言っても、人形劇らしく人間が「ひょこひょこ」動くところですかね(笑)。今回の新作を見て「このぎこちなさが、やはり良かったんだよな」と、あらためて気づきました。
当時も、『サンダーバード』の改善点を踏まえてつくられた人形劇『キャプテン・スカーレット』(1967年)の動きは滑らかだったけど、個人的にはあまりハマらなかったんですよ。やっぱり「ぎこちなさ」も含めて、『サンダーバード』の世界観が好きだったんだと再認識しました。
―オリジナルの撮影手法にこだわって制作した今回の最新作でも、やはりひょこひょこと動いていましたね。
みうら:今回はもちろんだけど、たぶん当時の『サンダーバード』の製作陣も、わざとぎこちなさを強調していたんじゃないかな。本当はもっとリアルにできるのに、人形であることの良さを出すためにひょこひょこと動かしていたんでしょう。
あと、人形劇特有のピアノ線が見えるのも、こちらからすれば「待ってました!」ですから(笑)。今回の新作でもたまに見えてますよね。わざとですよ、やっぱ。
―消そうと思えば簡単にCGで消せますからね。
みうら:細かい部分まで当時の再現を徹底してくれたのは、長年のファンも嬉しいはず。俺自身、今回の新作が現代に合わせたCGだったら、正直がっかりしたと思います。
いまはCGでなんでもつくれるんだろうけど、やはり徹底した人形劇でないと『サンダーバード』の世界観は出せない。最先端のCGアニメをたくさん見ている若い世代にこそ、古臭いと決めつけずにぜひ見てほしいですね。きっといろんな驚きや発見があると思いますよ。
- 作品情報
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『サンダーバード55/GOGO』
90分のワクワク体験をぜひ劇場の大スクリーンで。いまこそ、サンダーバードを見るべし!
2022年1月7日(金)から劇場上映開始 / 1月8日(土)オンライン上映開始
プロデューサー:スティーブン・ラリビエー
監督:ジャスティン・T・リー、スティーブン・ラリビエー、デヴィッド・エリオット
脚本:アラン・フェネル、デヴィッド・グラハム、デスモンド・サンダース
構成担当:樋口真嗣
声優:満島ひかり、井上和彦、大塚芳忠、ほか
- プロフィール
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- みうらじゅん
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1958年、京都府生れ。イラストレーターなど。武蔵野美術大学在学中に漫画家デビュー。1997年「マイブーム」で新語・流行語大賞、2004年度日本映画批評家大賞功労賞を受賞。著書に『アイデン&ティティ』『青春ノイローゼ』『色即ぜねれいしょん』『アウトドア般若心経』『マイ仏教』『セックス・ドリンク・ロックンロール!』『キャラ立ち民俗学』『マイ遺品セレクション』など多数。2021年12月18日(土)から2022年3月6日(日)まで、アサヒビール大山崎山荘美術館で『みうらじゅん マイ遺品展』を開催。
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