ロシアのウクライナに対する軍事侵攻から1日。曽我部恵一、<戦争が始まって>と歌う新曲を発表

ウクライナ侵攻から1日で発表された曽我部恵一の新曲“Beginners”

曽我部恵一が、本日2月25日に新曲“Beginners”を突如発表した。

曽我部恵一のTwitterより

YouTubeの概要欄に記載された歌詞によると、そこには<戦争が始まって / 東の空があかるくなる / そんなに遠いわけじゃない / ウクライナ>という一節があり、今月24日のウクライナに対するロシアの軍事侵攻を受けての内容であることが推察される。

またツイート時刻は25日14時過ぎであることから、報道から丸1日程度という非常に短い期間で発表されたことが窺える。2月25日現在、ロシア地上軍がウクライナの首都キエフに入ったと報じられており(*1)、非常に緊迫した状況が続いている。

こうした事態を受けたものであることを示唆させながら、<歩いて行けば / 88日と13時間 / だそう / あ、そう>という現実世界の出来事を遠い世界の出来事として捉えるような一節、そして<あのコに会いに行こうかな>というリフレイン、<戦争よりもセックス>という直裁的なリリックが存在しているのが、この楽曲のポイントだろう。

<戦争よりもセックス>と歌った意図を考える

この楽曲が発表された状況、歌詞の特徴、そして歌の態度は、アメリカ同時多発テロの直後にリリースした“ギター”(2001年)の<戦争にはちょっと反対さ>という一節を思い起こさせた。ソロデビューシングルであるこの曲について、曽我部はCINRAの取材でこのように発言している。

曽我部:本当は戦争にも原発にも「絶対」反対なんだけど、「絶対反対!」って歌ってきたロックの歴史を踏まえて、「ちょっと」と歌うことが自分なりのドキュメンタリーだった。今も“ギター”は歌ってて、自分にとって不思議な曲です。(*2)
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また、曽我部恵一は2020年8月15日、終戦記念日に“戦争反対音頭”を発表し、直接的に反戦の意を歌で表明してきたミュージシャンでもある。

曽我部:いろんな音頭を作るなかで、このコロナ以降の世の中を斜めから揶揄するっていうか、政府を攻撃するような歌もいっぱいできたんだけど、もっとど真ん中のメッセージがあってもいいよなと思ったときに、“戦争反対音頭”ができたんです。(*3)
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これらを踏まえて<戦争よりもセックス>というリリック、そして“Beginners”という楽曲について考えたい。

この言葉が興味深いのは、遠くの国の非常に差し迫った状況に対して無関心でいる態度をある種揶揄するような側面もありながら、たとえばラブ&ピースというような平和へのスローガンとも受け取れるところだ。

加えて同曲には、<戦争が始まり / 空がくらくなる / なんだかくらいなあ / Cry Cry Cry / ウクライナ>と、「くらい」と「Cry」と「ウクライナ」で韻を踏むパートも存在している。

そうした点からは、ポップミュージックのつくり手としてのユーモアを感じさせるが、“ギター”における発言も踏まえて考えると、タイトロープを渡るように自身のミュージシャンとしての、個人としてのリアリティーを反映させてギリギリを攻めた表現であることが窺い知れる。

おそらく“ギター”のときと同様、物議を呼ぶことは覚悟のうえでの楽曲なのだろう。そうであったとしても、音楽家として音楽でいち早くアクションを起こす必要があった。その姿勢こそが、曽我部恵一が曽我部恵一たる所以なのではないかと思う。

なおサウンドとしては、“Emotional”(2021年)など近年の曽我部恵一の楽曲の特徴でもある、シンセサウンドとギターの折り重なるエレクトロニックなトラックにのせ、色っぽく歌うメロウな楽曲に仕上がっている。

*1:時事通信社「ロシア軍、ウクライナ首都入りか」(記事を開く

*2:CINRA「できないことを、必死にやり続けたい 曽我部恵一インタビュー」より(記事を開く

*3:CINRA「曽我部恵一と語る、個に還れない時代のリアル 人はなぜ踊るのか?」より(記事を開く

リリース情報
曽我部恵一
『Beginners』


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