過酷な社会を「生き抜いてほしい」というラッパーの祈り。dodoの「ダメでも続ける」人生の哲学

変わっていく時代、変わっていく自分。あるいは、そう簡単に変わらない社会と人間。私たちは幸福なのだろうか、不幸なのだろうか。きっと、どちらでもあるのだろう。ラッパー、dodoはリアルであるがゆえに、自分が立つ場所の複雑さや曖昧さを隠さない。そして、その複雑に入り組んだ場所から彼は言うのである、「生き抜く。そして、それを繰り返す」と。

1月29日、現在建て替え工事中のGinza Sony Parkにて開催されている『Park Live』の一環として生配信ライブをおこなったdodo。

ライブのセットリストは新作アルバム『again』収録曲がメインに据えられており、dodo自らが「日本特化型サバイブ民謡」と銘打つその楽曲群は、いまこの時代の日本を生きる人々の混乱や疲弊に寄り添い、ときに鼓舞するように響いていた。

この一見ラッパー然としていないラッパーは、しかし「リアルである」という点においてラップという表現の本質を捉えてみせる。ライブの1曲目は“getit”。ラップはこうはじまる――<ぎりぎり 生きてる。 / getit getit 活きてる。>。

この日のライブ終了後、dodoに取材する機会を得た。私と編集者は前作『normal』リリース時以来のdodoへのインタビューだったのだが、彼の地元である川崎で取材した当時のことを覚えていたdodoは、どこか不安そうな語り口でこちらの質問に応えはじめた。

「自営業」の音楽家ゆえに、dodoは自身の立ち位置と数字をシビアに自覚

-Ginza Sony Parkでのライブを拝見して、dodoさんの音楽は生活に寄り添ってくれる、「一緒に生きている」という感覚を抱かせてくれるものだなと思いました。

dodo:ああ、ありがとうございます。まだ大丈夫ですか? そういう感覚は感じ取っていただけていますか?

-はい。……どうしてですか?

dodo:前に取材していただいたときから時間も経ったじゃないですか。あれから市場のなかでのぼくの立ち位置も変わっていると思うので。

-そこに、不安があるんですか?

dodo:特にラップの部分で「本当に寄り添えているのか?」という不安はありますね。

今日のライブもYouTubeでの配信でしたけど、ぼくの活動のなかで一番ファンのリアクションを見ることができるのは、YouTubeの再生回数なんです。そこにしか頼っていないと言っていいくらいで。

dodo:“im”でバズった余波がどんどん消えていくなかで、自分の実力に見合った数字を見て、くらうことがあって。

ぼくは自分が上手いから売れたんじゃなくて、いまJ-ヒップホップという市場にお客さんがいるから生きていけているんだなって、日々思うんです。

「人間って、社会に何かを提供できないと不幸になっていくと思う」

―では、あまりよくない例えかもしれないですけど、この先、活動の状況が悪くなってしまったとして、dodoさんは音楽を続けていくと思いますか?

dodo:息が続く限りは続けるし、一旦やめたとしても、また絶対にここに戻ってくるだろうという確信はあります。自分にとって一番の特技だし、これで人生を変えてもらったし。

人間って、社会に何かを提供できないと不幸になっていくと思うんですよ。それをぼくはラッパーになることによって学んだ気がしていて。

dodo:ものをつくるのか、サービスをつくるのか、人それぞれだと思いますけど、自分の名のもとで「つくる」ということ。「つくる」って、人間にとって一番基本だなって思うんです。

-「つくる」という人間の抜本的な生きるための行為として、dodoさんは音楽を捉えている。

dodo:「つくる」って、動詞のなかでも基本的な言葉じゃないかって思うくらい、自分のなかで生きるうえで大事なことですね。

dodo『again』収録曲(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

生活のなかに「つくる」を意識し続ければ、人生は豊かになる

-ただ、人は生きていれば社会にどう接点を持っていいかわからない状況に陥る場合もあると思うし、「つくる」という行為自体に難しさを感じる人も多いと思うんです。そういう人たちに対して、dodoさんなら何と声をかけますか?

dodo:自分を豊かにするのも貧しくするのも他の人ではない、自分がつくるか / つくらないか次第だと思っていて。

何か動きを「つくる」のでもいいし、計画を「つくる」のでもいいし、とにかく自分の頭のなかで考えを巡らせて、アクションを起こすことが大事だと思うんです。誰かに与えてもらったものをこなすのではなくて。

そうやって「ものをつくる」ということを忘れずに生活を続けていれば、絶対に豊かになると思うんですよ。

dodo:「つくる」って、すべてに隠れていると思うんです。1日のスケジュールをどう「つくる」か、ご飯をどう「つくる」か、そういう小さい「つくる」をまず意識していく。そうすると、大きいものもつくっていけるんじゃないかと思いますね。

あとは、「遅れ」。遅れを気にしないこと。時間を気にせずにつくり続けていくこと。これじゃないかなと思います。

-たしかに、「つくる」は生きることのすべてに隠れている。

dodo:ぼくは会社もつくりました。おかげさまで法人を設立しまして、去年の10月で1年経ったんですよ。やる業務もいっぱいあるんで、少しでも成果をつくれるように意識していますね。難しいですけどね、怠け者なんで(笑)。

dodo & tofubeats“nirvana”(2021年)を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

会社を設立・運営して気づいた社会の姿――「なかには合法のギャングもいる」

-ご自身で会社を運営されてみて発見したことはありますか?

dodo:ひとり会社なので経理なんかも自分でやるんですけど、やっぱり、会社って「法人格」っていうくらい、人間ではないけど人間に近いというか。

人ではないけど、人のように、社会のなかに大きくいる存在なんだなと気づきました。

dodo:ヒップホップだと「ギャング」という言葉をよく使いますけど、会社のなかには合法のギャングもいるというか。

ある意味、ギャングよりも冷酷だと思うし。正直に話すと、怖さを感じた部分もあります。会社って怖いなって。たとえば、雇用とか……「同じ人間なのにな」って。

-なるほど。

dodo:人が十人十色なように、会社も十人十色だとは思うんですけどね。でも、本当にいろんな顔を見せてくるものなので、この社会は。

「捨てたもんじゃないな」とも思うし、「本当に厳しいな」とも思うし。ぼくもいろいろ経験してきたので、社会に対してはいろんなことを思いますね。

dodo:思い返しても、新入社員で入った会社でバイトの50歳くらいのおじさんにいじめられたり、小学校の頃に川崎に越してきたときに仲良くしてくれた子が、大人になって詐欺まがいのことをしている現場に出くわしてしまったり……社会ってギスギスしているし怖いですよ。いまは特に、コロナだし。

売れないラッパーだった時代、地元の占い師の言葉に与えてもらった気づき

dodo:でも、すべてが怖いわけでもないんですよ。ぼくもこれだけ活躍させていただいて、こうやって時間をとって取材してくれたりして。

dodo:全然売れなかった頃に、地元の溝の口駅の立ってる占い師さんに「あなたは生かされているんだ、生きていることを許されているんだ」と言われたことがあって。それを聞いて、すごく腑に落ちたんですよね。

すべて「与えてもらっている」と思うんです。聴いてくれる人もそうだし、今日のライブの機会だってソニーさんにいただいているし、再生数なんて特に、自分がいかに人に生かされているかが目で見てわかるので。

dodo『again』収録曲(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

dodo:社会の両面を見ているからこそ、ぼくの曲を聴いてくれている人には、サバイブしてほしいなって思います。それが今回の『again』というアルバムのテーマでもあると思っていて。

生き抜くためには、とにかくやり続けるしかない。「与えてもらっている」からこそ、望まれるものが出るかはわからないけど、とにかくガチャなりくじ引きを引き続けるしかないっていう。

自身が幸せに「なってしまった」からこそ、音楽を通じてリスナーの豊かな人生を願う

-前回の取材のときに「話に出ない、映画にもならない、日本の『素』の部分を自分は表現している」とおっしゃっていましたよね。今回の『again』において、そういう部分はどのように消化されていると思いますか?

dodo:前回お話を聞いていただいたときは、そういう部分をすごく意識してつくっていたんですけど、おかげさまで、そこはもう目標はクリアしたなって感覚があるんです。

それに、前の取材のときから時代も変わったと思うんです。それを考えたときに、「日本国民がどうこう」ってぼくが言うのもおこがましいというか。ぼくと違う人も大勢いるし、そこをレペゼンする気持ちもなくなってきて。

dodo『normal』収録曲(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く) / 関連記事:dodoは名もなき人生をラップする もうゲームの勝ち方に興味はない(記事を開く

dodo:あと、ぼく自身が以前よりもだいぶ幸せになってしまったんですよ。自分がかつて表現しようとしていた「日本の見えない中流階級」に、自分を重ねて表現できなくなってきた。そこのギャップをいますごく感じているんですよね。

だから、いまはすごく模索している感じです。今回のアルバムは、その模索がリリックにはすごく出ていると思います。

-幸せに「なってしまった」というのは、どこか「不幸せ」な状態がご自身の表現の糧になっていたということですよね。

dodo:そうですね、ハングリー精神を一番の燃料にやってきたんですよ。

dodo:でも、ふと自分を見つめ直すと、「今の自分はもしかしたら、人よりも恵まれているんじゃないか」と思うんですよね。

自分は恵まれたんだから、曲を通して聴く人にも豊かになってもらいたい……言葉にするとうさんくさいですけど、本心でいまはそんなことも思うし。需要と供給が合うかはわからないですけど。

dodo,KM“better”(2021年)を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

「ラップだからって、カッコよく歌わなくていいんじゃないかと思う」

-『again』の資料のなかで、dodoさんは今作のことを「日本特化型サバイブ民謡」と銘打っていますよね。その心が知りたいです。

dodo:それは「パンチある見出しをつけよう」と思ってつくった言葉なんですけど(笑)。まあ、現代的な民謡なんじゃないかなと思うんですよね、自分の音楽は。

-“adult”のなかでは<勤しむ民芸>と歌われてもいますが、改めて、ご自身の音楽が「日本の民謡」たり得ている部分はどういったところにあるのだと思いますか?

dodo:これはぼくのヒップホップセオリーみたいなものですけど、日本語に重きを置いている部分ですね。

dodo:「日本語で闘う」ということが、自分の使命だと自負しているからこそ、日本語としてちゃんと聴こえているもので売れないといけない。

それにUSのヒップホップを聴いていても、売れている人の8割は何を言っているのかがちゃんとわかるラッパーだと思いますし。

でも、これは「日本語の響きを綺麗に聴かせたい」ということとは違うんです。どちらかというと、泥臭く、ゆっくり日本語を読む感じ。

dodo『again』収録曲(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

dodo:たとえば、グッチ・メインなんかのラップもすごくゆっくりなんですけど、ああいう感じで、とにかく泥臭く、日本語を読む。棒読みに近いくらいでいい。そういうことは考えていますね。

ラップだからって、日本語をカッコよく歌わなくていいんじゃないかと思うんです。あくまでも日常のなかで使っている日本語でラップし続けたいなと思うので。

「ダメでも、とにかく続けるしかない」がこの社会を生き抜くdodoの人生哲学

-トラックに関してはどうですか?

dodo:トラックに関しては、「癒し」になるものをつくるということを一番考えています。ニューエイジに近い感じというか。それは最初の頃から意識していますね。

dodo『again』収録曲(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

-「サバイブ」という言葉に関してはどうでしょう。実際、去年は“survive”という曲もリリースされていましたが、なぜ、dodoさんは「生き抜く」ことを表現し続けるのか。

dodo:自分の「FNT」というレーベル名に通じている話だと思いますね。これはポケモンの体力ゲージが0になった「ひんし」の状態が英語だと「FNT」と表記されるところに由来していて。

でも、ポケモンって「ひんし」でも回復すると生き返るじゃないですか。「ダメでも、とにかく続けるしかない」というマインドは、自分のなかでずっと変わっていないんです。

dodo“survive”(2021年)を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

dodo:今回のアルバムタイトルの『again』もそうですね。「もう一度やる」っていう。それが自分のできることだなって思う。そこを強みにして、みなさんに力を渡せたらなと思ってます。

-アルバム『again』は、まさに“again”という曲からはじまりますね。この言葉は、ある意味でdodoさんの本質的な生き様でもあるということですよね。

dodo:結局、ぼくのサイクルって決まっているんです。トラックをつくって、歌詞を書いて、RECして、ミュージックビデオを撮って、YouTubeにあげて、配信する。

とにかくアゲインし続けるしかないって感じなんですよね。それを繰り返していまに辿り着いているので。

dodo:あとぼくの曲って、トラックもリリックも自分でつくるし、ミュージックビデオも毎回あまり変わらないし、定番商品のシリーズ化っていうイメージがある。

シリーズ化するものって力を持っていると思うし、そこは意識してつくっているんです。永劫回帰というか、同じことをずっとやり続けるってマインドは大事にしているんですよね。

経営者目線でdodoが実感した音楽ビジネスのすごさ

-「幸せになってしまった」という話がありましたけど、実際のところ、dodoさんがラップで表現しているものって「幸か不幸か」という二元論では語りきれない複雑かつリアルなものなんだろうと、お話を聞いていて思いました。そのうえで、dodoさんは「生き抜く」という実感を積み重ねていく。それは、曲をつくり続けることもそうだし、会社を運営することもそうだし。

dodo:そうですね。会社をつくったことで、音楽ビジネスに宿っているもののすごさを実感したというのもあります。

dodo『again』収録曲(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

dodo:なにがすごいかって、やっぱりシステムですよね。CDの時代だったら、原盤をつくって、それをコピーして売っていたわけですけど、いまはそれがさらに進んで、サブスクで、1回聴いてもらえれば、ぼくの場合1曲につき平均0.8円入ってくる。

これって人手がなくてもできることだし、ぼくがいま、ひとりでここまで豊かになることができていることを考えても、すごいシステムだなと思います。原価もかからないですしね。

ぼくの場合は、通っていた大学の奨学金に、月々の電気代と機材。それさえあればつくれる。音楽ってひとりでもできる、本当にすごいシステムだなと思いますね。

-もしもの話ですけど、CDが主流の時代だったら、ご自身はラッパーとしてどういった活動をしていたと思いますか?

dodo:CDの時代って、レーベルに所属することがミュージシャンの第一の目標になっていたと思うんですよ。その場合、ぼくは芽が出ていないと思いますね。だから本当にラッキーだったなと思います。

音楽家として、経営者として、dodoにとっての成功とは何か?

-会社を大きくしていきたいという野心はあるんですか?

dodo:大きくするのが目標というよりは、ものをつくって、それを社会に提供していくことが自分の根本にはあるので、そこを外さないようにしていきたいです。

お金だけを追っていくというよりは、少しでも価値のあるもの……ぼくの場合はいい楽曲を提供していきたいなと思いますね。

dodo『again』収録曲(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

-いまのdodoさんにとって「成功する」とはどういうことですか?

dodo:そうですね……ロールスロイスを現金で一括で買って、生活に不自由がない状態であること。あとはもちろん、ロールスロイスを置ける駐車場があること(笑)。車庫つきで、防犯も大丈夫。それがすべて整ったときが、成功だと思いますね。

-やっぱり、お金は手に入れたい(笑)。

dodo:ぼくはヒップホップのリッチな部分に憧れてもいるので、そこはちゃんと追求していきたいんです。

dodo:あと、ぼくはTikTokでバズらせてもらいましたけど、TikTokのバズって、その曲がリリースから何年後かにバズることも多いじゃないですか。

-たしかに、そうですね。

dodo:そういうことって、TikTokだけじゃなく、歴史的にあることだなと思う。もしも50年後に生きている誰かがぼくの音楽を探してくれて、つながってくれれば嬉しいですね。そうやって時間を超えてつながることができるのも、「ものをつくる」ことの醍醐味だと思うので。

dodo“bonsai”(2021年)を聴く(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

-“adult”では<祈る。何も見えない今日が / 繋がるようにどうか>とラップされていますが、50年くらい先の人たちにも自分の音楽を聴いてほしいと思いますか?

dodo:うん、そこは意識しています。おこがましいですけど、音楽史の1ページに載りたいという気持ちがあって。そのために日本語にこだわっているっていう面もあるんです。

音楽の市場って、世界的に見るとやっぱり英語でつくられている音楽がほとんどじゃないですか。

そういう面で日本語の音楽って希少だと思うし、「日本人とは何か?」を考えると、やっぱり日本語に辿り着くなと自分は思うんです。言語のアイデンティティーってすごく大きいと思うので。

dodo『again』収録曲(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く

-たとえば、50年後に音楽史でdodoというラッパーが語られているとして、どんなふうに紹介されていたいですか?

dodo:イメージで言うと、「50年前の日本の平均的な歌」みたいな(笑)。歴史的に何か特別なことは、特に何もないっていう(笑)。

-(笑)。

dodo:それもあって、歌詞には時事的なものというか、自分の身近にあるものを入れたりするんです。「すき屋」とか、「クレドール」とか。

「50年前の銀座の日常の風景」みたいな資料映像ってあるじゃないですか。ああいう感じで残ればいいなと思います。

リリース情報
dodo
『again』


2022年1月11日(月)配信

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配信情報
Ginza Sony Park『Park Live』

2022年1月29日(土)配信
出演:dodo
プロフィール
dodo
dodo (ドド)

1995年生まれ。ヒップホップに感化され、音楽制作を志す。2019年に自身で制作した楽曲“im”がYouTubeでヒットする。現在はその楽曲を中心とした収益を元手に、次なるヒット曲を作るための試行錯誤な日々を送っている。好きな食べ物は麺類。座右の銘は「反省」。あなたの人生のBGMを目指して頑張りマウス人生はまだ長いよ、あきらめない。



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