「高円寺」という街のイメージは、世代によってだいぶ変わってきたのかもしれない。古着で有名なオシャレな街のイメージはいまも昔も変わらないだろう。その一方で、かつては「売れない芸人やバンドマンの街」であり、音楽ジャンルでいえばパンクやサイケなど、アングラ志向のディープな街というイメージがあった。そこはいまも愛すべき魅力的な部分ではあるのだが、近年は「高円寺芸人」が脚光を浴びるなど、いい意味でイメージがライトになった印象があり、華やかさと生活の匂いが同居した街になってきたようにも思う。
そこで今回は、岡山から東京に出てきて以来、4年間高円寺に住み続けているという一寸先闇バンドのおーたけ@じぇーむずと、生まれも育ちも高円寺周辺で、いまもここで暮らし続けているというHONEBONEのEMILYとKAWAGUCHIに、高円寺の思い入れの強いスポットを周ってもらい、街について語り合ってもらった。出自は違っても、楽曲を聴けばたしかに高円寺が感じられ、惹かれあう理由がわかるこの二組。交わされる言葉から、住んでいる街が生き方や創作に与える影響を感じずにはいられない。
高円寺南口で待ち合わせて、お散歩。3人のお気に入りスポットへ
―今日は高円寺の思い入れのある場所を周っていただきました。最初に訪れたライブハウス・高円寺U-hAは、おーたけ@じぇーむず(以下、おーたけ)さんにとってどんな場所ですか?
おーたけ:場所に対する思い入れがあるというよりは、店長が東京のマイファザーというか(笑)。演者に対して一人ひとりに思い入れがある人で、曲に対しても一つずつに「この曲はこうだね」と言ってくれたり、好きな曲は彼のTwitterで紹介してくれたりして。「VS 人」って感じの人だから、苦手な人は苦手だと思うんですけど、私はオモロと思って、この場所にずっぽり入れたという感じです。
―店長さんのことを「彼」と呼んでる時点で、関係性がうかがえますね。途中の散歩で、曲タイトルも店長さんが考えていたりするとおっしゃってましたよね?
おーたけ:そうなんです。それこそ“高円寺、純情”という曲は、「純情商店街」の「純情」を入れていて、「タイトルに場所を入れることで、風景が浮かぶでしょ?」みたいなことを言われて、「ミュージシャンよりミュージシャンじゃん」と思ったりもしました。「U-hAに出てなかったら、いまみたいにはなってなかったかも」と思うから、恩を感じる場所ですね。
―続いて、KAWAGUCHIさんの思い出のスタジオ、高円寺AFTERBEAT……の跡地に行きました(笑)。
KAWAGUCHI:15年前くらいにバンドを始めて、そのときからEMILYと一緒だったんですけど、ぼくが当時大学生で、多いときは週4とかで通っていて。
おーたけ:すごーい!
KAWAGUCHI:でもいま振り返ると、遊んでただけ。ただスタジオに入って、そのあとにご飯食べたり、お酒飲んだりするための場所だったんです。チューハイとかを買ってきて、スタジオの前に座って飲むみたいな、絵に描いたような青春の1ページでしたね。スタジオのなかではただ騒音を出して、ストレス解消をしてただけで(笑)。
EMILY:ピギャー! ってね。
KAWAGUCHI:誰もEMILYの歌を聴いてなくて、みんなただギャーン! バーン! ドカドカドカ! ってやりたいだけ。それでEMILYは「バンドは嫌だ」ってなっちゃって。
EMILY:バンドやりたくなくなっちゃった。うるさいから。
KAWAGUCHI:あそこでの経験を反面教師にして、いまがあるんです(笑)。
EMILY:だから、私はAFTERBEATが嫌いでした。タバコ臭いし。
KAWAGUCHI:当時でも珍しく、なかでタバコが吸えたから、タバコが吸いたいだけの人たちも集まってて。で、峯田(和伸)さんとか、THE YELLOW MONKEYのヒーセさん(廣瀬洋一)とか、「やっぱり、こういう人がこういうところにいるんだ」みたいな人たちも見たことがあります。まあ、楽しかったよね。遊び場として。
人生を変えたパル商店街、行きつけの韓国料理店やカフェへ
―パル商店街はEMILYさんにとってどんな場所ですか?
EMILY:2019年に、飲んでへべれけになって歩いてたら、テレビ東京の『家、ついて行ってイイですか?』につかまったんです。で、「撮影するなら絶対放送してくれ」と伝えたら、「放送は100人に一人の割合だから、期待しないでください」って言われたんで、出来る限りの持ちネタを話して。
そうしたら、それがわりとすぐに放送されて、それを見た品川ヒロシ監督が「映画に起用したい」ってことで、そのまま映画の主演が決まり、主題歌も決まって、あれよあれよとシンデレラストーリーみたいになっていったんです。あの日あそこを歩いてなかったら、そんなことにはなってなかったわけで、あの経験はずっと忘れられないですね。高円寺にこだわって飲んでてよかったなって。私、飲むときは絶対高円寺から出ないんで。
―それはなぜですか?
EMILY:めんどくさいし、高円寺で全部事足りるんで。楽しいことは全部高円寺にあるんですよ。
KAWAGUCHI:昔偉い人に「中目黒に美味しい焼肉屋さんあるから行こうよ」って誘われて、行ったんですけど、高円寺のほうが美味いけどなって思ったことあります。
EMILY:表参道らへんで食べるタイ料理よりも、高円寺のタイ料理のほうが美味いし量も多い。勝てないね、高円寺には。
―HONEBONEの楽曲タイトルにもなっている韓国料理店の「オムニマッ」も、そんなお気に入りのお店のひとつ?
EMILY:「オムニマッ」は(芸人の)尼神インターの渚さんに連れて行ってもらって。そこから通い出して、いまも週3とかで通ってます。
―最後に行ったYonchome Cafeは、おーたけさんにとってどんな場所でしょうか?
おーたけ:さっき言った“高円寺、純情”は、こっちに来てすぐに書いた曲なんです。ホームシックになっちゃって、めちゃめちゃズーンってなっていた時期で、朝5時の電車に乗ってバイト先に行きながら、「マジつらい」ってなってて。
で、散歩して何か見つけようと思って歩いてたら、たまたまライブに来てくれていたお客さんに声をかけられちゃって、「こりゃ散歩しづらい」ってなって、逃げ込んだのがYonchome Cafeだったんです。オフの日はそこで4時間くらい本を読んだりしていました。
―安らぎの場所だったわけですね。
おーたけ:最初はシェルター的な感じで、「かくまってくれてありがとう」って。でも最近はデモやライブの録音を聴くのに集中する場所って感じで、いまは私のコワーキングスペースですね(笑)。
あとはたまにフワッと入ってくる会話がめっちゃ面白くて、「ちょっと拝借させてください」って思いながら、メモったりもして。やっぱり、高円寺は面白い人が多い街だなって思います。
「2021年は、ライブができる / できないで泣き過ぎた」(EMILY)
―そもそも二組はどのように出会って、どんな部分で惹かれあったのでしょうか?
おーたけ:初めて会ったのは先月(2021年12月)で、渋谷のライブハウスでサーキットイベントがあったときに、出番が前後だったんです。出番前なのに私のライブを見てくださって、ほかの人から「(HONEBONEが)いいって言ってたよ」と聞いて。HONEBONEは『静かにしろ』(2017年)のころから聴いてて、“ナマリ”とかを耳コピしてたんです。すごく正直というか、全部を音楽に還元しているイメージがあって、見習うところが多くて、憧れてました。
EMILY:私はこれまで、人のライブを観ると焦っちゃったり、緊張したりしちゃったんですけど、おーたけさんのライブはすごくかっこよくて、鼓舞された気になったんです。
コロナ禍になって、いまは本当にクオリティーが高い人じゃないと残れないと思うし、そうなってほしいとも思っていて、チケット代が高くなっても来てくれる人に対して、納得させないと成り立たない。おーたけさんのライブにはガツンと納得させられて、感動させてもらって、「このあと君もちゃんとやってくれよ」って、重たいバトンを渡された気がした。
「元気のないエンタメ業界、うちらで盛り上げましょうや!」「やりますわ!」みたいな、勝手にそういう気持ちになって、そのあとの自分たちのライブのときも、一人ですごくエモい気持ちになってたんです。
おーたけ:えー! そんなことになってたとは。
EMILY:本当に泣きそうになっちゃったんですよ。すごい楽しそうだったし。
おーたけ:ライブはめっちゃ楽しいんですよね。
EMILY:「こういう人は絶対残る。マジかっけえ」と思って、感動しちゃった。
おーたけ:HONEBONEもすっごくいいライブだったんです。もらいエモをしちゃって、私もブワーってなって。
EMILY:2021年は一年通して泣き過ぎたね。ライブができる / できないが続き過ぎて、泣き過ぎた。エモい一年だった。今年はもうちょっと地に足をつけていきたいですな。
「私にとってHONEBONEは教材だったんです」(おーたけ)
―歌詞ではシンパシーを感じる部分もあるのではないかと思います。お互いリアルを歌っているというか、それこそ「一寸先闇」な、現実のシビアな部分もちゃんと見つめつつ、でもそこにユーモアもあったりして、通じる部分があるなと。
おーたけ:HONEBONEはMVになってるかっこいい曲ももちろん好きなんですけど、カップリングとかアルバムに入ってる曲が好きです。言いたいことを言いつつ、ちゃんと面白く、聴きやすくしてるなと思って。
KAWAGUCHI:バレてるね(笑)。
おーたけ:言たいことだけ言ってたら、聴く人はウワってなっちゃうから、聴きやすさとか、間口の広さをちゃんと取り入れるのは大事やなって、HONEBONEを聴いて思いました。
私も、切実な気持ちを歌いたい。他人の気持ちを敏感に感じちゃうタイプなので、言葉にアウトプットしないとやり切れないところもあるから、私にとってHONEBONEはエンタメとして聴くというよりも、教材だったんです。だから、最初はシンパシーというよりも、憧れでしかなくて。
KAWAGUCHI:……うちら褒められ慣れてないから黙っちゃうね(笑)。光栄です。おーたけさんが12月のライブで即興だったと思うんだけど、「エアコンがどう」って歌い始めて、日常の身の回りのことを歌にしてる人はかっこいいなと思いました。自分たちももっとくだらないことを歌にしていきたいなって。
おーたけさんが言ってくれたように、たしかにぼくらは上手くまとめようとしちゃうところがあって、自分たち的にはそこがちょっとダサいというか、「なにJ-POPぶってんだよ?」みたいなことも感じてて。もっと身近な、オチもないような、くだらないことを歌にできたらいいなっていうのは、あのときライブを観て思いました。おーたけさんがくだらないってわけじゃなくてね(笑)。
おーたけ:私もくだらない歌めっちゃ好きです(笑)。大体即興だから、「山手線マジ暑い」とか歌い出すと、メンバーにはびっくりされちゃうんですけど。
EMILY:あのライブ感がいいんですよね。
―じゃあ、おーたけさんの曲は今後のHONEBONEの教材にもなり得るというか。
EMILY:そうですね。あの日もすごく勉強になりました。
おーたけ:弾き語りって武器が少ないから、やることが何となくお客さんにバレちゃうんですよね。でももっと奇想天外なことというか、もっと楽しんでもらうことができるんじゃないかと思ったときに、「こいつ急に何言い出すんだ?」っていうのを、MCじゃなくて、曲に繋がるような感じでやりたい。HONEBONEが即興で歌う「お金ください!」とかもすごいじゃないですか? ああいうのいいなって。
―EMILYさんが歌詞を書く背景にも、「一寸先闇」なシビアな現実を見つめる、切実な気持ちがあるといえますか?
EMILY:おーたけさんがどれくらい現実を見て生きてるかはわからないですけど、私は「夢を持たないぞ」って思ってるところがあって。だから、「ミュージシャンだけどミュージシャン嫌い」みたいな矛盾がすごく多いんです。ミュージシャンやってるのに、大きいことは言いたくない、みたいな。
―わかりやすく夢や希望を歌うようなミュージシャンに対してのアンチがある?
EMILY:「夢はMステだろ?」とか言われると、「ちげえだろ。明後日のライブ満席にすることなんだけど」みたいな、そういうことを言っちゃいがちなんですよね。でもどっかでは、お客さんにわかりやすいことを言わなくちゃいけないと思う自分もいる。「紅白目指してよ」と言われたら、みんなでその夢を見たくなったり、「HONEBONEはもっと上にいけるよ!」って言われたら、それを見せてあげたくなったり。でも「上って何なんだよ?」って思うときの自分もいるんです。
おーたけ:そうそう。「上って何ですか?」問題ありますよね(笑)。でもやっぱり、自分たちが思ってる以上にお客さんが応援してくれるのを感じると、「一寸先闇バンドを応援しても無理だな」とは思われたくないし、残念な気持ちには絶対させたくない。そこはたしかにどっちの気持ちもあるんですよね。
二者に共通する「高円寺」という街について
―理想論で夢を語るんじゃなくて、まずは目の前の現実にあることをやるべきだという想いと、その一方では期待に応えたいと思っていて、それを望んでいる自分もいるという、ある種のアンビバレンスな精神性というのは、高円寺という街の持っている雰囲気とどこかリンクする部分があるように思いました。
EMILY:HONEBONEは芸人リスペクトがあるので、高円寺からドリームをつかんだ芸人さんが、ああやって飛び出していく姿には憧れますね。音楽界には賞レースがあるわけじゃないから、なかなか難しいですけど。
KAWAGUCHI:昔偉い方に「君たちは高円寺に住んでるから売れないんだよ。代官山とかに住んで、一流の空気をまとってやっていきなさい」って言われたことがあって、そのときは心のなかで中指立ててましたね。
それから数年経って、いまは高円寺に住んでても売れてる人がバンバン出てきてるから、やっぱり住んでる場所は関係ないなって。フワフワうわついてるんじゃなくて、地に足をつけたまま、ちゃんと背伸びができるというか、上に手が届く人たちが高円寺から出てきたから、それは励みになってます。
おーたけ:一寸先闇バンドのドラマーも高円寺に住んでるんですが、「どんなに売れたとしても、生活は生活としてしっかりあるのが高円寺の良さだよね」って話していました。私も高円寺を選んでよかったと思ってます。
―岡山から高円寺に出てきて、創作に対する影響はありますか?
おーたけ:もともと表現意欲は強かったと思うんですけど、それが加速したというか。最初は「高円寺に住んでる自分」っていうマジックにかかったようなところはありました。高円寺は街自体が面白くて、人も面白くて、それがエネルギーになって、街の様子を書いてるだけでも相当面白い。
―Yonchome Cafeの会話とか。
おーたけ:そうそう。下手に超一流の風を浴びるよりも、創作的にめちゃくちゃいい街だと思います。それこそU-hAみたいな、口出ししてくれる店長がいる店もあるし、「こういうの聴いてみなよ」って言ってくれる友達もできたし。岡山のときはずっとルーティーンで、曲を書いて、ライブをやってたのが、高円寺にきて一気に広がったような感覚はあります。
―EMILYさんはこのあたりにずっと住んでいるわけですが、創作に関して街から影響を受けた部分はあると思いますか?
EMILY:歌詞に関していうと、たとえば、昔一緒に住んでいて、「高円寺いいよね」って言っていた男が、高円寺を捨てて祐天寺に引っ越したから、「私は東横線が嫌いだ」って歌を書いたら、それがお客さんにウケたりとか。高円寺はネタに使いやすいんですよね。「高円寺に住んでるから売れないんです」っていうのもネタにできるし、「魑魅魍魎(ちみもうりょう)が住んでます」とか、尖ったことも言いやすい。
―ちょっと前はそれがネタにならない部分もあったけど、そこからいい意味で街のイメージがライトになったようにも思います。もちろん、いまもディープでアングラな魅力はあるし、暮らしてる人はそれに愛情を持ってるんだけど、ちゃんと成功してる人も増えて、そういう人たちが地に足のついた生活をしていることで、ネタにしやすくなったのかも。
EMILY:そうかもしれないですね。昔はパンクの街のイメージが強かったけど、いまは芸人さんのイメージも強くなって、笑い話になるような、ポップな街になった。もしかしたら、いまは下北沢よりもわかりやすい、いい意味でネタにしやすい街になったのかもなって思います。
おーたけ:下北沢はそこに来る人が多いけど、高円寺はそこに住んでる人がめちゃめちゃ多いですからね。
―こうなってくると、高円寺芸人に続けじゃないけど、高円寺のミュージシャンももう一盛り上がりしてほしいですよね。
EMILY:盛り上がりたいですね。
おーたけ:そのきっかけとして、「一寸先闇バンドのおーたけって高円寺に住んでるらしいよ」とか「HONEBONEはいつも高円寺で飲んでるよ」とか(笑)、そうやってネタとして面白がってもらえたらいいですよね。
- リリース情報
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一寸先闇バンド
『知らんがな』
2021年11月10日(水)配信
1. 知らんがな
2. ピーターパン
3. 身の丈
- リリース情報
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HONEBONE
『SURVIVOR』
2022年2月2日(水)配信
1. そうじゃなかったじゃん
2. なんにもない一日
3. きれいな夜
4. 捨てられない花
5. ロンリーボーイ
6. チェイス
7. メロディ
8. 甘い生活
9. リスタート
10. バカとはしゃべりたくない
- プロフィール
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- おーたけ@じぇーむず
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1994年6月18日生まれ。ライブを中心に精力的に活動。ギターを片手に歌う、叩き上げシンガーソングライター。
- HONEBONE (ほねぼーん)
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EMILYとKAWAGUCHIのフォークデュオ。東京・高円寺で地元の友人同士のバンドを結成、2014年より2人組としての活動を開始する。アコースティックギターと歌のみのスタイルで、日本語にこだわったリアルな歌詞を歌う。老若男女が集うLIVEは笑いあり涙あり。「ネガティブなのにスカッとする」と評判を呼び、各地でチケット完売が続出。
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