「結婚するなら20代のうち? もしママになるなら……」。
そんなふうに誰しも一度は、理想のライフプランを妄想してみたことがあるはず。女性が自由に、自分の理想の人生を描き、選択する──それは当たり前のようで、いまだに難しいのが日本の現状だろう。
たとえば、女性のピル服用の選択一つとっても、世間のイメージから公には言いづらい空気を感じないだろうか。
ピル(*1)には、女性ホルモンのコントロールによる避妊効果のほか、生理痛やPMS(月経前症候群)を改善したり生理周期を規則正しくしたり(*2)と、さまざまな作用が見込めるにもかかわらず、日本での服用率は2.9%にとどまる(出所:国連「World Contraceptive Use 2019」)。
*1 日本で服用できるピルには、避妊目的で使用される経口避妊薬(OC)と治療目的で使用される低用量エストロゲン・プロゲスチン製剤(LEP)がある。
*2 OC・LEPガイドライン2020年度版参照
今回は、モデルやアパレルブランドのディレクターとして活躍するなか、計画的にピルで自らの体と向き合ってきたという瀬戸あゆみさんと、産婦人科専門医として女性ヘルスケアのリテラシー向上に取り組む三輪綾子さんで対談を実施。「女性が自ら自分の未来を選びとるために必要なこと」をテーマに、日本社会の現状やライフプランの描き方について語り合った。
※本取材でお話された内容に関しては、個人差がありますので、医師の判断のもと参考にしてください。
「避妊するか」を相手に任せないで
ーライフプランニングを女性が考える際に、「結婚」や「妊娠・出産」に悩む方は少なくありません。瀬戸さんは、この選択をもっと自由にしていくには何が必要だと思いますか?
瀬戸:「女性は何歳までに結婚して、何歳までに子ども産むのが普通」といった固定観念がまだまだ社会全体にありますよね。まずはここが変わることからだと思っています。
私も以前は、なんとなく30歳までに結婚したかったんです。いま29歳で、あと1年。だからって焦ってもいいことないですし、ここ数年は「年齢で決めなくてもいいな」って考え方に変わりましたね。
とはいえ、25歳くらいまではみんな世間の目を自意識過剰なくらい気にする年頃だと思うんですよね。例えばファッションに関しても、周囲からどう見られるかと自分の好みの狭間で「こんな子どもっぽい服だとダメだ」と葛藤したり。でもファッションブランドを手掛けている身としては、自分の好きな洋服を好きなように着たほうがいいってことは、声を大にして言いたいですね。
三輪:瀬戸さんのおっしゃるように、昔ながらの「女性とはこうあるべき」みたいな考えに、女性自身が縛られてしまっているように私も感じています。働き続けるのも、結婚を機に家庭に入るのも自由なはずなのに、自由になりきれていないというか。
女性がライフプランを自由に選べるようになるには、社会のいろいろな制度も変えていかなければなりません。特に、出産後の仕事と家事育児の両立は本当に難しい。政府や企業も支援に動いてはいますが、なかなか環境が整いません。
瀬戸:結婚や出産って、東京のような都市部で働く女性の生活バランスを考えると、いまいちプラスの面が少ない気がするんですよね。だから「いつかでいいか」ってみんな思っちゃうのかも。男性でもそういう考えの方が増えている気がしますよね。
ー都心部で暮らすには、家賃や生活費が高い、認可保育園に入りにくいといった問題がありますよね。少子化や生涯未婚率の上昇が進む一方で、若年層が予期せぬ妊娠をしてしまう問題もあります。
三輪:そうですね。日本の出生数と中絶数を比較してみたとき、およそ6人に1人が中絶を選んでいると考えることもできます(*3)。コンドームは性感染症(*4)を防ぐ意味では重要ですが、避妊(*5)の観点ではどうしても不確実性が残ってしまう。だからピルとの併用が最も効果が高いといわれています。
*3 厚生労働省 令和2年版「人口動態統計」出生数、「衛生行政報告例」中絶件数より試算
*4 参考記事:性感染症(STD) | 女性の健康推進室 ヘルスケアラボ|厚生労働省研究班監修 (w-health.jp)
三輪:それに、避妊を相手に委ねるのはあまりに無防備です。無用な悲しみを避けるためにも、妊娠する女性が主体的である必要があります。海外だと、ピル(OC)を服用していたり、子宮内に挿入するタイプの避妊具を使っていたりする率も高いのですが、日本は女性が受け身になりがちで、コンドームの使用のみが圧倒的多数を占めます。
日本人女性が「何歳で出産したい」「いまは妊娠したくない」みたいな主体的な意思決定をニガテとしている背景には、性教育が十分に行なわれてないことがあるように思います。
瀬戸:私はピルの処方や検診で定期的に通院しているんですけど、そもそも産婦人科にかかること自体、女性として心理的なハードルがあるのを感じます……。「産婦人科にいるのを知り合いに見られたらどうしよう」みたいな声も聞きますし。
ある男性がパートナーの女性が婦人科に行くというのでついて行こうとしたらしいのですけど、「人に見られたらまずいからちょっと……」って、女性に断られたんですって。そんなことを女性自身が気にせず一緒に行けるようになるといいんですけどね。だって女性の体の話って、本人だけじゃなくてパートナーにも関わることだったりするから。
婦人科医は「人生ごと」相談できる存在
ーピル(OC)は、女性が主体的に選べる避妊方法であるにもかかわらず、なぜ海外と比べて日本では服用率が低いのでしょうか?
三輪:日本では、貞操の話と結びつけられがちですね。「ピルの服用=風紀が乱れる」と結びつけて考える方もいらっしゃるのですが、まったくそんなことはありません。どんなに備えても万が一のことは起こり得ます。
女性が自分の体や心を守り、予期せぬ妊娠をしないように、ピル(OC)を日常的に服用しておくことは非常に大事です。それと同時に、緊急避難的な手段として「アフターピル」と呼ばれる緊急避妊薬(*6)があるのだと知っていることも非常に重要なんです。
三輪:むしろ、ピル(OC)の役目なども含めた性教育の重要性はデータでも出ています。海外では婦人科以外でピルを処方するのが当たり前で、入手のハードルが低いんですよ。
瀬戸:私は25歳くらいからもう3、4年、服用を続けています。生理不順がひどくて、かかりつけの産婦人科の先生に相談したところ、ピルは女性にとって強い味方になる薬だと教えてもらったのがきっかけです。
実際に飲んでみて、生理のタイミングが把握できるのはもちろん、経血量が減って生理が軽くなったし、頻度も減ったのが本当に嬉しくて(*7)。そもそも、避妊目的でピルを飲むのも「妊娠時期を自分でコントロールしたい」という女性の大事な選択じゃないですか。
瀬戸:なんとなく恥ずかしいものだと教え込まれてきた生理や避妊の話が、もっとオープンになってほしいです。適切な情報に触れられない人が多いんじゃないかな、と。「ピルは太りやすい」みたいな先入観も強いですよね。
三輪:初めて飲む方に「太るんですか?」「気持ち悪くなるんですか?」は、毎回聞かれますね。もちろんそういう方もいますが、ピルのネガティブな思い込みを持たれているケースは少なくないので、医師としても状況を変えていく必要性を感じます。
瀬戸:飲み始めの頃を思い出すと、私もいろいろ不安でした。ピルを飲み始めたら生理がこなくなって。
三輪:ピルを服用していて生理がこなくても、ホルモンがコントロールされているので問題ありません。同じ出血がない状態でも、無月経(*8)はまったく意味合いが異なります。無月経を放置すると、排卵しづらい状態になってしまいます。ずっと放置しておくと、いくつかの病気のリスクがあがるので治療が必要です。
瀬戸:一時的にピルをやめていた期間があったのですが、久しぶりに生理中にすごくお腹が痛くなって、「これがピルのない生理だ!」と思い出して、もう絶対嫌だと思っちゃいました(笑)。血栓症のリスクや、薬代がかかったり毎日決まった時間に飲まなきゃいけなかったりという条件はあるものの、私はピルですごく助かっています。
三輪:それはよかったですね! 実際に自分の体に合うかどうか、効果や副作用には若干の個人差があるので、病院と相談しつつ見極めていくのがいいと思います。瀬戸さんはピルの服用をオープンに話すことに抵抗はありませんでしたか?
瀬戸:やっぱり最初は言えませんでしたね……。でも徐々にピルやPMS(月経前症候群)(*9)について、SNSを中心に話題になっていますよね。このあいだ、男性アイドルがテレビで生理の話をしていて、世の中が進んだなって驚きました! 少しずつではありますが、自分自身や周囲の理解が進んで、生きやすくなった気がするんです。
瀬戸:じつは以前、生理ですごく体調が悪かったときに、パートナーから「生理を言い訳にしてる」と、仮病扱いされたことがあったので……。
三輪:そんなことを言う人には、このしんどさを代わってほしいですよね。異性にも生理について理解してもらう必要性を感じています。「なんでこの人、機嫌悪いんだろう」とか「すごく眠そうにしてるな」とか「何度もトイレに行くな」とか、生理にまつわる症状やそれにともなう行動の理由がわからない男性がまだまだいるんですよ。
いまの日本は、月に一度の生理がある20代から40代女性の約7割が働いています。ちょっとした理解があるだけで、だいぶラクになると思うんです。
瀬戸:周囲の理解はすごく重要ですよね。私の場合はありがたいことにとても言いやすい環境ですが、まだまだ自ら、特に男性に対して伝えるのは難しいです。その意味では、SNSが役立っているように思いますね。若年層の子たちに効果やメリットをもっと知ってもらいたいからと、SNSで「ピル飲んでます」ってファンに向けて宣言するモデルの友人も増えました。
三輪:ピルに関する情報発信が活発になるのは嬉しい変化です。一方で、誤った情報を発信されているケースも見かけるので、流されないように気をつけてもらいたいですね。
瀬戸:私自身がまだSNSでピルの話をしたことがないのは、そこが心配だからですね。これから発信していくなら、自分の意見だけじゃなくて、「婦人科に相談して、主治医の先生のアドバイスを聞いてください」とセットで伝えようと考えています。
三輪:そのコメントは医師としてすごくありがたいです! 最近はオンラインの診察だけで、ピルを処方できるようになりました。
診察は必ずしも産婦人科でなくてもいいですし、内診もマストではありません。ぜひ一度、医師に話を聞くだけでもしてもらえたら嬉しいです。
瀬戸:あとは、かかりつけ医を見つけるのも大事ですよね。自分の体のことをわかってくれている先生がいるってだけで安心できます。私はたまたま一番近所の産婦人科が名医といわれている病院で、引っ越したいまでも信頼して通い続けています。
最初は院長先生に診てもらっていたんですけど、ある日、別の先生に診てもらったら相性ぴったりで、主治医を変えてもらいました。その先生は「動物性タンパク質が足りないと、婦人科系のトラブルになりがちだよ」と、私の生活状態を聞いたうえでアドバイスしてくれる。不調になったときに薬で治療するだけじゃなくって、私の健康そのものを診てくれて、出会えてよかったなと思っています。
三輪:いい先生に巡り会えたんですね! 産婦人科ってドクターでもあり、人生相談の相手のような側面もある。それこそ私も患者さんから、「いまは妊娠したくないんです」「じつは彼氏とこういうことがあって」とか、ライフプランにも関わる話をよく相談されます。
何かを判断せずに、ただ聞いて受け入れてくれる先生が女性には必要なんじゃないかな、と。自分の価値観と合う先生を見つけるのは容易くありませんが、最近はSNS発信をしている先生も多いですし、相談してみたい医師を選んで受診するのもアリだと思います。
瀬戸:三輪先生は話しやすいので、主治医になったら恋愛相談とかもしたくなっちゃいそうですね(笑)。
好きなもの、好きな人生を主体的に選ぶヒント
ー女性がより主体的にこれからの人生を選び取っていくためのアドバイスはありますか?
三輪:まずは受け身になりがちな姿勢を変えていかなければなりません。本当に小さなことでもいいので、ライフプランを自ら「決める練習」から始めてみるのはどうでしょうか。仕事でもプライベートでも、「私はこういうふうに生きたいんだ」ということを自分のなかで考えて理解して、そこに基づく判断ができると、どんどん生きやすくなっていくんじゃないかなと思います。
生理にまつわる不調一つとっても、我慢しなきゃいけないものじゃなく、「つらいから何かできないかな」って主体性を持ってみると、見え方が変わるはずです。
瀬戸:決める練習、すっごくいいですね! SNSでファンの方から相談を受けていると、将来のこととか結婚のこととか、自分が何をしたいのかわからない人がとても多いんです。
三輪先生のおっしゃるように、自分のライフプランを叶える一番の近道は、「自分の好きなのはこれだ!」っていうものを1本持っておくこと。私はそれがファッションで、いまこういう仕事につけて本当に幸せだなと思っています。
―自分にとって好きなこと、大切なものがわかっていれば、その後の自分のライフプランも見えてくる、と。
瀬戸:そうです。もし好きなものがまだわからない人は、とにかく試しに一度本気になってみる、ですね。誰かに誘われたものでもいいんです。チャレンジしていくうちに、「自分はこれが好きなんだ」が見えてくると思うので。
三輪:本当にそのとおりですね。考えているだけじゃ何も始まらないから。行動の一つとして、発信するのも重要だと思います。私はHPVワクチン(*10)の啓発活動を始めたいと思いつつ、反発も強くて勇気が必要でしたが、実際に動き始めてみたら、いろんな人が助けてくださって、輪が広がったんです。
三輪:ピルの普及率も低いので、もっと発信していかねばなりません。別にそれは日本人の生理の症状が軽いから普及していないわけではなくて、ピルについて正しく理解されていないだけ。困っている人たちはまだまだいるはずだと思うので。
- サービス情報
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現役の産婦人科医が監修し、思春期から更年期まで幅広い女性の健康支援を目的とした完全無料アプリ「LiLuLa(リルラ)」。生理日や基礎体温をまとめて管理できる「カラダログ」や自分で医師に質問を投稿することもできる「教えてDr.」など、一つのアプリで女性の健康づくりをサポートしています。
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【心とからだの話をはじめるメディア】わたしたちのヘルシー
Women's Health Action×CINRAがお届けする、女性の心とからだの健康を考えるウェルネス&カルチャープラットフォームです。月経・妊活など女性特有のお悩みやヘルスケアに役立つ記事、専門家からのメッセージ、イベント情報などをお知らせします。
- プロフィール
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- 瀬戸あゆみ (せと あゆみ)
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1993年生まれ、埼玉県出身。モデル、デザイナー。 クリエイティビティーに溢れるコーディネートセンスで絶大な人気を博している。「Aymmy in the battygirls」「DearSisterhood」などのアパレルブランドのデザイナーを務める。
- 三輪綾子 (みわ あやこ)
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産婦人科専門医、産業医。一般社団法人予防医療普及協会理事。THIRD CLINIC GINZA院長。企業アドバイザー、医療監修なども行なう。女性ヘルスケアに取り組むべく、フェムテックサロンを運営している。
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