コロナ禍が終わればひと安心……というわけにいかない理由
あ~、早くパンデミックなんて終わってくれないかなぁ? ステイホームも出前も飽きたし、生身の人とのおしゃべりが恋しい。「マンボー」なんてもう懲り懲りだ! 早く普通の生活に戻りたい……。
誰もがそう思っていることでしょう。このコロナ禍、さまざまな局面で生きづらさを感じることがありました。なにがなんでも、パンデミックなんて2度と経験したくありません。
というか、多くの人が今回のコロナが収束したら、再びパンデミックが来るなんて考えていないでしょう。これで終わりだと願いたいものです。
しかし実際のところ、古くはペストやスペイン風邪から、鳥インフルエンザ、SARSまで、私たちは繰り返しさまざまな感染症と戦ってきました。では、次なるパンデミックを防ぐために、私たちは一体どうすればいいのか。
最強のワクチンを開発する? 国境を閉ざしてしまう?
答えは、意外なものでした。
森林伐採が、自然界から新たなウイルスを招き入れている
2月に「Science Advances」という権威のある科学雑誌に、世界各国の学者が協力して発表した論文がこの問いに対して一つの結論を出しました(*1)。それは……
「自然を守ること」。
え? と思うかもしれません。しかし、上記に挙げた感染症や、エボラ出血熱、エイズといった感染症の多くは、「動物由来感染症」といわれ、動物から人間へと感染するウイルスが原因。
宿主である生物から別の生物種へとウイルスが伝播することを「スピルオーバー(異種間伝播)」といいますが、論文によればこの大きな原因となっているのが、「森林伐採」なんです。
端的にいうと、森林を伐採することで、ウイルスを持った可能性の高い特定の野生生物と人が交差する「森の端」の面積が増え、スピルオーバーのリスクが上がるんだとか。実際に、森林伐採ホットスポットと、ウイルス感染ホットスポットは重なっているケースが確認されているそうです。
過去100年で、人間へのスピルオーバーの頻度、それに伴う死者の数、そして経済的損失はどれも「増加」しています。
そして、世界ではいま、毎年600万ヘクタール近くの森林が伐採されています(*2)。なんと、これは東京23区約100個分のサイズ。凄まじい……。
未開の森林の奥に切り込めば切り込むほど、私たちは次なるパンデミックの発生リスクを高めているといえます。
森林によって起きる問題といえば、温暖化もあります。温暖化が悪化すると、蚊の数が増え、感染症が広まる可能性があるといわれています(*3)。
パンデミックも、蚊も、暑いのも嫌だ。森林伐採は百害あって一利なし!
前述の論文の試算によれば、森林伐採を止めることを含む「予防措置」にかかるコストは、感染拡大によってもたらされる経済的損失の約1/20で済むそう。
では果たして、森林伐採を減らすために私たちにできることとは、なんでしょうか? それはまた別の機会に書くことにします。
*1 『Science Advances』に掲載の論文「The costs and benefits of primary prevention of zoonotic pandemics」
*2 オックスフォード大学とNPO Global Change Data Labが運営する「Our World in Data」のデータ
*3 『米国科学アカデミー紀要(PNAS)』に掲載の論説「Climate change hastens disease spread across the globe」
- プロフィール
-
- 清水イアン (しみず いあん)
-
環境アクティビスト。2030までに新たな森林伐採ZEROを目指す国際環境NPO「weMORI」代表。世界中の創造力と10代をつなぐEdTechプログラム「Inspire High」ナビゲーター環境・気候変動に関する先端情報と仲間が集まるオンライン・コミュニティ「GREEN DAIGAKU」を最近スタート(仲間募集中です!)。世界に森を、教育にインスピレーションを、次世代に美しい地球を。
- フィードバック 13
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-