たくさんの人から認められたい――いわゆる「承認欲求」は満たしたいけれど、不特定多数の人々から心ない言葉をぶつけられるのは、どうにも恐ろしい。目立ちたいけど、目立ちたくない。SNSの浸透によって、そんな悩みが、誰にとっても他人事ではなくなっている昨今。自分らしく生きるためには、どうしたらいいのだろう。
昨年9月、コムアイの脱退を受けて、「水曜日のカンパネラ」の新ボーカルとなることが発表された詩羽(うたは)。多くの人々の注目を集めながら、昨年10月には新体制初となるシングル『アリス / バッキンガム』をリリース。その後も、さまざまなフェスやイベントに精力的に出演しながら、持ち前の「明るさ」と「大胆さ」、そして現在20歳というその「若さ」によって、新しい「水曜日のカンパネラ」像を着々と築き上げている。
「自己肯定感」を活動のテーマに掲げる彼女にとって、「自分らしく生きること」と「多くの人から認められること」は、どんな関係にあるのだろう。そこにプレッシャーや不安はなかったのだろうか。
ニューシングル『招き猫 / エジソン』がリリースされる2月25日に、有観客&配信のハイブリッドで開催される『exPoP!!!!! vol.137』にも出演する「水曜日のカンパネラ」の詩羽に話を聞いた。
コムアイさんにしかできないことはあるけど、私にしかできないこともある
―コムアイの脱退を受けて、水曜日のカンパネラ(以下、水カン)の2代目ボーカルとなってから半年近くが経ちました。その後、どうですか?
詩羽:うーん、どうなんですかね(笑)。でもやっぱり、ここ半年ぐらいは、生きていくスピードが、どんどん速くなっていて。本当に怒濤の毎日だなっていうのは、すごく感じています。
―水カンのボーカルとしての実感みたいなものも、日々高まっている感じですか?
詩羽:やっぱり、ステージに立って、お客さんの前で水曜日のカンパネラの曲を自分が歌うようになってから、あらためて自分が水曜日のカンパネラになったんだなって実感するようになりました。
―コムアイさんという個性的なアイコンが脱退したあとの、水カンの2代目を務めるというのは、相当なプレッシャーだったんじゃないですか?
詩羽:あんまり気にしないようにとは思っていたんですけど、やっぱり最初の『アリス / バッキンガム』をリリースする前は、どんな反応がくるのかわからなかったので、怖かったです。
―これまでのファンに認めてもらえるのか、みたいな不安もありましたか?
詩羽:そうですね。やっぱり初ライブの前は、コムアイさんの動画を見てパフォーマンスを研究していました。これまで水カンが積み上げてきたものを大事にしながら、どのくらい自分らしさを出せるのか、みたいなことは悩みましたね。
でも、ライブの数をこなしていくうちに、やっぱりコムアイさんにしかできないことがあって、それは逆もしかりなんだなって気づいてからは、楽しめるようになりました。
「正解」と「間違い」の差は曖昧なもの
―詩羽さんは、水カンのオファーがきた時に「やります!」と即答したそうですが、いまの時代、失敗することや批判されることを恐れて、挑戦できない人が多い気がします。それについては、どう思いますか?
詩羽:たしかに、石橋を叩いて渡るような人は多いかもしれないですね。特に私たちの世代は、子どものころから、SNSをはじめ「正解」と「間違い」を区別しがちな環境に囲まれていたというのもあると思っていて。
私は、「正解」と「間違い」の違いっていうのは、意外と曖昧なものだと思っているんですけど、それをはっきり区別してしまって、「間違っちゃいけない」って思う人が多いような気がするんですよね。だからこそ、挑戦するよりも、立ち止まって考える人が多いというか。
ただ、私と同世代でも、クリエイターとかアーティストの活動をすでにやっている子たちは、「やるしかない」とか「前に進むしかない」っていうマインドの人も結構いて。私の周りでは、半々ぐらいなのかな? 石橋を叩く人と、進むしかないっていうタイプが。私は完全に後者ですけど(笑)。
―(笑)。詩羽さんは、もともとそういうタイプだったんですか? それとも何かきっかけがあって、そうなった?
詩羽:うーん、どうだろう。私は、「時間って限られているな」っていうのを、すごい思っているんですよね。なので、止まっている時間のなかでも、何ができるか考えてしまうというか。それこそ、私はコロナ禍で大学に通いはじめたんですけど、入学したときから自粛期間とかもあって、学校に通うことがあまりなくて。とにかく、家にいる時間が、すごい増えたんですよね。
で、そのとき、周りを見ていて思ったのは、「これじゃ何もできない!」って、現実に対して文句を言い続けているタイプと、「いまだからこそ、できることを探そう!」っていうタイプがいるなっていうことで。その2つが、すごいはっきり分かれているなって思ったんですよね。
―なるほど。
詩羽:で、自分もそのとき、ずっと家にいるからこそ、考える時間があって、誰とも会わないからこそ、自分と向き合う時間もあって……そのときに、自分が何をしたいのかとか、自分がいますべきこと、できることを、考えたんです。そうしているうちに、やっぱり「やるしかない!」っていうマインドに、どんどんなっていったというか(笑)。その時期があったからこそ、「水曜日のカンパネラのボーカルをやりませんか?」って言われたときに、すぐ「やります!」って言えたのかもしれないです。
自分が納得していないことをやって、そのことで自分を嫌いになるのは、嫌だ
―なるほど。ただ、なかなかそこまで振り切れない人も、結構いるわけですよね。
詩羽:そうですね……ただ、そこで身構えてしまったり、うまく自分が出せない人っていうのは――それは私の世代だけじゃなく、上の世代の大人たちも同じだと思うんですけど、結局「自分が何を正しいと思っているのか」、その判断ができないんだと思うんですよね。そう、私は高校生のころからいまのように刈り上げで、口にピアスを開けていたんですけど……。
―それは、どういうきっかけだったんですか? それ以前は、割と普通の高校生だったみたいですけど。
詩羽:当時は世間的な「普通」に、結構飲み込まれていたところがあって、ごくごく平均的な人間だったんですよね。だけど、学校生活のなかで、うまくいかないことが多くて、このままじゃダメだなって思って、あるときから自分のことは自分で助けてあげなきゃと思うようになって。それで、まずは自分の見た目を、自分の好きなように変えてやろうと思って、前髪パッツンでサイドを刈り上げて、口にピアスを開けたんです。
私は、そうやって自分の好きなように自分の見た目を変えていったら、いろんなことがいい方向に進んでいったんですよね。もちろん、大人というか先生たちからは、すごい怒られましたけど(笑)。
―でしょうね(笑)。
詩羽:ははは。校則的にピアスはダメだったので、そこは怒られても仕方がないんですけど……ただ、刈り上げについては、校則に書かれてなかったんですよ。でもやっぱり、呼び出しを食らって。で、私も負けず嫌いだから、大人が言うから正しいとかではなく、校則に書いてあるかどうかの話をしたんですよね。
そういうグレーゾーンに対して、先生たちは、何を根拠に、どんな判断のもとに怒っているのかっていう。そうじゃないと、何がいけないのかわからないじゃないですか? そういう話し合いをしたんですけど、先生側は「普通じゃないから」の一点張りで。
―周りの目がどうこうとか、それこそ世間体とか……。
詩羽:そうなんですよ。そういう漠然とした、その人にとっての「普通」で攻撃してくるんです。でもそれって、その人にとっては「正解」なのかもしれないけど、そこに明確な判断基準があるわけではないじゃないですか。それをぶつけられるのは、すごい間違っているなって思って。校則だけではなく、日常のルールに関しても同じだと思うんですけど、そういう普通とか普通じゃないの判断をしているのは、いったい誰なんだろうっていう。
そういうことを自分で考えるようになってから、結局何が正解で何が間違っているかは、人それぞれにあるものだから、自分が何を正しいと思っているのかが、やっぱりいちばん大事なんだなって思うようになりました。
―曖昧なものに対して曖昧なまま従うのではなく、自分が正しいと思っているものに従うことが、自分にとってはいちばん大事というか。
詩羽:もちろん、曖昧なものは曖昧なもので、絶対に必要なものだとは思っているんですけど、それ以上に大事なのは、自分が自分のことを好きでいられることじゃないですか。そうじゃないと、人生成り立たないと思うんですよね。
自分が納得していないことや間違いだと思っていることをやって、そのことで自分を嫌いになるのは、すごい悪循環だと思うんです。だったら、他の人に何と言われようと、自分で自分がカッコいいと思えるようなことを、それによって自分をもっと好きになれるようなことをやったほうがいいなって。
―そういう詩羽さんの「思い」みたいなものは、どうやって「表現」へと変わっていったのでしょう?
詩羽:私が過去にそうだったように、生きづらさを感じている人って、めちゃめちゃ世に溢れているじゃないですか。そういう人たちのために、自分ができることって何だろうって考えた結果、SNSで「私はこうやってるよ」とか「あなたはそれで合ってるよ」とか、自分が思っていることや、自分が正解だと思っていることを発信することなんじゃないかと思ったんです。それからフリーランスでモデルの活動を始めて、Instagramで発信することを始めました。
―それが詩羽さんにとっての「表現」だった?
詩羽:そう、それが私なりの表現の仕方であって。たとえば私の見た目を発信することによって、「あ、こういうのもありなんだ」って思ってもらえたらいいというか、それが誰かにとって何かのきっかけになるかもしれないっていう。
―なるほど。こうして話していて、詩羽さんがなぜ水カンの新しいフロントマンに選ばれたのか、だんだんわかってきたような気がします。
詩羽:本当ですか(笑)。うれしいです。
曲に対する「好き」「楽しい」という気持ちが、歌にも表れている
―そんな水カンのニューシングル『招き猫 / エジソン』についても少し聞いていいですか?
詩羽:もちろん。“エジソン”は割と前っぽさが残っている曲で、逆に“招き猫”は新しい感じの曲というか。そういう意味では、去年の10月に出した“バッキンガム”と“アリス”みたいな感覚ですけど、その2曲ともまったく違う感じの曲になっていて(笑)。いまは、「こんなことから、こんなことまでできるんだよ」っていうのを出していけたらいいなって思っています。
―2曲とも、詩羽さんのボーカルが、さらに自由で伸びやかな感じになってきているような印象を受けました。
詩羽:今回の2曲も、私はすごく好きな曲なので、ライブで歌うのも楽しいし……そう、私は、水カンのポップな感じとか、おもしろい感じの曲が好きなんですけど、今回の2曲には、それがちゃんとあると思っていて。曲に対する「好き」とか「楽しい」っていう気持ちが、レコーディングの現場にも表れているというか、私の歌にも出ていると思います(笑)。あと、“招き猫”のサビの部分には、実は振りつけがあって。まだライブで2回ぐらいしかやってないんですけど、この曲がリリースされたあと、ライブでやっていくにつれて、みんなで一緒にできるようなものになっていったらいいなって思っていて。結構、そこがポイントかもしれないです(笑)。
―新しい曲が増えれば増えるほど、ライブをやりたくなるんじゃないですか?
詩羽:そうですね。でも、今年になってから、少しずつライブの予定が増えていってはいるので。それこそ、『招き猫 / エジソン』のリリース日には『exPoP!!!!!』もありますし、ここからますます頑張らなきゃっていうのは、すごい思っています。
チャンスを与えてもらったぶん、人にチャンスを与えられる存在になりたい
―ちなみに詩羽さんは、水曜日のカンパネラを、今後どんなふうにしていきたいと思っているのでしょう?
詩羽:これは、水カンに入ったときから、メンバーのDir.Fやケンモチさんとも話していることなんですけど、これから新しく出会っていくファンの人たちも大事だけど、コムアイさんが歌っていた水カンのことを好きでいてくれたファンの人たちのことも、やっぱりすごく大事に思っていて。だから、これまでの水カンの曲も、ライブで歌っていきたいと思っているし……あと、ライブをするようになって感じたんですけど、水カンのファンの人たちの年齢層って、結構高いんですよね。私よりも上の人たちが多いというか。
―たしかに。
詩羽:で、私としては、そういうファンの人たちを、ちゃんと引っ張っていきながら、それと同時に、私と同じくらいの世代だったり、私よりもっと下の世代の人とかも、どんどん巻き込んでいきたいなって思っていて。そうなったら、ライブか何かでみんなと会う機会があったとき、年齢層がすごい幅広い空間になるじゃないですか。そういう空間をつくるのが、目標です。
―世代を分かつような存在ではなく、世代を繋ぐような存在に。そう、“バッキンガム”のミュージックビデオの監督に、詩羽さんと同世代のクリエイターであるマイさんを起用するなど、自分たちの世代を巻き込んでいくことに関しては、結構意識的なのかなって思っていました。
詩羽:そうですね。私自身が上の世代の人たちに見つけてもらったおかげでいまがあると思っていて。自分はまだ、若い人をフックアップできるような年齢でも立場でもないですけど、少なくとも自分と同世代とか、自分よりも下の人たちに向けて、「一緒に頑張ろうね」っていう空気はつくっていきたいなって思っていて。チャンスを与えてもらったぶん、いずれは人にチャンスを与えられるような存在になりたいなっていう。
―そのスピード感というか、先を見通した感じには、ちょっと驚かされるようなところもありますが、いずれにせよ、いまのところは順調といった感じでしょうか?
詩羽:まあ、そうですね(笑)。まだまだ、波の乗り始めぐらいの感じというか、これからもっと大きい波がくると思うので、それにちゃんと乗っかりつつ、応援してくれている人たちが、もっと楽しめるような環境だったり空間をつくっていけたらいいなって思っています。
おもしろいことって、自分が思っているよりも多い
―では最後に、依然としてコロナ禍の状況ではありますが、詩羽さんと同年代の人たちに向けて、何かメッセージを。
詩羽:みんなそれぞれ大変というか、学生の人たちは、あまり学校にも通えず、友だちにも会えず、もうリモート、リモートっていう感じの日々で、みんな、やりたかったこととか、行きたかったところが、山ほどあると思うんですけど、いまだからこそできることを、ちゃんと探していって……そう、おもしろいことって、自分が思っているよりも多いというか、つまらないことよりもおもしろいことのほうが、意外と多いと思うんですよね。なので、そういうことは、みんなに伝えていきたいです。
―ちなみに、何か落ち込むようなことがあったとき、詩羽さんの場合は、そこからどうやって抜け出していくのでしょう?
詩羽:そう、「落ち込むことはないんですか?」っていう質問を、結構定期的に聞かれるんですけど……。
―思わずそう聞きたくなるような雰囲気が、詩羽さんにはあるのかな(笑)。
詩羽:(笑)。もちろん、私だって落ち込むことはあるんですけど、プラスのときに、マイナスのことを覚えてないんですよね。結局、時間が解決するというか。もちろん、忘れられないこともあるんですけど、マイナスのことがあったからこそわかるプラスのことって、絶対あると思っていて。それこそ、あのとき失敗したからこそ、気づけたことがあるとか、あのときああだったから、いまはこうなんだなって思えるようなことって、いっぱいあるじゃないですか。
そうやって、どんなにマイナスなことでも、まわりまわって全部プラスに繋がっているというか。最終的に、時間がそうしているのかなっていうのは思っていて。
―まさしくいまというか、このコロナ禍の情況を表しているような……大事なのは、ただじっと待っているのではなく、動き続けること、考え続けることなんでしょうね。
詩羽:うん、そうですね。私は、同じところでじっとして停滞するのは苦手なタイプなので。そうやって、ずっと止まることなく動き続けてきたし、これからもきっとそうなんだろうなって思います(笑)。
- リリース情報
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水曜日のカンパネラ
『招き猫 / エジソン』
2022年2月25日(金)配信
1. 招き猫
2. エジソン
- イベント情報
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- プロフィール
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- 詩羽 (うたは)
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2001年生まれ、東京都出身。2021年9月、知人の紹介から面談を受け、水曜日のカンパネラの2代目・主演&歌唱担当として加入。高校卒業後、ストリートスナップなど個人でのモデル活動を行ない、音楽と言葉と時間と私をテーマにInstagramに詩と写真を投稿しながら自己表現を模索している。
- 水曜日のカンパネラ (すいようびのかんぱねら)
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2013年からコムアイを主演&歌唱とするユニットとして始動。メンバーはコムアイ(主演)、ケンモチヒデフミ(音楽)、Dir.F(その他)の3人だが、表に出るのは主演のコムアイのみとなっていた。2021年9月6日、コムアイが脱退、新しく主演&歌唱担当として、詩羽が加入となり新体制での活動がスタート。
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