メイン画像:ANREALAGEのプレスリリースより
世界最大級のメタバースファッションウィーク。日本のブランドからはアンリアレイジが参加
いまやさまざまな業界から熱視線を向けられているメタバース。そんなネット上の仮想空間としては、世界最大級の規模のファッションウィーク『Metaverse Fashion Week(メタバース ファッションウィーク)』が開催される。
メタバースプラットフォームの大手「Decentraland(ディセントラランド)」上で2022年3月24から27日の4日間にわたり、ランウェイショーやアフターパーティーなどの各種イベントが行なわれるほか、参加ブランドは分散型ネットワーク「Boson Protocol(ボソンプロトコル)」の技術を利用し、実際の商品と交換可能なNFT(*1)を販売する。
ドルチェ&ガッバーナ、トミー ヒルフィガー、フランク ミュラー、エトロなど世界的なブランドが参加を表明するなか、日本のブランドからはアンリアレイジが参加。
これまでにもNFT作品の出品など、デジタル領域への挑戦を積極的に行なってきた同ブランドは、先日のパリコレで発表した2022-23年秋冬コレクションの「PLANET」を披露する。
さらに、メタバースファッションに特化したNFTマーケットプレイスを運営するKREATION VERSE(クリアーション バース)社と提携し、メタバースショップのオープンや新作のNFT作品の発表なども行なうそうだ。
『Metaverse Fashion Week』の参加を表明したアンリアレイジがInstagramで公開した動画
一流ブランドが続々とメタバース参入へ。近年のファッション業界の動き
『Metaverse Fashion Week』に限らず、ファッション業界のメタバースへの進出は、ここ最近加速している。
その筆頭とも言えるバレンシアガは、オリジナル制作のゲーム内で2021年秋コレクションを発表。さらには、VR空間で遊べる人気オンラインゲーム『フォートナイト』とも2021年にコラボレーションして話題に。同じデザインで、ゲーム用のデジタルファッションとリアル用のファッションを発売した。
バレンシアガの2021年秋冬コレクション
『フォートナイト』とバレンシアガのコラボ
ほかにも、ジバンシイなどのブランドが任天堂のゲーム『あつまれ どうぶつの森』内でキャラクターが着用できる「マイデザイン」にアイテムを提供(*2)。
メゾン マルジェラやマルニを運営するOTBグループは、メタバース向けの製品などを開発する新規部門ブレイブ・バーチャル・エクスペリエンスを設立した。
国内でも、『東京ガールズコレクション(TGC)』のライブ配信やスペシャルコンテンツなどをバーチャル空間で体験できるスマホアプリ「バーチャルTGC」や、人気ブランドAMBUSH(アンブッシュ)によるメタバース空間「AMBUSH SILVER FCTRY」のオープンなど、次々とファッション企業やブランドがメタバースでさまざまな試みを行なっている。
そもそも、なぜメタバースが注目されるようになったのか。ファッション業界が着目する以前の流れ
このように近年、注目されているメタバースだが、じつは概念自体はそこまで真新しいものではない。この言葉の語源とされているSF小説『スノウ・クラッシュ』(著:ニール・スティーヴンスン)は1992年に発表されているし(*3)、2009年に公開された映画『サマーウォーズ』(監督:細田守)でも、仮想空間「OZ」が登場した。
『サマーウォーズ』劇場用予告
ほかにも、小説や映画でメタバースに近しい題材が選ばれることはあった。そんな物語上の架空の世界と思われていたメタバースが現実味を帯びてきたきっかけが、ブロックチェーン技術を基盤とした「Web3.0」時代への移行である。
「Web3.0」とは、インターネット黎明期の「Web1.0」、GAFAM(*4)をはじめとする特定の巨大企業が個人情報などのデータを独占的に扱ってきた「Web2.0」に続く、「分散型インターネット」と呼ばれる考え方。
簡単にいうと、情報がどこかの大企業や団体に集中することなく、分散して管理される世界だ。「Web3.0」の世界では、主に仮想通貨が使用され、その際に購入したものが本物であることを証明する「鑑定書」としてNFTが発行される。これにより、リアルに近いかたちでの商取引がネット上の仮想空間内でも可能になるのだ。
そういったさまざまな要因のもと、独自の経済圏が生まれつつあるメタバースが注目されるようになった。Facebookが社名をMetaに変更し、メタバースへの本格参入を発表したのは象徴的な事例だろう。
以降、IT業界のみならず、さまざまな業界がメタバース参入を模索するようになった。現にアメリカの総合情報サービス社のブルームバーグの発表では、メタバースの市場規模が2020年の4787億ドルから、2024年には7833億ドルに拡大すると予測している(*5)。
今後のファッション業界はどう変わる? 「次世代SNS」ともいわれるメタバースの可能性
ファッション業界もこのトレンドに乗っているわけだが、ファッションとメタバースは他業界と比べても親和性が高い。その要因として大きいのが、空間内で情報が発信されたり、ユーザーが交流したりするという点でメタバースがSNS的側面も持っていることだ。
テキストや写真、動画といった2D情報がメインだった従来のSNSとは異なり、3D空間であるメタバース上では、ユーザーの識別アイコンがアバターという、より人に近いかたちのものになっている。つまり、ユーザーは外見やファッションに気を使う必要性も出てきて、なおかつそれを楽しめるのだ。
Decentraland のInstagramより
さらにメタバースは、国や国籍、身体を超越した多様性があるうえに、デジタル上では廃棄が存在しないサステナブル性も持ち合わせている。近年はSDGsに取り組むアパレル企業やブランドも多いため、参入を前向きに検討する企業はますます増えていきそうだ。
そんなメタバースが今後、TwitterやInstgram、YouTube、TikTokなどに次ぐ「次世代SNS」となれば、ファッション業界とメタバースの距離はさらに縮まり、新たなビジネスとカルチャーの創出につながっていくだろう。
冒頭で紹介した『Metaverse Fashion Week』もそのひとつで、長い歴史を持つファッション・ウィークに、新たなコレクション発表の手法を提示しているともいえる。ブランド側からすると、これまでかかっていた移動費や会場費などの大きな出費を抑えつつ、世界中の人にコレクションを発信できるのは大きな利点かもしれない。
さらに今後は、メタバース上でバズを生んだアーティストが一躍スターとなり、彼・彼女らのファッションスタイルがメタバースでもリアルでもトレンドになるという、これまでにない流行の発生もあるだろう。
現在、インフルエンサーが手がけるブランドがリアルでは続々と生まれているが、メタバース上で有名になったインフルエンサーが、デジタルブランドを始動するといったことも大いにありえる。それがムーブメントになれば、デジタルブランドの立ち上げを支援するプラットフォーマーが出てくることも想像に難くない。
さらには、デジタルファッションブランドの誕生も加速するはず。これまで主にデジタルスニーカーやバーチャルウェアの制作を手がけてきたNFTブランド「RTFKT(アーティファクト)」をNIKEが2021年12月に買収したが、そういった事例もより増えていくと予想できる。
RTFKTの公式Instagramより
現在はリアルに存在しているファッションブランドがメタバースに参入するという基本構造だが、デジタルファッションがリアルに進出することも多くなりそうだ。
いずれにしても、メタバースが発展していけば、「リアルからメタバースへ」と「メタバースからリアルへ」が交錯し、融合していくだろう。
現時点では、デジタルとリアルで同様のデザインのアイテムを販売するなどの手法が主流となっているが、さらに発展して、アイテムの新たなプロダクトや販売手法を模索するブランドがきっと出てくるはず。そしてそこから、いまは想像もつかないような新たなカルチャーが生まれるかもしれない。
*1:「Non Fungible Token(非代替性トークン)」の略。デジタル上のデータなどの権利を記録するデジタル資産のこと
*2:「ジバンシイ ビューティー 」のTwitter公式アカウントにて発表(投稿を見る)
*3:朝日新聞デジタル【「メタバース」の原典、復刊 92年発表「スノウ・クラッシュ」】参照(外部サイトを開く)
*4:IT企業の雄である5社(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)の頭文字を取った呼び名
*5:Bloomberg Intelligence【Metaverse may be $800 billion market, next tech platform】参照(外部サイトを開く)
※2022年3月23日に公開した記事内容の事実関係に誤りがあり、2022年3月24日にタイトルと本文の一部内容を訂正いたしました。お詫びいたします。
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『Metaverse Fashion Week』
2022年3月24日から27日までDecentralandにて開催
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