「戦争反対」と叫ぶのは無意味か?『No War 0305』でGEZANらと1万人のデモが暴力と冷笑に抗議

1万人が新宿南口に集い、反戦を訴えた『No War 0305』。現場では何が起こっていた?

「ほしいのは熱狂ではなくそれぞれの実感でたどり着いたNO WAR。そして言葉にすることには確かに意味があると認め合いたい」
- GEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーによる『No War 0305』ステートメントより

3月5日、新宿駅南口にて反戦デモイベント『全感覚祭 presents No War 0305』が行なわれた。

このイベントの目的は、ロシア軍によるウクライナ侵攻によって傷つき、危機的な状況に置かれている人たちのサポートと寄付を呼びかけること。GEZAN率いる「十三月」が旗振り役となり、およそ1万人もの人々が現場に集まり、YouTube中継の視聴者数は4000人を超えたことが報告されている。

大勢の人々が集まった会場では、マスク着用の徹底と、点字ブロックを塞がないよう配慮することが呼びかけられた

新宿南口のNEWoMan前の広場だけでなく、道路を挟んでLUMINE2の前にも連なる「No War」のプラカードを掲げる人たち。それぞれが思い思いに反戦を訴えるスピーチや音楽に耳を傾けていた。

奈良美智や大澤悠大らが手がけたさまざまな反戦のビジュアルが掲げられた仮説ステージには、GEZANを筆頭に、カネコアヤノ、折坂悠太、七尾旅人、大友良英、踊ってばかりの国といったミュージシャンをはじめ、東京在住のウクライナ人でモデルのハンナさん、東京在住ロシア人で会社員のアンナさん、哲学研究者や政治学研究者、活動家、ジャーナリストといった多様な人たちが登壇。

歌や演奏、言葉によって戦争という巨大な暴力に抗議し、侵略戦争の即時中止、人々の連帯と平和の実現を訴えた。

さまざまなイラストレーターやデザイナーによって提供されたビジュアルは、この日の主役のひとつでもあった

『No War 0305』の3つの明確な趣旨

『No War 0305』には3つの明確な趣旨がある。イベントの冒頭、篠田ミル(yahyel)がこの日の趣旨を一人ひとりに語りかけた。

まず1つめは、ウクライナ侵略によって危機に晒されている、あらゆる人々へのサポートと寄付を呼びかけること。篠田は「あらゆる」という部分を強調する。サポートや寄付を必要としているのは、戦火によって生活を脅かされているウクライナの人々に限らない。

戦争という男性性が賛美される状況によって、普段以上に危機に晒されているセクシャルマイノリティーの人々、少数民族や移民の人々、あるいは何も知らずに戦地に派遣されたロシア兵士たち、ロシア国内で弾圧されながらも反戦運動に身を投じている人々、または戦地に赴き人道支援や報道に勤しむ人々……この日をきっかけに、危機に直面している「あらゆる」人たちへの想像力を養い、知識を深め、サポートを行なってほしいと呼びかけた。

2つめの趣旨は、この日を「特別な日」で終わらせず、はじまりの日にすること。新宿南口に足を向けようと思ったその意思を、胸に抱えたモヤモヤと言葉にならない思いを忘れず、このイベントで受け取った感情や思考の種を日々の生活に持ち帰り、それぞれのやり方で芽ぶかせてほしいと呼びかけた。

この日、数多くの音楽家がステージに上がった。音楽家たちは「音楽家として」のやり方で、暴力への抗議や平和への願いだけでなく、戦地にいる人々を思う心や、遠く離れた地で限られたことしかできない無力さ、歴史や政治が複雑に絡み合っているからこそ簡単にはまとまらない思考などを、それぞれのやり方で表現していたように見えた。

<自暴自棄よりも早くはしるしか / 明るい部屋はないんだよ>と歌う”爛漫”は、この日の幕開けの演奏にして、ハイライトのひとつだった

会場で私は、普段から仕事をご一緒している写真家の方と会って、少しだけ話をした。彼女以外にも、カメラを首から提げて会場の様子を記録している人たちが何人もいた。これが写真家としてのやり方なのだろう。

デザイナーやイラストレーターがステージバックに反戦のメッセージを込めたビジュアルを掲げたように、編集者やライターなりのやり方が当然ある。それは会社員や学生、そのほかのあらゆる人たち、そして何よりあなたにとっても、きっと同様だろう。

3つめの趣旨は、「私たちには力がある」という自覚を促すことだ。「力」とは当然、暴力のことではない。「『No War』『戦争反対』と訴えたところで戦争はなくならない」と冷笑家たちが見過ごしている力。その力とは何か?

いまから57年前、公民権運動の盛り上がりを生み、人種差別的なアメリカ社会を変えるきっかけとなったローザ・パークスーー当時42歳のごく普通の黒人の女性の行動・エピソードを紹介し、篠田はこう語りかけた。

「『暴力には暴力を』という古臭い、論理破綻している、賞味期限切れのルール。その外で戦うために、暴力とは根本的に異なるもっと強力な、みなさんのなかにあるはずの、何か大きな力。そういう力の行使の仕方に対して、イマジネーションを巡らせることを今日はじめてみてください」

それぞれの方法でデモに参加する人たち

連帯することは決して無意味ではない。この日の意義を裏づける言葉たち

およそ5時間半にも及んだこの日、平和を実現するために、いくつもの心に留めておくべき言葉が投げかけられた。

断固として戦争という暴力を否定する言葉、安易な答えを提示するのではなく、むしろ答えのない問いを前に考え続けることを促したり、自らの毎日を省みさせ、行動することを後押しするメッセージ。

こうやってウクライナのために立ち上がり、「戦争反対」「No War」と唱えること、プラカードを掲げてデモに参加すること、戦争によって危機に瀕する人たちに戦地より遠く離れた日本から連帯を示すことは、決して無意味ではないと呼びかける言葉たち。そのなかから特に印象的だったものをいくつか紹介したい。

「応援してくださる人がいることが希望の光だ」。井上榛香さんがウクライナの友人から受け取った言葉

ウクライナの国旗をまとって現れたのは、ライターの井上榛香さん。2015年からウクライナの人々と交流を持ち、2017年の夏には現地に留学した井上さんは、ウクライナを「二番目のふるさと」と語る。

井上さんは、この戦争がいまにはじまったものではなく、ロシアによる侵攻がはじまる前に解決できなかったのは国際社会の責任であることを訴え、ステージ前に集った人々に向けてウクライナのことを気にかけ、一緒に立ち上がってくれたことへの感謝を述べた。

そして、日本での抗議活動の様子をウクライナで毎日怯えながら過ごしている友達に伝えると、このように返事があったのだという。

「こうやって一緒に立ち上がってくださる人がいること、応援してくださる人がいることが希望の光だ」

戦地に暮らす人々にとって少しでも心の支えになるのであれば、私たちが遠く日本からウクライナのために立ち上がること、戦争反対と唱えることは無意味ではないはずだ。

「いま諦めたら私たちの国も、ウクライナも、この世界も、戻る場所がなくなる」(アンナさん)

「ウクライナの壊された都市を見て、『これは私の国の責任だ』と理解しなければならないことは、おぞましくてたまりません」

こう語ったのは、東京在住のロシア人で会社員のアンナさんだ。

アンナさんは、プーチン大統領のロシア政権によるメディアへの厳しい検閲、反対派や野党の政治家の投獄・殺害によって、ロシアは2つに分裂したのだと説明する。

そしてそのプーチンを支持しているのは「ソ連の時代の遺物」であり、「私たちの国の未来は、若者はプーチンに破壊されています」「(ロシアの)若者はどうして戦争をしているのか理解していない、だから反戦デモに参加している」と丁寧な日本語で語りかけた。

アンナさんは自国の行なう非人道的な戦争に反対し、そして同時にロシアの砲撃によって日常を奪われたウクライナの人々の痛みに胸を引き裂かれながら、祖国の犯した行為に許しを乞うことなどできないという悲痛な思いを明かす。

「ロシア人として、我々がプーチンの政権と戦うだけでなく、ウクライナの人々にできるだけ支援しなければなりません」と募金、人道援助を呼びかけ、以下のような言葉でスピーチを締めくくった。

「いま諦めたら私たちの国も、ウクライナも、この世界も、戻る場所がなくなる。ウクライナに平和を」

「いま戦争が起こっている理由は、みんながひとつの惑星に住んでいるという大切なことを忘れているから」(ハンナさん)

モデルで、東京在住ウクライナ人のハンナさんは、通訳を介して、この場に集った一人ひとりに語りかける。

「いま戦争が起こっている理由は、みんながひとつの惑星に住んでいるという大切なことを忘れているからだと思っています(中略)みなさんは直接の当事者じゃないかもしれないですけど、ここに来てくれて自分ごとのようにこの戦争のことについて一緒に考えてくれている。ひとつの惑星に住んでいる仲間としての気持ちをいま、強く感じることができています」

私たちが地球というひとつの惑星に暮らしているからこそ、ハンナさんは一貫して、他人を思いやる心と愛の重要性を訴える。

憎しみやお互いを貶め合うことは新たな争いを生む理由となるから、隣にいる他者に対して、自由や平和を願う気持ち、そして愛を向けることで、この困難な状況を乗り越えたいと語った。

そういった信念を象徴するかのように、ハンナさんは、自身のルームメイトであり、日本でのベストフレンドであるロシア人の友人から手紙を託されていた。ふたりはお互いに異なるつらさを抱えながらも、思い合い、支え合い、ともに平和を願っている。その手紙はこのような言葉で締めくくられていた。

「ロシア人として断固として言います。私は暴力に反対です、私は残酷に反対です。私は戦争に反対です」

「人間の歴史のなかで唯一犯したらあかん間違いが、戦争やと思います」(下津光史)

ステージ上に立ったミュージシャンたちが、演奏に加えて、各々が言葉を投げかけていたことも、印象的だった。

踊ってばかりの国の下津光史はステージに上がると、子どもたちの成長も、人類の歴史の前進も、間違いを積み重ねてきたからこそだと語る。

そして、間違うこと自体は素晴らしい、ミステイクから生まれる芸術もあるのだ、と。さらにこう訴え、持参したスピーチの内容を読み上げて、演奏した。

「人間の歴史のなかで唯一犯したらあかん間違いが、戦争やと思います。略奪、侵略、これ、マジ、ファック」

「ロシアの行為は脅しの範疇を超えているし、正義面する西側諸国には吐き気がする」(七尾旅人)

「ちょっとした日常のささやかな願いみたいなものが、全部途方もない願いになってしまった」

ステージ上でまずこう語ったのは、七尾旅人。ペットを連れて逃げるウクライナの方々の写真を目にしたこと、そしてその避難先のあてもないまま家族で避難する人たちのことを思い、2018年頃に作曲された未発表曲“途方もないこと”を歌った。

歌い終わると、「今日は立ち上がって言いたいことがあった」と語りはじめた。

今回のプーチンの行動は脅しの範疇を超えていること、原発への攻撃は絶対にあってはならないことで世界大戦のきっかけにもなりうるということを訴える。そして<殺すなよ もう誰も>というリフレインを持つ新曲“同じ空の下”を歌った。

七尾旅人のTwitterより

ギターを爪弾きながら、ロシアとウクライナはそもそも東スラブの仲間であり、民衆レベルで友情や愛情は息づいていることを語る。プーチンの行為は明らかにやりすぎであるが、ロシアだけが悪いわけではないと言い、同時に、ロシアに攻め込み何千万人もの命を奪ってきた歴史を顧みることなく、正義面する西側諸国に対する嫌悪感を示し、“君はうつくしい”を歌った。

<世界よ やがて おしみなき ひかりを / Great little changes>という美しい一節のある“君はうつくしい”を歌い終えた七尾旅人は、「いろいろ言いましたが、人間の力を信じてます。一緒にがんばりましょう」という言葉を残してステージを去った。

「戦争の一番反対側にあるのは音楽のような気がしてます。でも反対だけど、とてもよく似ている」(大友良英)

10年前に一度だけ、福島で原発事故があった際にチェルノブイリがどうなっているかをひと目見に、ウクライナを訪れたことがあると語ったのは、大友良英。この日は演奏とスピーチのために来たのだと言い、こう話しはじめる。

「戦争の反対にあるのは平和って言われますけど、戦争の一番反対側にあるのは音楽のような気がしてます。でも反対だけど、とてもよく似ているような気がしていて」

戦争と音楽の共通点として大友は、近代的な技術を使い、特に20世紀においては男性が集まり、他のバンドと勢力争いをしていたことを挙げる。そのうえでなお、戦争の反対にあるのが音楽だと言いたいのだ、と。そしてこのように続ける。

「音楽の根っこにあるのはーー(これは)ぼくの考えです、ノイズだと思っていて。ノイズから音楽が生まれると思ってます。だけど、もしかしたらノイズから戦争も生まれるかもしれないなとも思っていて」

ロシアによるウクライナ侵攻が報じられて以降、こういったことを考えている数日だったと大友は明かし、「街頭で大きな音を出すことには比較的反対で」と言い添えながら、「これをやりにきました」とエレクトリックギターによるノイズを新宿南口に響かせた。

「まとまらないことが戦争っていう大きい結論に対抗する手段じゃないか」(折坂悠太)

「私もみなさんと同じく、戦争反対、暴力反対であります」

ステージに上がり、こう言って歌いはじめたのは折坂悠太。これまでのCINRAの取材でも「戦争に対する自分の見解を示さずにはなにかをつくることができない」と語り、一貫して自らのアティチュードを示して来た音楽家だ。この日の1曲目は“さびしさ”だった。

<風よ このあたりはまだか / 手持ち無沙汰な / 心臓を連れて / やがて二人が出会い / 暮らすと決めた / このまちに吹いてくれ>という一節を持つこの曲は、平和を願いながら戦地から逃れる二人の姿を想像させるように新宿南口に響いた

「No War」「戦争反対」と掲げるに至るまで、そしてこの日、この場所に足を運ぼうと思うに至るまで、一人ひとりの心のうちや思考はあまりにさまざまだ。

だからこそ居心地が悪さを感じている人もいるかもしれない、と彼は語る。しかしその居心地の悪さは、自分と他者が同時に「ここにいる」と感じているからこそであり、むしろ「どんどんモヤモヤすればいいと思います」と自らの考えを述べた。

モヤモヤとしたものを抱えているのは、折坂自身も同じだという。音楽をするためにこの場所に来たものの、いいライブができたところで「戦争反対」と掲げた言葉に対して何の効果もない気がしている、と胸の内を明かした。そして最後にこう語り、“炎”を歌ってステージを後にした。

「(それぞれがバラバラな考えを持ったまま)まとまらないことが戦争っていう大きい結論に対抗する手段じゃないかなというふうに思います。ない答えを考え続けましょう。この世界を、ちょっとマシなものにしましょう」

「このぐらいのことは言葉なんか選ばずに言いたいんですけど、戦争なんかいらねえだろ」(マヒトゥ・ザ・ピーポー)

この日、最後のライブアクトとしてステージに上がったのはGEZANの4人だ。

演奏をはじめる前に、『No War 0305』を主催した「十三月」の首謀者、マヒトゥ・ザ・ピーポーが坂本龍一からのメッセージを代読した。

「こんな理不尽なことが許されていいはずがない。世界中で何億人という人間が注視しているのに止められないもどかしさ。多くの人が、何かできることはないかともがいている。僕もそのひとりだ」

メッセージを読み終えると、マヒトは「自分の感覚で選んで、この場所に来てくれて本当に感謝してます」とこの日集った人たちに話しかける。

好きなことを言うことができること、その話に耳を傾けられること、音楽にのって体を揺らすことができること、季節や日の移ろいを感じられること……それらを当たり前に享受できることに感謝し、その日常にあるはず喜びを奪ってしまう戦争という悪に対して抗議する、と述べると演奏がはじまった。

そして彼はこう続ける。

「本当にいろんな難しいことがたくさん絡み合っているんですけど、このぐらいのことは言葉なんか選ばずに言いたいんですけど、戦争なんかいらねえだろ。これはマジで言いたい、一個ぐらいは。これからの20分は戦争に対しての憎しみと、それでも人間がまだ何かちゃんと前に進めるんだっていう、それを信じる気持ちの20分にしたいと思います」

<はっきり言って踊らなきゃ無理>と、現状への怒り、我慢ならなさを歌う“誅犬”から「No War」の叫びとともに“東京”になだれ込む。この曲の歌い出しはこうだ。

<東京 / 今から歌うのはそう / 政治の歌じゃない / 皮膚の下 35度体温の / 流れる人 / 左も右もない / 一億総迷子の一人称>

“東京”は2020年1月にリリースされた楽曲で、今回の戦争どころか、コロナ禍以前に書かれた楽曲だ。それにも関わらず、凄まじいほどの鋭さで2022年3月を生きる人々のリアリティーに迫ってくる。

<正しさってなんだろ?>と歌うと、マヒトは「おめえに歌ってんだよ、おめえだよ」と胸ぐらを掴むようにステージ上から睨みを利かせ、<想像してよ 東京>と絶叫。壮絶な演奏を繰り広げた。

演奏が終わるとマヒトは、新宿南口に集まった人たちのことを、そのモヤモヤとした心のうちを肯定するように「同じ風に吹かれながらそれぞれの方法で迷っている」と表現した。

実際、この日の街宣に足を運んだのは、デモの参加経験のある人ばかりではなかったようだ。彼は会場の様子を察して、プラカードを挙げ方がよくわかっていない人たちがたくさん来ているのはひとつの希望だ、とも語った。

この日を思い出にするのではなく、次の場所に自分なりの種をまいてほしいということーーそれはまず、イベントを通じて得た実感を自分の言葉でちゃんと話すことなんだと、「今日という日がはじまりになればいいなって思っています」とオーディエンスに伝え、最後の楽曲を演奏した。

「バラバラなまま連帯できるのが音楽というメディアの素晴らしいところ」(津田大介)

GEZANのパフォーマンスが終わると、ジャーナリストの津田大介を聞き手に、マヒトゥ・ザ・ピーポー、折坂悠太とのトークがはじまった。これがこの日最後のプログラムだった。

5日間という短い準備期間でこの日が出来上がった背景にあるのは、「いま動かないとマズいんじゃないか」という危機意識だったと呼びかけ人のマヒトは語る。

一方で折坂は、どうしたらいいかわからない気持ち、同じモヤモヤをマヒトらと共有しているような気がしたから、今回のアクションに賛同し、出演することにしたと話す。ライブを終えても何か答えのようなものを見出せたわけでは当然なく、この日感じた違和感や居心地の悪さも含めて持ち帰って考え、次の行動につなげられたらと語った。

「本当は歌とかって何かの役に立たなくていいし、何かの目的のために本来あるものじゃなくて、もっと、もっと日常にあるもので。何かの道具に使えるようなものでは本来ないなあっていつも思っていて」

こう前置きし、マヒトは『No War 0305』を通じた一日の実感を語る。歌っていることが直接的に戦争と結びつかなくとも、それぞれの歌のなかにある景色には、命や生きていることのさまざまな側面に触れるものがたくさんあって、そのことは「No War」というテーマと何も齟齬がないと思った、と。

1枚目から:カネコアヤノ、坂口恭平、原田郁子(clammbon)、切腹ピストルズ、テニスコーツ

普段から聴いている曲がこういった場で歌われると別の聴き方ができると、折坂もマヒトに応じる。

そして、一個人がそれぞれ持っている、誰にも理解されないかもしれない感覚を声に出して発すること自体がひとつの政治的な行動だと思う、と続け、その声やメッセージがバラバラであればバラバラであるほど、暴力のように一辺倒なものに対抗する唯一の手段になるのではないか、と語った。

ふたりの発言を受けて津田大介は、バラバラなまま連帯できるのが音楽というメディアの素晴らしいところだと言う。その言葉は、この日が音楽とともにあった理由を端的に言い表しているように思えた。

日本からできることは限られているからこそ、デモへの参加と寄付、知ることが重要

「戦争が人間の命を奪うなら、私たちは寄付で人間の命を支えましょう」

これはこの日、ステージ上から繰り返し発された言葉だ。ドネーションを募ることは『No War 0305』の大きな目的のひとつ。寄付を通じて、私たちは戦争で苦しむ人たちのために連帯することができる。

この日の最後に津田は「我々にできることは現時点では限られているので、あまり自分を責めないということも大事」と語る。

日本からできることは限られているけれど、私たちが連帯することは、戦火に晒されているウクライナの人々の希望の光になる。デモや寄付は決して無意味ではない。井上榛香さんがウクライナの友人たちから受け取った言葉を思い出してほしい。

では、連帯するために何をすればよいのか。「やることは簡単です」と津田は言う。デモに行って、支援団体を通じた支援する、寄付をする、そして何より「知る」ということが大事だ、と。

その「知る」ことというのは、現在のウクライナの状況だけに限らない。歴史を知ること、それはたとえば77年前に地上戦に巻き込まれた沖縄の人々のことを知り、その背景や痛みを理解することもまた、私たちの生きるこの社会がよりよくなることにつながってくる。

そして「デモはね、意味があるんですよ」と津田は続ける。プラハやケルン、ハンブルク、ロシア国内で起こっているデモについて言及し、一人ひとりがデモに参加することは政治家たちの判断を変える力があるのだと語りかけた。

私たちは世界史の1ページを生きているからこそ、我々の行動で世界に歴史を変えていくことができる。そのために必要なのは、声を上げること、支援すること、そして知ることだ、と繰り返して、津田はこの日最後のスピーチを締め括った。

この日のアクションを一度きりにしてしまわないために

『No War 0305』の翌日、主催の「十三月」は集まったドネーション約300万円を全額寄付に回すということを発表した。イベントはもちろんタダで開催できない。出演者や運営スタッフ、デザインなどは全てボランティアで行なったそうだが、印刷、音響、設営、交通費などといった運営経費の支援を募っている。

「十三月」のチームが、このかけがえのないアクションを継続して行なえるように、戦地へのドネーションと併せて、支援を検討いただけると幸いだ。

イベント情報
『No War 0305』
2022年3月5日(土)
会場:東京都 新宿駅南口
Presented by 全感覚祭

出演:
Hanna Frolova(モデル・東京在住ウクライナ人)
折坂悠太
アンナ(会社員/東京在住ロシア人)
七尾旅人
永井玲衣(哲学研究者)
坂口恭平
辻愛沙子(株式会社arca CEO)
大友良英
切腹ピストルズ
カネコアヤノ
中村涼香(KNOW NUKES TOKYO共同代表)
原田郁子(clammbon)
篠田ミル
津田大介(ジャーナスト / メディア・アクティビスト)
踊ってばかりの国
井上榛香(ライター)
テニスコーツ
坂本龍一(メッセージ代読)
GEZAN
会場・アートワーク提供:
北山雅和
Akira the Hustler
竹川宣彰
大澤悠大
佐藤重雄
今井俊介
チョン・ユギョン
大塚隆史
パク・サンヒョン
谷澤紗和子
BuBu de la Madeleine
げいまきまき
森隆司
川名潤
石黒恵太
COLD VVAR
薮内美佐子
山/完全版
今井健太郎
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竹﨑和征
碓井ゆい
島崎ろでぃーLoneliness Books
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キム・ミョンファ
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