メイン画像:『東京卍リベンジャーズ』原作者・和久井健による描き下ろしイラスト
The Kid LAROIのルーツを紐解く。『東リベ』とのコラボはなぜ必然といえるのか?
ジャスティン・ビーバーとのシングル“Stay”が大ヒットしたオーストラリア出身のラッパー、The Kid LAROIが人気漫画『東京卍リベンジャーズ』とコラボしたスペシャルムービーを公開した。
スペシャルムービーはThe Kid LAROIのYouTubeチャンネルから公開され、大切な人を救うために奔走する『東京卍リベンジャーズ』のストーリーと、「ここにいてほしい」と歌う“Stay”の歌詞がリンクしたものとなっている。
原作者・和久井健は“Stay”について「自分の描く世界観にマッチしたカッコいい曲で、漫画の執筆中にもよく聞いてました!」と語っている
The Kid LAROIはミックステープ『F*CK LOVE』(2020年)のアートワークなど、これまでもたびたび日本のアニメや漫画を思わせるイラスト・動画を用いてきた。“PIKACHU”と題した曲も発表している。今回のコラボもThe Kid LAROIの日本のカルチャーへの関心から実現につながったという。
The Kid LAROIに限らず、日本のアニメや漫画に親しむラッパーやビートメイカーは海外にも多い。CINRAでも「アニメと共振するテン年代のUSラッパーたち。響き合う作品世界」でアメリカのラッパーの間でのアニメ人気について解説している(*1)。
しかし、The Kid LAROIはアメリカではなくオーストラリア出身のラッパーだ。そこで今回は、The Kid LAROIが影響を受けたラッパーや周辺の人物を探り、自然体でアニメ要素を導入してきた活動のルーツを追う。
暴力性と弱さ、ヒップホップの両極に接近する姿は『東京卍リベンジャーズ』の物語と重なる
The Kid LAROIの特徴のひとつとして、スラングなどにシカゴの影響があることが挙げられる。このことについては本人も2021年にラジオ番組『Zach Sang Show』に出演した際に、「友人の多くがシカゴ出身であることから身につけた」と語っている(*2)。
このエピソードのとおり、The Kid LAROIはオーストラリア出身だが人脈的にはシカゴ勢との交流を多く持っている人物だ。
The Kid LAROI『F*CK LOVE 3: OVER YOU』(2021年)収録曲(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く)
2019年に契約したレーベル「Grade A Productions」のオーナーはLil Bibby。2010年代前半にシカゴのドリルシーンで頭角を現したラッパーだ。
The Kid LAROIのミックステープにも、G HerboやLil DurkといったLil Bibby周辺のラッパーが多く参加している。そして「Grade A Productions」のレーベルメイトにはシカゴのJuice WRLDもいた。
同曲にフィーチャリングで参加したJuice WRLDは、エモラップの第一人者として世界的人気を集めるも、2019年12月に21歳の若さで逝去。The Kid LAROI『F*CK LOVE』収録曲(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く)
The Kid LAROIはJuice WRLDが2019年にオーストラリアツアーを行なった際にオープニングアクトを務め、その後制作のために数か月共同生活を送るなど深い関わりを持っていた。
エモーショナルに歌うようなラップスタイルやトラップをベースとしたビート選びにも共通点が見られるが、『HotNewHipHop』が2020年に行なったインタビューによると実際に「多くのことを学んだ」という(*3)。
暴力的なラップで知られるドリルと弱さを歌うエモラップという2つのシーンの重要人物(Lil BibbyとJuice WRLD)と交流を持つThe Kid LAROIは、気弱ながら不良集団と接近する『東京卍リベンジャーズ』の主人公・花垣武道とどこか通じるバックグラウンドの持ち主、という見方もできる。
カニエ・ウェストやJuice WRLDら、シカゴのシーンとアニメとの縁は近年に限ったことではない
シカゴのラッパーたちは、ヒップホップシーンでアニメの影響が強く見えるようになった2010年代より前からアニメ要素を取り入れてきた。
カニエ・ウェストは2007年のシングル“Stronger”で大友克洋の名作『AKIRA』をオマージュ。そのカニエ・ウェストのコラボレーターとしても知られるLupe Fiascoはアルバム『The Coo』(2007年)収録の“Gold Watch”で日本の漫画への愛をラップしていた。
カニエ・ウェスト『Graduation』(2007年)収録曲
The Kid LAROIはカニエ・ウェストのアルバム『808s & Heartbreak』(2008年)をお気に入りのアルバムに挙げており、シカゴ勢とコラボレーションを行なうようになる前からシカゴ産ヒップホップに親しんでいたことが窺える(*4)。
The Kid LAROIが日本のアニメや漫画に影響を受けたビジュアルイメージを導入するのは、2010年代以降のシーン全体の動きも含め自然な流れと言えるだろう。
The Kid LAROI『F*CK LOVE』収録曲(Apple Musicで聴く / Spotifyで聴く)
先述したCIRNAの記事でも指摘されているとおり、Juice WRLDもアニメ好きで知られるラッパーだった。Lil BibbyもInstagramでJuice WRLDから「一緒にアニメ見ない?」と誘われたエピソードを明かしている。Lil Bibbyは先日も「Juice WRLDのアニメが必要だ」とツイートしており、そのアニメへの深い関心が見てとれる。
Lil BibbyのInstagramより
Lil BibbyのTwitterより
今回の『東京卍リベンジャーズ』とのコラボは、単にシーンのトレンドにとどまらず、周辺の関連人物の動きにも沿っているものであり、The Kid LAROIのバックグラウンドから考えると、ある種必然的なことなのだ。
*1:CINRA「アニメと共振するテン年代のUSラッパーたち。響き合う作品世界」(記事を開く)
*2:Zach Sang Show「The Kid LAROI Talks F*CK LOVE, Growing Up in Australia, Freestyling His Lyrics & More」参照(YouTubeを開く)
*3:HotNewHipHop「The Kid LAROI Details Juice WRLD's Impact On His Career & Life In Australia Pre-Fame」参照(外部サイトを開く)
*4:Time「Who Is The Kid Laroi? What to Know About the 17-Year-Old's Meteoric Rise」参照(外部サイトを開く)
- プロフィール
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- The Kid LAROI (ザ キッド ラロイ)
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The Kid LAROI(ザ キッド ラロイ) 2003年生まれ、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州シドニー出身。2Pacやエリカ・バドゥ、カニエ・ウェストといったアメリカの音楽を聴きながら育ち、幼い頃からラップの作詞をはじめ、フリースタイル動画をオンラインで発表するようになる。2021年7月9日に発表したジャスティン・ビーバーとのコラボ曲“Stay”で、米Apple Music Daily、Spotifyチャート1位を獲得。2022年1月には日本国内での累計ストリーミング数が1億回を超え、洋楽史上最速で、日本レコード協会が定めるプラチナ認定作品となった。
- リリース情報
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The Kid LAROI
『STAY』
2021年7月9日(金)配信
- リリース情報
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The Kid LAROI
『F*CK LOVE 3+ : OVER YOU』
2021年7月27日(火)配信
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