気候変動をはじめとする環境問題は、もはや誰にとっても(そして多くの企業にとっても)他人事ではない。長引くパンデミックの影響もあるのだろう。多くの人々が目の前にあるものをもう一度見つめ直し、これからのことを、さらには子どもたちの未来について考えるようになった昨今――それは音楽業界、さらにはファッション業界も例外ではない。
2014年にデビューして以来、スタイリッシュなイメージを貫いてきた4人組ロックバンド、I Don‘t Like Mondays.(以下、アイドラ)。最新曲“PAINT”が、今年1月からテレビアニメ『ONE PIECE』の主題歌に起用されるなど活躍目覚ましい彼らが今回タッグを組んだのは、大量生産・大量消費に対するアンチテーゼを掲げながら、ジャパンメイドのクラフトマンシップなモノづくりを展開してきたストリートブランド、BYWEARだ。
「変えていかなくちゃ」――領域は異なれど、同じ「思い」を共有する両者のコラボレーションに込められた意味とは、果たしてどんなものなのだろうか。その「始まりの曲」と言っていいだろう、環境問題をテーマとした楽曲“ミレニアルズ ~just I thought~”を糸口に、アイドラの4人に、これからのミュージシャンの「あり方」はもちろん、「知ることから始めること」の大切さについて尋ねた。
何か特別なこと、意識の高いことを歌いたかったとか、そういうことじゃないんですよね(YU)
―2020年の12月に、環境問題をテーマとしたシングル“ミレニアルズ ~just I thought~”(以下“ミレニアルズ”)を配信リリースして以降、バンドの意識面も含めて、かなりいろいろなことが変わったようですね。
YU:そうですね。あの曲を出したことによって、ぼくの意識も変わったし、それまであまり縁のなかった方々からも、いろいろお声掛けいただけるようになって。地球環境について、もっと考えていこうみたいな番組をつくっていただく機会もありました。あと、三浦海岸のビーチクリーン活動に参加させてもらって、そこで拾ったプラスチックごみから、バンドのオリジナルコースターをつくって、ツアーで販売するみたいなことをやらせてもらったり。
それこそ、今回のBYWEARさんとのコラボレーションも、その流れの延長線上にあることだとぼくらは思っていて。そうやってひとつの曲が、長期にわたってほかのいろんな活動につながっていくようなことは、ぼくらとしても初めてのことだったので、本当に“ミレニアルズ”をリリースして良かったです。
―そもそも“ミレニアルズ”という曲は、どういう経緯で生まれた楽曲だったのでしょう?
YU:特に何かを狙ってつくったわけではないというか、2020年の2月から予定していた全国ツアーが、新型コロナの影響で、全部流れてしまったんですよね。そうした状況で、自分たちができることは何だろうって考えて、5か月連続でシングルを配信リリースしようっていうことになって。その最後のシングルが、“ミレニアルズ”だったんです。
で、これは以前のインタビュー(参考記事:I Don‘t Like Mondays.はなぜ今、「ダサさ」をさらけ出す?)でもお話したんですけど、コロナ禍でいろいろと活動が制限されていくなかで、これまであまり大きな声で言ってこなかったことを、極力出していこうみたいな方向に変わっていったところがあって。より人間らしさを出していくというか。
そういうなかで、この“ミレニアルズ”は、トラックのほうが先にできていて、それを聴いたときにいま目の前にある環境問題について、ちょっと書いてみたいなって、なんか思ったんですよね。なので、曲に背中を押されたようなところもあるかもしれないです。
SHUKI:もともと曲自体が、それまでのぼくらにはなかったというぐらい、すごくストーリー性のあるものだったんですよね。最後は、壮大な感じになっていく曲調でもあって。だから、5か月連続リリースの最後がこの曲だっていうことも含めて、とてもふさわしい歌詞ができたなって思いました。
KENJI:環境問題をテーマにしたと言っても、押しつけがましいものではなくて。「自分が気づいた」っていう歌詞は、ぼくらにとっても、スッと入ってくるところがあって、多分聴いてくれる人たちも同じだったんじゃないかと思うんですよね。
CHOJI:いまはもう、みんな普通に環境問題とかを意識するようになっているじゃないですか。自分専用のタンブラーを持ち歩いたり、エコバックを使ったりとか、そういう基本的なところは、もう普通になっているというか。だから、取り立てて特別な歌詞だという意識もなく、ごくごく自然に入ってきた感じですよね。
YU:だから、別に何か特別な、意識の高いことを歌いたかったとかじゃないんですよね。逆に言うと、そういうことを歌いたかったら、ああいう歌詞にはならなかったと思うんです(笑)。「just I thought」ってあるように、率直にぼくが思ったことを、そのまま書いた歌詞なので。
正直、自分もどこか知らないふりをしてきたところがあったと思う(YU)
―そもそも、環境問題に興味を持ったきっかけは何だったのでしょうか?
YU:それはまさに、“ミレニアルズ”の冒頭の歌詞にあるように、何かのきっかけで、グレタ・トゥーンベリさんの映像をたまたま見て、ショックを受けたんですよね。大人がバーッといるなかで、当時16歳の女の子が、泣きながら環境問題を訴えている。
それが多分、すごく記憶に残っていたんだと思います。環境問題について書こうと思ったときに、真っ先に浮かんできたのは、彼女の顔だったので。
―歌詞に出てくる<知らぬふりの大人たち>のなかに、自分を含めているところが、すごく正直だなって思いました。
YU:正直な話、実際自分もそうだったというか、環境問題に対してどこか知らないふりをしてきたところがあるなって思ったんですよね。なので、それを隠して綺麗事だけをメッセージにして伝えても、多分聴いてくれる人たちに共感してもらえないというか、「はいはい、わかりました」っていう感じの歌詞になってしまうと思って。というか、ぼくが聴く側だったら、多分そうなってしまうなって思ったんですよね。なので、ぼくは、あくまでも等身大の立場で歌詞を書きたかったんですよね。
―なるほど。
YU:あと、そこからさらにひとつ、環境問題について、より強く意識することがあって。この曲のミュージックビデオを、クラウドファンディングでつくらせてもらったんですけど、そのときに、いま地球で起こっているさまざまな環境問題の映像を集めて、それをミュージックビデオのなかで使わせてもらったんですね。作業をしているうちに自分たちも、結構くらってしまったところがあって……。
―どういうことでしょう?
YU:あたり一面、ゴミの山の映像とか、海がめちゃくちゃ汚れている映像とか、そういう現実が、ぼくたちが全然知らないところで、実際に起こっているんだなっていうことを、あらためて思い知らされたというか。
映像を見るだけでも、ちょっと意識が変わるというか、いままでだったら、何も考えずにそのまま捨てていたものも、何かいい使い方ができるんじゃないかとか考え始めたり……本当にちょっとしたことですけど、自分たちのなかでも意識の変化みたいなものがあって、「あ、そういうことだよな」って、すごい思ったんです。そうやって意識の小さな変化みたいなものが広がっていくことが、やっぱり大事なんじゃないかっていう。
KENJI:もちろん、普通に生活しているなかで、そういう環境問題みたいなことは、それまでも心の片隅にはあったと思うんです。だけど、それをYUがあらためて歌詞として形にしたことによって、いろいろ感じるところがあったんですよね。
あと、そのミュージックビデオの映像を集めているときに、ホワイトボードに、いま地球環境にどういう問題が起きているのか、箇条書きにしていったんです。で、こんなにたくさんあるんだっていうことを、あらためて思い知ったというか。なんとなくはわかっていましたけど、書き出してみることによって、ちゃんと認識することができたというか、漠然と感じていたことを認識できるようになったっていう。そういうことって大事ですよね。
一度立ち止まって考えることで、得られるものがたくさんあった(KENJI)
―環境問題について歌うことだけではなく、近年ミュージシャンの「あり方」みたいなものが、かなり変わってきたように思います。それこそ、コロナ禍において、またさらに変わったでしょうし。そのあたりについては、いかがですか?
KENJI:でも、根本にあるものは、そんなに変わらないと思うんですよね。その中心には、あくまでも音楽があるっていう。
ただ、活動しているなかでどうしても、いろんなことがルーティーン化してしまって……それがコロナ禍でバツンと切られたことによって、一度立ち止まって考えることができました。もちろん、ライブの機会とか、コロナ禍で失ったものも多いですけど、そこで得られたものもたくさんあったと思うんですよね。
―こうして話していて思いますが、デビューした頃のアイドラのスタイリッシュなイメージとは、だいぶ変わってきましたよね。
YU:そうですね(笑)。でも、いま思うと、もともとこういうタイプだったのかもしれないです。これまでは、どこか自分たちで勝手にコーティングしていたというか。それが時間とともに、いい意味で成熟してきて、クリエイティブのほうに染み出てきたのがいまなのかなって。
KENJI:でも、より自然体は自然体だよね。昔よりも、圧倒的に。
YU:そうだね。昔は歌詞を書くときとかも、ちょっといいことを言おうとか、この楽曲に乗せてカッコいいことを歌おうとか考えていたところがあって。だけどそれがいまは単純に、自分が日々の生活のなかで感じたこと、心が動いたことにフォーカスして、それを自分なりに書いたほうがいいなと思ってます。
いまの時代って、みんなリアルを見たいというか、SNSにしても、YouTuberとかもそうですけど、何でみんなYouTuberの番組を見るかっていうと、テレビよりもリアルだからだと思うんですよね。で、それはアーティストにも、同じことが言えるのかなって思っていて。
もちろん、入り口は音楽だと思うんですけど、そのアーティストをいいなって思うのって、その人のよりリアルな生身の部分だったりするじゃないですか。そうやってぼくらも、クリエイティブのなかで、自分をさらけ出していけたらいいなって思っていて。そうじゃないと、きっと続いていかないと思うんですよね。
ミュージシャンだからこそ、伝えられることがある
―そんなアイドラが、今回タッグを組む相手に選んだのが、BYWEARというファッションブランドですが、どういう経緯で?
YU:BYWEARさんは、環境問題に積極的に取り組んでいるブランドで、そのコンセプトと、“ミレニアルズ”とで共鳴するところがあって。バンドとファッションブランドで何かできないかという話になり、コラボが実現しました。
―いわゆる普通のグッズとは、具体的にどういうところが違うんですか?
YU:オーガニックコットンを使っていたり、パッケージも環境に優しい素材を使用していたりと、環境への配慮を徹底しています。
―なるほど。アーティストグッズで環境に配慮されているものもなかなか珍しいですよね。
YU:そうですね。あとは、商品といっしょに、“ミレニアルズ”が聴けるミュージックカードも同梱していて、新しい「ファッション×音楽」のかたちを提示できたかなと思ってます。
あとぼくらとしては、やっぱり背中のメッセージが、気に入っていますね。「Start with Knowing」――「知ることから始めよう」というのは、自分たちがいちばん伝えたかったことなので。
―「知ることから始めよう」というのは、バンドにとってもここ最近のテーマであるというか。
KENJI:そうですね。まさに“ミレニアルズ”以降、ぼくらのテーマになっているようなところがあって。それを具現化したのが今回のコラボレーションだと思ってます。「知ることから始めよう」というメッセージを上から目線で訴えられても、「うっ」ってなっちゃうけど、そういうメッセージを押しつけがましくなく伝えられるのも、ミュージシャンならではというか 。それに、知ることから始めるっていうのは、何をするにおいても、やっぱりすごい大事だと思うので。
―今回のコラボレーションを通じて、あらためて知ったこともあったんじゃないですか?
KENJI:洋服がつくられる過程で、どのように環境に影響を与えているのか、どうすればサステナブルなかたちになるのかとか、正直ぼくら自身も、あんまりわかってなかったところがあって。だから今回のコラボレーションは、自分たちがそういうことを知るきっかけにもなりました。
YU:それこそ、「オゾン加工」っていう水を大量消費しないやり方で、洗いざらしの質感を出す技術とかも、初めて知って。今回はTシャツだけですけど、それを手に取ったときに、ファンの方々が「あ、このグッズはそういうことを考えてつくられたものなんだ」って感じてもらうことに、やっぱり意味があるというか。そういうところが、ぼくらが“ミレニアルズ”で表現したことと、すごい近いなって思ったんですよね。
―なるほど。
YU:もちろん、知ることが多くなれば、考えること、考えるべきことも多くなっていくんですけど、いまはそれを楽しんでいる感じというか、無理してやっているつもりはまったくないんですよね。自分ができる範囲のなかで、いろいろ楽しみながらやらないと。だから、自分たちが普段やっている活動のなかで――もちろん、その中心には音楽があるんですけど、それとリンクできることだったら、積極的にどんどんやっていきたい。
―それをストイックに突き詰めるのではなく。
YU:ぼくらは環境活動家ではなく、あくまでもミュージシャンなので。自分たちの活動を通じて、できることをできる範囲でやっていくという。そうじゃないと、結局長続きしないと思うし、長く続かなければ意味がないと思うんです。それは多分、みなさんも同じだと思うんですよね。
- ブランド情報
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大量生産・大量消費に対するアンチテーゼを掲げ、ジャパンメイドのクラフトマンシップなものづくりで最高品質な商品を適正価格、適正数量で展開するストリートD2Cブランド。これまで培ってきたノウハウを活かし、ミュージシャンやクリエイターの商品開発やD2C支援を手がける
- プロフィール
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- I Don't Like Mondays. (あいどんとらいくまんでいず)
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4人組ロックバンド。キャッチーなメロディラインとYU(Vo)の独創的な歌詞、彼らの最大の武器である洋楽のテイストを織り交ぜた楽曲は日本で唯一無二の存在。全楽曲のトータルプロデュースを行ない、海外アーティストの雰囲気を感じさせる。2022年1月からはTVアニメ『ONE PIECE』の主題歌を担当中。
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