アメリカの連邦最高裁判所が、人工妊娠中絶を憲法上の権利と認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆す判断を下したことが、波紋を広げている。この判断によって、多くの州で中絶の厳しい規制が広がるとみられる。
抗議デモなどの反発が相次ぐなか、対抗措置をとる動きが企業からも出てきている。ディズニーやNetflixなどの米企業は、州を移動して中絶手術を受ける場合、その旅費を会社が負担することを表明した。
中絶の権利を認めない判断。何が起きているのか
1973年の「ロー対ウェイド判決」とは、それまでアメリカで違法とされてきた中絶を女性の権利と認めた、画期的な判決のこと。中絶の権利はアメリカ社会を二分化するテーマで、キリスト教福音派を中心とする保守派は「殺人行為」だとして根強く反発してきた。
ロー対ウェイド判決によって女性たちが中絶をする権利は憲法で保障されてきたが、6月24日、米連邦最高裁がその判断を覆す判断を下した。
判決は、妊娠15週目以降の中絶を禁止するミシシッピ州法が違憲だと中絶クリニックが訴えていた訴訟で下されたもので、最高裁は「ロー対ウェイド判決は却下されなければならない。憲法は中絶の権利について言及していない」と断言(*1)。ミシシッピ州法を「違憲ではない」との判断を示した。
なぜ、このような判断が下されたのか? 背景にあるのは、2016年に発足したトランプ前政権が進めた「米最高裁の保守化」だ。トランプは在任中、3人の保守派裁判官を最高裁判事に指名。以前はリベラル派と保守派の判事が拮抗していたが、現在は判事9人中保守派が6人、リベラル派が3人となっていた(*2)。
今回の判断では、保守派6人がミシシッピ州法を「違憲ではない」とし、保守派判事1人を除く5人が「ロー対ウェイド判決」を覆すことに賛成した(*3)。中絶の合法性は各州に判断が委ねられていたが、現地メディアによると、この判断によって半数以上の州で中絶の厳しい規制が進む可能性があるという。
中絶に必要な旅費を負担。企業から支援策も
最高裁の判断を受け、中絶の権利を求める抗議デモが全米各地で勃発。ニューヨークでも大規模なデモ行進が行なわれた。
企業からも反発する動きが出てきている。『ロイター通信』によると、米ディズニーは中絶を受けることができる州に移動するための旅費を負担することを発表した。同社はフロリダ州のディズニー・ワールド・リゾートで8万人以上の従業員を雇用しているが、フロリダ州では妊娠15週目以降の中絶を禁止する法案を可決している。
また、米業界紙『バラエティ』によると、米Netflixやパラマウント、Facebookを運営するメタ、ワーナー・ブラザース・ディスカバリーなど複数のメディア企業が同様の取り組みを発表しているという。
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