日本のストリートバスケットボールの聖地と言われ、多くのプレイヤーに愛されてきた東京・渋谷の代々木公園バスケコート。2005年に設置されてから17年が経つものの、コートが改修されたのは2009年の一度のみ。老朽化によるコートの傷みが深刻な問題となっている。このたび一般社団法人などが代々木公園とタッグを組み、コートを全面改修するプロジェクトが始まった。
改修に必要な資金は行政の補助金に頼らず、一部をクラウドファンディングで募るという。「公園バスケ」の聖地を守るため、なぜクラウドファンディングなのか? 公園バスケの歩みと課題について、プロジェクトを率いる秋葉直之氏に聞いた。(以下敬称略)
代々木公園バスケコートの歩み。2005年にナイキが寄贈
陸上競技場やサッカー場などを備えたB地区に位置する代々木公園バスケコート。その成り立ちは2003年に遡る。
当時、大学生グループが移動式の簡易ゴールを公園に持ち込んでプレイしていたところをナイキジャパンの社員が通りがかり、同年に2台のゴールを寄贈。その2年後には、誰でもスポーツを楽しめる環境を公園につくるという目的で、フルコート2面が寄贈された。
それまでバスケといえば体育館で行なうスポーツというイメージだったが、ストリートバスケが根づく本場アメリカでは公園など街中の至るところにコートがある。当時ナイキジャパンに勤め、コートの寄贈を担当していた秋葉氏は、ストリートバスケの聖地と言われるニューヨークのラッカーパークを目指したいという思いで「公園バスケ」の普及に尽力した。
バスケコートが設置された2005年にナイキを退職し、同年に5on5のストリートバスケットボールトーナメント『ALLDAY』を開催した。
「代々木公園以外にも、全国いろいろな場所にゴールを寄贈したんですが、誰も使っていなかったり、近隣の住民から苦情が来てリングが外されたりするなど、惨憺(さんたん)たる状態になってしまうケースもありました。みんなが気持ちよく使える場所にするために何かが必要だと思ったのが大会を始めたきっかけです」
トーナメントは現在も続き、 Bリーグや3人制バスケットボールの日本代表など、国内で活躍する選手も出場してきた。2006年にはいまは亡きコービー・ブライアントがコートを訪れ、大きな話題に。
こうした約20年の歩みを経て、代々木公園のコートは都内有数のバスケスポットとして多くのボーラーに親しまれてきた。
老朽化が課題に。「自分たちでコートを守る」ために自主改修のプロジェクトを発足
一方で、企業の寄贈によって設置されたという背景もあり、コートの修繕は課題の一つだった。コートが改修されたのは2009年の一度きりで、それ以降は部分的な修繕のみ。経年劣化によりコートは傷み、フロアの凹みや削れ、ひび割れなどが散見され、安全にプレイできる環境とは言い難い状況という。
そこで、長年コートでのコミュニティーづくりに取り組んできた「ALLDAY」など複数の一般社団法人が、コートを自主改修するプロジェクト「YOYOGI PARK PLAYGROUND Renovation Project」を発足。実行委員のメンバーは、「ALLDAY」とアパレルブランドなどによって結成された一般社団法人「ピックアッププレイグラウンド」、渋谷区の外郭団体である一般社団法人「渋谷未来デザイン」によって構成されている。
代々木公園は東京都公園協会が管理運営を担うが、改修にかかる費用は都の補助金ではなく、企業のドネーションのほかクラウドファンディングで募るという。なぜ行政の支援ではなく、一般の人が参加できるクラウドファンディングなのか?
秋葉氏によると、「自分たちのコミュニティーは自分たちで守るという意識を芽生えさせること」が重要だと考えたという。
「八村塁選手や渡邊雄太選手などの活躍もあり、バスケのスポーツとしてのポジションはここ18年で大きく変化しました。スケートボードも若い選手の活躍でスポーツとしての地位が確立されましたよね。でも、そもそもストリートスポーツというのは騒音とかゴミとか、利用ルールの問題とかネガティブなイメージが先行している。
バスケ人気の高まりでほかの行政でも公園にコートを設置したいという話をよく聞くんですが、そういったネガティブな問題をクリアしないと持続しないと思います。そう考えたときに、その場所でコミュニティーをつくることだったり、自分たちの場所を『自分たちで守る』という帰属意識や自治のスキームをつくることが大事なんじゃないかと思っています」
代々木公園のコートは、日本の「公園バスケ」の先進事例でもある。コートを守りたいという思いを持つ人々から広く支援を募り、集まった資金を使って「自分たち」で修繕し、新しいコートに生まれ変わらせることで、国内におけるロールモデルになるのではないかと考えたという。
「個人のスキルを伸ばす」公園バスケの可能性とは
6月16日に始まったクラウドファンディングは反響を呼び、開始から1日で目標金額の半分である500万円以上が集まっている。リターンにはTシャツのほか、コートサイドに設置するプレートへの名前掲載などが出揃い、コートのリノベーションの「一員」になれるようなプロジェクトになっている。
今回のリノベーションでは、女性や子どもなど、より多様な人が利用しやすくなるための仕組みもつくっていくという。
「代々木公園のコートは、その場に集まったボーラーが即席でチームを組んでプレイする『ピックアップゲーム』が一つの文化になっています。このピックアップゲームの文化を守りながら、多くの子たちが代々木公園のコートでバスケをやり始める文化をつくっていくことは、長い目で見るとバスケの発展につながるのではないかとも思います」
日本では部活や学校などチームバスケが原点となることが多いが、秋葉氏によると、個々人のスキルが大きく問われる「公園バスケ」には、個人のスキルを伸ばすポテンシャルがあるという。
「海外のプレイヤーは1on1が原点で、日本との違いを実感したことがあります。チームプレイには良いところもたくさんあるけれど、個人のスキルを高める可能性が公園のバスケにはあるんじゃないか。公園のバスケが発展していくことで、ゆくゆくは日本のバスケのレベルが上がる可能性もあると思っています」
クラウドファンディングの募集は7月中旬までで、改修工事は2022年8月末には完了する予定だ。プロジェクトページ「聖地 代々木公園バスケットボールコートをみんなで改修したい。」はこちら。
- プロフィール
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- 秋葉直之 (あきば なおゆき)
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代々木公園で18年に渡って行われるストリートボールトーナメント「ALLDAY」の発起人でありプロデューサー。渋谷の街づくりを担う一般社団法人「渋谷未来デザイン」のアーバンスポーツ事業のディレクターを務める一方で、2021年11月、バスケとゴミ拾いを通じたコミュニティづくりと自治を目指す一般社団法人「ピックアッププレイグラウンド」を創業。公園バスケから始まる日本のバスケットボールの未来を描いている。
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