同性婚の実現求める「結婚の自由をすべての人に」訴訟って? 大阪地裁で判決へ、ポイントを解説

同性同士の結婚を指す「同性婚」を認めないのは憲法に違反するとして、同性カップルらが国を提訴した『結婚の自由をすべての人に』訴訟。30人以上のLGBTQ当事者が全国各地で結婚の平等を求めており、6月20日には、京都など3府県で暮らす同性カップル3組が国に損害賠償を求めた「関西訴訟」の判決が言い渡される。

昨年3月の札幌地裁判決は、「法の下の平等を定めた憲法14条に反する」と初めて判断した。同性婚を認めない現行法を「違憲」と指摘した画期的な判決に続き、どのような司法判断が下されるのか。2件目となる判決に注目が集まっている。

関西訴訟判決を目前に控えたいま、同性婚訴訟の目的や意義、原告と国双方の主張などを解説する。

「結婚の自由をすべての人に」裁判が訴えていることとは?

同性カップルの結婚を認めないのは憲法違反ではないか―。

2019年2月14日、結婚の平等(同性婚)の実現に向けて、現行法の違憲性を正面から問う日本初の訴訟「結婚の自由をすべての人に」が幕を開けた。札幌、東京、名古屋、札幌の4地裁で13組の同性カップルらが、国に損害賠償を求めて一斉提訴に踏み切ったのを皮切りに、2019年9月に福岡で追加提訴、2020年3月には熊本県在住の同性カップルも新たに加わった。さらに2021年3月には東京地裁でも新たに提訴された(第2次訴訟)。

通称で「同性婚訴訟」として知られ、現在は全国5つの地裁と高裁で裁判が続いている。

民法や戸籍法は異性間で結婚することを前提としている。同性カップルの結婚は「不適法(法令の規定に即していない)」として、婚姻届を提出しても受理されない。原告側は同性同士の法律婚を認めないのは憲法で保障された「婚姻の自由」や「平等原則」に反する、と訴えている。

また、望む相手との婚姻を妨げられたことで精神的苦痛を受けたとして一人につき100万円の慰謝料を求めているが、賠償金請求は裁判上の形式的なものに過ぎない。原告たちが真に求めているのは、「同性間の婚姻を認めない法律は違憲」という司法判断であり、同性婚の実現による「尊厳の回復」だ。

「存在を否定されている」。同性婚を認めない社会が阻むもの

愛した人が同性であるがゆえに婚姻が認められない性的マイノリティーの人々は、パートナーと家族として扱われないことによる不安や不平等、リスクと隣り合わせで過ごしている。

国内では200以上の地方自治体(*1)で、同性カップルの存在を認める「パートナーシップ制度」の導入が広がっているが、パートナー関係を宣誓したとしても、ふたりが法的に「赤の他人」であることに変わりはない。国が法律で認める「結婚」とはまったく別物であり、同性カップルが直面している問題の解決にはつながらない。

法律上の夫婦ではない同性カップルの場合、パートナーが死亡した際に法定相続人にはなれなかったり、所得税や住民税などで配偶者控除を受けられなかったり、多くの社会システムから取りこぼされてしまう。対外的にカップルの事情を公にしていない場合、亡くなったパートナーの遺族とトラブルに発展するケースもあるという。

また、パートナーが急病になったときに「家族」として治療に立ち会えず、手術の同意や手続きを断られることもある。外国人パートナーの場合は配偶者ビザを取得できず、日本に10年以上住まないと永住権も獲得できない。

このように、異性間の夫婦であれば当たり前に守られる権利が、同性間であるがゆえにないがしろにされている。同性同士のふたりの関係性を法的に保障するものは何もなく「社会から存在が否定されている」と尊厳を傷つけられてしまう。

同性婚ができない現状は、憲法違反や人権侵害にとどまらず、当事者の将来を左右する重要な問題だ。

「憲法違反」と「立法不作為」。原告が国に訴える、2つのポイント

一連の訴訟における争点は、大きく2つの段階に分けられる。それぞれ詳しく解説するとともに、原告と国双方の主張を整理したい。

①同性婚が認められない現行法は憲法で保障された「婚姻の自由」「平等原則」に反するのではないか?

②同性婚ができない状態を放置しているのは違法か?

①現行法は「婚姻の自由」「平等原則」に反するのではないか?

「婚姻の自由」を保障する憲法第24条1項にはこのように綴られている。

〈婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない〉

条文にある「両性の合意」をめぐって、原告側と国側の解釈が大きく異なっている。

原告側は、国家や第三者に干渉されずにいつ誰と婚姻するかを自ら決められるものと指摘。同性・異性に関わらずその自由が保障されるべきであり、同性同士の結婚が認められないのは「婚姻の自由」の侵害だと主張している。

同性婚に反対する立場からは、この24条にある「両性」は男女を指しているため、同性婚は認められない(禁止されている)との主張もあるが、原告側は「両性の合意」とは男女に限定する趣旨ではないとしている。

旧民法では、婚姻は両家の「戸主(父や母など)」の同意が必要であり、本人たちの意思だけでは結婚できなかった。憲法で「両性の合意」が明記されたのは、従来の「家制度」の解放という趣旨であり、異性カップル以外の婚姻を禁止するものではない、というのが原告側の解釈だ。

これに対して国側は、「憲法24条1項の『両性』は同性間の婚姻を想定していない」との見解。同性婚を禁止しているとは主張していないものの、「同性婚について異性間の婚姻と同程度に保障しなければならないことを命じるものではない」などと主張している。

また、原告側は、同性同士で結婚できないのは憲法14条の「平等原則」にも反するとしており、「同性間は結婚できないというのは、性的指向・性別に基づく不合理な差別だ」と述べている。

一方で、この点についても国側は「そもそも憲法24条1項は同性婚を想定していないのだから、異性婚と同性婚に差異が生じることを憲法は容認している」として、平等原則に反する余地はないなどと主張している。

さらに「異性愛者も同性愛者も、法律上は異性と結婚ができるのだから、性的指向に基づく差別にはあたらない」との見解を示している。

また、婚姻制度は「1人の男性と1人の女性が子を産み育てながら共同生活を送るという関係に対して特に法的保護を与えること」を目的としているとも説明。同性間の関係には「生殖の可能性が認められない」として、異性カップルと同性カップルの関係を「同視し得るほどの社会的な承認が存在しているとはいい難い」などの主張も展開している。

②同性婚ができない状態を放置しているのは違法か?

裁判で「同性婚が認められないのは憲法違反」との原告側の主張が認められた場合、2つ目の争点になるのが「国が同性婚の法制化の義務を怠った『立法不作為』が違法であるかどうか」だ。

原告側は「国が同性婚を法制化していないことは、同性カップルの憲法上の権利を侵害しており、国会が正当な理由なく長期にわたって立法措置を怠ってきた。この立法不作為は違法と評価される状態である」と主張。

これまで地方自治体でパートナーシップ制度の導入が広がっていること、海外でも同性婚の法整備が進んでいることなどを挙げ、「現行法の規定が憲法違反であることは相当前の時点で明白だった」と指摘している。

この点についても国側は「現行法の規定が憲法24条1項、14条1項に違反するものではない以上、違法となる余地はない」と真っ向から意見を対立させている。

一連の訴訟の判決では、この2つの争点に対して各地裁・高裁がどんな判断を下すかがポイントとなる。

「同性婚を認めないのは違憲」。札幌地裁が下した画期的な判決とは?

「歴史的な違憲判決」と評された2021年3月の札幌地裁判決についても振り返りたい。

北海道訴訟では、前述した2つの争点のうち、法の下の平等を定めた憲法14条に違反するとして、日本初の違憲判決が下された。

判決では「異性愛者と同性愛者の違いは、人の意志によって選択・変更できない性的指向の差異でしかなく、いかなる性的指向を有する者であっても、享受しうる法的利益に差異はないといわなければならない」と指摘。「同性愛者が婚姻によって生じる法的効果の一部すら受けられないのは、立法府の裁量の範囲を超えた差別的な扱い」として、憲法14条に違反すると結論づけた。

その一方、原告側の「婚姻の自由に反する」との主張は通らなかった。判決では、憲法制定当時に同性愛は精神疾患であるとされ、同性婚は許されないものだった経緯に加え、憲法24条が「両性」など男女を想起させる文言を用いている――と指摘。「同条は異性婚について定めたものであり、同性婚について定めたものではない」との解釈が示された。

また、立法不作為の違法性についても「国民の多数が同性婚等に肯定的になったのは、比較的最近のことと推認でき、国会がただちに(違憲状態を)認識するのは容易ではなかった」として、原告の請求を棄却した。

違憲判断を求めていた原告側にとっては、主張の一部とはいえ実質的な勝利判決であり、原告側は「画期的な判決だ」と札幌地裁の判断を高く評価した。その一方、判決当日の記者会見で加藤勝信官房長官(当時)が「婚姻に関する民法の規定が憲法に反するとは考えていない」と発言する(*2)など、政府側に誠意のある受け止めや動きは見られなかった。

原告側は「政府や国会に速やかな立法措置を促す、さらに強いメッセージとなる司法判断が必要」として、同月末に控訴した。現在は札幌高裁で控訴審が続いている。

「社会で一段低い扱いをされてきた人々を真っ当な立場に戻したい」。大阪地裁で判決へ

判決を控える関西訴訟には、愛知、京都、香川の3府県の同性カップル3組が原告として名を連ねている。

京都市に住む坂田麻智さん(43)とテレサさん(39)は、アメリカで同性婚が法制化された2015年、テレサさんの故郷であるオレゴン州で婚姻届を提出した。アメリカでは法的に夫婦であるのに国内では配偶者ビザが発行されず、病気やけがをしても付き添える保障がないことに不安を抱えながら生活してきた。2019年4月の意見陳述では「同性愛者というだけで、異性愛者と同じスタートラインに立たせてもらえない」と訴えた(*4)。

香川県で暮らす田中昭全さん(44)と川田有希さん(37)は、12年間一緒に暮らしたうえで2019年に婚姻届を提出したが、突き返された。同年7月の意見陳述では当時の心境を「僕らはこの社会からいないことにされ続けているんだと改めて思い知った」と吐露している(*5)。

愛知県に住む匿名カップルは、一方のパートナーが急病で入院した際に「やっぱり他人なのでもう会えないのかなと辛くなった」と当時の心境を述べたという。

訴訟は2月21日に結審した。原告の代理人である大畑泰次郎弁護士は意見陳述(*3)で「札幌地裁判決が開けた扉をいま一歩開き、1日も早く、同性間であっても愛する者同士が結婚ができる、そんな当たり前の社会が実現するよう、裁判所のご判断を切に望みます」と締めくくっている。

同性婚はすでに30の国や地域で実現しており、G7の中で唯一、法律上同性のカップルに対する法的保護がないのは日本だけだ。大畑弁護士は「社会の中で一段低い扱いをされてきた人々を真っ当な立場に戻したい」と訴訟の意義を説く。

札幌地裁が下した判断をさらに後押しする判決が読み上げられるのか、はたまた開けた扉は閉ざされるのか――。関西訴訟の判決は20日午後、大阪地裁で言い渡される。



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