メイン画像:ステラ マッカートニー2022年サマーキャンペーン「キノコこそがファッションの未来」
いま注目の「きのこ」レザー。ステラ・マッカートニーが新作バッグを発売
ファッション業界はSDGsの達成に向けて、さまざまなサステナブルな取り組みを行なっている。なかでも昨今、活発化しているのは、動物性の素材を使わない天然素材由来の皮革「ヴィーガンレザー」の開発だ。
現在、バナナの茎、マンゴー、ブドウ、リンゴの搾りかす、サボテンなど、植物性の新素材からつくられたヴィーガンレザーが市場に出回っている。とりわけ「きのこ菌」からつくられたマッシュルームレザーが、動物福祉や環境への負荷軽減などの観点からもっとも注目されている。
そのマッシュルームレザーの開発を積極的に推進する世界的ファッションデザイナーが、ポール・マッカートニーの娘のステラ・マッカートニーだ。
左から、ポール・マッカートニーとステラ・マッカートニー(Instagramで見る)
ファッション業界でサステナブルの先駆者として知られるステラは、2001年に自身のブランドを創業して以来、本革やファーを一切使用していない。
先日、きのこ類の菌糸体(マイセリウム)からつくられた人工レザーのバッグ「フレイム マイロ」を、数量限定で2022年7月に発売すると発表したことでも話題になった。
新作バッグ「フレイム マイロ」(Twitterで見る)
ブランド「ステラ マッカートニー」はアメリカ・カリフォルニアを拠点にするバイオテクノロジー企業のボルトスレッズと提携し、4年という歳月をかけてきのこ由来の人工レザーの開発に取り組んできたという。
きのこが地球を救う? ステラ・マッカートニーを触発したドキュメンタリー映画
しかし、なぜ「きのこ」に注目したのだろうか? ステラ マッカートニーは、2022年サマーコレクションで「きのここそがファッションの未来」という趣旨のビジュアルストーリーを発表した。その着想源として挙げられた作品が、日本でも2021年に公開されたドキュメンタリー映画『素晴らしき、きのこの世界』だ。
映画『素晴らしき、きのこの世界』予告編(YouTubeで観る)
「ステラ マッカートニー」の2022年サマーコレクション(Twitterで見る)
『素晴らしき、きのこの世界』は、生命の再生や維持、環境汚染の浄化にまで、地球上のさまざまな問題に「きのこ」が役立つことを紹介した作品である。
ステラが2022年サマーコレクションをパリで発表した際には、「このドキュメンタリーでは、あるときには廃棄物や流出油の分解を助け、またあるときには気候変動と戦うための自然のツールとして活躍する驚異の生物『きのこ』の無限の可能性を探求しています。菌類の変幻自在で超越的な性質に感銘を受けました」とコメントした(*1)。
映画にインスピレーションを受けた「ステラ マッカートニー」のみならず、現在では「エルメス」や「バレンシアガ」、スポーツブランドの「ルルレモン」、鞄や革小物を製造販売する「土屋鞄製造所」などもマッシュルームレーザーの有用性に期待し、商品化を目指している。
そうした状況を考えると、マッシュルームレザーの需要が高まることで、『素晴らしき、きのこの世界』が伝えているとおり、地球が抱えるいくつかの問題を「きのこ」が解決してくれるかもしれない。
きのこレザーが関心を集める理由。大きなメリットがある反面、残されている課題
なぜファッション業界全体が「きのこ」に熱視線を送るようになったのだろうか。その理由は、生産過程で綿生産の半分以下の水しか必要とせず、動物由来の素材に比べて温室効果ガスと汚染物質の排出量が極端に削減できる点が大きい。
さらに、なめし・染色・エンボス加工などの処理を施すことで、そのほかのヴィーガンレザーと比較して、強度と耐久性が高く、本革に近い柔らかな質感と艶が実現できるというのだ。サステナブルで透明性の高い生産という観点からも、マッシュルームレザーは最善の解決策のように見える。
一方で、まだまだ課題も残されている。現時点ではきのこの生産量が少ないことから、マッシュルームレザーの製品の価格が高いのは改善点といえる。「ステラ マッカートニー」の新作バッグ「フレイム マイロ」も、類似モデルと比較して2倍近い38万7,200円(税込)で販売される予定だ。
また、そもそもヴィーガンレザーを世間に浸透させるのも、まだハードルが高いという声もある。「プラダ」のサステナビリティ兼マーケティングの責任者であるロレンツォ・ベルテッリは、ヴィーガンレザーに対して「消費者は準備ができていない」と述べ、皮革製品の代替品を使った実験を延期しているとファッションメディア『ビジネス・オブ・ファッション』の取材で明かした(*2)。
加えて、動物愛護と環境汚染の問題に熱心に取り組む「クロエ」は、2022年3月に発表した2022-23年秋冬コレクションで、牛革を使ったウェアとバッグを登場させた。食品産業の副産物であり、加工過程で汚染物質を使用しないのであれば、本革はサステナブルな素材であると主張したのだ(*3)。
「クロエ」の2022-23年秋冬コレクション(Instagramで見る)
マッシュルームレザーを含めヴィーガンレザー全般は、世間に浸透するのだろうか。それは、人々の価値観が今後どのように変容していくかにもかかっているだろう。
これまで、耐久性が高く高価な皮革製品は、ラグジュアリーの象徴であった。しかし、地球環境と倫理的な生産へと消費者の意識が変化するのに伴って、製品を選ぶ判断基準がラグジュアリーから「信頼」へと変わりつつある。
特に環境保全への意識が高い世界各国のZ世代を中心に、「きのこ」は新たなステータスとなる可能性を秘めている。そうしてマッシュルームレザーの需要が高まれば、菌糸体を培養できる施設の開設により、市場価格は今後下がると予想できる。カギとなるのは、消費者の動物愛護と環境保全への意識にあるかもしれない。
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