映画や小説などの賞、審査員と受賞者のジェンダー比率は? 10分野の調査報告書が公開に

映画や音楽、アートなど、表現の現場におけるジェンダー比率の調査結果をまとめた「ジェンダーバランス白書2022」が8月24日、公表された。文化芸術業界でのハラスメントをなくすことを目指す団体「表現の現場調査団」が実施した調査で、映画や演劇、音楽、文芸など、芸術分野における知名度の高い賞やコンペティションの審査員・受賞者のジェンダー比率がまとめられている。

「表現の現場調査団」は、2020年11月に有志が設立。アートユニット「キュンチョメ」や映画監督の深田晃司、社会調査支援機構チキラボ代表の荻上チキら、16人のメンバーが活動している。ハラスメントが起きる背景にジェンダーの不均衡があるとして、設立以降、表現の現場におけるジェンダーバランスを調査、啓発活動を行なっている。

調査団は2021年4月から、以下10分野におけるジェンダーバランスを調査。

教育機関(芸術分野の大学、専門学校など)、美術、演劇、音楽、映画、文芸、音楽、デザイン、建築、写真、漫画

2011〜2020年の10年間に開催された賞やコンクール、コンテストなどの審査員、受賞者数を合計し、男性、女性、その他(グループなど複数人のパターン・Xジェンダー・ノンバイナリー・性別不明の人などを含む)で集計したという。教育機関では、学生や教員のジェンダー比率を調べた。

約400ページのジェンダーバランス白書、内容は?

白書の全文は約400ページにもおよぶ。8月24日に厚生労働省で開かれた記者会見では、美術、文芸、演劇、映画、教育分野での調査結果の概要が報告された。

美術分野では、紫綬褒章や『ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展』など、10団体以上の賞・コンペティションでのジェンダー比率を調査。さらに、東京国立近代美術館や金沢21世紀美術館、森美術館など、国内にある15館で開かれた個展のジェンダーバランスについてもまとめている。

2011〜2020年に開催された個展のうち、男性作家の割合は84.6%だった。「キュンチョメ」のホンマエリは、「個展など、作品を評価してもらったり表現したりするキャリア形成になる場所のジェンダーバランスが大幅に偏っている。どんなにジェンダーを意識せずに評価していると言っても、アンコンシャス・バイアス(無意識の思い込みや偏見)はいつでも働いてしまう。文化にとっても大きな損失になっている」と指摘した。

文芸分野では、『芥川龍之介賞』『文學界新人賞』『三島由紀夫賞』など著名な賞における審査員、大賞受賞者のジェンダーバランスを調査した。

特筆すべきは、小説の賞においては審査員の割合は男性60.5%、大賞受賞者は男性59.3%で、ジェンダー平等に近づきつつあるということだ。

一方で、評論分野を見てみると男性比率は審査員94.7%など突出して高い。彫刻家・評論家の小田原のどかは、「男性のみを主体として評論領域の価値の基準がつくられてきたことのあらわれであると言えると思う。このような同質性の高さが維持されると、評価基準の偏りが是正されにくいという悪循環が生まれてしまう」と述べた。

そのほか演劇、映画の著名な賞、コンペティションでも、審査員や受賞者のジェンダーバランスに偏りがあるという実態が浮き彫りになった。

ジェンダーバランスの不均衡は『しょうがないもの』なのか?

また、美術大学や専門学校など、芸術系の教育機関における教員、学生の比率も調査した。

その結果、学生の女性率は突出して高かったという。一方で、高い女性率に反比例するように、教員を見てみるとジェンダー比は逆になる。

東京藝術大学と、多摩美術大学など五美術大学では、女子学生の割合は73.5%であるにも関わらず、教授は男性割合が80.8%だった。

アート専門の通訳・翻訳として活動している田村かのこは、「女子学生はジェンダー不平等の状況を普通のこととして認識し、卒業後に芸術産業に入ってからも続くジェンダーバランスの不均衡を『しょうがないもの』として受け入れてしまう危険性がある」と指摘する。

学長や理事長、教授など、発言権や意思決定権を持つ指導的地位では特に男性比率が高く、非正規雇用など下層の地位で「見せかけ」の女性率を増やすのではなく、教育機関におけるジェンダーバランスを本当の意味で改善していくことが必要だと指摘した。

会見の最後に田村は、「ここで提示したデータだけで変わるものではない。ここに示したデータがいまの構造を変えたいと思う皆さんの武器となって、変化を起こすための行動の後押しになることを祈っています」と促した。

「ジェンダーバランス白書2022」の全文は公式サイトから見ることができる。



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