後藤正文、マヒトゥ・ザ・ピーポー、寺尾紗穂、ロッシェル・カップらが神宮外苑で抗議
3月28日に亡くなった坂本龍一の意志を引き継ぎ、東京・明治神宮外苑地区の再開発計画に抗議するデモが4月22日、都内で行なわれた。
デモを呼びかけたのは、坂本龍一や後藤正文(ASIAN KUNG-FU GENERATION)、哲学研究者の永井玲衣が中心となって2021年に立ち上げたプロジェクト「D2021」。夕方から宵のうちにかけて、神宮外苑の聖徳記念絵画館前にはたくさんの人々が集まり、再開発計画の見直しを訴えた。
再開発は神宮球場や秩父宮ラグビー場を立て替え、高層ビルも建設する大規模なもので、樹齢100年の大木を含む多くの樹木が伐採されるなど、自然環境や歴史ある景観が損なわれることが懸念されている。坂本は亡くなる1か月前、東京都の小池百合子知事に手紙を送り計画を中断するよう求めており、デモはその意志を引き継ぐために実施された。
坂本龍一の写真が掲げられたステージには、後藤正文やbutaji、蓮沼執太、U-zhaan、The Sacred Murmurs (ermhoi & Utena Kobayashi)、寺尾紗穂、マヒトゥ・ザ・ピーポーなど数多くのミュージシャンをはじめ、再開発への反対署名を始めたロッシェル・カップさんや楠本夏花さんが登壇。それぞれがスピーチやパフォーマンスを披露し、思い思いの表現を通して抗議の意思を表明した。
「音楽は可能性そのもの」。後藤正文がスピーチ
デモを主催した後藤正文はスピーチで、「坂本さんから社会問題に向き合うとき、フェスをやろうとよく声をかけてもらったんです」と回想。
「みんなで集まって、それとはまったく関係ない歌を歌うこと、それにどんな意味があるのかなというのは常々考えてきたことなんです」と吐露したうえで、「でも坂本さんの演奏を聴いているとわかる。私たちは言葉にならないところで、根っこのところで、それぞれ普段使っている言葉や考えていることが違っても、通じ合ったりシェアしていることがある。だから音楽は可能性そのものなんだなと坂本さんの演奏を見て思いました」と語りかけた。
「言葉の外側では、どこかで同じことを感じたりできる。思想の違う人たちとも、たった一音が美しいって、言葉で思う前に同じフィーリングで共有することができる。これはきっと社会にとっての可能性だと思います。それを体現してくださった。その続きをみんなで引き受けられたらなと思います」
「声をあげれば社会は必ず、少しずつでも変わっていく」
ステージには、以前から再開発の反対活動を続けてきた楠本夏花さんやロッシェル・カップさんも登壇した。
楠本さんは、「一部の人は、すでに自然が私たちが生きていくうえで必要だということさえ忘れかけてしまっています」と指摘。
「これ以上自然の価値を忘れてしまったら、誰がどうやって気候変動のために立ち上がらなきゃと思えるでしょうか?」と問いかけ、「声をかけても無駄。たくさんの人に批判されるたびにそう言われましたが、この言葉は間違っていました。声をあげれば社会は必ず、少しずつでも変わっていきます」と訴えかけた。
カップさんは樹木伐採の計画が発覚してからオンライン署名を立ち上げ、早くからこの問題を訴え続けてきた。
再開発計画に反対した坂本のメッセージを「遺言」と受けとめたと話し、「おかしいと思ったこと、変えなければいけないことに引き続き声をあげていきます。みんなで一緒に声をあげて、再開発の見直しが実現されるように努力しましょう」と呼びかけた。
そして、いまからできるアクションとして、SNSで異議を唱えること、オンライン署名などに参加すること、そして選挙で投票することを呼びかけた。明日4月23日には、統一地方選後半戦の投票日を迎える。
「神宮外苑の樹々を守ることが最後のメッセージ」。坂本龍一の意志を継ぐミュージシャンたち
坂本の意志に共鳴したミュージシャンらも、集まった人々にそれぞれの思いを語りかけ、楽曲を披露した。
篠田ミル+大井一彌、butaji、蓮沼執太、U-zhaan、The Sacred Murmurs(ermhoi & Utena Kobayashi)、寺尾紗穂、マヒトゥ・ザ・ピーポーらがライブパフォーマンスを披露。コムアイも会場に駆けつけ、再開発計画の見直しを訴えるスピーチを行なった。デモンストレーション終了後はDJのCOMPUMAが坂本龍一の曲を流し、広場はしばらく熱狂に包まれていた。
ステージでは、坂本美雨のメッセージも読み上げられ、「父は最後まで子どもたちが生きにくい地球になることを心配していました。これからはもっと大変になるから頑張ってくれと、最後に力を振り絞って言ってくれました。後悔のないように最後までできる限りのことをしていた父ですが、この神宮外苑の樹々を守ることが最後のメッセージとなりました」と、坂本の思いが伝えられた。
「樹齢100年にものぼる樹々を守ることは、単にセンチメンタルな訴えではありません。街の改革はつねにその街に住む人々が必要とするもの、人々の暮らしが向上するものであるべきです。事業計画では緑の面積を増やすとされていますが、問題は木の数ではないのです。樹々が育ってきた100年もの時間と、それによって培われた繊細な生態系は、簡単に取り戻せるものではありません。この美しい樹々と、そのまわりの無数の命を絶やさずに開発する方へ舵を切っていただけるよう、切に願います」
イチョウ並木、市民に親しまれるスポーツ施設。再開発でどうなるのか
再開発は東京都が2月に認可し、事業者である三井不動産・明治神宮・日本スポーツ振興センター・伊藤忠商事は、3月22日に神宮第二球場の解体工事をスタートした。
ロッシェル・カップさんが立ち上げた署名ページでは、再開発計画について、樹木伐採に限らず多くの問題を孕んでいると指摘されている。6面もの軟式野球場やフットサルコート、ゴルフ練習場、バッティングセンターなどのスポーツ施設が設置された神宮外苑は、草野球やスポーツの「聖地」ともいわれてきた。しかし、一般市民に親しまれたそれらの施設は廃止される予定だ。
また、東京都や事業者は神宮外苑のシンボルでもあるイチョウ並木は保全されると主張している(*1)が、ユネスコの諮問機関として世界遺産登録の審査を行なう日本イコモス国内委員は、再開発によりイチョウの生育に影響が懸念されると指摘。計画の見直しを訴え続けている(*2)。
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