2019年に公開し、その革新的な映像でアニメ好きやマーベルファン、映画ファンに衝撃を与えた『スパイダーマン:スパイダーバース』。その続編となる『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』が6月16日に公開された。
前作では、手描きアニメと3DCGを融合した技術、アメコミをリスペクトしたドット絵、独特のコマ打ちなど、物語だけでなく革新的な映像を実現した映像表現にも注目が集まったが、今作でもさらに新しい表現や技術を取り入れている。今回は、前作に続きアニメーターとして参加している園田大也さんにインタビューする機会を得て、アイデアが生まれる制作現場の裏側から、参考にした日本アニメまでの話を聞いた。
ハイクオリティーを実現した、独自のツール開発と制作効率化とは
―『スパイダーマン:スパイダーバース』よりアクションシーンが格段に増えて、スピード感がぐっと増しているように思ったのですが、制作するうえでの前作との違いはありましたか?
園田:たしかに、アクションシーンは格段に増えましたね。あとは、前作以上にたくさんのスパイダーマンが出てくるし、物量も多いので、いろいろとアニメーションできて楽しかったです。
―今回もそれぞれ特徴を持ったスパイダーマンたちが出てきますよね。園田さんはどのキャラクターをご担当されたのでしょうか?
園田:マイルスとグウェン、スパイダー・バイトとヴィランのスポット、ミゲル(スパイダーマン2099)、それからスパイダーマン・インディアは初期のテストアニメーションに関わりました。
―前作では2Dと3DCGを融合した新技術が話題でしたが、新しいスパイダーマンたちを描くにあたって、新しい表現技法に挑戦されましたか?
園田:挑戦したことはたくさんあります。たとえば、全部のキャラクターにユニークな特徴があるので、キャラクターそれぞれを描くために、専用の新しいツールがつくられていました。自分が担当したスパイダー・バイトの例で言えば、仮想現実をアバターで飛び回るスパイダーバイトは、体が半透明なので、よく見ると骨が透けて見えてるんですよ。バイトが腕を長く伸ばすシーンでは、表面の半透明の部分が消えて骨だけ見えるように描いています。こういったキャラクターそれぞれの特徴を描くための、専用のツールが用意されていました。
―なるほど。ツールの開発もアニメーターの担当なのですね。
園田:基本的にはテクニカルチームがツール開発を担当していますが、使いやすさや要望を伝えるためにアニメーターも開発に関わっています。3DCGアニメって、それぞれが担当したキャラクターや背景の素材を、最終的にコンポジットという作業を担当する人たちがひとつの映像にまとめあげるんですけど、そこに至るまでステップがいくつもあるんですね。次の部署に「このキャラクターはこういう見た目・表現ですよ」というのを伝えるためにも、ツール開発が必要なんです。この規模感の作品は制作の効率化は必須ですね。
園田:スパイダー・バイト以外だと、スポットの専用ツールもつくりました。スポットの身体にあるポータル(黒い穴)からポータルへいろいろなものが移動しちゃうんですけど、その際の表現もツールを活用しています。個人的に前半のふざけた感じのスポットが好きで、アニメーションしていて楽しかったです。
「『進撃の巨人』の立体機動装置で飛び回る動きを参考にした」
―今作ではマイルスとグウェンもメインで担当されているんですよね。ふたりとも表情だったり動きだったり、かなり成長したなと思いました。
園田:前作のマイルスは、スパイダーマンになりたての慣れていない感じを前面に出すようにしていたんですけど、今作ではスパイダーマンになって日が経っているので、力をちゃんと使いこなせてスイスイ動けているように表現しています。
―『スパイダーバース』の際は『NARUTO -ナルト-』などの日本アニメをアクションシーンの参考にされたと聞きましたが、本作ではいかがでしょう?
園田:今回も日本のアニメを結構参考にしています。『NARUTO』もそうですし、『フリクリ』『進撃の巨人』とか。『進撃の巨人』は立体機動装置で飛び回るときの動きやスピード感をすごく参考にしていました。
―飛び回るシーンで言うと、物語冒頭のマイルスとグウェンの再会のシーンはイチからご担当されているのですよね。ゆったりとした雰囲気と2人が楽しそうに街中を飛び回る姿が印象的で、すごく素敵でした。
園田:ありがとうございます。結構、車の上を走るとか、いろいろなアクションやシチュエーションがほかのショットですでに描かれていたのですが、ビルとビルの合間を抜けるとか、そういったアイデアは意外にまだ使われていなかったんですね。そういった動きを組み合わせつつ2人が街中をスイングしたら面白いかなと思って、監督にラフを提案したら気に入ってくれて、ほぼそのまま採用されました。
園田:そのあと、グウェンが給水塔を叩いて「BOWMM」っていう擬音の文字が出る表現を追加したり、CGデータからどの区画を映像に使うか決めたり、全般的に携わらせていただきました。個人的にも思い出深いシーンです。
『スパイダーマン』はアニメーターの「やりたい」が叶う現場
―今作からシニアアニメーターとしての参加とのことですが、アニメーターとしての参加だった前作と仕事内容はどのように変わりましたか?
園田:前作よりも担当領域が増えて、ほかの部署と連携する場面もかなり増えました。テクニカルのチームと連携しなければできないような場面が増えたので、それは一番変わったところです。あとは、シーンのアイデアをがっつり変えたいというオーダーに応えて、カメラワークやキャラクターの動きを提案することもありました。
―『スパイダーマン』はスタッフの意見が積極的に採用されたり、担当領域を超えてアイデアを提案したりということがしやすい現場なのでしょうか?
園田:『スパイダーマン』シリーズの制作に携わるアニメーターはみんな気合いが入っているので、積極的に新しい技術を活用したりアイデアを提案したりしていましたね。
園田:ほかのアニメ制作現場と同様に分業化はされているとは思うんですけど、ソニー・ピクチャーズは歴史が長いので多様な表現を可能にするアニメ制作用ツールが使えるんですよ。だからアニメーターの「こういう絵がやりたい」というイメージを具現化することができるし、そういったアイデアを採用することで作品がよくなっているんだと思います。
―先ほどのマイルスとグウェンのスイングのシーンのほかに、アイデアを出した部分はありますか?
園田:例えば、スポットがコンビニのATMを盗もうとするシーンですね。ATMごと持ち出そうとするんですけど、スポットは科学者なのでちょっとだけスマートに持ち出すだろうと。だから、ATMの下に缶詰を這わせて転がしながら動かすのはどうだろう、というような細かい部分の演出を提案することもありました。
―全員がアイデアを出し合ってつくられているんですね。では最後に、これから作品を見る方へ『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』のおすすめポイントをお願いします。
園田:そうですね、アクションもそうですし、エモーショナルなシーンもさらにパワーアップしてますし、見た目の新しさもあるので、すべてにおいて満足していただける作品になっていると思います。ぜひ劇場でみていただけたら嬉しいです。
- 作品情報
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『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』
公開中
監督:ホアキン・ドス・サントス、ケンプ・パワーズ、ジャスティン・K・トンプソン
脚本:フィル・ロード&クリストファー・ミラー、デヴィッド・キャラハム
声優:シャメイク・ムーア、ヘイリー・スタインフェルド、ジェイク・ジョンソン、イッサ・レイ、ジェイソン・シュワルツマン、ブライアン・タイリー・ヘンリー、ルナ・ローレン・ベレス、ヨーマ・タコンヌ、オスカー・アイザック
- プロフィール
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- 園田大也 (そのだ ひろや)
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2011年、ゲーム会社にインゲームアニメーターとしてキャリアをスタート。その後、バンクーバーに移り、2016年にSony Pictures Imageworksに入社。2023年よりWalt Disney Animaton Studiosに所属。主な参加作品は『コウノトリ大作戦!』(2016)、『スパイダーマン : スパイダーバース』(2018)、 『スパイダーマン : ファー・フロム・ホーム』(2019)、『ジェイコブと海の怪物』(2022)、『スパイダーマン : アクロス・ザ・スパイダーバース』(2023)など。
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