「サブカルの街」の異名を持つ下北沢。近年は再開発が進み、駅前には「ミカン下北」や「reload」など新たな施設が続々と誕生している。それらは、雑然としたカオスのなかで新たなカルチャーを生み出してきた以前の下北沢の姿に比べるとあまりに「クリーン」。かつての下北沢はなくなってしまった、と言えば懐古主義が過ぎるだろうか。
いっぽうで、1990年のオープン以来、下北沢で多くのお客さんから愛され続けているのがカレーの名店「茄子おやじ」だ。街で最古のカレー専門店として、30年以上もの長い歴史を下北沢とともにしてきた。街が激変するなかで、茄子おやじの店内には下北らしい「安心感」が漂う。
本稿では、そんな茄子おやじの2代目店主・西村伸也にインタビューを敢行。先代から引き継いだ、いまも変わらないもの。そして、2代目店主として自ら少しずつ変えてきたもの。『お母さんのカレーが一番おいしいと思うんですよね』と微笑みながら話す西村が続けてきた、「手づくり感」あふれるアティチュードについて聞いた。
インタビュー後半では、西村にオンラインデザインツール「Adobe Express」を体験してもらった。西村がひらめいた独自の活用法にも注目してほしい。
「お店とカレーを通じて『懐かしい』と感じてほしい」茄子おやじが愛される理由
ーまず、「茄子おやじ」のお店について聞かせてください。
西村:「茄子おやじ」は、1990年から続いている老舗のカレー専門店です。下北沢の街にはたくさんのカレー屋さんがありますが、この店がもっとも古いものだと聞いています。
ー先代からお店を引き継いだのは、2017年1月のことだとうかがいました。現在(2023年6月)まで、約6年ほど。お店を受け継ぐにあたって、何かガラッと変えた部分はありますか?
西村:先代からは、とにかく「そのときにおいしいと思うものを提供しなさい」と言われてきました。先代は辛めのカレーを提供していたのですが、僕が店主になってからは、そこに「甘さ」を足すようなイメージでマイナーチェンジしましたね。
ーそれは、どういった理由からなのでしょうか?
西村:僕、「お母さんがつくるカレー」が一番おいしいと思ってるんですよ。なんとなく、母がつくってくれたカレーを思い出すと、甘かったんですよね。だから、そういう「甘さ」は僕にとって懐かしいもので。手づくり感あふれるもの、というイメージなんです。
僕らがお客さまに対して「こう思ってほしい!」というのはあまりないのですが、ひとつだけ、懐かしいなぁと感じてもらいたい、というのはありますね。
ーなんとなく、わかるような気がします。食べると体だけでなく心もあたたまる、というか。
西村:まさにですね。お店の内装についても、そう考えている節があります。アナログレコードの音楽を流しているのもそう。
僕はバンドのギターボーカルとして音楽活動も行なっているのですが、やっぱりレコードの音って、すごく耳に優しい響きだと思うんです。そういう優しい、あたたかい空間でお客さまを迎えたいという想いはつねにありますね。
「『実家』を意識しています」。茄子おやじで感じる「安心感」の秘密
ー茄子おやじさんの店内を眺めていると、なんだか実家のような感覚を覚えます。手描きの絵が飾ってあったり、手づくりっぽい作品が壁にかけられていたり。数々のレコードも、本なんかも。
西村:言われて気づいたのですが、「実家」を意識して店内の雰囲気づくりをしているというのはすごくあると思います。宮崎県にある僕の実家には、大量のステッカーを貼った冷蔵庫があったり、レコードだったりが置かれていましたね。お店に置いているスツールやタイルなどを見ていると、なんとなく、おばあちゃんのことを思い出したり。
ーなるほど。西村さんの実家がベースになっているから、僕らも安心感を感じられるんですね。
西村:それで言うと、このお店で働いてくれているスタッフのみんなも、兄弟みたいなんですよね。「家族」なんて言うと少し言い過ぎだけれど。
先ほど話したように、僕は音楽活動をしているのですが、そのライブで知り合った人たちが働いてくれていたりするんですよ。対バンだったり、現場が一緒だったりした人たちが働いてくれていて。近すぎず、でも遠すぎず。ひとつの「家族」みたいなところもあるのかもしれません。
ー西村さんご自身の家族についてのお話も聞かせてください。ご両親とはどのような関係を築いていましたか?
西村:若いころは、とにかく迷惑ばかりかけてましたね。中学校を卒業した段階で親元を離れたのですが、やっぱりそこで、ベタだけれど、親の大切さを知るんです。「なんであんなに迷惑かけちゃったんだろう……」って。
高校生のころも、その後も、やっぱり両親はずっと僕のことを心配しているんですよね。でも、僕がカレー屋さんの店主として働き始めてからは安心してくれているみたいで。母は毎年7月、8月になると、らっきょうの漬物を10キロ以上も送ってくれるんですよ。
ー10キロ以上も……! それは、間違いなく愛情ですね。
西村:父なんて、毎日Instagramをチェックしてるらしくて(笑)。それぐらい、僕とお店のことを気にしてくれているみたいです。
ーなるほど。ご家族からの愛情があってこそ茄子おやじが続いている、とも考えられそうですね。
西村:そこも確かにあるような気がしますね。
「下北沢が変わっていくのはネガティブなことじゃない」。西村が感じる街の本質
―下北沢の街全体に目を向けると、「ミカン下北」や「reload」のような商業施設もできて、すごいスピードで変わっていっていますね。
西村:そうですね、間違いなく変わっています。でも、僕はそれ自体をネガティブにはとらえていなくて。
よく、「下北は画一化されてしまった」という意見を聞きます。でも、茄子おやじに来てくれるお客さんって、全然変わらないんです。おじいさんおばあさんも来てくれるし、少しだけ若者や海外の方が多くなったけれど、お客さんの層としてはほとんど変わっていなくて。
周辺環境がどれほど変わっていっても、街は生きているし、変わらない。下北沢自体、「夢を追う人たち」が多い街として、じつは変わっていないんですよね。20年、30年のサイクルで、街の見た目や建物こそ変われど、その芯の部分は残っていくと思うんです。王将の目の前でバンドマンがおいしそうに餃子を頬張ってる姿なんて、いつまで経っても変わっていないじゃないですか。
ーやっぱり西村さんは、街としては下北沢が一番好きですか?
西村:大好きですね。下北沢が一番好きです。地元の街に抱く安心感と、また違った安心感をおぼえていますね。
よくお客さんが茄子おやじについて『下北沢らしいですね』と言ってくれるのですが、その度にうれしくなりますよ。ものすごく誇らしく感じますね。
グッズづくりの原動力は「好きだから」。クリエイティブから生まれる茄子おやじのコミュニティ
ーここで、お店にいくつも貼られた絵やアート作品などについてうかがってみたいです。これらは、どういったものなのでしょうか?
西村:僕の身の回りには、デザインを生業としている親友であったり、クリエイターの方であったり、そういった人が多くて。僕自身も、正直全然上手いとは言えませんが、たまに絵を描いたりもしているんですよ。
お店には、身の回りの友人たちが手がけた作品や、僕自身が描いた絵を貼っていることが多いですね。夏になればTシャツをつくってみたり、好き勝手にステッカーをつくってみたり。
ーそういったグッズをつくる際、とくに心がけていることはありますか?
西村:とくに決めていることはないのですが、「好きなものをつくる」というのは心がけているかもしれないですね。たとえばステッカーなら、販売するものとしてもそうですが、「配るもの」としての側面が強いかもしれません。
いわゆるショップカードのようなかたちで、お客さんや友人にパッと渡してしまうんです。僕らの身の回りには、僕自身の趣味でもある「自転車」を愛している人が多くて。彼らは、僕が渡したステッカーを自転車の車体に貼ってくれたりもするんですよね。
また、バンドマンの方がディレクターケース(音響機材のケース)に貼ってくれることもあります。スマートフォンのケースに入れてくれるお客さんなんかもいますね。
ーそういうのって、なんだかうれしいですよね。
西村:ステッカーひとつで、会話が生まれるじゃないですか。「あ、茄子おやじの!」といったように、友人同士で話してくれているのかなぁなんて考えると、うれしくなりますよね。
ーステッカーやTシャツ以外に、西村さんがデザインなどを手がけるものはありますか?
西村:バンド活動のなかで、たとえば「〜〜日にライブがあるよ!」という告知をすることも多いです。そのためにちょっとした画像をつくったりすることはありますね。「デザイン」と言うまでのことではないかもしれないけれど(笑)。
ー今回ご紹介したい「Adobe Express」は、きっと、西村さんのお眼鏡にかなうんじゃないかなぁと思っています。アドビが開発したオンラインのデザインツールなのですが、10万点以上のテンプレートや、おしゃれなデザイン素材、Adobe Stockの写真素材から、魅力的なコンテンツを簡単につくることができるサービスです。
西村:写真を簡単に加工できたり、スタンプのようにほかのストック画像からデザインをつくることができたりと、かなり便利そうですね。
ー西村さんがAdobe Expressを使うとしたら、どんなことに活用できそうだと思いますか?
西村:ライブのフライヤーをつくる際なんかは、すごく便利そうですよね。また、茄子おやじの「SOLD OUT情報」を伝えるための、Instagramストーリーズ投稿用の画像づくり(*1)なんかにも、便利そうな気がします。じつは結構大変なんですよね、毎日続けるのって。
ー日々の投稿って、たしかに少し大変だったりしますよね。Adobe Expressなら、たとえば「共同編集」の機能も付いているので、スタッフのみなさんと協力しながらデザインをつくっていくこともできるんです。
西村:それ、すっごく良いですね。ちょっと話の軸はズレちゃうかもしれないけれど、僕、個人的にプロレスが大好きなんです。プロレスの会場では試合ごとに「デジタルカード」のようなものが用意されていて、試合の記念品としてそのカードのデータをスマートフォンに送ってくれるんですよね。
ーデジタルカードの仕組み、すごく素敵ですね。
西村:それを、たとえば茄子おやじでやってみても面白いかも。期間限定のメニューをつくった際、食べてくれたお客さんに渡す、なんていうかたちで。Adobe Expressでつくってみようかな、と思いました。このアイデア、我ながら結構良いかも(笑)。スタッフのみんなに共有して、何かしら良いかたちで活用できたらいいなぁと思います!
*1 Adobe Express 編集可能なインスタのストーリーテンプレート(リンクを開く)
- 商品情報
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Adobe Express
Adobe Expressは初心者でも直感的に使えるオンラインのデザインツール。すぐ使えるテンプレートや、おしゃれなデザイン素材、Adobe Stockの写真素材を活用して、魅力的なチラシ・ポスター・ロゴ・ラベル・SNS投稿用画像・招待状・名刺などのグラフィックデザインをサクッと簡単につくることができます。Web版とモバイルアプリ版が無料で利用できます。
- 店舗情報
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茄子おやじ
住所:東京都世田谷区代沢5丁目36−8 アルファビル 1F
営業時間:12:00〜22:00
定休日:不定休
電話番号:03-3411-7035
- プロフィール
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- 西村伸也 (にしむら しんや)
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宮崎県生まれ。地元時代から音楽活動に励み、バンドでのデビューのために上京。2012年からアルバイトとして「茄子おやじ」で働き始める。2017年、先代店長から引き継ぐかたちで「茄子おやじ」の店長に。レコードがかかる店内にはミュージシャンやクリエイターが集まり、下北沢のカルチャーと密接に関わりながら愛されるカレーを提供し続けている。
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