「社会」と、どうつながる?フォトグラファー・玉村敬太がつくる、届けたい人に届けるための告知画像

さまざまな「家族」のかたちがある現在。一人でいることを選ぶ人も多いなかで、現代における「家族」とは一体どのようなものなのだろうか。

雑誌、ウェブ媒体、広告写真まで幅広く活躍しているフォトグラファーの玉村敬太氏は、個人のプロジェクトとして家族との日々を写した写真を展示する『いのちがいちばんだいじ展』や、応募してきた一般の方を撮影する「きまぐれ写真館 プンクトゥム」などを不定期開催。写真館はInstagramを中心に告知を行なっており、告知の翌日には早々に予約枠が埋まってしまうほど盛況を博している。

日常の愛おしい瞬間を撮り続けた結果、ライフワークとして「家族写真」を撮ることが多くなったという玉村氏。彼にとって家族写真とは何なのだろうか。そして、家族の定義とは? 多種多様なテンプレートや直感的な操作で自由自在にクリエイティブがつくれるオンラインデザインツール・Adobe Expressで自主プロジェクトの「きまぐれ写真館 プンクトゥム」の告知画像をつくっていただきつつ、お話をうかがった。

Adobe Expressを体験! あえて選んだ「公民館的」テンプレートの意味

─今回、Adobe Expressを使ってみていただいて、どんなものに活かせそうだと感じましたか?

玉村:「きまぐれ写真館 プンクトゥム(以下、きまぐれ写真館)」はその名のとおりきまぐれにオープンするので、開催するときはInstagramのストーリーで情報を告知していて。その投稿用画像をつくるのに良さそうです。

玉村:媒体やデバイスに合った見え方ってあると思うんです。紙媒体や美術館など、それぞれに相応しい写真の見せ方があるように、スマホで見るものはスマホでつくったほうが世界観にズレが出ないんじゃないかなって。

なのでこれまでInstagramのストーリーに直接写真を載せて文字を打ち込んでいたんですが、時間が経つと途中でシャットダウンしてしまってまた最初から……なんてことも(笑)。Adobe Expressはスマートフォンでも使えて手軽に画像がつくれますし、途中保存もできるので便利ですね。

─実際の作成プロセスを教えてください。

玉村Instagram用のテンプレートもたくさんあるので、そのなかから自分のイメージに合うものを選ぶのが最初の作業です。「きまぐれ写真館」開館の告知にはそれほど多くの情報は必要ないので、大きいイメージ写真が一つと、わかりやすい文字が一つと、日時が入っているだけで十分。なので、そういったシンプルな構図で、あまり色味を使っていないテンプレートを選びました。

玉村:気にいったのはこの「定期演奏会」のテンプレート。シンプルさはもちろんですが、例えば公民館や市民文化会館などに家族や友人の演奏会を聴きに来てくれるような人たちって、「きまぐれ写真館」に来てほしいと思う人たちと近い気がして。

玉村:かえって、すごくスタイリッシュなデザインだと、そういう人とは違う属性の人たちに届いてしまいそう。「きまぐれ写真館」は特別おしゃれな人だけに向けたプロジェクトではないので、告知画像の段階から「大事な人との写真を残したい」と思っている人たちに寄り添えるものを選ぶことが大事だなって、この画像をつくりながら気がつきました。

あと、目的に沿ったプロによるデザインを参考にできるという点でも学びがあると思いました。「どういう人に来てほしいのか」「なんのためにつくるのか」とか。「自分と社会がどうつながりたいのか」を、デザインをとおして考えるきっかけになるんじゃないかな。そういう意味で僕がピンときたのがこの「定期演奏会」のテンプレートでした。

─なるほど。広告写真などのクリエイティブな現場で活動されている玉村さんならではのお話ですね。

玉村:あえて普段とテイストが違うテンプレートを使って遊んでみるのも良さそうですよね。

それでいうと、インド料理店のショップカードのようなテンプレートをアレンジして、「きまぐれ写真館」の名刺もつくってみたんです。

玉村:そのときの気分に合ったテンプレートをもとにデザインして、100枚くらいの小ロットで印刷し、「きまぐれ写真館」を開館するタイミングごとに違ったデザインのものを配るのも面白いかも。イラスト素材も豊富なので、今回は「プンクトゥム(※)」にちなんでネコのイラストを選んでみました。

※写真館の名前にもなっている「プンクトゥム」は、亡くなってしまった玉村家の猫の名前。芸術用語で「言葉にできないモノの良さ」という意味だそう。

─なるほど。いろいろなデザインのカードがあったらコレクションしたくなっちゃいそうです。そのほかにも、「便利だな」と思った機能はありましたか?

玉村:写真の形を簡単に変えられるのは便利でしたね。こんな感じで長丸に切り抜いて、写真立て風にするのも良さそう。

─テンプレートのアレンジだけでもかなり印象が変わりますね。

玉村:そうですね。テンプレートの各パーツは簡単に差し替えられるから、ほぼ直感的に操作できて、細かいストレスがないのも助かります。

「きまぐれ写真館」はいまのところ都内を中心に開催しているのですが、今後は地方開催もしてみたいと思っていて。そういうときに、その地域にちなんだイラストを告知画像に入れ込むのも面白いかも、なんて思いました。

「どうなっていても良い」。否定のない現場から生まれる愛おしい写真

─ところで、そもそも玉村さんが写真を撮り始めたきっかけはなんだったのでしょうか?

玉村:もともと「写真が好き」と自覚があったわけではないんですが、子どもの頃、遠足に使い捨てカメラを持っていったときに、友達よりもたくさん写真を撮っていたりとか、同窓会で集まったときに僕がみんなとの写真をたくさん保管していたりして。そういう瞬間に人に喜んでもらうのが嬉しかったんですよね。

そこからカメラの道に進んだのですが、コロナ禍で人に会わなくなったタイミングであらためて「なんで写真を撮りたいのか」を考えたんです。仕事でモデルさんや関係者に喜んでもらえるのももちろん嬉しいけど、プライベートで頼まれた写真を撮って感謝されたときの感覚って全然違うなって。

普段の仕事ではどうしても「その商品がどうやったら売れるのか」「多くの人に届けられるか」を意識せざるをえないけれど、「目の前の人のかけがえのない思い出」のためにエネルギーを注ぎたいと思って始めたのが、「きまぐれ写真館 プンクトゥム」です。

─撮られ慣れているモデルさんと、一般の方では、撮影される側の思いも全然違いそうですね。

玉村:記念写真を撮るために「今日のために髪切ってきました!」とか言ってくれる人もいるんですよ。そういう人たちの写真を撮ってあげられることが、自分にはすごく大切なんだなと感じました。

─一方で、「きまぐれ写真館 プンクトゥム」のスタートよりも前に開催されたのが、写真展『いのちがいちばんだいじ展』です。これは、玉村家が撮りためた日常を展示するものでしたが、開催へ至るまでにどんな経緯があったのでしょうか?

玉村:妻とつき合いはじめてから「誰でも撮って良いフィルムカメラ」をリビングに置くようになり、そこから猫を迎えたり、子どもが生まれたりして、日々の写真が増えていったんです。ある日、飼っていた猫が死んでしまったんですね。そのタイミングでそれらの写真を展示しようと思ったのがきっかけです

─「誰でも撮れる」というスタイルにしたのには何か理由があるのでしょうか?

玉村:僕の小さい頃にも家にフィルムカメラがあったんですが、昔のアルバムを見ていると、父が撮ったものなのか、母が撮ったものなのかが一目でわかるんです。母は「私は上手じゃないから」って、父がいるときは父にカメラを渡していたんですが、母が撮ったものもすごく好きで。

子どもが可愛くて近づきすぎちゃった結果、我が子の姿が左端にしか映っていなくて、写真のほとんどがうしろにあるタンスだったりするんです(笑)。でも、そういう愛おしい感情も写真から伝わるんですよね。

きれいに撮れたものが「良い写真」ってわけじゃなくて、そのときの撮る人と撮られる人の関係や感情が写っている写真が「良い写真」だと思っていて。そういう僕だけでは写しきれない、家族それぞれの関係や目を通した写真を残しておきたいと思ったから、誰でも撮れるようにしました。

─たしかに、『いのちがいちばんだいじ展』や「きまぐれ写真館プンクトゥム」の作品を見ていても、玉村さんはどこか「被写体がきれいに撮れている」以外のことを大事にしているように感じます。

玉村:基本的に「どうなっていても良い」という感覚は、普段の仕事でも「きまぐれ写真館」などのライフワークでも同じようにありますね。

例えば「きまぐれ写真館」に撮りに来てくれた人のなかには、撮ったばかりの画像をチェックしながら「なんか私、ヘンな顔……」って気にされる方もいます。でも、「いやいやこれが普段どおりのあなたですよ! でも素敵ですよ!」って。モデルさんの撮影をするときも、「どんなあなたでも素敵なんだけど、今日はダラっと気が抜けた感じのあなたを見たいです」と伝えることもあります。

─定義化された「美しさ」よりも、人間らしさを愛しているというか……?

玉村:そうですね。写真を撮る側として「嫌な気持ちにさせない」というのは大前提としてあります。

ご家族で「きまぐれ写真館」に来てくれた場合も、お子さんがカメラのほうを向いていなかったり、笑っていなかったりもするんですが、それらを強制して嫌な気持ちにしたくはないんです。だってそこにいるだけでかわいいじゃないですか。

それに、大人が無理をしていると、子どもは敏感に気づくもの。ありのままの様子を撮影したいので、大人に対しても子どもに対しても「全然そのままで素敵だからOKですよ」というスタンスでいます。

とはいえさっきの「なんかヘンな顔……」とショックを受けた人が「今度はこういう角度の方がいいのかな」と試行錯誤する姿も、人間らしくて良いですよね。そんな場合は「もっとこう写りたい」という気持ちを叶えるためにお手伝いしてあげるという感覚です。僕自身はフォトグラファーとして「こう撮りたい」というゴールは決めないようにしていますね。

家族写真とは「撮り続けるもの」。意思の連続性が家族をつくっていく

─玉村さんはライフワークとして「家族」を撮影する機会が多いと思いますが、それはご自身のなかでひとつのテーマでもあるのでしょうか?

玉村:単純に、家族といる時間が長いからこうなっているだけだと思います。それから「写真館」という性質上、一般の方々が大事な思い出のために来てくれるので、自然と家族写真を撮ることが多くなったんじゃないかな。

─なるほど。では家族写真を多く撮ってきたからこそのエピソードはありますか?

玉村:高齢のお父さんのいるご家族の写真を撮った後に、娘さんたちが「お父さん、せっかくだから一人でも撮ってもらったら?」とうながして、僕と同じ側に立って「かっこいいよー!」と盛り上げながら撮影をしたことがあったんです。要は、「いつか」のための遺影として。

そう考えると、自分はすごい瞬間に立ち会っているのだなと思いました。無邪気に盛り上げる娘さんたちの楽しげな感じと、かすかな切なさ。家族写真って、そういったほかとは違う特別な想いがあるように感じます。

─家族だからこそ起こりえる場面ですね。そんなふうに大事な一枚を写真に収めてきた玉村さんにとって「家族写真」ってどんなものだと思いますか?

玉村:「撮り続けるもの」だと思います。僕が「家族写真」という言葉から連想するのって、一枚の写真じゃなくてアルバムになっている「写真の束」なんです。怒ったり泣いたりしているところも含めて「連続しているもの」。そのなかに一枚はかしこまってみんなで撮ったものがあってもいい、という感覚ですね。

─玉村さんが幼い頃からご両親に撮ってもらっていた写真たちや、いまご自身の家で日々記録しているものがまさにそれですね。

玉村:家族写真を撮り続けることって、つまり「愛情を持って見続けること」なんだと思います。これは、自分の家族に対する視線と共通しているかもしれません。

僕にとって「家族」の定義は、どんなときも愛し続けるという意思を持った相手のこと。妻が怒っているときにシャッターを切っているなんて、ほかの人が見たら信じられないかもしれないけど(笑)。怒っているところも泣いているところもちゃんと見ていたいし、写真に残しておきたいんです。

そんななかで撮れていない時期があるのも、「撮り続ける」という連続性のなかでは一つの記録になります。ウチにもそんな時期がありましたが、思い返してみると当時は次男が生まれたばかりでバタバタしていて「そりゃたしかに撮っている場合じゃなかったよね」と。

それもまた良いじゃないですか。そのうち子どもたちがもっと大きくなって、僕がカメラを向けたらめんどくさそうな顔をする年頃になるのを、いまからすごくワクワクしながら待っています(笑)。

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プロフィール
玉村敬太 (たまむら けいた)

1988年生まれ、東京都在住の写真家。2013年より写真家鈴木陽介に師事、2017年に独立の後、玉村敬太写真事務所を設立。 雑誌、ウェブ媒体から広告写真まで幅広く活躍。休日には誰でも参加できる写真館「きまぐれ写真館」を不定期で開館するなど活動の幅をさらに広げている。2020年12月には、日頃より撮りためている玉村家の日常を「いのちがいちばんだいじ展」と題してウェブ上で展示した。



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