ゆとなみ社・湊三次郎が語る、梅湯継業からの8年間。サウナブームの後押しを受けた銭湯の現在地

空前の銭湯ブーム、サウナブームを迎えている昨今。東京や大阪などの都市部にも新しい施設が次々とオープンしているが、そんなブームの先駆けとなった銭湯が京都にある。

「サウナの梅湯」の看板で有名な梅湯は、まだ20代半ばだった湊三次郎が京都五条の老舗銭湯を継業し、スタートさせた場所だ。古きよき銭湯とその文化を伝えつつ、Tシャツやキャップ、ステッカーなどのグッズ制作、浴場を会場にした音楽ライブなどを行ない、銭湯に新しい風を呼び込んだ。「銭湯を日本から消さない」というモットーはさらなる広がりを見せ、彼が立ち上げた銭湯継業の専門集団・ゆとなみ社では、現在梅湯を含めた6店舗を継業。さらに今年は3店舗が加わる。

今回CINRAでは、スピーディーなデザイン制作を実現させる「Adobe Express」をさまざまなジャンルで活躍するクリエイターに体験してもらう企画の一環として、湊へのインタビューを実施。現在の銭湯カルチャーや京都の五条エリアの変化、デザインやクリエイティブを銭湯に持ち込む楽しみや醍醐味を聞き、後半ではAdobe Expressを体験してもらった。

変わりゆく梅湯と京都五条のイメージ

ー2015年に湊さんが継業した梅湯は、今年で8年目です。銭湯の経営を20代の若者が引き継ぐこと自体が当時はめずらしかったですが、現在では銭湯やサウナに通うこと自体が大きなブームになっています。梅湯継業からの8年間を湊さんはどんな風に感じていますか?

:20〜30代が銭湯に通うって状況が当たり前になって驚いてますし、うれしくもあります。CINRAのようなカルチャーメディアが取材するのも不思議ではなくて、社会のなかでの銭湯のポジションがだいぶ変わってきたんだなと。

ただ、地域のなかの銭湯という位置づけは梅湯に関していえば、もうその限りじゃないんですよね。開店すぐの時間帯は周辺に住んでいる人も来てるんですけど、利用者の大半は観光客。京都っていう特殊な環境下で観光地化しちゃっていて、それが良いのか悪いのか、正直僕はまだ答えを出せていないです。出す必要もないかもしれないけど、ただそれについて考え続けなきゃいけないと思っています。

ーたしかに若者や海外からの利用者は本当に多いですよね。梅湯を目あてに京都に来る人も少なくないです。

:「銭湯を残す」ってことに主眼を置いてやってきたので、商売として成り立っているのは、大きい意味ではかなり良いこと。売り上げが立って、働いてる人たちが食っていけるぶんの利益が出るような状況にしなきゃいけないわけですから。ただ、梅湯が地域の人が来なくなりつつある状況は、個人としては歯がゆくもあります。

銭湯自体が転換期だとも思うんです。20〜30代が来ない、買わないって話はよその業界でもよく聞く話ですけど、社会潮流みたいなものに乗って、銭湯やサウナは若者が来やすい環境になった。

こういうブームや社会潮流って自分たちの意思で起こせるものではないので、この状況をいかに無駄にせずに取り込めるか。そして取り込んだら取り込んだで、銭湯というものを20〜30代の彼らのその後の人生に浸透させていくか……っていうのがいま。

ー梅湯のある京都五条も変わりつつありますね。

:お客さんの8割が地域のおじいちゃん、おばあちゃんでしたからね。もとは色街でけっこう荒っぽい人の多い地域でもあったので、外からやって来る人も少なかったですし。それがインバウンド需要と高齢化に重なって土地需要が一気に上がった。

今年4月には京都市立美術工芸高等学校(旧京都市立銅駝美術工芸高等学校)が移転し、10月には京都市立芸術大学も移ってきます。任天堂創業家の山内財団による再開発(※)も進んでいて、アウトドアショップの「山と道」のようなおしゃれな店も増えてきた。街は今後もどんどん変わっていくと思います。

※京都市下京区五条周辺の「菊浜エリア」の再生・活性化を目的としたプロジェクト (外部記事を開く

「サウナハットは売らない」

ーさまざまな変化のなかで、銭湯はどんな存在であってほしいと思っていますか?

:個人的にサウナブームには抵抗していきたい気持ちがあります。「サウナの梅湯」って看板を掲げてますけど(笑)。いわゆるサウナーの人たちにとっては、梅湯は銭湯である以前に「サウナ施設」なんですよね。いまはレビュー全盛の時代だから、「梅湯、外気浴とか整いスペースがないのが残念です」と書かれちゃいがちなんですけど「ここは銭湯だから!」と声を大にして言いたい。

東京に新しくできている多くの銭湯のように、サウナを充実させて社会の需要に応えていくことはビジネスとして重要なんですけど、あくまで僕たちのテーマは「銭湯を日本から消さない」こと。もちろんサウナーの人たちにも来てほしいですけど、ぎりぎりの悪あがきとして梅湯では絶対にサウナハットは売らないようにしています。

―湊さんのこだわる銭湯らしさってなんでしょう。

:日常生活上にあって、さっと行ける場所。洒落込んだ服なんか着なくても、部屋着で行ってそのまま家に帰ってそのまま寝る、みたいな。その人の日常生活が少し豊かになる、くらいのポジションであってほしいと思ってます。

―コミュニティ的な役割もありますよね。裸のつきあい、とよく言うように。

:たしかに銭湯や温浴施設はコミュニティという言葉で語られがちですけど、僕は「そこはどうでもいい派」なんですよ。その機能はそもそも銭湯という空間、温浴という文化に備わっているものだから、それを人がつくり込んで過度に推す必要はない。

銭湯ってほかに取って代わるもののない、唯一無二の場所だと思うんですよ。その土地にずっと根づいた歴史と時代ごとの人々の営みがそこにずっとある背景とか、歴史深さみたいなものを感じられるじゃないですか。

お客さんたちを見てればわかるけれど、すごい昔から来てる人もいれば、わりと最近から来たんだろうなって人もいて、何年通っているかどうかは関係なく、そこにはコミュニケーションが自然と生まれてるんですよね。

―なるほど。

自分から積極的にコミュニティに入っていこうとしなくても、銭湯にいるだけで、自ずとそのコミュニティの一員にふわっとなれる。それがとても重要で、そういう場所がかろうじて日本全国にまだ残っていることを大事にしたい。おそらく京都も今後10年でさらに銭湯は激減すると思っていますが、どんな温浴施設でも更地になっちゃうと、新たにつくるのは無理なんで。いまあるものをいかに大切にするかっていうことですね。

銭湯再生に必要だったファッション性

ー銭湯を残したいという気持ちと、梅湯が積極的に手がけてきたグッズ制作やイベントの企画には連続性を感じます。

:そうですね。梅湯を始めたばかりの生意気なころに、あるテレビの取材で「銭湯もファッションの1つにする」みたいなことを言っちゃったけれど(苦笑)。

でもそれは本当に重要なことで。20〜30代の人が物事にはまっていく要素って、いかにファッション的かどうかなんですよ。健康にいいとか、歴史的にどうこうじゃなくて、ファッションとしてどうなのかっていうところが一番の導入になる。サウナの流行もそうでしょう。

8年前は銭湯にファッション性がまったくなくて、グッズみたいなものがあっても「若い人たちがこれ着るか? いや着ないな」っていう状況でしたから、そこにファッションやデザインの要素を入れたいというのは、学生のころからずっと考えていました。

ーそれがもっとも大きく動いたのがVOU(棒)と共同で開催したイベントの『Get湯!(ゲッチュー)』。

:そうです。『Get湯!』で販売した銭湯グッズにはアートやファッションの要素が入っていて、僕たちも驚くぐらいに若い人が買いに来てくれた。その衝撃を受けて、梅湯でもグッズをつくるようになって、いまやBEAMSとコラボまでする流れも生まれました。いまの銭湯ブームの一端は、ここから始まったという気もします。

梅湯のグッズコーナー。継業して最初に出したグッズは梅湯のロゴTシャツで、いまも一番売れている人気のアイテムだという。
梅湯のグッズコーナー。継業して最初に出したグッズは梅湯のロゴTシャツで、いまも一番売れている人気のアイテムだという。
梅湯のグッズコーナー。継業して最初に出したグッズは梅湯のロゴTシャツで、いまも一番売れている人気のアイテムだという。
梅湯のグッズコーナー。継業して最初に出したグッズは梅湯のロゴTシャツで、いまも一番売れている人気のアイテムだという。
梅湯のグッズコーナー。継業して最初に出したグッズは梅湯のロゴTシャツで、いまも一番売れている人気のアイテムだという。

ー「サウナハットはつくらない」とおっしゃってましたが、梅湯でのグッズ制作の基準は?

:単純に自分たちでも身につけたいものですね。うちのスタッフはクリエイター気質の人が多いし、ファッション好きも多い。一応、社内会議みたいなものがありますが、基本的にはスタッフがつくりたいものをつくる。皆のセンスを信頼しているのでおまかせです。

ゆとなみ社に伝播する応援の気持ち

:こうしたグッズ制作をとおしていろんなアーティストと仕事を一緒にできることも自分たちのモチベーションになってます。

それももはやノーコントロール状態で、新しく継業する湊河湯のロゴをイラストレーターのerror403さんにお願いしたのですが、それもスタッフが主体的に行動を起こし、依頼してくれました。売れっ子のクリエイターなので断られるんじゃないかと不安に思っていたんですが、「銭湯ならば!」ということで快諾していただけて……!

ー本当に湊さんは何も知らないままなんですね(笑)。

:そうなんです。今年3月にはアーティストの青葉市子さんのライブをやったんですけど、それもスタッフが青葉さんのライブを観に行って、物販のところで「うちでライブしてください!」とお願いして実現することに。

そのスタッフは青葉さんの長年のファンで、5年前ぐらいから「呼びたい呼びたい」と言っていたし、僕も「絶対できるよ。呼んじゃえよ!」って半ば無責任に言ってたんですけどね。まさか実現するとは。

そんな感じで、うちは社内にやりたい気持ちがあるからイベントもグッズもつくる、でもその気持ちが沸かないものはやんない、っていうスタンスです。

ー梅湯の観客キャパってせいぜい40人ぐらいですよね。そのアットホームな雰囲気も良いなと思います。

:代々のイベント担当者ごとの個性が反映していて、初期は京都のインディーシーンのアーティストが多かったです。そのうちに「京都以外のアーティストも呼びたいね!」となっていって、過去には2020年に活動停止したシャムキャッツやミツメのライブもブッキングしました。イベントとして成り立つようになってからは自分たちがライブで観たい人を呼ぶようになってますね。

元plentyの江沼(郁弥)さんのライブのときは、plenty時代からの女性ファンがほとんどで、通常のライブではほぼありえない距離感でアガりました! 江沼さん、普段のライブは挨拶だけでほとんどMCやらないんですけど、銭湯の雰囲気に押されたのかけっこう喋ってくれて。エゴサしたらファンの人たちもめちゃくちゃ喜んでいて「やった!」ってなりました。

ー今回のインタビューの主旨として「応援」というテーマが一つあって、それは梅湯にやってくるお客さんや周辺の人たちから支持される梅湯っていう想定のもとだったんですけど、話を聞いていると、梅湯のなかの人たちこそが梅湯と梅湯で行われる音楽やファッションのシーンの一番の応援者って感じがしています。

:ああ、めちゃくちゃそれはありますね! 自分たちでカルチャー的なシーンをつくるぞっていう意気込みはスタッフにも僕にもあるからこそ、うまくいってるというか。

それが伝わるから、梅湯にもファンがつく気がします。今年7月ごろから鴨川湯(京都府京都市左京区)、湊河湯(兵庫県神戸市兵庫区)、一乃湯(三重県伊賀市)の3か所を継業しますが(※)、そうやって店舗数が増えていく広がりも、自分たちこそが応援していきたいという気持ちに由来してると思います。

※一乃湯は7月1日からオープン。7月12日現在、鴨川湯、湊河湯の開業日は未定、詳細は各銭湯のSNSで

銭湯ごとの「色」をいかに残すか

ー銭湯業界でこれからどんなことをしていきたいですか?

:やれるだけ全部やるって感じですね。8年前の自分がいまの梅湯の状況を想像していなかったように、正直言って、この先の着地のイメージも自分にはわからない。でも好奇心はめちゃくちゃある。

僕らの会社である「ゆとなみ社」のテーマは「銭湯を日本から消さない」ですから、まずはそれをただただ愚直にやっていこうと。それをとおして、どういうカルチャーシーンがつくれるか、地域に合わせた銭湯をつくっていくことでその地域の人たちの生活にどんな影響を与えられるか、試していきたい。興味は尽かないです。

ただ梅湯に関しては、自分の想像を超えた特殊例になりすぎちゃっているので、自分のなかではスタッフにもうすべて任せています。

―では現在の湊さんの関心はどこに?

:僕の関心は、別の地方の銭湯に向かってます。梅湯の成功をパッケージ化してチェーン展開するのは楽だし、その方が合理的でお金になるのかもしれないですけど、それはやりたくない。

地域ごと施設ごとの色があることに、銭湯の良さよさがありますから、そのカラーや匂いを完全には消さず、ちゃんと継承したうえで、ゆとなみ社らしい新しい風を入れて成り立たせていきたいです。

手軽なデザインソフトが銭湯業界を救う?

ひととおりインタビューを終えたあと、いよいよAdobe Expressを湊さんに触ってもらうことに。10万点以上あるテンプレートやデザイン素材、またAdobe Stockの写真素材を活用して、手軽にグラフィックデザインをつくれるサービスを湊さんはどんなふうに活用するのだろう?

:どうしようかな……? 梅湯は若い利用客が多いので、やっぱりSNS運用は欠かすことができないんですよね。なので、今日はInstagramのストーリー用のビジュアルをつくってみます。土日の6時から12時までやっている朝風呂をお知らせする内容にしようかなと。

まずは無料で使える食べ物系のテンプレートを土台としてセレクト。おいしそうなパンの写真を、手持ちの梅湯の外観写真にさしかえてみたり、文字のフォントにこだわってみたり。「風呂」と素材検索をすると、入浴中の写真などもすぐに出てきたりして、そのたびに「おおー!」と驚きの声をあげる湊さん。

:めちゃくちゃ選択肢ありますね。最近はAI生成が流行してますけど、それが始まったらますますすごいことになりそう。

じつはAdobe Expressでも7月からAI生成機能が実装されるとのことで、クリエイティブな遊びや仕事を誰でも手軽に行える未来はもうすぐそこまで来ている。

:未来感がありますよね。梅湯にもAdobe PhotoshopやAdobe Illustratorを使えるデザインチームがあって、外向けのいろんなビジュアルをつくってもらってるのですが、内部スタッフ向けのデザインワークもじつはけっこう多いんです。開店作業のための掃除や湯をわかす手順をわかりやすく伝えたくて、Adobe Expressの手軽さはそれにぴったりかも。

今日はデスクトップですけど、スマホでも操作できるんですよね? ある程度の投稿フォーマットをこっちでつくっておいて、ほかのスタッフにはスマホでアレンジしてもらえば、これまでできなかったクリエイティブのグループ体制もつくれそう。

:銭湯経営者のなかには情報発信をしたくても、デザインの知識や技術がなくてできないという人も多いんですよね。このソフトは感覚的に操作できるから慣れてない人にはちょうどいいかも。

そうこうするうちに、朝湯のビジュアルが完成。つくり込みすぎない親しみやすさが、梅湯とお客さんの近い距離感を象徴しているようでもある。

:デザインは楽しいからついついやりすぎちゃう。なのでこのぐらいで手離れするのがよい塩梅かなと。実際に使ったときの、お客さんの反応が楽しみですね!

およそ2時間に及んだ取材が終わりを迎え、事務所の外からは、「かぽーん」と風呂桶を置く掃除の音が届き始めた。多くの人たちにとっての日常の場所としての梅湯の一日が、今日もスタートするころだ。

商品情報
Adobe Express

Adobe Expressは初心者でも直感的に使えるオンラインのデザインツール。すぐ使えるテンプレートや、おしゃれなデザイン素材、Adobe Stockの写真素材を活用して、魅力的なチラシ・ポスター・ロゴ・ラベル・SNS投稿用画像・招待状・名刺などのグラフィックデザインをサクッと簡単につくることができます。Web版とモバイルアプリ版が無料で利用できます。
店舗情報
サウナの梅湯(さうなのうめゆ)

住所:京都府京都市下京区岩滝町175
TEL:080-2523-0626
営業時間:14:00~26:00(土曜日、日曜日は6:00~12:00、14:00~26:00)
定休日:木曜日
プロフィール
湊三次郎 (みなと さんじろう)

1990年、静岡県生まれ。「銭湯を日本から消さない」をモットーとする銭湯継業の専門集団・ゆとなみ社の代表取締役。大学入学を機に京都へ進学し、学生時代は銭湯サークルを立ち上げ、京都をはじめ全国の銭湯を巡るほどの銭湯マニア。梅湯でアルバイトをしたのち一般企業に就職するが、梅湯が廃業すると聞いて24歳の時に経営を引き継ぎ、2015年に再オープン。さまざまな困難を乗り越えて、経営を立て直してきた銭湯界の若き経営者。



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