2023年12月1日(金)〜3日(日)の3日間にわたり、ハイアット セントリック 金沢を舞台に開催された『KOGEI Art Fair Kanazawa 2023』。近年多彩なアートフェアが開催されるなかでも、国内で唯一「工芸」に特化したという点で異彩を放っている。
第7回目の開催となった今年は、過去最大数となる国内外40ギャラリーから、アーティスト約200名が出展。「伝統」と「現代アート」が交錯し、ここ数年で多様化が進む現代の工芸を中心に、古美術や近代工芸も含め、気鋭の若手から世界で活躍するアーティストの作品が展示販売された。
さらに、国立工芸館所有の茶道具を使用したプレミアム茶会、アーティストの工房訪問、そして「KOGEIのいま」に触れるトークイベントなど、15の特別プログラムも開催された。工芸への注目度と比例するかのように熱量を増し続ける本アートフェアの3日間をレポートする。
ホテル展示が触発する「工芸がある暮らし」へのインスピレーション
『KOGEI Art Fair Kanazawa』は、2017年から石川県金沢市で開催されている国内唯一の工芸に特化したアートフェア。茶の湯や禅、能楽など、さまざまな伝統文化が日常に根づく金沢で開催しているというところも特徴的だ。
「より暮らしに近い空間のなかで芸術性、創造性の高い作品を手に取っていただけるように」と、第1回からホテルの客室を舞台とした展示方法を採用している。
過去最多の40ギャラリーが集結しているとあって、関東や関西だけでなく、日本各地の地域名が並んだ。さらに、今年は台湾や韓国などのギャラリーが多い。全国津々浦々だけでなく東アジアから、アーティスト約200名が出展したことは特筆すべき点だろう。
本アートフェアのアドバイザーを務める秋元雄史氏は「いまの幅広い工芸の表現を見ていただくうえで、日本国内だけでなく海外に目を向けることは重要です。とくに台湾や韓国といった東アジアでは、同じ工芸文化を共有していることや、アートフェアへの招待が現実的なこともあり、今回多くのギャラリーがご参加いただいています」と語る。
ハイアット セントリック 金沢の2階、5階、6階を貸切り、それぞれの客室を舞台として作品を展示。ホテルの客室というと画一的なものを想像しがちだが、それぞれのギャラリーによって一部屋一部屋まったく異なる世界観が展開されていることに驚かされる。ホテルの3フロアを行き来しながら圧倒的な数量の作品を眺めていると、まるでショートトリップを繰り返しているような感覚に陥る。
工芸のいまを知るトークイベント開催。「これからの工芸」を切り拓く若手への眼差し
過去最多のギャラリー数はさることながら、今年はギャラリー展示以外にも、トークイベントやプレミアム茶会、アーティストの工房訪問など、各種特別プログラムにも力が入っている。
トークセッションは、国立工芸館館長・唐澤昌宏氏がモデレーターを務め、アーティストの新里明士氏、見附正康氏と語り合った『国立工芸館とこれからの工芸 -12人の工芸・美術作家による新作制作プロジェクトから』を皮切りに、3日間で計4セッションが開催された。
12月2日(土)に開催されたのはアートソムリエ・山本冬彦氏を迎えた『工芸のある生活 -コレクションの楽しみ方』。敷居が高いと思われがちなアートコレクターの始め方から、縦割りの日本の美術界に求められる買い手の横断的な視点といった話題まで、ギャラリーでも作家でもなく、「買い手」の立場からのトークが展開された。
国内外のアートフェアで活躍するギャラリスト・川上智子氏、小山登美夫氏をゲストに迎え、金沢美術工芸大学芸術学専攻准教授の金島隆弘氏がモデレーターを務めた『これからのアートフェア』では、激動するアートや工芸マーケットの動向のなかで、アートフェアに求められる役割や、日本の工芸が評価されるための土壌づくりなどについても語られた。
また、12月2日(土)に開催され秋元雄史氏がモデレーターを務めた『Under 30の新たな潮流 -Supported by 三菱UFJフィナンシャル・グループ』では、『Forbes JAPAN』による『30 UNDER 30』(世界を変える「30歳未満」を選出するアワード)で特別賞を受賞した田中里姫氏(ガラス作家)、外山和洋氏(金工作家)、藤田和氏(漆芸作家)が登壇。マテリアルの新解釈や、美しさの再定義など、若手作家たちの新たな工芸的アプローチに迫った。
トーク会場と同じホールの一角には、三菱UFJフィナンシャル・グループによる、革新を通じた工芸分野の発展を支援する活動『MUFG工芸プロジェクト』から生まれた作品が並んでおり、3人の作品も見ることができた。
道具として、アートとして。国立工芸館所有の茶道具で愉しむ「プレミアム茶会」
ホテルの客室展示が「見る」、トークイベントが「知る」なら、「使う」場として今回開催されたのが『茶道再考—国立工芸館所有の茶道具を使用した3つのプレミアム茶会』。近現代の工芸・デザインを専門とする唯一の国立美術館である国立工芸館が、12人の若手作家とともに制作した器や茶道具を用いた3つの茶会が3日間で開催された。
ハイアット セントリック 金沢の一室で開催されたのは、茶道家・奈良宗久氏が席主を務める、誰もが参加しやすい立礼式の茶会。会場には国立工芸館所蔵でインテリアデザイナー・内田繁氏が制作した小間も展示されていた。
一方、安藤忠雄氏の建築でも知られる石川県西田幾多郎記念哲学館を特別に夜間開放して行なわれたのは、新たな「工芸建築」の試みともいえるチャレンジングな現代茶会。館内地下1階のホワイエには六角屋がプロデュースする移動式の四畳半茶室が設置され、わずかな音や光から自らの感覚を刺激しつつ、世界に禅を広めた西田幾多郎の思想を体感できる空間が演出された。
「今回の出展傾向をご覧いただいても分かるように、最近の工芸はじつに多様です。伝統的な技法に基づいた表現もあれば、現代アートのような表現もある。その多様さは、ここ数年でさらに拍車がかかっています。これまで見たことがないような表現、または暮らしのなかで使いやすい道具としての新たな試みまで、『工芸』としてのその両方をお楽しみいただけるようなアートフェアになっていると思います。みなさんそれぞれの目で気に入ったものを選んでいただけたら嬉しいですね」(秋元雄史氏)
一つ一つの作品を見つめる来場者の視線には、熱がこもっていた。アートと工芸のジャンルを超えて新たな表現を求めるアーティストが増えるなか、世界的にもますます注目を集める「KOGEI」。その様相を反映し、さらに更新され続ける『KOGEI Art Fair Kanazawa』の次なる展開から目が離せない。
- イベント情報
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KOGEI Art Fair Kanazawa 2023
日時:2023年12月1日(金)〜12月3日(日)
会場:ハイアット セントリック 金沢 2階、5階、6階(石川県金沢市広岡1丁目5-2)
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