新日本フィルハーモニー交響楽団のコンサート『Hello!! シネマミュージック in Summer』が8月12日にすみだトリフォニーホールで開催される。
「クラシックをもっと身近に」をキーワードに大人から子どもまで楽しめるアイデアが詰め込まれた同公演の開催を記念し、ナレーション、司会、プロデュースを担当するフリーアナウンサーの堀井美香にインタビュー。
50歳を過ぎても精力的に活動する堀井に自分の「好き」を大切にする方法や、世代ごとに現れる迷いとの向き合い方について聞いた。
アナウンサーとしての経験を通して感じた「極める人」の尊さ
─堀井さんは今夏に開催される新日本フィルハーモニー交響楽団のコンサート『Hello!! シネマミュージック in Summer』でプロデュースを担当されます。クラシックは昔からお好きだったのでしょうか?
堀井:小さいころからウィーン少年合唱団を毎年聴きに行ったり、学生時代はスタニスラフ・ブーニンにハマったりしてましたね。でもじつはそこまでクラシックに詳しくなくて、車のなかとかでただぼーっと聞くのが好きなんです。毎年大晦日の昼から夜までずっとベートーヴェンの交響曲を演奏する会には行っていて、去年も家族とに一緒に聴きに行ったり、好きではあるんだと思います。
─堀井さんとジェーン・スーさんのPodcast番組『OVER THE SUN』のなかで、「絶対努力しても行けないようなところに、極めて極めて行っているような人を観てぶたれたい」と話されていたのが印象的でした。
堀井:私はアナウンサーをやっていて、インタビューではその界隈のトップの方やその世界で努力した方など、すごい方ばかりとご一緒させていただきました。でも、いろいろな人と会う分いろいろな分野の勉強をするので、少し知識が「浅め」になってしまうんです。取材で「この映画監督が来る」「この音楽家が来る」となると急ごしらえで勉強して、表層だけさらってわかったふりをしなければいけない辛さがあります。
一方で取材相手は1つのことだけを何百時間何千時間と毎日毎日繰り返しやっていて、小さいころからひたすら練習し、大人になっても生活や人生のすべてを1つのことにかけているので、尊さを感じますね。
クラシックのコンサートは努力を続けてやっとステージに上がれる人たちの集合体で、「一人一人がどんな血のにじむ思いをしてそこに立っているんだろう」という部分に一番グッときます。リスペクトみたいなものなんですかね、自分じゃ絶対できない(ことをやっている)人たちって感じです。
自分の中の「好き」をどう見つめ育てる?
─「自分って本当は何が好きな人間なんだろう」とわからなくなることもあると思います。堀井さんは自分のなかの「好き」を語られていてすごく素敵だと思うのですが、自分の「好き」を見つめたり、心のなかで育てる秘訣はありますか?
堀井:私は忙しいのもあって普段からべったりクラシックに触れているわけではないのですが、ちょっと空いた時間など、非日常のときにふと求めるものが「好き」の指標かなと思っています。
1日にたくさんの初対面の方と会う仕事なので、1人で静かにする時間をとても大事にしています。クラシックのコンサートではホールにいる観客1800人が一気に集中して、物音を立てず静かに聴く空間を体験しているので、クラシックを聴いたときにあの静かな感じを思い出せるんですよね。移動中の車のなかであってもクラシックを聴くと一瞬1人になって集中することができて、気持ちが穏やかになります。
─『OVER THE SUN』では「私がこれを好きな理由」というテーマでリスナーのエピソードをまとめてZINEをつくられていますが、女性たちの「私がこれを好きな理由」を読んで感じたことはありましたか?
堀井:人の好きなことの話を読むってなんて幸せなんだろうと思いますね。人の愚痴を聞くのは辛いときもありますが、好きなものの話はプラスのオーラしか出ていないから幸せな気持ちで受け止められるんだと思います。みんなが(自分からは)距離をもった対象に対する「好き」は、利害関係なく共感しあえますしね。
「好き」を語るのも心に余裕がないとできないし、好きなものをどういうふうに自分のそばに置いておくかも日頃から考えておくといいと思います。イケイケなときに好きなものに頼るのは普通だけど、落ち込んだときに助けてもらえるような「好き」の対象を持っておきたいですよね。
─堀井さんは落ち込んでいる時に自分を浮上させる「好き」の対象をお持ちですか?
堀井:クラシックはもちろんですが、喫茶店によく行きますね。にぎやかな煙モクモク系の喫茶店に1人で行きます。タバコは吸わないですが苦手ではないので、おじさんたちがモクモクしている古い喫茶店で1人の時間をつくっています。
50歳を超えた堀井が語る、年代ごとの悩みとの向き合い方
─50歳を越えた堀井さんの活躍は女性のロールモデルとして非常に励まされる反面、メンタルが落ちているときには堀井さんの姿が眩しすぎて卑屈になってしまうことがあるのですが、どうしたら良いでしょうか? また、年下の女性にキャリアについてお言葉をいただきたいです。
堀井:卑屈になるのが正常な反応だと思います(笑)。ジェーン・スーさんはプラスのオーラしか出てないですよね。「私なんか」という言葉を使わない。私はむしろ「私なんか」という言葉を使ってしまうこともあったんですが、彼女のそばにいることで強さをもらって立っていられている感じです。
私たちにももちろん、放送に乗せられない悩みはあるし、エグいくらいつらい思いもしてきてるし、重すぎて言えない、いろんな経験をしてきました。
でもそれも糧になっていて、免疫力が上塗りされていって、ちょっとのひっかき傷じゃなんともならないくらい硬さが増していっているんですよね。なので、つらくて明るいものを見ていられないときもたくさんあるんですが、5年後、10年後にはすべて自分の糧になるんだと思っています。
堀井:あと、私はすごく明るい先輩とか楽しそうな先輩をストックしています。10歳くらい上の大好きな先輩は、私たちより3〜4周多くいろいろなことを経験していて、「そんなの別にどうでもないわよ」って笑い飛ばしてくれるんです。なので私もその循環のなかにいたいですね。良い先輩、明るい先輩を持つことはすごく力になると思います。
─笑い飛ばしてくれる先輩のストックが大事なんですね。
堀井:いま70代中盤くらいで、ずっとご一緒している先輩はご飯に誘っても「忙しいから」ってなかなか会ってくれないんです。それで「忙しいはずないですよね?」って聞くと「取材してる」っていうんです。話を聞いてみると、どこの媒体に載せるわけでもなく、自分で調べたいから取材しているそうなんです。すごく忙しそうで何度もランチを断られているんですけど、素敵だな、私はいつそうなれるのだろうと思って。誰に見せるわけでもなく自分の好きなことを突き詰めている人って素敵で、その人はキラキラで、ついて行きたいですね。
- フィードバック 27
-
新たな発見や感動を得ることはできましたか?
-