NHKで放送中の大河ドラマ『光る君へ』。栄耀栄華を極め、「この世をば わが世とぞ思ふ」(現代語訳で「この世は私のものだ」)と詠んだ藤原道長役を、柄本佑が演じている。
第31回「月の下で」で道長はまひろを尋ね、一条天皇(塩野瑛久)との距離が縮まらない娘・彰子(見上愛)のために物語を書いてほしいと頼み込む。その後、まひろは千年を超えて読み継がれる『源氏物語』を書き始め、「紫式部」として名を馳せるようになる。
道長は『源氏物語』を自身の権力掌握のために利用したとされているが、柄本は、本作で描かれる道長について、「家族の幸せとまひろとの約束を果たすために邁進している、まっすぐな人物」だと表現する。「新しい道長像」をどうとらえているのか、合同インタビューで聞いた。
政治のトップになるが、人間味のあふれた「三郎」であることは変わらない
―柄本さんが初めに感じていた道長像と、撮影が進むなかで、変化した部分はありますか?
柄本佑(以下、柄本):当初は、世間で知られているようなヒールな要素のある道長像というよりも、三男坊で、兄二人が政治に積極的に関わっていて、自分も関わらないわけにはいかないけれどそんなに前のめりではない、「のんびり屋さんの三郎」という人間味あふれる人物像として道長役をやろうという気持ちでスタートしました。
そんな道長が、何の因果かいろんなところに運ばれていって、政治のトップに立つ。撮影はいよいよ最終章に入る手前のところまでいきました。お姉さん(藤原詮子)も亡くなり、家族が誰もいなくなり、ひとりになっていろいろな悩みと直面するなかで、最初に感じていた三男坊の「三郎」としての人間性がより大事だなと思っています。
柄本:まひろとの約束を果たすために、政治のトップとしていろいろ意見をしなければならなかったり、彰子を入内させるなどの謀をしたりしなくてはいけなくなって、これまで道長がやってきたことと乖離した部分が現われていることを肌で感じています。それは道長の悩みともリンクするんでしょう。
ただ、そのとき、道長はいまこの地位にいるけれども、もともとは「三郎」である。その人間性みたいなところはやはり変わらないと思います。ここ最近になって、そういったことをより意識するようになっています。
―「まひろとの約束」とは何だと思うか、あらためてお聞きしてもいいでしょうか。
柄本:民のための良き政(まつりごと)をするということだと思います。道長のお父さん(藤原兼家)が「政とは家だ」とハッキリ言っていますが、やはり兄の道隆にしろ、家のために政をしている。道兼はそうではない方向にいきそうでしたが、志半ばで亡くなってしまう。そのきっかけには直秀のことも大きく影響していると思います。
ベースにあるのは「まひろとの約束」と直秀の死
―今後の道長は、まひろとの約束を果たすことと、兼家の「政とは家だ」という考えの狭間で悩むこともあるのでしょうか。
柄本:やっている印象としては、その狭間で悩むという感じではないです。言っていることには疑問を持っていたと思いますが、親父の言ったことにはとてつもない覚悟となりふり構わない行ないがあった。そのシーンには台本にト書きがあって、「共感しないが、圧倒される」と書かれていました。
あくまでベースにあるのは、まひろとの約束事と、直秀のことではないかなと思います。自分の愚かしい行動のせいで直秀が亡くなってしまったということがやはりすごく大きくあるのではないかと思います。
―『光る君へ』は非常に注目度が高く、SNSなどでも論評が繰り広げられていますが、道長の人物像について、どう感じられていますか?
柄本:最初の打ち合わせのときに、いま存在する道長像ではない新たな道長像を描きたいと伺いました。大石(静)さんが書かれる台本には非常に強度を感じていて、道長とはこういう人だという説得力があるので、僕としてはそこを100%信頼して、この本に描かれる道長像をやるということを考えています。物語や人物像についていろいろな意見があるということは、僕はいいことで、素敵なことだと思います。
道長はもっと露骨だったのではないかというところでいうと、この作品において、道長は非常に地に足のついたところから出発していると思います。
彰子の入内屏風にさまざまな公卿(くぎょう)たちの歌を飾って、そこに花山院の和歌も加えたということは、相当えげつないことらしいんです。道長は、もともとは自分の家族を政には関わらせたくなかったけれど、(安倍)晴明や姉にあなたも血を流すべきだと言われて、そうするしかなくなった。けれど本人はただ娘の彰子に幸せになってほしいと思っている。そういった地に足のついた思いが、結局外からはえぐいことをやっているように見える。
とにかく家族の幸せとまひろとの約束を果たすために邁進していて、非常にまっすぐな人だと思っています。
まひろは、道長にとって情けなさを唯一出せる存在
―吉高さん演じるまひろはこれから『源氏物語』を書き始めます。その姿を見て、柄本さん自身もより道長という役に入り込める感覚はありますか?
柄本:もちろんありますが、まひろとの関係値がちょっと変わっていきますよね。離れている時間がふたりの思いを強める……みたいなこととはまた違って。一条天皇と彰子のことに悩みに悩んで、一条天皇に献上すべく新たな物語を執筆してくれと頼みにいく。いままで築いてきたソウルメイトのような信頼関係とはまた違ったものが生まれていき、それがより強固になっているという印象があります。
―道長は、まひろの文学的才能や、まひろ自身に心惹かれながらも、『源氏物語』を政治的に利用するという二つの感情を持つことになると思いますが、その塩梅はどう演じられていますか?
柄本:もちろん政治のほうを向いてはいるんですが、いま思うと、先ほど言ったように、自分の家族の幸せを考えてお願いしにいったのではと思っています。
道長にとって、ほかの人に見せられない顔や情けなさを唯一出せるのがまひろさんだと思っています。どこかすがるような思いで、一条天皇が彰子さまのところに行ってくれないんだと。何とかしてくれないかと言えるのはまひろしかいない。そういう弱いところをしっかり出せて、本当に頼れるのはまひろしかいなんじゃないかなと思っています。
だから、道長はいま考えてみると非常に「パパ」をしていますよね(笑)。そこから政治につながっていると思っているので、臆することなく、振り切っていったほうがいい気がしています。
―定子が亡くなり彰子が中宮になって、道長は最高権力者としての座を盤石にします。思いは違うとしても、やっていることは父の兼家とあまり変わらない、という見方もできるのではと思います。道長のなかで父を意識している部分はあるんでしょうか?
柄本:父と同じことはしたくないんだと道長が言う場面がいくつか出てきます。結果として父と同じようなことをしてしまっていることと、同じことをしたくないという思いの整合性をどう保つかというところだと思いますが、そこは、正直なところすべてが終わってみないとわからないと思っています。
非常に根は深いと思いますが、ただ、同じことをしていても気持ちや出発点が違うという感じかもしれません。民のために良き政をする、そのために同じことをしているが、父は家のためにやっていた、と。出発点が違うんだというところで(思いと行動の)整合性を担保しているのかなと思います。まだまだ道長の旅路は途上なので、最終的なところは、旅路が落ち着いたときに見えてくるものがあるのではと思って、僕自身もとても楽しみにしていますし、注目してほしいと思います。
- 番組情報
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『光る君へ』
主人公は紫式部(吉高由里子)。平安時代に、千年の時を超えるベストセラー『源氏物語』を書き上げた女性。彼女は藤原道長(柄本佑)への思い、そして秘めた情熱とたぐいまれな想像力で、光源氏=光る君のストーリーを紡いでゆく。変わりゆく世を、変わらぬ愛を胸に懸命に生きた女性の物語。
【作】大石静(脚本家)
【放送予定】
[総合]日曜 午後8時00分 / 再放送 翌週土曜 午後1時05分
[BS・BSP4K]日曜 午後6時00分
[BSP4K]日曜 午後0時15分
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