Grooving Night―“寝る前に、グルーヴ溢れる夜を過ごそう”

SIRUP×Ayumu Imazuインタビュー。二人が目指す音楽・ダンス業界の未来

残暑が続く9月20日、日本で最も熱い夜へと導いたのはアーティストSIRUPがホストを務める『Grooving Night』だろう。「寝る前に、グルーヴあふれる夜を過ごそう」がコンセプトの本イベント第4弾となる今回のゲストは、アメリカと日本を拠点に活動する、いま最も勢いのある新世代アーティストAyumu Imazu。

これまでのバンド同士によるツーマンではなく、ダンスパフォーマンスを主軸に人々を魅了するAyumu ImazuがSIRUPとどのようなグルーヴを生み出すのか、多くの人が期待を胸にオリックス劇場へと足を運んだ。

今回が初共演となるが、プライベートでは以前より交流があり、ともに国内外で活躍しているからこそ、音楽やパフォーマンスだけではなく、思想も含めて多くの視点を取り入れ表現し続ける姿は重なる部分も多いのだろう。そんな二人が魅せたライブレビューと、終演後に行なった対談をお届けする。

誰もがライブを楽しめる未来を目指して

これまでiri、OKAMOTO’S、TENDREをゲストに迎えた『Grooving Night』はZepp Nambaで行なわれてきたが、今回は会場をオリックス劇場に移し、新たなかたちで幕を開けた。

前回から導入された聴覚や視覚に障害がある人たちへの鑑賞サポートも引き続き実施され、誰もが楽しめる空間は場所が変わったとしてもつくりあげることができると証明してみせた。

鑑賞サポートとして、前回同様に弱視の人を対象にステージの様子を手元で鑑賞できるタブレットと、聴覚障害がある人を対象に、パフォーマンス中に楽曲の歌詞と音の波形が映し出されるサングラス型ディスプレイが導入された。

前回は読売テレビの取り組みとして導入されたが、今回は読売テレビと一般社団法人コンサートプロモーターズ協会 関西支部会との共同の取り組みとなった。今年4月の障害者差別解消法の改正後、関西の音楽業界と連帯した形で、社会への広がりをまた一歩大きく踏み出した。

また、今回から新たに導入されたのが「Ontenna(オンテナ)」だ。富士通がろう者と協働で開発した、音をからだで感じるユーザインターフェースで、身体の一部や衣服に取り付けることで、60〜90デシベルの音を256段階の振動と光の強さに変換し、音の特徴を伝達することができる。ライブ中に私も体験してみたところ、腕に付けた「Ontenna(オンテナ)」がボーカルの音に合わせて振動を伝えてくれる。振動は想像よりもしっかりと身体に伝わり、ライブハウスのスピーカーの前で音の振動が身体中を包み込むような感覚に近い。

さらに、認定NPO法人虹色ダイバーシティが運営する常設LGBTQセンター「プライドセンター大阪」も前回に引き続き、今回もホワイエでブース出展した。センターの紹介や、グッズの販売を行い、売上はセンターの運営資金となる取り組みが継続された。

こうした鑑賞サポートが今後いろんなライブやイベントなどで導入されることで、多くの人が音楽やエンターテインメントを楽しむことができるようになっていく。そんな未来をつくることを『Grooving Night』は諦めず、挑戦し続けているのだ。

誰もがObesessedするAyumu Imazuのグルーヴ

ダンスパフォーマンスを得意とするAyumuがどのようなグルーヴを生み出すのか心躍らせていると、SIRUPによる「ニューヨークから来てくれたAyumu Imazu!」のアナウンスで6人のダンサーとともにAyumuが登場し、ドラマ『恋をするなら二度目が上等』のエンディング主題歌にも抜擢され大ヒットした“BANDAGE”が披露された。

イントロが流れた瞬間、席に座っていた人たちも一斉に立ち上がり、手拍子ですぐさま会場は一体となった。

続けて“ATARI”を披露し、Ayumuも激しいダンスを悠々と歌いながら踊り、会場のボルテージを上げていく。ダンサーがステージ裏へとはけると、ダンスパフォーマンスから一転、ステージ上に1人で立ち“浮遊夢”と“Lover”をドラマチックに歌いあげた。

ダンサーがステージに戻ってくると“Superstar”、“Tangerine”でふたたび会場をダンスホールに変え、最後はAyumu Imazuの名を世界に羽ばたかせた代表曲“Obsessed”を披露した。

SNSで多くの人の心を高揚させる楽曲をつくるだけではなく、世界で活躍するために必要な圧倒的な実力とパフォーマンス力を持ち、独自のグルーヴを生み出すAyumu Imazuに、私たちはObsessed(夢中になる)にならざるをえない。

すべての選択を祝福する SIRUPのエネルギー120%のライブパフォーマンス

つづけて登場したSIRUPは、1曲目“Superpower”でエネルギー全開のパフォーマンスで会場を包み込み、続けて“Need You Bad”を披露。大ヒット曲“LOOP”では客席にいる一人ひとりが自由に歌い踊る景色をつくりあげ、この楽曲がどれだけの人々に愛されているのかを噛み締めた。

“Ready For You”では、ギターと歌声のみで温かみのあるミニマルなサウンドから、ラストにむけて壮大なサウンドへと変化するというドラマチックなアレンジで会場を包み込んだ。

つづけて“SWIM”から“No Stress”のマッシュアップ、“Do Well”を披露すると、MCで「今夜いろんな選択肢があるなかで『Grooving Night』を選んでくれてありがとう」と感謝を伝えたSIRUP。

最後は“Your Love”を披露し、私たちに「The choice is yours(選択はあなたのもの)」というメッセージを強く伝えてくれた。静かな夜も、不安な夜も、楽しい夜も全部私のものだと感じられるほど、SIRUPの表現は幅広く、私たちの身体へと、心へと音楽とメッセージを届けてくれる。

これまでの『Grooving Night』では感じることのできなかった新たなグルーヴが生み出されたことを、会場にいた誰もが目撃し、体感したことだろう。

アーティストが政治的発信をすることの意義と葛藤

トークセッションでは、パジャマ姿の二人が登場し、少し恥ずかしそうにするAyumuの姿に会場からは黄色い声援があふれた。

3つのトークテーマが用意され、一つ目の「海外で暮らしていて感じる日本との価値観の違いは?」というテーマに対し、ニューヨークに住むAyumuは「アメリカの店員はみんな自分のために働いているから、お客さんファーストではないですね。日本の丁寧な接客は安心できるけど、アメリカの感じが心地いいときもあります。自分のためっていう考えだからか、働いている自分とプライベートの自分が同じでいられる側面もありますね」と話した。それに対しSIRUPは「賃金に見合った働き方があっていいからね。お客さんがいないときは座ってていいし、働いてるみんなもそう思ってるんじゃない?」と客席へと問いかけた。

二つ目のテーマ「アーティストや著名人が政治的な発言をすることをどう考える?」に対して、「政治的な発信をすることはいいと思うし、それでファンがついてきてくれることもあると思う。でもいまは自分のことでいっぱいだったり、間違ったことを言ってはいけないと思ってあまり発言はできてないんです」とリアルな葛藤をAyumuが話してくれた。するとSIRUPは「間違ってもいいし、間違ったらそれを認めることも同時に大切なこと」と、誰もが完璧でなくても声をあげたり、対話の場に参加していいということをあらためて伝えてくれた。

最後に「お互いの曲で気になる歌詞は?」というテーマに対し、SIRUPはAyumuの“BANDAGE”から<不幸中の幸いは飽きてしまうわ>という歌詞をあげた。「結果オーライって良いことってされるけど、それを求めていたわけじゃないし、本当はコントロールしたうえで良い結果を生みたかったって思う。そういうシチュエーションを歌ってるのかなと思って、すごく共感した歌詞です」。

AyumuはSIRUPの“Superpower”から<Everybody’s waiting around for the new normal(誰もが新しい普通を求めている)>という歌詞をあげ、「一人称ではなく、『みんな』が求めてるから変えていこうっていうメッセージに励まされるし、音楽の力をすごく感じるんです」と語った。

SIRUP - Superpower (Official Music Video)

トークセッションの最後にはAyumuがギターを握り、Bruno Marsの“Treasure”を二人で披露。ライブセッション後は『Grooving Night』次回の開催日程が2025年3月29日(土)であることが告げられ、幕を閉じた。

SIRUP×Ayumu Imazuインタビュー。ライブとトークで伝えた2人の想い

ーお二人による『Grooving Night』、とても最高でした! SIRUPさんは4回目で、Ayumuさんは初参加でしたが、いかがでしたか?

Ayumu Imazu(以下:Ayumu):ライブは素直に楽しかったし、イベントの最後にトークがあるっていうのも正直、緊張感もあったんですけど、その分すごく新鮮な気持ちで終われました。いままでのライブでは自分の曲を通してメッセージを伝えようっていう気持ちだったんですけど、トークがあることで、言葉で自分のメッセージや想いを伝えられたのはすごく嬉しかったし、大事なことだなと思いました。

SIRUP:これまではゲストがバンド編成のパフォーマンスだったけど、今回Ayumuが初めてダンスパフォーマンスをするアーティストということで、こういった対バンって僕自身もなかなか見ることがないから、会場の使い方とかすごく勉強になった。もちろん楽曲のクオリティも高いし、ダンスもうまいし。

僕の場合はAyumuと少し違って、この現場はほかのライブよりも自分の歌詞がみんなに届く気がしていて。ひさびさに気持ちがしっかり入った状態で訴えられたかなっていう感覚がありました。バンドメンバーも結構そんな感じだったので、超全力120%のライブができましたね。

ー二人のタッグだからこそ相乗効果で良い夜がつくりだされていたと思います。今回、会場がZepp Nambaからオリックス劇場に移りましたが、前回同様に視覚障害と聴覚障害がある人たちを対象に鑑賞サポートを導入しています。さらに今回からは「Ontenna(オンテナ)」という機器も導入され、お二人も体験したそうですが、いかがでしたか?

SIRUP:あらためてサングラス型ディスプレイはすごいなと思いました。

Ayumu:あれはめっちゃすごいですね! 歌詞やMCの言葉をリアルタイムに表示する機能も、AIが音声認識して文字変換しているんじゃなくて、リアルタイムで沖縄から遠隔で入力してるっていうのもすごい。それにステージを見るうえでも邪魔になっていなくて、ライブにプラスアルファの要素として字幕が出てくるからめちゃめちゃ良いなと思いました。

SIRUP:僕はライブアレンジをよくするから、ライブアレンジバージョンを視覚的に表現できたらもっと面白いなと思いました。あとタブレットもすごいですね。リアルタイムの動画をあれだけズームできる技術がすごい。

Ayumu:僕はSIRUPさんのライブ時は「Ontenna」を付けながら見てたんですけど、めっちゃすごかったです。自分が見てる景色と振動がリンクしてるから、違和感なく楽しむことができました。

ーライブやイベントに導入することで、音を通して多くの人たちが感じている一体感を、聴覚に障害がある人たちも振動を通して感じられるのは新たな音楽体験になりますよね。

SIRUP:今回はボーカルの声に合わせて振動するようにしていたんですけど、ベースやドラムの音にもできるって聞いて、すごい技術だなと思いました。身体中に「Ontenna」を付けて、ここからはボーカルの振動、ここからはベースの振動、みたいにいっぱい付けたらどういう感覚になるんだろう(笑)。でも、自分たちはいま現在音を感じることができるけど、聴覚に障害がある人がライブ時に「Ontenna」を使ってどう感じたのか、フィードバックを聞けるのが楽しみです。

二人が考える音楽のルーツや社会背景を考える意義

ーAyumuさんはトークセッション時に「政治的な発信をするうえで、間違ったことは言いたくない」と多くの人が共感するリアルな思いをお話しされていました。今回ステージ上で自身の葛藤を発信してみて、どのように感じましたか?

Ayumu:「間違ったことを言いたくないから何も言わない」とか「間違ったことを言うのを恐れていることすらも言えない」という状態だったので、僕にとって今日こういう場がなかったら、そのリアルな感情すら言えていなかったんじゃないかなって思います。だからそういった面ではすごく嬉しいです。アーティストだけど、その前にひとりの人間として自分はこう思っているんだって言うことを発信する大事さをすごく感じましたね。

ートークセッション中にSIRUPさんもおっしゃっていましたが、完璧じゃなければ話しちゃいけないわけじゃないし、カジュアルにみんなが話せる空間がこの『Grooving Night』の目的の一つでもありますからね。事前インタビューではSIRUPさんが「Ayumuと初めて会ったときに、人種差別の話とかをリアルに話せた」と話していましたが、お二人は音楽のルーツや社会的背景を学んでいくことがどうして大事だと感じますか?

SIRUP:僕は間口が広い状態で音楽をつくりたくて、そのうえで誰かを排除してしまったり、傷つけるような歌詞で聞けないっていう状態をつくってしまうのが嫌なんです。そういうものがなくなっていったほうが、大袈裟かもしれないけど音楽としての本来の役割が果たせるんじゃないかって思っています。

Ayumu:僕が一番強く感じるのはダンスなんですけど、このダンスのジャンルがどういうきっかけで生まれたのかっていうのを、ニューヨークに行って初めて目の当たりにしたんです。自分がそのルーツをちゃんと学ばないと、自分の表現の説得力がすごく薄くなるし、上辺だけのものになってしまうと思っています。

自分でコントロールすることと人に委ねることの大切さ

ートークセッションの「お互いの気になる歌詞は?」というテーマに対してSIRUPさんはAyumuさんの“BANDAGE”から<不幸中の幸いは飽きてしまうわ>をピックし、「結果もコントロールしていきたい」というお話をされていました。お二人は自分の人生やキャリアをコントロールすることに対してどのように考えていますか?

SIRUP:どれだけキャリアを続けていても悩ましいところで……。今日ステージ上では「不幸中の幸いは飽きちゃうよね」っていう話をしたけど、実際はそこからの気づきもある。だけど気づきや達成感を生み出すには、ある程度コントロールしないといけないとも思っていて。

あと、個人的にはコントロールできないことがつづくと、やる気がなくなって、メンタルが崩れてくるんです。自分がなんのためにやっているのかを意識してコントロールしていくこと、責任をより持っていくことで、その瞬間はめっちゃしんどいけど、自分のメンタルヘルスにおいては大事だということをあらためて認識しました。自分のキャリアにおいても、ある程度のところまでは行けたとしても、その先のビジョンを明確に持っておかないと先には進まないということを最近はすごく感じています。

Ayumu Imazu - BANDAGE [Official Video]

Ayumu:僕はいま、1人でトラックをつくれるようになってきたから、ニューヨークにいるときはスタジオに籠って制作したりするんですけど、やっぱり壁にぶち当たったりするんですよね。でも1人でやりたいっていう気持ちもあって。

だけど、いまはいろんな人とセッションしまくろうと思っていて、そうすると、ある程度は信用して任せる部分と、自分でコントロールする部分を分けていかないといけないじゃないですか。その配分って自分のその日の気分だったり、どう感じているかですごく変わってくると思うんです。だからこそ一番大事なのは、いまの自分をちゃんと理解することなのかなって思っています。

ー自分のやりたいことや、やっていることで、どこまでを自分がコントロールするのか、どこからを人に委ねるのか、その選択をすることが自分自身のオーナーシップを持つということだと思います。これは表現者だけでなく、誰しもが意識していくことが大切だし、それが自分たちの人生をより豊かにしていく行為だと思うのですが、自分のオーナーシップを持ったり、取り戻すためにはどんなことを意識することが大切だと思いますか?

SIRUP:話していて思ったのは、自分で全部をコントロールすることがオーナーシップを持つことではないということ。いまって資本主義的な大きな波に誰もが飲まれているなかで、どう生きるのかっていうのがすごく試されている時代じゃないですか。

自分自身をコントロールした先に、その波に流れを委ねるという選択を取ることも大きなコントロールの一つなのかもしれないって最近は思っていて。SIRUPとして一番大事だったなと思うのは、この「委ねる」ということだったんです。見定めは難しいんですけど、自分が関わることは結果的に自分の何かは必ずそこに残るから、固執しすぎなくてもいいんだなと。

音楽にたとえると、自分が歌うものは絶対自分の歌になるから、たとえコントロールできなかった部分が多くても、結果的に自分は無くならない。そう思える日も大事だなと思っています。

Ayumu:僕は6歳のころに母親の勧めでダンスをはじめたんです。当時は毎日踊りたいって思っていたわけでもないし、辞めたいとも思ってないくらいの感じでダンスを続けていて。何も考えずに母親に僕の選択を委ねていたけど、20歳直前くらいに初めて、人に委ねてばかりだと自分が何をしたいかを見失ってしまうなと思ったんです。

だからこそ、さっきの話につながるんですけど、自分を理解することによって、自分がコントロールしたい部分と人に委ねたほうが良い部分が理解できるようになっていくんじゃないかな。幼少期に人に委ねるという経験を長くしてきたからこそ、いまにつながっているなと思っているので、人に委ねることも大事なんだなとまわりまわって感じています。

模索しながらも未来を諦めない二人のグルーヴ

ー事前インタビューで「この10年でアジア人の見られ方が変わった」というお話があったと思います。実際に2016年にはオンライン辞書サイト『Urban Dictionary』にアジア人の誇りを取り戻すためにクリエイティブな活動をするアジア人を指す「Slaysian(SlayとAsianを組み合わせた造語)」が追加されたりしていますが、日本国外で活動する際に、アジア人としての誇りをどのように感じることがありますか?

SIRUP:個人的には、日本で日本人として生まれたことによって、外からどう見られているのかを意識することってまだまだ少ないと思っていて。台湾のアーティストと話していると、台湾や台湾のカルチャーに対して誇りがあるんですよね。それは多民族国家ということもあるし、政治情勢も日本とは違うからっていうのはもちろんあるんですけど。アメリカでも、88rising(※)が求心力を持った背景には、アメリカ国内で起こっているアジアンヘイトに対してアジア系アメリカ人同士で連帯していく必要があったということもあると思うんです。

日本でどういうふうにアジア人、日本人としての誇りを持ち、提示していくかという部分はいまでも悩んでいます。日本がこれまでに他国に対してやってきた良いことも悪いこともしっかり学んで、ほかの国の人と絡んでいかなくちゃいけないなと思っています。そのなかでどう生き残るべきなのかは考えています。

(※)88rising……アジアにルーツを持つアーティストを輩出するアメリカの音楽レーベル

Ayumu:留学したとき初めて自分が外国人になった感覚があって、それがすごく変な感覚だったんです。僕はジャパニーズだけど、アジア人っていうカテゴリーに入るんだっていうのを初めて感じたんですよ。日本にいるときは日本人だし、自分がアジア人だということってなかなかない。ニューヨークに来て初めてアジア人というカテゴリーがどういうふうに見られているのかも理解できたし、アジアという括りのなかでも、国によって印象は全然違う。そういった感覚みたいなものは実際に住んでいて感じることがあります。

そのうえで、これからの活動としてはアジアのアーティストとして活動を続けたいと思っています。洋楽に寄せまくった曲だけじゃなくて、僕のルーツは絶対に日本にあるので、そのルーツを大事にしながら、もっとミックスされた音楽を日本にも海外にも提供できたらなと思っています。

ーこうして国内外で活動するお二人が、模索中の現状を等身大に話してくれることは希望に感じますし、ともに土壌を耕していく仲間をこの『Grooving Night』でつくっていってるんだなと思います。最後に、音楽業界やダンス業界で活動していく人たちと、どのような環境や社会をつくっていきたいか教えてください。

SIRUP:日本だと「売れる」っていう抽象的な言葉に振り回されたり、出会う人たちそれぞれの正しさに従わないといけないみたいな権力関係が生まれたりして、そこで自分の本当にやりたいことが揺らいでしまったりする。

誰かが言う「正しさ」から外れることを恐れて曲を出せなくなることもあるし、いまはSNSの治安が本当に悪いから、自分の好きな曲を出しただけなのにボロクソ言われることもある。

ただ、僕はそういうことでミュージシャンのメンタルが折れてほしくない。「過酷な環境から勝ち抜いた人だけが才能がある」っていうかたちになってほしくないんです。本当は才能があるのに、そういった嫌な思いをしたせいで才能を世に出せずに離れていった人もいっぱいいる。そういう人たちができるだけ減っていく音楽業界になってほしいって思います。

SIRUP:メジャーとかインディーとか、そういう括りじゃないところでいろんな音楽がある状態は日本のカルチャーの豊かさにつながるし、その先にいろんな人の存在や権利が認められるようになるとも思う。そんなふうにカルチャーが濃厚になっていけばいくほど、人権の話もしっかりされるようになっていくと思うんです。

そういう世の中になってほしいし、そうするために僕も努力していきたい。これから音楽業界に来たいと思っている人たちは、不安にならずに、まわりの「正しさ」を気にせず表現を続けてほしいと思います。僕も気にせず音楽をやれる場所やシーンをもっと増やしたいと思って頑張ってるので、一緒に頑張ろうぜって伝えたいです。

Ayumu:僕がすごく大事にしているのは、アーティストである前に、1人の人間としてお客さんの前に立つっていうことなんです。いまのJ-POPもK-POPも、「アーティストは完璧でいるべきだ」みたいな考え方がどうしてもある。だけど、音楽も世界観も人間と人間が共有し合っているっていうことを忘れずに活動していきたいです。

そこがきっと音楽性や歌詞に表れると思っています。なので、これから音楽やダンスをしたいと思っている人たちには、「こういうアーティストになりたい」というかたちから入って自分を偽り、誰かの真似をするんじゃなくて、ありのままの自分で立ってほしいなと思いますし、そんな環境をつくりたいなって思っています。

イベント情報
公演名:Grooving Night #4(グルーヴィングナイト)
出演:SIRUP/Ayumu Imazu
日時:2024年9月20日(金)18:00 開場 / 19:00 開演
会場:大阪・オリックス劇場

主催:読売テレビ/キョードー関西
企画制作:読売テレビ
協賛:Billboard Live OSAKA/クラシエ株式会社/
大阪スクールオブミュージック/Zentis Osaka
協力:CINRA/The ONOE FURNITURE/Ontenna(富士通株式会社)
視聴覚障害鑑賞サポート:読売テレビ/一般社団法人コンサートプロモーターズ協会 関西支部会

※次回は2025年3月29日(土)大阪・オリックス劇場で開催予定。
詳細は公式HPで、後日お知らせいたします。
プロフィール
SIRUP

ラップと歌を自由に行き来するボーカルスタイルと、自身のルーツであるネオソウルやR&BにゴスペルとHIPHOPを融合した、ジャンルにとらわれず洗練されたサウンドで、誰もがFEEL GOODとなれる音楽を発信している。 2021年には2nd フルアルバム「cure」をリリースし、同年「FUJI ROCK FESTIVALʼ21」に、国内のR&Bアーティストでは異例となる初出演でメインステージ GREENSTAGEに立ち、圧巻のパフォーマンスを魅せた。 これまでにイギリス・韓国・オーストラリア・台湾などのアーティストとのコラボ曲をリリースしている他、アイリッシュ・ウイスキー「JAMESON」、オーディオブランド「BOSE」、自動車メーカー「MINI」とのタイアップ、2022年には自身初となる日本武道館公演を開催するなど、日本を代表するR&Bシンガーとして音楽のみならず様々な分野でその活躍を広げている。

Ayumu Imazu

2000年5月12日生まれ、大阪府出身。 6歳よりダンスをはじめ、14歳より約3年半アメリカ・ニューヨークのアーティスト留学を経験後、活動の拠点をアメリカと日本に置いて活動するアーティスト。 作詞・作曲からダンスの振り付けまで手掛け、圧倒的なダンスパフォーマンスと日本語・英語のバイリンガルを武器に魅力的な歌声で世界を股にかけ、挑戦し続けるZ世代を代表するグローバルアーティスト。 繊細且つストレートなワードセンスとドラマチックな世界観で描かれるAyumu Imazuの音楽は、日本のみならず全世界のリスナーへ波紋を広げる。



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