東京・有楽町のSusHi Tech Square 1F Spaceで、2024年6月から9月23日まで開催された『人間×自然×技術=未来展』。「自然と環境」をテーマに、さまざまなクリエイターによる体験型の作品を展開している。会期中の9月7日には、本展で人の動きにあわせて風景が変化するイマーシブ映像「GREENSCAPE」を制作したアーティストの田中薫と、移動式公園「Moving Green Park」を制作したTokyo緑予想図によるクリエイタートークが行なわれた。
夏は酷暑が当たり前になり、外に出るのも億劫な日々が続いているが、これから先も日本の豊かな自然と触れ合い、楽しむためにアートやテクノロジーが貢献できることは何か? 2組によるクリエイタートークから、その可能性を探る。
自然・環境への新しい没入体験『人間×自然×技術=未来展』
人間×自然×技術=未来。この問いかけに対して、アーティスト・クリエイター・企業・研究者たちがさまざまなかたちの表現で応えた今回の企画展。会場内には、自然・環境への「新しい没入体験」を誘う、たくさんの作品が展示された。
さらに、会期中にはライブやマルシェ、ワークショップ、クリエイタートークなど、自然とテクノロジーに関するイベントも実施。
9月7日には、誰でも無料で参加できる鑑賞ツアーと、本展の参加クリエイターによるトークを実施。参加者との交流会も行なわれたイベントに、田中薫、Tokyo緑予想図が登壇した。
それぞれの作品に込められた、自然への思い
はじめに、それぞれのクリエイターから、展示作品のコンセプトや制作の経緯が語られた。
田中薫が手がけた、人の動きにあわせて風景が変化するイマーシブ映像「GREEN SCAPE」。Tokyo 緑予想図による移動式庭園「Moving Green Park」。ともに人や自然をテーマにした作品には、どんな思いやメッセージが込められているのか。
地下鉄に展示した移動式庭園「Moving Green Park」
寺前慎太郎(以下、寺前):名前の通り、本当にどこへでも持っていくことができる「移動する公園」です。今回の「Moving Green Park」の前は、東京駅や都心のオフィスビルの1階、地下鉄などに展示していました。
より緑からかけ離れた場所のほうが、喜んでもらえる実感がありますね。たとえば地下鉄なんかだと、これを置いた瞬間から人が集まってくる。そこにしばらく立ち止まって、話をしていく人もいる。そんな空間を増やしていきたいという思いで、こうした活動を行なっています。
大橋一隆(以下、大橋):公園という場所には自然も遊具もありますが、それぞれが独立しています。遊具は園内の舗装されたところに、人工的につくられていますよね。そうではなく、もっと自然と遊具の距離って近くできるんじゃないか? そんなことをイメージしていました。
実際にやってみると、いろんな発見もあって。まず、室内に植物を置くと、自然のなかのように風によって葉っぱが揺らぐことはありません。しかし、Moving Green Parkではそこに人が介在することで揺らぎが起こる。
大橋:たとえば、シーソーと植物を組み合わせた遊具で子が遊ぶことで、植物が動く。そんな新しいかたちの楽しみかたがあるのかなと思います。ちなみに、最近の夏は暑すぎて、公園で遊ぶ子供も少なくなっていますよね。そのぶん、屋内や日陰などの涼しい場所に公園を置くと、すごく賑わうんです。
今後さらなる猛暑が予想されるなかで、こうしたどこにでも展開できる公園があると夏の過ごしかたも変わるんじゃないかと、すごく可能性を感じていますね。
仙波緑子(以下、仙波):私はMoving Green Parkの植栽の選定や管理を担当しているのですが、今回選んだのは太陽光ではなく屋内のライト(照度)だけで生きていける観葉植物です。
そのなかでも、樹種や形、大きさ、葉のかたさ・やわらかさなどがなるべくかぶらないように、いろんなタイプの植物を集めました。リアルな公園のようにいろんなタイプの緑を観察して、実際にどんな手触りなのか確かめて楽しんでもらいたいと思っています。
自然にあるさまざまな目線を捉えた「GREEN SCAPE」
田中:GREEN SCAPEは、人の動きにあわせて風景が変化するイマーシブ映像です。制作するにあたっては自分で実際に山や公園に足を運びました。
田中:山で植物などを観察していて感じたのは、自然のなかには私たちが日常で捉えている視点とは違う、いろんな目線があるということ。地面に近いところで草や土、虫の世界を観察したり、少し離れて大きな木を見て迫力を感じたり。自分が大きくなったり、逆にミニチュアになったりすることで、まったく違う世界を味わうことができました。
そんなふうに自然をいろんなスケールで捉えるということが、このGREEN SCAPEの最も重要なポイントになったかなと思います。
田中:また、今回は自分が観察した自然や人のデータを組み合わせて「3つの風景」をつくりました。それが、再生と成長を象徴する「再生の森」、都市の喧騒から離れて自然との深いつながりを象徴する「静寂の木」、そして、異なる趣がともに反映する「調和の森」です。
私たちは自然のなかで生きており、人間にとって良いとか悪いというより、自然が持つ雄大な力を感じています。また、そこから新しいエネルギーが生まれることもある。そんな3つの場面が切り替わりながらも、どこか調和している。そんな世界を表現しています。
この映像は人の動きに合わせてインタラクティブに風景が変化するのですが、それは本当の自然も同じ。たとえば、木のそばを通ると枝葉が揺れるといったこともそうですし、人の営みによって環境や自然に多大な影響を与えるというのもそう。そんなふうに自分たちが自然に何かしらの影響を与えているということを、作品を通じて感じてもらえたらと思っています。
バーチャル×リアルで人間と自然の関係はどう変わる?
続いてのトークテーマは「リアルな自然とバーチャルな表現を組み合わせることの可能性」について。
映像やテクノロジーを駆使して自然のエネルギーや心地よさを表現する田中さんと、実際の植物との触れ合いなどリアルな体験を都市部へ届ける寺前さんたち。それぞれのアプローチについて、お互いにどう感じているのだろうか。
寺前:田中さんの「GREEN SCAPE」は、もちろん本物の植物ではなくデジタルな表現ではあるのですが、あの場に立って映像を眺めていると不思議と心地いいんですよね。自分が動くことで映像が変化するのも、リアルではできないデジタルならではの表現で面白い。こういうものが公共の場や緑の少ない街中などに設置されたら、都会に暮らす子供たちが身近に自然を感じたり、大人が環境について考えるきっかけになるのかなと思いました。
田中:私自身、公共の場に直接設置される作品を手がけるのは、今年の3月頃に銀座三越に出展した桜の花びらをモチーフにしたインスタレーションに続いて、今回の「GREEN SCAPE」が2回目になります。銀座三越の時もそうでしたが、バーチャルな表現であっても桜が舞っていたり、植物が揺らいでいたりするとやっぱり気になる人は多いみたいで。
そこで足を止めた、見ず知らずの人同士の間でコミュニケーションが生まれたりという発見もあったので、たしかにこういったものが公共の場にあることにも意味はあるのかもしれません。
田中:ただ、そうはいっても私はやはり「リアル」のほうが強いと思っています。たしかに、バーチャルの自然に触れてイマジネーションが広がり、環境のことについて考えるきっかけにはなるかもしれません。でも、実際にリアルな植物に見て触れて、体験できることのほうが人の意識を変えられると思うので。
とはいえ、都市部で暮らす人が山に足を運ぶのは大変なので、「Moving Green Park」のように自分が住む場所の近くに自然や公園が来てくれるというのは面白いですよね。今日もたくさんの子供たちが楽しそうに「Moving Green Park」で遊んでいましたが、こういうものこそ世の中が変わっていくきっかけになるんじゃないかと感じました。
植物が嫌いな人もいる? 都市の自然のありかたとは
東京などの都市部では、再開発や街づくりの際に人間と自然の調和を謳い、ある程度の緑地が設けられるケースも多い。また、街中を観察してみれば道端の街路樹や都市公園など、都会にも意外と自然は存在している。
ただ、普段それを立ち止まって眺めたり、強く感動したりすることは、あまりないかもしれない。それは緑の量や配置の問題なのか、人間の意識の問題なのか?「都市の自然」のありかたについて、クリエイターたちはどう考えるのだろうか?
寺町:個人的には都市にはまだまだ自然が足りないと感じていて、それは緑だけでなく「土」もそうですよね。緑の心地よさって、もとをたどれば土にあると思うんです。だから、緑を眺めるだけじゃなく、もっと土に触ったりできる場所が東京に増えていくといいんじゃないかなと。
ただ、難しいのはみんながみんな植物を好きなわけじゃないこと。特に公共空間にどんどん増やしていこうとすると、反対意見も出てきます。そのあたりをどううまく折り合いをつけながら、体験に落とし込んでいくのか。それこそバーチャルを組み合わせるやりかたもあるだろうし、田中さんのようなクリエイターの方にも相談しながら「都市の自然」のありかたを考えていきたいですね。
仙波:先ほどみんなとも話していたんですけど、「Moving Green Park」はワクワクするのに、舗装された道路に植えてある街路樹だとそう感じないのはなぜだろうと。たぶん、そこにあるのが当たり前になってしまっているのも理由の一つなのかなと思うんです。
たとえば、街路樹とバーチャルをうまく掛け合わせた仕掛けをつくって、身近にある自然を楽しむ方法を提示してあげる。スマホやタブレットなどで樹種や特徴がわかったり、成長の度合いが確認できたりすると、関心を持つ人が増えるかもしれません。まずは身近にある植物を好きになってもらえるきっかけを、何とかつくれないかなと思います。
自然について考える最初の入口に
クリエイタートークの最後には来場者からこんな質問も投げかけられた。
「植物は、やはり環境のなかの生態系の一つとして存在することが望ましいと思っています。ただ、『Moving Green Park』はそうではなく、『人のためにある植物』というか、植物を『モノ』として捉えているような印象も受けました。人のために植物を動かすだけでなく、たとえば都市のなかに生態系をつくっていくということも大事なのかなと思いますが、それについてお考えを聞かせてほしいです」
寺前:それは本当におっしゃる通りだと思います。本来は生態系のなかに植物がある状態が最もナチュラルだし、そうあるべきです。もっと言えば、その生態系のなかに植物も人間も共存していくことが理想ですよね。
一方で、多くの人の意識をそこまで高めていくには時間がかかるし、何かのきっかけが必要だとも考えています。そのきっかけというのはやはり、そこに植物があると気持ちいいとか嬉しいとか、近所の公園でカブトムシを見つけたとか、個人レベルの小さな体験なんじゃないかと。
「Moving Green Park」に関しても、そういう体験をしてもらって自然について考える最初の入口になればいいのかなと。答えになっているかわかりませんが、少なくとも僕らはそんな気持ちでやっていますね。
盛況のうち、ひとまず幕を閉じた『人間×自然×技術=未来展』だが、「人間と自然の共成長」というテーマや問いについて、答えが出たわけではない。SusHi Tech Squareでは今後も同展を実施し、自然と人間、テクノロジーの掛け合わせがもたらす未来のあり方について考え続けていく。
- イベント情報
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『人間×自然×技術=未来展- Well-being for human & nature -』
2024年6月19日(水)〜2024年9月23日(月・振休)
会場:丸ノ内 SusHi Tech Square内1F Space
休館日:月曜(ただし7月15日、8月12日、9月16日、9月23日は開場)
時間:平日11:00~21:00、土日祝10:00~19:00(最終入場はそれぞれ30分前まで)
入場料金:無料
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