展覧会『ウェルフェアトリップ 五感のとびらをひらく旅』が東京・竹芝にあるダイアログ・ダイバーシティミュージアム「対話の森®︎」で10月1日まで開催されている。
同展は書籍『ウェルフェアトリップ~福祉の場をめぐる小さな旅』(アノニマ・スタジオ)の著者であり、日本の福祉現場を巡ってきた羽塚順子がプロデュースする展覧会。8つの異なる部屋を舞台に、全国の障害者施設でつくられた手仕事や職人技をインスタレーションとして展示する。
今回の記事では、五感を刺激する同展の見どころを紹介する。
もくめんに埋まる体験も。五感を刺激するインスタレーション
最初の扉を開けると現れるのは「旅の始まりの部屋」。畳の原料となるイグサが敷かれたインスタレーションだ。
国産イグサの約9割は熊本県で生産されているが、近年は農家の後継者不足が深刻だという。次世代にイグサを残したいという想いで活動する熊本のアーティスト・ユニットitiitiがこの部屋を企画した。
多くの作品に触れるのも同展の大きな魅力。イグサを干す際には急激な乾燥を防ぐため「泥染め加工」が施されており、触ると少し手が白くなるのが楽しい。
次の部屋に入ると、木の良い匂いがふわっと香る。
「森の部屋」には贈り物の箱のなかに敷く緩衝材「もくめん」が敷き詰められている。
囲いのなかに敷き詰められたもくめんに包まれる「もくめん浴」をすることも可能。もくめんをかき分けて体を埋める感覚や、じんわりとした不思議な温かさを楽しむことができる。
もくめんをつくっている高知・土佐の戸田商行は「障害のある人も一緒に働くのがあたりまえ」という考え方のもと、昭和時代から障害のある人を雇用してきた企業だという。
3番目の部屋では、和紙の原料である「コウゾ」が紙に変わっていく様子を展示。
クワの木と鳥をモチーフにした型で漉いた和紙を天井に貼ったインスタレーションも。透けるほど薄い和紙と光が織りなす幻想的な風景を、地面に敷かれた和紙に寝転びながら体験することができる。
細かな手仕事でつくられた美しい作品たち
10月に「神在月」となる島根県で行なわれる石見神楽で使われる大蛇2体が展示されている「神事の部屋」。
大蛇の胴体は和紙製で、なかの竹筒は手づくり。寸分の狂いも許さないつくりにより、全長15メートルを超える胴体は1.5メートルまで縮めて運ぶことができるという。
胴体に触るだけでなく、大蛇の御頭をかぶることも可能だ。
「竹の部屋」では柿渋で染めた千鳥うちわを展示。100本の竹が均等に並べられており、吊るされたうちわに光があたる美しい風景を楽しむことができる。
「布の部屋」では、群言堂創業者の松場登美が、8つの福祉事業所の人々とともに針仕事でつくった「お浄巾(じょうきん)」を展示。多様な人々がつくった作品が混ぜて並べられており、障害のあるなしにかかわらずみんながフラットでいられる社会が表現されている。
最後の部屋では、イグサのござが敷かれた椅子でクラフトパーソンの手仕事を映した映像が流されている。来場者の感想が記された紙も吊るされており、自分とは異なる考えと出会うきっかけになるかもしれない。
「自分らしさや人間本来の特性が活かされる喜びがある」
知識として知るだけでなく、体験することでより記憶に残るインスタレーションが展示されている同展。総合プロデューサーを務める羽塚は展示への想いについて以下のように語る。
「知ってほしいということが一番の目的です。五感をひらくことで、既成概念を崩したいと思いました。障害のある人は会社などで働くのが難しいと一般的には思われていますが、毎日毎日手仕事を繰り返している人もいて、その可能性を知ってもらいたいです」
羽塚によると、作業所を見学したクリエイターや企業関係者、学生などはみな驚くという。
「見学に来るみなさんは、世の中に合わせて不満を持って仕事をしている方々も多いと思います。でも、作業所で働く障害のある人々は自分を偽らず、自分を曲げないんです。そこには自分らしさや人間本来の特性が活かされる喜びがや誇りがあるので、来た方は驚くのだと思います」
作業所の見学で衝撃を受け、転職する若者も多いと語る羽塚。活動に参加する意義について、以下のようにコメントした。
「生きづらい人々のサポートすることを通して、サポートする側も自己実現していることも感じています。まずは障害のある方の可能性を知ってもらうことで、思いやりの溢れる国になっていくのではないかと考えています」
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