CINRAメディア編集長が、月に一度くらいのペースで更新するコラム連載。
共和党候補のドナルド・トランプと民主党候補のカマラ・ハリスが争うアメリカ大統領選の開票がはじまった。
今回の選挙で注目を集めるのが、1990年代半ば以降に生まれた「Z世代」の票の行方だ。無関心層も多いが、政治に関心のある層は気候変動やジェンダーなどへの問題意識が高く、民主党寄りだとされてきた。バイデン大統領が勝利した2020年の大統領選では、民主党候補に投票した18〜29歳の有権者の数は共和党候補(トランプ)よりも20ポイント以上多かった(*1)。
しかし、今回の大統領選ではその様相が変わってきている。Z世代の間でも分断が深まり、「トランプ支持」の若者たちが増えているという。
いったい何が起きているのか? 10月半ばに集英社から刊行された及川順さんの『引き裂かれるアメリカ トランプをめぐるZ世代の闘争』は、若者たちのあいだで起きている現象を読み解くヒントになるだろう。
NHKの記者として2019年夏から2023年夏までアメリカに駐在した著者は、政治的な分断が広がったアメリカの現状を若者たちの視点から取材し、4章に分けて伝えている。
第1章では、トランプを支持する若者の保守系団体「ターニングポイントUSA」の大規模集会を取材した様子がまとめられているが、同団体は企業から活動資金のバックアップを受け、いまや3,500以上もの大学にメンバーがいる大きな組織に成長しているという。18歳で同団体を創立したチャーリー・カーク氏もさることながら、看板となっている黒人女性の保守論客、キャンディス・オーウェンズ氏の存在感も、黒人男性のあいだでトランプ支持が広がっているという選挙報道をふまえて考えると、目を見張るものがある。
しかし、保守もリベラルも決して一枚岩ではない。本著では、イスラエルへの軍事支援をめぐって時にバイデン政権を批判し、より急進的な政策を求める左派グループを「急進左派」や「プログレッシブ」と位置付け、そこに属する人たちの声も伝える。
分断も連帯もより複雑化していることがうかがえるが、著者は「対話」に焦点をあて、衝突や歪み合いだけではなく、異なる価値観を持つ他者への「歩み寄り」の足がかりを見出そうとする。その姿勢に深く共感した。
分断の先には暴力の連鎖があることを、私たちはこれまでも目の当たりにしてきた。現地では、選挙結果によって起きかねない暴動を警戒し、有刺鉄線や板で建物を囲う店舗もあるという。2021年の連邦議会議事堂襲撃事件を思い起こすと決して過剰な反応ではないのだが、そもそも暴動が起きる前提で選挙が行なわれること自体が異常ではないか。大統領選で繰り広げられる罵り合いの応酬をみていると、そんな感覚をふと忘れてしまいそうになるが、たたみかける情報にまどわされず考え続けたいと思う。
- 書籍情報
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『引き裂かれるアメリカ トランプをめぐるZ世代の闘争』 著:及川順 発行:集英社
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