SusHi Tech Squareーデジタルから東京の「未来」を考える

「異日常」が当たり前を揺るがす。evalaや落合陽一ら出展『Alternative Living展』レポ

「未来の東京の暮らし」をテーマにした展覧会『Alternative Living展』が、東京・有楽町にあるSusHi Tech Square 1F Spaceで開かれている。

本展タイトルの「Alternative(オルタナティブ)」には、「もう一つの」という意味のほかに「新しい主流になる」という意味も込めているという。リビングルームを模した会場に9組の出展者による作品が並び、日常とは少し異なる「オルタナティブな暮らし」を表現する。

入場無料で、3月23日まで。展覧会をレポートする。

人とテクノロジーが融合したメインビジュアルとともに

東京都が開設したSusHi Tech Squareは、デジタルを切り口に、さまざまな展示やワークショップ、イベントを体験できる施設。これまで「身体」「都市」「自然と環境」「感情」をテーマにした展覧会を開いており、「未来の東京の暮らし」をテーマにした今回は第5期の展示となる。

クリエイティブディレクターは亀山淳史郎(SIGNING 経営補佐)。キュレーターを田尾圭一郎(田尾企画 編集室)と生田綾(CINRA編集長)、製品・サービス展示ディレクターを佐藤勇介(株式会社MAGNET プロデューサー)が務めた。

展示のメインビジュアルは、デザイナーの深地宏昌が手がけた。「Alternative Living」の頭文字である「A」と「L」のタイポグラフィで構成されている。コンピューターによる偶発的な色の混ざりに、デザイナーの手が加えられ、人とテクノロジーという二つの要素が融合したデザインとなっている。

展示作品は以下の通り。

外と内の境界が溶け出す——山田妙子『透壁』

展示空間をぐるりと囲むのが、山田妙子による『透壁』だ。

建築資材として使用され、本来は壁のなかに埋もれている軽鉄をあえて露出させ、展示空間をゆるやかに規定する。従来の壁によるゾーニングではなく、色や光によって境界を設定することで、流動的で柔らかな空間をつくりだしている。

耳を澄ませば見えてくる——evala『Fragrance “purr”』

幅広い分野で活躍する音楽家であり、サウンドアーティストであるevala。本展のために「調合」した音の作品『Fragrance “purr”』が、まるでミストが降り注ぐかのように空間に充満する。

現代のリビングでは、テレビ、もしくはサブスクの音楽などが流れているケースが多いだろう。そういった一定方向の音の流れではない『Fragrance “purr”』は、まるで気分によってアロマをたくようなイメージで、会場を包み込んでいる。

テレビの実在が暴れ出す——Houxo Que『NOUMENON #1』『Death by proxy #3』

現代美術作家のHouxo Queは、ディスプレイ上に直接ペインティングを施した『NOUMENON #1』、単管を貫通させた『Death by proxy #3』の2点を出展している。

パソコンやスマートフォンなど、現代の生活に氾濫するディスプレイという存在に直接的に手を加えることで、鑑賞者はその物質性に注目せざるを得なくなる。私たちが液晶ディスプレイを通して見ている「イメージ」とは一体何なのか? と、作品から感じる「違和感」が問いかけてくる。

雲(クラウド)がリビングに降ってきた——河野未彩『inner sky』『3D to 4D』

視覚ディレクターでグラフィックアーティストの河野未彩は、架空の隕石「クラウド」(ネットワークサーバー)から物語を着想した作品を出展。『3D to 4D』からはさまざまな質感の130種類の音が定期的に鳴り響く。『inner sky』は、内側の光源とともに生活を彩る。私たちの日常にテクノロジーが侵食し変えていくさまを、視覚と聴覚から感じられる連作となっている。

暮らしの砂場が時を積む——KURANOIE『TOKI : Capture Park』

白崎公平、吉迫亮我、倉員晃紀によるデザインスタジオ、KURANOIEは、『TOKI : Capture Park』を展示。砂土と接着剤を混ぜてつくった素材を工業製品に塗りつけてかたちづくり、「風化」を表現した作品だ。

石が砂に風化するには長い年月が必要であるように、人間とは違う速度で変化する自然をモチーフに、時の流れを可視化している。リビングルームに公園の砂場を持ち込んだようなイメージで、積み木のように積み重ねて遊ぶことができる。

デジタルの水鏡に記憶が浮かぶ——落合陽一『ヌル鏡止水』

筑波大学学長補佐、准教授、デジタルネイチャー研究室主宰などを兼務しながら、作家活動に取り組む落合陽一。展示する『ヌル鏡止水』について、「走馬灯という人生の残響を『デジタルの水鏡の下』に可視化する作品です」と説明する。

落合によると、「最近のコンセプトとして、何もないところから始め、何もないところに何かが戻るということをテーマにしております。オルタナティブなリビングということで、他人の人生を垣間見るような水鏡があれば、と考えていました」。会期中も作品はアップデートを続け、水鏡に映される像はかたちを変え続けるのだという。

家具が役割から解放される——小林椋『この囲いの戸(木の島)で組む島』

ヴィジュアルアーティストの小林椋は、一見すると家具のように見えるが、実際には家具としての機能をもたない、そんなオブジェを展開する。

ゆっくりと回ったり、動いたり……何をするわけでもなく働く「家具」は、意味と役割を失ったモノとして動き続ける。それらが点在する空間に身を置くと、日常の当たり前から解放され、新たな気づきがあるかもしれない。

撫でられ待ちのロボット、体験型展示も。会期中はイベントさまざま

ユカイ工学株式会社は『しっぽがある暮らし』として、しっぽのついたクッション型セラピーロボット「Qoobo(クーボ)」を展示している。本体に内蔵された加速度センサーによって、なでられ方のパターンを検知し、独自のアルゴリズムで反応が変わる。

また、様々な模様をしたブロックを3D空間上に配置して、「Alternative Living」にある家具を作る体験型展示も楽しめる。

会場には、来場者の作品鑑賞を会話しながらサポートするアートコミュニケーターが常駐している。会期中には、アート作品を鑑賞して感じたことを参加者同士でゆったり語り合ってもらう「哲学カフェ」(金曜夜に開催)や、ワークショップ、クリエイターによるトークなど、さまざまなイベントが予定されているという。

イベント情報
『Alternative Living 展』

開催期間:2025年1月18日(土)〜3月23日(日)
(月曜日は休館日、ただし2月24日は開場、2月25日は休館)
開館時間:平日11:00~21:00、土日祝10:00~19:00(最終入場はそれぞれ30分前まで)
入場料金:無料
会場:SusHi Tech Square内1F Space、東京都千代田区丸の内3-8-3


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