「わたしはbonsai/なんにもできない天才」って、一体どういうことだろう?
昨夏より、水曜日のカンパネラでの活動と並行して、ソロ名義での音楽活動をスタートさせた詩羽が、プライベートでも親交があるCENTを招いて送り出した楽曲“bonsai feat.CENT”。
ここで歌われている「bonsai」って、やっぱり「凡才」のことなのだろうか。凡才だけど天才とは、これ如何に。そもそも「才能」って何だろう。
「才能がある」とか「才能がない」とかいうひと言に、舞い上がったり、落ち込んだりするけれど、それって誰のどんな基準で測られた、どんな確度の「才能」なのだろう。その言葉に縛られて、身動きが取れなくなるくらいなら、いっそ自分の「好き」を信じて、走り始めてみるのも一興か。そのとなりに、並走してくれる「誰か」がいたら、なおのこと。
先日公開された“bonsai”のMVさながら、共に笑い合って、手と手を取り合い、いまいる場所から未知の世界へと飛び出し始めた詩羽とCENTに、「違うけど似てる/似てるけど違う」2人の関係性についてはもちろん、2人だからこそ奏でることのできる音楽について、果ては「才能」と「不安」をめぐる話についてまで、さまざまなことについて尋ねてみた。
詩羽とCENTの出会い「不思議とすぐに仲良くなれた」
―そもそも、詩羽さんとCENTさんは、いつ頃どんなふうに仲良くなっていったのですか?
詩羽:2023年の夏ごろに、ある番組で一緒になる機会があったんです。「友だちが少ない」みたいなテーマの深夜寄りの番組だったんですけど(笑)。で、そのときは、あいさつをしてCDを渡したぐらいだったんですけど、後日――ちょうどその頃、わたしがテレビドラマに出演していて。
―『最高の教師 1年後、私は生徒に■された』ですか?
詩羽:そうです。そのドラマのわたしがフィーチャーされた回をチヒロ(CENT)ちゃんが見てくれたみたいで、「すごい良かったです」って連絡をしてくれたんですよね。それがわたしはすごく嬉しかったし、その前から話してみたいなって思っていたので、今度はわたしのほうから「一緒にご飯行きたいです!」ってお誘いして。
チッチ:あのドラマを見て、すごい感動したんですよね。それで、「感動しました!」ってことを伝えたいなと思って、勇気を出して連絡してみたら、ご飯に誘ってくれて。たしか、連絡してから、わりとすぐだったよね?
詩羽:次の日だったかな? 予定を聞いたら、明日か来週みたいな感じだったので、「じゃあ、明日会おう!」っていう。わたしはわりと、思い立ったらすぐに行動するタイプなんですよね。
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―詩羽さんっぽいですよね。それで、次の日に?
チッチ:会いました。最初はやっぱり、お互い探り探りみたいなところがあって。わたしも詩羽も、知り合いは多いけど、友だちは少ないタイプというか、女の子の友だちをつくるのが、ちょっと苦手なところがあるんですよね。でも、しゃべってみたら、不思議とすぐに仲良くなれた感じがあって。
詩羽:チヒロちゃんは、女の子のグループで長く活動してきた人だから、「やっぱり、わたしとは全然違うのかな?」、「どんなことを話すんだろう?」とか思いながら会いに行ったんですけど、いざ会ってみたら想像していた感じと違うというか、どこかしらフィーリングが合って、すごく楽しかったんですよね。それで、そこから頻繁に連絡を取ったり、一緒にご飯を食べたり、遊びに行ったりするようになって。
―ちなみに、2人でどんな話をしているんですか?
チッチ:いろいろです(笑)。プライベートだから仕事の話はしないとかいう感じでもなく、「今度、こういう仕事があって……」みたいなことも普通に話すし、「こないだ、こんなことがあって嫌だった」みたいな話もするし。
―そういうことを話せる人って、なかなかいないですよね。
チッチ:そうなんですよね。普通の友だちには、なかなかわかってもらえないところもあるというか、詩羽は音楽をやってお芝居もやってみたいなところが、わたしと共通しているから、仕事の悩みとかも話しやすいですし、詩羽は「それはダメだよ」みたいなことは言わないというか、絶対否定しないんですよね。だから、ネガティブなことも全部話せて……ホント、何でも話します。
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―2人を見ていると、すごく似ているところと、まったく違うところが、はっきりしてそうですけど……。
詩羽:そうですね、たぶん、根っこの部分は全然違うというか、マインドの向き方は全然違う気がするんですけど、活動の仕方だったりとか、頑張り方の部分では、すごく近いところがあるように思っていて。
チッチ:趣味とかも、意外と近いところがあるんだよね。
詩羽:たしかに。
チッチ:写真を撮ったり、ご飯を食べたり、ゲームするのも好きで……。
詩羽:あと、猫が好き(笑)。
チッチ:そうそう。2人とも猫を飼っていて、猫の話をすることもあるし、それこそ「いま、こんなバンドが好きなんだよね」とか音楽の話をしたりもするので、ホント話が尽きないというか。詩羽だったら紹介したいなって、わたしの数少ない友だちも紹介できたりするので、何かホントに、何の迷いもなく一緒にいようって思える感じの人になっています。
詩羽:たぶんタイミングが、すごく良かったんですよね。そもそもわたしは、バラエティみたいな番組にも全然出ていないし、それこそわたしがドラマに出ることなんて、めちゃめちゃ珍しいことだったから。あのドラマに出てなかったから、チヒロちゃんもわたしに連絡をくれなかったわけで。そうやって、いろんなことが重なったときが、ちょうど出会いのタイミングだったっていう。
―しかも、お互いそれぞれのグループを離れて、ソロの準備をしているようなタイミングでもあったわけで。
チッチ:そうなんですよね。わたしもソロで音楽活動を本格的にやり始めたばかりだったから、わかることもいっぱいあって。お互い頑張りどきというか、ホント同じペースぐらいな感じで、お互いのソロが動いていったところがあって。そういう意味でも、いろいろと刺激をもらっています。
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「凡才」はポジティブな言葉。詩羽が感じていた葛藤
―仲良くなってから、どんな経緯で「一緒に曲をつくろう!」みたいな話になったんですか?
チッチ:あるとき、2人でご飯を食べて、そのあとタクシーで移動しているときに、詩羽が今回の曲のデモを聴かせてくれたんですよね。「これ、チヒロちゃんとやりたいんだよね?」って言われて、「えっ? やる!」っていう。
詩羽:ちょうどその頃、自分のソロアルバムのために、いろいろと曲をつくっていたんですよね。今回の曲のベースみたいなものは、かなり早い段階からあったんですけど、これはわたしがひとりで歌い切る曲じゃなくて、誰かと一緒に歌いたいなって思っていて。それで、「あ、チヒロちゃんと、歌いたい!」って思って。
―曲のテーマみたいなものも、そのときすでに決まっていたのですか?
詩羽:そうですね。“bonsai”というタイトルとサビの部分のメロディは、「私は凡才/なんにもできない天才」っていう歌詞と一緒に、わたしが全部つくっていて。そこに、チヒロちゃんのパートを書いてもらって入れていった感じです。
―ちなみに、この“bonsai”というタイトルは、いわゆる「凡才」のことですよね?
詩羽:そうです。それは、わたしのなかでは、すごくポジティブな言葉なんですよね。というのも、水曜日のカンパネラに入ってから、いろいろ格闘しながら活動していくなかで、いろんな方たちに「天才だね」って褒めていただくことが多くて。それはそれで、すごくありがたいことなんですけど、そう言っていただくことの葛藤みたいなものが、たぶんわたしのなかにはあって……。
―というと?
詩羽:わたし自身は、自分は全然何もできていないなって思うことのほうが多いんです。それは、そこまでネガティブな意味ではなく、自分としては「何もできてないな」って思っているときに、すごく褒めていただくと、自分の気持ちと比例しないというか、それがすごく心苦しかったときがあって。もちろん、みんなが言う「天才」という言葉にウソはなくて、わたしが感じている「何もできてないのにな」っていう気持ちも本当で。ってことは、わたしは何もできない天才なんじゃないかっていう。そう思ったことが、この曲をつくったきっかけになっているんですよね。
―という話を詩羽さんから聞いて、CENTさんは自分のパートの歌詞を書いていった感じなんですか?
チッチ:そうですね。最初にサビの歌詞をもらったときは、「うーん、どういうことだろう?」って思って、何度か読み直したりしたんですけど、最終的には詩羽に直接聞いて(笑)。この「凡才」というテーマで、わたしが社会とかまわりの人に対して思うことであったり、わたしにとって詩羽がどういう存在なのかっていうことを大事にしながら、自分のパートの歌詞を書いていきました。
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―CENTさんのパートが上がってきて、詩羽さんは、どんな感想を持ちましたか?
詩羽:わたしは、この曲をつくったときにラップが浮かんだので、ラップにしていったんですけど、チヒロちゃんはここにメロディラインを乗せるんだっていうのがまず衝撃的で。同じトラックを聴いても、ひらめき方が全然違うんだなっていう。しかも、めちゃめちゃ聴き心地がいいじゃないですか。チヒロちゃんのパートが入って、一気に100点の曲になったと思います。
チッチ:わたしも、最初に想像していたよりも、ずっといい感じの仕上がりの曲になったなって感じています。こういうヒップホップ寄りの曲は、これまでやったことがなかったんですけど、いつかやってみたいなって思っていたから、すごく嬉しかったんですよね。あと、詩羽のラップ部分と、わたしのメロディ部分の調和が、すごくとれているなって思ったり、サビのコーラス部分を聴いて、自分たちの声って、思っていたよりも合っているんだなっていうのを感じて。
―2人とも結構特徴的な声だと思いますが、それが合わさると思いのほか良いバランスになっていて。
詩羽:そうなんですよね。正直、音源が完成して実際に聴くまでは、どんなふうに交わるのかわからないところがありました。デモの段階ではサビのハモりとかもなかったんですけど、レコーディング当日に「ちょっとやってみようか?」って、ハモりのメロディラインを決めて録ってみたら、すごく良かったっていう。みたいな感じで、この曲に関しては、わりとその場で決めてやってみたことが多かったりするんですよね。
―曲の最後に入っている2人の笑い声や話し声も、その場で決めていった感じなんですか?
詩羽:そうですね。普段通りな感じで、わたしが「いいんじゃない?」って言ったところを、そのまま入れちゃうのもいいかなって思って。
チッチ:現場の雰囲気そのままです(笑)。
―ちなみに、この曲のMVも、これからつくる予定なんですよね?(編注:取材はMVの撮影直前に実施)
詩羽:そうなんです。聴いていただけたらわかるように、この曲はまったくカッコつけてない感じの曲というか、わりと赤裸々な気持ちを2人で書いていった曲になっていて。そういうありのままな感じが、わたしはすごく気に入っているので、MVも普段通りの感じというか、普段2人で一緒にいるときみたいな感じで撮りたいなって思っています。
チッチ:そうだね。わたしたちがそのままの感じでいられることが、たぶん聴いてくれる人、MVを見てくれる人たちにとっても、すごくいいことなんだろうなって思っていて。「凡才」だからこそ出せる、わたしたちなりの空気感っていうものがきっとあるはずだし、そういうものを大事につくっていけたらなって思っています。
“bonsai”のMV。撮影スタジオを飛び出した詩羽とCENTが街に繰り出し、サボって遊びながら各所で歌う映像となっている。基本的にiPhoneのみで撮影されており、画質の荒さやバグのような表現も見どころだ。
「才能あるよね」という言葉は人を追い詰める? 二人が語る「才能」の捉えかた
―いま、「凡才」というワードが出てきましたが、おふたりは「才能」というものについて、どんなふうに捉えたり感じたりしているのでしょう?
チッチ:才能って、何なんですかね……。わたしは「才能がある」とか「才能がない」とか、そういう言葉自体、よくわからないところがあって。「それは、どういう視点からですか?」って、すごく聞きたくなってしまうんですよね。
詩羽:でもさ、「才能あるよね」とかって、普段あんまり言わないよね。わたしは、なるべく言わないようにしているかもしれない。
チッチ:「こういう部分の才能があるよね」みたいな感じだったらわかるんだけど、漠然した感じで言われると「どこらへんを見て、そう思ったんですか?」って聞きたくなるというか、むしろ教えて欲しいって思っちゃう(笑)。
詩羽:わたしは正直、才能なんてあってもなくてもいいなって思っているようなところがあって。それがあることが良しとされているから、たぶんみんな「才能あるよね」って褒め言葉のように使うんだろうけど、さっき言った「天才」の話じゃないですけど、それは自分自身に何もないと思っている人を、もしかしたら追い詰めるような言葉なのかもしれないっていう。
なんかわたしは、そうやっていろいろなことを考えてしまうんですよね。だから、なるべく使わないようにしているのかもしれないです。
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チッチ:でも才能って、ホント難しいですよね。わたしは自分に自信がないから、自分にこういう才能があるとか絶対に思わないですけど、他の人に対しては「ああ、才能あるな……」って、すごい感じることが多くて。才能があって、うらやましいなっていう。
―その矢印が、自分に向けられることはない?
チッチ:ないですね。やっぱり、自分というものは、いちばん見えないものというか、それを見つけたいと思って、いまこうして活動しているようなところがあって。それを見つけられたら、最高じゃないですか。だからこそ、いま頑張れるというか。
―ただ、CENTさん自身、BiSHというタフなグループをサバイブしてきたわけで……。
チッチ:ああ……。でも、BiSHのときは、リーダーみたいな存在だったので、自分っていうよりかは、グループ全体を見て、自分がどうしたいかを考えてきたところがあるんですよね。
だから、ひとりになった途端、それがわからなくなってしまったときがあって。リーダーみたいな肩書きがなくなったら、わたしはどういう存在なんだろうっていう。やっぱり「自分」っていうのは、すごく難しいですよね。
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―BiSHをやっていた頃は、グループのなかのバランスで、自分の立ち位置みたいものを見つけていた?
チッチ:そうですね。さっきの才能の話で言ったら、BiSHのときは6人いて、それぞれの個性があって、みんな才能あるなってわたしは思っていたようなところがあって。もちろん、そのなかで自分もタフに生きてきたつもりだけど、それはやっぱりBiSHの「セントチヒロ・チッチ」として考えながらやってきたところが大きいんですよね。そういう意味で、いまはやっぱり、以前とは全然違う考え方になっていると思います。
―ちなみに、いまはどんな感じの考え方になっているんですか?
チッチ:うーん……やっぱり、いつも自分と向き合わなきゃいけないというか、考える対象は減ったのに、悩みの数は増えたみたいなところがあって。やっぱり、自分のことで悩むのはいちばん苦手というか、他人のことで悩んでいるほうが、よっぽどわたしは好きだなって思って。その葛藤は、いまもすごいあります。ムズいなあって。
ただ、だからこそ、できるだけ自分が思ったり感じたことを言葉にするようにしているというか、メンバーはいないけど、まわりのスタッフの人たちといろいろ話すことは意識しています。あと、詩羽みたいな信頼できる友だちに「こんなことをやってみたいんだよね」とか、そういう自分の気持ちみたいなものを、できるだけ言うようにしたいなって思っています。
―詩羽さんは、どうですか? ソロとしての活動は、やっぱりちょっと意識が違ったりするものですか?
詩羽:うーん……わたしの場合、感覚的にはそんなに変わらないかもしれないです。水カンと違って、自分のためにやっているのがソロだったりはするんですけど、曲をつくって発表するという意味では同じじゃないですか。
結局わたしは、なんだかんだでわたしのことを好きでいてくれるファンの人たちが、いちばん大切なんですよね。だから、その人たちが嬉しそうにしていることが、わたしにとっていちばんいいことなのかなって思っていて。それは、水カンでもソロでも、変わらないところなんです。
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